「第45回JAXAタウンミーティング」in 姫路(平成21年12月6日開催)
会場で出された意見について
第二部「地球の息づかいを見る-温室効果ガス観測技術衛星『いぶき』の挑戦-」で出された意見
<「いぶき」プロジェクトについて>
参加者:「いぶき」プロジェクトは、発想から実際の打ち上げまでどのくらいかかったのでしょうか。また、今回の衛星を打ち上げる決定はどこでなされたのでしょうか。
浜崎:約10年前から「いぶき」プロジェクトの前身のプロジェクトが始まっています。その時代は特にオゾン層破壊に重点があったので、大気中のオゾン層の分布を測る衛星プロジェクトが始まっていました。その後、京都議定書の批准や発効を受け、プロジェクトをこのまま進めるのはもったいない、二酸化炭素も測れるようにするとのことで、2002年から2003年にかけ大幅な見直しを行い、全てのセンサーを取り替えました。それで全く新しいプロジェクトとしてスタートしたのが2003年の4月で、打ち上がるまでに5年9か月かかってこのプロジェクトを動かしています。
また、どこで打ち上げを決定したかという質問ですが、最初は国立環境研究所とJAXA、それから日本の国内の温暖化研究者の方々に集まってもらい、ワーキンググループを作り、そこで議論しました。その際、全体を見直し、センサーにしても二酸化炭素も測れるものにしようという提言を作り、それを計画としてまとめた上で、宇宙開発委員会に提案し承認をもらい決定しています。
参加者:一番苦労した点は、どういうところでしょうか。
浜崎:一番苦労した点は、このプロジェクトは非常に大きなプロジェクトで、関わる人間が非常に多くいます。温暖化の研究者でも、観測をする人とモデルを作る人で、コミュニティが違い、言葉遣いもだいぶ違います。また、衛星のハードを作るのはメーカーなので、メーカーの方は特に価値観とスピード観がみんな違うので、この人たちの価値観をみんなまとめて一本にすることが一番難しかったです。
<温暖化の原因について>
参加者:温暖化に関していろいろな説があると聞いています。まず1つは、自然サイクルでは今は温暖化の時期にあるとの学説を聞いていますが、その辺りはどうなのでしょうか。また、牛のげっぷが非常に温暖化に悪影響を与えているという説も聞いているのですが問題はないのでしょうか。さらに本当に二酸化炭素が原因で温暖化になっているのか、温暖化になったから二酸化炭素が増えているのか、この辺りがきちんと証明されていないという話があります。ただ、この場合、温暖化になったから二酸化炭素が増えたという研究をする予算がつかないということで研究が進んでいないという話も以前聞きましたが、この点はどうでしょうか。
浜崎:地球が寒冷化しているか温暖化しているかということですが、多分寒冷化の方向に向かうと思います。ただ、地球温暖化の問題で100年後に、地球の気候が相当変わるのではないかと言われています。地球温暖化の問題は、15万年後には氷河期がやってくるという話と、これから100年、200年をどうするのかという話が混在した議論になっているので、そこを切り分けて考えると、全体は下がっていくけれども、この100年間、人の出す温室効果ガスで気候変動が起きてしまう。これを止めないと先の15万年間を心配しても仕方がありません。
次に牛のげっぷがどうかですが、メタンガスの排出源は、実はよくわかっていません。全球でどのような分布になっているかよくわからないことと、メタンガスは比較的早く分解されるので、濃度にかなり偏りがあるはずです。排出源の1つとして、水を張った水田からのメタンガス、牛のげっぷ、永久凍土が解けたときの根腐れ状態から出てくるものが考えられます。もう一つ大きな排出源が、パイプラインからの漏れがあります。シベリアや北海油田からの液化天然ガスが採掘され、何千キロというパイプラインでヨーロッパ各国に送られています。一部日本にもきていますが、そのパイプラインがかなり老朽化し、途中からたくさん漏れているという説があります。メタンガスの温室効果の寄与は、大体二酸化炭素が60%でメタンガスが20%ということなので、無視できない量ですが、わからないところがたくさんあります。
「いぶき」はメタンガスの全球分布を測れるので、全球の総量が測れます。そのため、この観測を何年か続けたらある程度の知見が得られると思います。ただ、牛一頭一頭を測ることはできませんが、放牧地帯でメタンガスが多くなっていることが観測されれば、牛のげっぷが大きいのではないかということがわかるかと思います。現在は、まだ大きな知見がない状態です。
3つ目の、二酸化炭素が先か温暖化が先かについては、二酸化炭素が増えることによって温暖化する効果と温暖化するから二酸化炭素が増えるという効果の両方が存在しているため、どちらも正解です。どちらの効果が大きいかは、全体のモデルの中で判断する必要があります。それには、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションが現在では唯一の手段です。地球シミュレーターというスーパーコンピュータで計算した結果によると、二酸化炭素を入れることによって温暖化が進んでいるという事実がほぼ再現されています。
