「第43回JAXAタウンミーティング」in 福岡(平成21年11月24日開催)
会場で出された意見について
「国際宇宙ステーション『きぼう』の完成とHTV」及び「日本人宇宙長期滞在の時代へ!」で出された意見
<(1)宇宙へ行くための訓練について (2)宇宙飛行士になるためにやるべきことについて>
参加者:
(1)私は、実は浦和高校の野球部出身で、先輩に当たる若田さんの活躍を見て感動しています。
非常に実験の種類が多く、覚えることが大変だと思うのですが、地球で予習しすべて覚えて宇宙に行くのでしょうか。
(2)私も高校時代から若田さんの名前を何度も耳にし、宇宙飛行士の試験の機会があったら、是非とも受けたいと思っていますが、今、私は学生なのですが、今の若いうちにやっておくべきこと、生活面で気をつけることなどあったら教えてください。
若田:
(1)スペースシャトルのミッションのときは、1週間ないし2週間なので、通常の任務はすべて訓練をしていきます。分刻みの作業になるので、手順書が非常に重要で、それに従って作業をしますが、手順書を見なくてもできるくらいまで覚えます。ただ、国際宇宙ステーションの運用の訓練は、そのレベルまで行うことはできません。半年にわたる滞在のための訓練・作業すべてに時間をかけると、何十年経っても宇宙に行けないので、国際宇宙ステーションの訓練の場合は、タスクの訓練よりもスキルの訓練が中心になっています。そのため、技術を身に付け、あとは手順書がしっかりしたものになっていれば、手順書に従って作業することで、実験でも整備作業でも対応できる形での訓練をしています。
(2)募集は今後も続いていくと思うので、やはり自分の専門分野をしっかり磨くことが非常に大切だと思います。また、宇宙で何をやりたいかということを自分の目的としてしっかり持つことが重要だと思います。
あと、やはり世界のいろいろな国の人と仕事をしていかなければならないので、語学は避けて通れません。私も宇宙飛行士になってからロシア語を勉強しなければならないとは予想もつかなかったのですが、ソユーズ宇宙船の試験は口頭試問で、その運用は全部ロシア語です。語学力をいろいろなところで身に付けることは大切だと思います。
それから、やはりチーム皆と一緒に仕事をするので、学生でも研究室の仕事でも、チームとしてパフォーマンスを上げていく心がけをすることは、宇宙飛行士や地上管制チームの仕事でとても役に立つと思います。
<宇宙滞在中の香りについて>
参加者:地球に帰還したとき、草の香りに優しく包まれたという言葉がとても印象的だったのですが、宇宙滞在中に若田さんが癒された香りというか、嗅覚の一番敏感な部分だったものを教えてください。
また、人間と香りに関する実験も何かあったのか教えてください。
若田:香りに関する実験はこれまでもありましたが、私が直接参加したものはありません。例えば向井宇宙飛行士が第2次微小重力実験室(IML-2)でフライトしたとき、香りに関する実験に参加したケースはあります。
非常によい香りだと思ったのは、草の香りもそうですが、国際宇宙ステーションにプログレスというロシアの物資輸送船が到着したとき、空気漏れがないことを確認した後、すぐに圧力調整弁を開け、輸送船の中の空気が国際宇宙ステーションの中に入ってくる瞬間があります。プログレスはカザフスタンから打ち上げられますが、そのときに玉ねぎやリンゴ、オレンジ等の生鮮食料品も積んできます。特にオレンジのさわやかな香りが国際宇宙ステーションに入ってくると、本当に地球のものがきたという実感を感じましたし、やはり果物の香りは本当に待ち望んでいた香りだということを感じました。
<宇宙飛行士になって良かったこと・悪かったことについて>
参加者:何度も宇宙に行っている若田さんですが、宇宙に行って良かったこと、宇宙飛行士になって良かったこと、ならびに宇宙飛行士になって悪かったことを聞かせてください。
若田:悪かったことは特にありません。ただ、こういうところまでやらなければいけないのかという例としては、宇宙飛行士候補者訓練の一つにあったNASAでのマスコミの突撃インタビュー対応訓練等で、英語で対応しなければならなかったこともあり苦労しました。この年になってロシア語を勉強し、ソユーズ宇宙船のシステム運用を習得する事など、結構苦労することも多かったですが、非常にやりがいのある仕事です。
思い出に残る瞬間はたくさんありますが、国際宇宙ステーション長期滞在中とても嬉しかったことは、通常、管制室には多くの人は入らないのですが、私の宇宙滞在100日目に、本当に多くの方々が筑波の運用管制室に詰め掛けて、お祝いをしてくれる様子をTV会議システムで見て、チームの皆さんが私たち宇宙飛行士の安全を見守ってくれていることを強く感じ、その素晴らしいチームの中で仕事ができることの喜びは、宇宙飛行士になって一番大きな喜びです。
