JAXAタウンミーティング

「第46回JAXAタウンミーティング」 in 仙台(平成22年1月9日開催)
会場で出された意見について



第一部「安全な国際宇宙ステーションのシステム構築に向けて」で出された意見



<安全性の確保について>
参加者:例えば10年くらい前に、東海村で絶対に起こるはずがないと思われていた原子力の実験で臨界が起きるなど、想像していない事故は起きます。ハード面ではルールを決めいろいろやっていますが、結局、人為的なところは人間の心理であったり、気持ちがちょっと動いているときに起きると思います。人に対する安全の手法で何か取り組んでいるかを教えてください。
長谷川:基本的には自動的になるようにシステム設計しますが、最終的にオペレーション、運用できちんとやらなければならないものもあり、これに関してきちんと有効にできるかどうか、実現性があるかどうかを運用のところで評価し、手順書も確立させ、訓練もしてから行う形でやっています。
人間がやることなので予想しないようなミスをやるとのことですが、基本的に人間を対象にした場合には、人間は間違えるもの、それから面倒な手順をやると必ず手抜きをしたくなることを前提にまず考えています。
また、失敗したりするとよく教育訓練を徹底すると言われます。いわゆるヒューマンエラー、人間のミスは、何かミスがあったから事故が起こりましたと事故の原因にする人が結構います。しかし、我々はヒューマンエラーは原因ではなく結果だと考えており、ミスが起こるのは手順書や設計に何か不都合があったのではないかということで、手順などを工夫し、それに合わせて訓練もきちんとやるようにしています。ただ、それが完全かと言われると、なかなか完全とは言えないのですが、最終的に我々が国際宇宙ステーションの安全設計をやっていて、不特定多数の人が関与する車などと一番違うところは、携わる人が限られているということで、国際宇宙ステーションでは宇宙飛行士、運用技術者が携わる人間なので、操作性がこれでよいかどうかをきちんとやってもらい、大丈夫というお墨付きをもらった上で、設計や手順を整理することをやっています。
古川:手順書をしっかり作った上で、実際の飛行における訓練を行います。手順書には、必要かつ、十分なことが書いてありますが、特に安全に関わる部分、例えば万が一、こういう操作をすると人間の安全に関わる、あるいは宇宙機全体の喪失につながる危険性が高いものにはwarning、警告という形で、色も赤字で挿入しています。手順書をしっかり読んだ上で、訓練の段階でたたき込まれますが、実際のオペレーションのときにも手順書を確認しながら行う形になります。
人の安全には関わらないが、ハードウェアの損傷に関わるようなものに関しては、黄色のcaution、注意という形で注意書きがあります。
更にオペレーション、運用における注意書きはnotesという形で、色は付いていませんが、重要度に応じて段階的に注意書きが書いてあり、その場で確認しながら、安全、確実に運用を行うようになっています。

<アポロ13号のトラブルの教訓について>
参加者:アポロ13号は、船内でトラブルが起きましたが、地上と交信しながら生還したという教訓的な話があったと思います。現在の安全という部分では、この点がだいぶ活かされていると思いますが、そのときの教訓がどのように活かされているか教えていただければと思います。
長谷川:私がたまたまヒューストンにいた頃、アポロ13号当時から現役の人がいたので話を聞いたこともあります。トラブルの直接の原因は燃料電池の爆発ですが、その爆発するに至ったもともとの原因は、燃料電池を担当していた会社の人が、よりよくするために改修したことが、全体に伝わっておらずシステム的にアンバランスになっておかしくなったというのが原因です。
基本的には、1回の動作で行うと危ない場合は、必ず2回やらないと操作ができないようになっています。ものによっては3回の場合もありますが、ここを設計している人だけで行った場合、担当の部分は気をつけますが、ここにデータを流している上流の部分が1つになっていたら、意味がありません。
国際宇宙ステーションのように大きなシステムでは、サブシステムに分かれてそれぞれがそれぞれの部分を担当しながら設計を進めています。基本的にそれぞれの設計者は左から右へ流れている流れで、自分の担当のところに対して設計要求に基づいてやりますが、担当の部分が全体としての整合がとれていなければいけません。安全審査ではそれを縦串で見て事故がないような形で防ぐということです。
そのほか、改善はあまり行わず、古くてもそのまま使うようなところもありますが、基本的にアポロ13号のトラブルは、システムに問題があったということで解決しています。

<コロンビア号事故の原因について>
参加者:コロンビア号の事故の話がありましたが、私たちはニュースで断熱材が破損して事故が起きたという映像はよく見ますが、こうした事故は、実際運用していく過程で起きたヒューマンエラーなのか、それとも、そもそも安全管理に問題があったのか、最終的にどのように総括されたのか聞きたいと思います。
長谷川:安全の問題は、技術上の問題と考え方の問題があります。技術上の問題は、断熱材が剥がれ落ちたので剥がれないような外部タンクにすることで、全くゼロにはできませんが改善されています。
一方、考え方の問題ですが、断熱材が剥がれて当たることは、スペースシャトルができた当時からシナリオが存在することはわかっていました。
テレビをご覧になった人は、最初、プロジェクトマネージャーが記者会見に出た時、こんな軽いものが当たって壊れるわけがないと話していたと記憶していると思いますが、打ち上げの写真を見るとこれまで何回も当たっていますが壊れていません。先ほど私が言いましたが、たまたま成功することはあるが、たまたま事故になることはないということで、破片が当たってもたまたま今までは何もなかった、ラッキーだったのです。しかし、それはラッキーであって、それが絶対大丈夫ということにはならないことを教訓として受け継いでいます。技術的には、破片が出ないよういろいろな対策をとっています。
ちなみに断熱材は、ものすごく軽いです。触るとプロジェクトマネージャーを責めるわけにはいかないと思うほど本当に軽くてふわふわです。そのため、この断熱材が当たって壊れるわけがないと思うほうが普通かと思います。