<今まで以上に説明責任が求められる中での宇宙開発について>
参加者:先般の事業仕分け等で今まで以上に説明責任や費用対効果等が求められると思うのですが、これから日本の宇宙開発を行っていく中でどのように考えていますか。
浜崎:私どもの本部は、最初の時期は、一部はアメリカからの技術を導入し、追い付け追い越せということで技術獲得を一生懸命やってきました。ところが、技術獲得をやっていくとそれはそれで楽しいのですが、せっかく何十年かやってきて技術を蓄積したので、これを世の中に役に立つようにしようということで作られたのがこの宇宙利用ミッション本部です。
一番のキーポイントは、これまで培ってきた宇宙技術で何が社会貢献できるか、これまで投資いただいた国民の皆様にお返しできるものは何かが非常に大きなポイントで、まさに事業仕分けと目線は同じだと思います。
私どもの事業は、国民目線で決めていくということから、事業仕分けに耐えられるものでなければ当然いけないと非常に強い認識を持っています。ただ、その目線が合っているかというと、少し自信がないところがあり、例えば二酸化炭素を測ることの重要性、これは科学者の方にも聞かなければわからないし、一般の方が今必要としている情報とにかなりギャップがあります。一番必要な情報は、各国でどれだけ二酸化炭素の排出が増えているか、減っているか、それを衛星から見ることができれば、まさに京都議定書の仕組みに一番役立ちます。ところが、今の衛星技術は残念ながらそこまでいきません。現在の濃度分布を測ることはできますが、どの国からどれだけ出ているかは、かなり目が粗く、1つの国では無理で、例えば5,000キロ四方くらいのところで、どの程度出ているかを30%~40%の誤差で測るのが精一杯です。
これは衛星の観測の問題よりは、処理をするソフトウェアあるいは周辺のデータ、例えば風向、風速などのデータが十分に手に入らないことなどに原因があり、ピンポイントの情報を作るまでには至っていないのが現状です。我々は今この観測を一生懸命やっています。
そういう意味で、例えば短期的に成果を求められる、特に事業仕分けの場合はもっと短期的に、今年とか来年という短いスケールでの要求に答えるのが、宇宙開発の場合はプロジェクトに5年、6年とかかるので、世の中のスピードに本当についていけているか、必要な見直しができているかというところに関しては、我々はますます努力をしていかなければいけないと強く思っていますが、世の中で本当に何が役立つのか、何が求められているのかという目線を常に技術側が持つことが重要だと思います。
小野田:科学の立場から話をすると、先日の事業仕分けでも、近々打ち上げるベピコロンボという水星探査衛星を取り上げ、これが明日の国民生活にどのようにプラスになるのかという質問が書いてありました。科学は、明日の国民生活にプラスにはならないかもしれませんが、明後日の人類共通の知識を作っていく上では欠かせないもので、これを怠ると人類そのものがやせていくという観点で見てもらいたいと思います。
予算が厳しい中で、科学にいくらの投資をするか、これにはいろいろな考えがあると思いますし、投資された中で、本当に効率的に研究が行われているか、シビアに検証されるべきとも思います。
司会(広報部長):国民の目線が非常に大事で、そういう観点でこのタウンミーティングを今日まで45回進めてきています。タウンミーティングでの意見は、議事録を作り役員の会議に報告しています。その意見がすぐに反映することにはなりませんが、こういう意見があったことを伝えることによって、国民目線で物事を考えることを進めています。
また、タウンミーティングだけでなく、いろいろな調査も含め独自のことをやり、国民のことを考えなければいけないということを我々はやっているつもりですが、事業仕分けの中で厳しい意見があるのも承知しています。
<プロジェクトの進め方について>
参加者:大学3年生になり就職を考えるような時期になってきましたが、JAXAの方は普段は全然違う環境で仕事をしながら、失敗できないプロジェクトを成功に導くということを聞きました。その中で何か工夫している点があれば教えてください。
浜崎:いくつかあると思いますが、最初に明確なビジョンを持つことだと思います。例えば同じ衛星を作る場合も、早く作る衛星と、安く作る衛星、性能のよい衛星では、似ても似つかないくらい違うと思います。どれを取るかは全て正解で、作る際にどの価値観を重視するかが重要になります。どの価値観が大事かはやってみないとわからないところがあり、その点でプロジェクトは迷走します。ある人たちは早く作ろうとし、また、ある人たちは良いものを作ろうとする、さらにある人たちは安く作ろうとするなどこのような集団が集まると大体まとまりません。そのため、どこに重点をおき後を切り捨てるという明確なポリシーを如何に最初に作りきちっと定義でき、それがきっちり時代のニーズに合っているかが問題となり、そこが解決できるプロジェクトは多分成功しますが、そこが一番難しく、なおかつ必要なことではないかと強く感じます。