<設計と評価について>
参加者:私はシステムLSIの評価を担当したこともあるのですが、開発チーム、設計者が評価すると絶対に抜けがあると思います。そのため、第三者検証という観点で、評価は全く別のチームが担当するようにしていますが、その辺りの体制はどのようになっているのでしょうか。また、その評価に関しては、最初のシナリオの作成が重要と思っており、シナリオ作りという観点でどのような体制で定義しているか、教えていただければと思います。
長谷川:まず我々が一番大事に思っているのは、実際に設計した人が基本的には一番よく知っているため、作った人がまず自信を持って、これで大丈夫だと言ったものでない限りは、いくら第三者評価しても仕方がないので、まず自己評価をきちんとしてもらうことにしています。次にディベートによる審査と評価結果のレビューという言葉がありますが、これが第三者評価です。つまり設計者と違う専門家の人たちが集まって、その設計者が行った評価に加え、ああでもないこうでもないといろいろな視点から評価を行います。
設計がまだできてない状態で、設計に対しどうだこうだと言うことはできませんが、安全の視点では、設計がどうあろうと火事が起こったら危ないとか、爆発したら人がけがをするとか、有毒物があったらどうですということはわかっています。そのため、事前に設計のおおよその形がわかっている状態で、このような危険要因があるかどうかを最初にリストアップします。それで設計がある程度固まったら、その要因が設計の中にどういう形で入り込んでいるか、入り込んでいないかをチェックし、入り込んでいた場合は、それをどういう形で排除するか考えます。まず最初は排除で、もし排除できない場合は、その要因から事故に繋がるシナリオを途中で断ち切るような形の設計にしていきます。設計で対応できない場合は、オペレーションで行います。宇宙飛行士がいることは、安全上デメリットでもありメリットでもあって、人がいるから厳しくしなければいけないし、逆に人がいるから人にやってもらえるというメリットもあります。

<広報活動について>
参加者:政権が代わり、事業仕分けで今回スパコンがやり玉にあがるなどの話がありましたが、税金を出している側は必要なところにはお金をどんどん投入してもよいと思っています。ただ、私たちが心配しているのは、例えば1か月に2回とか3回しか出勤してないのに、10倍くらいの年収をもらっているような人がいたり、普通に考えておかしいところが人並みに行われていたところが問題となっており、それを事業仕分けで公開すると言っている話だけなので、必要なところにはお金を投入しないと世界競争には勝てないと思います。これらの取り組みは、公開討論の場を作り、日本のお金がこのように役立っていると広報できちっとアピールすればよいと思いますが、現在のJAXAの広報活動の状況を教えてください。
司会(広報部長):タウンミーティングを年12回、毎月にはならないのですが地道にやっています。我々のホームページでいろいろ情報を公開しており、アクセスでいうと800万回ページビューくらいあります。ただ、これは世の中のYahooとかGoogleに比べるとまだまだ少ないと思っています。
もう一つは、講師の派遣をやっています。今日は教育職の方がたくさんいると聞いていますが、講師の派遣という形で年間400名以上のJAXAの職員を講師として小学校あるいは中学校などに派遣し、教育活動に役立てていただいています。まず、こういうところから地道にやっていこうということで進めています。それがすぐ予算の倍増になるかというと、そこはなかなか難しいところです。
広報活動が足りないのではとよくタウンミーティングで話があります。私の考えは、やはり一番の広報は何かというと、プロジェクトがうまくいくことです。これは何にも増して広報効果があります。例えば、H-IIBロケットでHTVを打ち上げましたが、これは国際的にも非常に称賛されたプロジェクトで、テレビや新聞でかなり報道されました。
私どもとしては、プロジェクトの成功が一番の広報効果だと思っており、プロジェクトがうまくいく、そしてそれを支えるような広報をこれからも続けていきたいと考えています。

<デブリについて(その1)>
参加者:一つ私が気になっているのは、宇宙環境、最近は宇宙の中にごみが多くなり、ちょっとしたものがぶつかると大変な事故が起きるとマスコミではときどき取り上げられていますが、JAXAとしてどの程度取り組んでいるのか説明をお願いします。
長谷川:デブリの話ですが、随分昔から宇宙の関係者が集まって、デブリに対する標準を作っています。その標準は、基本的に25年以上宇宙に漂わせることは行わないということで、25年以内に落ちるような軌道にするのが今のルールです。
それから、落とすことができない静止衛星などは軌道をずらすルールになっていますが、このルールができたころはまだ余裕がありました。その後、中国が衛星を破壊したり、アメリカとロシアの衛星がぶつかってデブリがものすごく増えており、最近は、昔作った基準だけでよいかということで、今、国際標準化機構(ISO)という世界の基準作りの機関でどのように進めていくか議論しています。
また、実際、今あるものを落ちるようにするために、どのような技術開発が必要かも研究していますが、すぐに成果が出ることは期待できません。しかし、随分深刻に言われていますが、そんなに頻繁に当たるものではないので、大きいデブリは時々国際宇宙ステーションもよける行為をします。きちんと観測して、危ない場合はよけるということと、観測できないような非常に小さいデブリに対しては、国際宇宙ステーションの場合は、きちんとバンパーを作って当たっても大丈夫なようにしているのが今の状態です。ただ、いつまでもそのままでよいかというと、それは問題があるので、いろいろな研究をしています。