やはりこのチームの中で仕事ができること、これは筑波だけではなく、ヒューストンやモスクワ、ドイツ、モントリオールなど各国の管制局がありますが、世界中の多くの方と仕事ができることは大きな喜びです。
<(1)月以外で行ってみたい星について (2)宇宙食について>
参加者:
(1)私が学生のころは、水・金・地・火・木・土・天・海・冥と覚えていましたが、若田さんが宇宙飛行士として月以外に行くとしたら、どの星に行きたいですか。
(2)今、外国でも和食ブームになっていますが、宇宙食28種類のうち、若田さんが好きだったメニューと、外国人のクルーの中で一番好評だったメニューを教えてください。
若田:
(1)特に日本にとって月を目指すことが、いろいろな意味で科学的な成果、資源の利用や、天文観測、地球以外の天体に住む能力を培うためには重要なターゲットだと思います。その先に宇宙に人間の活動領域を展開していく中で、人間が住める環境である例えば火星や小惑星等には水があるということで、その水資源を使って、更に我々の活動領域を広げていくために、小惑星や火星はターゲットとして意義があるのではないかと思っています。
(2)アメリカやヨーロッパ、ロシアのクルーに人気があったのは、意外にもサバの味噌煮でした。日本のカレーは、ビーフ、チキン、ポークと3種類そろっており、これは定番で人気があることはわかっていたのですが、サバの味噌煮がここまで人気があるとはわからなかったです。私もやはりサバの味噌煮が一番おいしいと思いましたし、鮭ご飯や羊羹などもすごくおいしかったです。
28種類の宇宙食を選んでもらい、よかったと思います。
<宇宙から見た星空について>
参加者:私は宇宙開発系のサークルに入っています。宇宙飛行士の皆さんは、宇宙から見た地球の話をよくしますが、宇宙から見た星空は、どのようなものなのでしょうか。地球の周りを回っているということは、季節関係なく全天の星座が見えたりするのでしょうか。
若田:国際宇宙ステーションが飛んでいるのは、北緯・南緯51.6度の間の地球上を飛んでいます。そのため、南半球でしか通常見られない星も国際宇宙ステーションの軌道上から見ることができます。国際宇宙ステーションには残念ながら天体望遠鏡は搭載していないので、肉眼で見るだけです。
肉眼で見る星空、夜の部分は、吸い込まれるような真っ暗な中に星空が広がっているわけですが、見え方は富士山のような非常に高いところから見るものとほとんど変わらないと思います。
ただ、やはり国際宇宙ステーションから見ると吸い込まれるような三次元的に広がっていくような全天の天の川の星空が目の中に入ってきます。それはやはり地球で見るよりも宇宙の奥深さを感じるような印象でした。
<活動中の気分転換の方法について>
参加者:若田宇宙飛行士は今日もそうですが、船内でも活動中でもいつもにこにこされています。また、寝室も見せてもらいましたが、気持ちの切り替えはどのようにしているのですか。
若田:やはり国際宇宙ステーションでの生活はきついです。これは体力的にも精神的にも同様で、飛行中だけでなく訓練、特にロシアでの訓練は大変でした。
その中でにこにこしていないときも結構あったと思いますが、やはり宇宙に行って頑張りたいというはっきりした目的があるので、その辛さにも耐えられたかと思います。また、私はあまり得意なところがないのですが、頑張れるところだけは精一杯頑張ってみたいという気持ちがあるので、今までのところは頑張り抜けたのかと思います。
宇宙での長期滞在では心理的にもつらいと感じる事もあります。家族とのテレビ会議はできますが、娯楽はDVDで映画を観たり、音楽を聴いたり、読書するくらいです。運動装置をいくつか紹介しましたが運動をする、特にジョギングは地上でも同様ですが、宇宙においてストレス発散にすごく役に立っていたと感じます。
参加者:先だって小学校の理科教育の実験指導の際に、1つの実験が終わった後、YouTubeで若田宇宙飛行士の活動を紹介したら、小学校5年生の子どもたちが目を光らせて、本当にこれを見せてよかったと思いました。YouTubeだけではなく、こういう機会がどんどん増えるようにお願いしたいと思います。
<(1)人生観について (2)宇宙空間での耳に対する異常について>
参加者:
(1)宇宙に行った方は皆さん人生観が変わるということを聞きます。若田さんは宇宙に行って、何か自分の価値観とかが変わったことがありますか。
(2)宇宙服を着用したり船内を移動したときに、山に車で登ったときに耳がキーンとなるようなことはありますか。
若田:
(1)人生観が変わったというか、私が感じたのは、やはり美しい地球を見たとき、自分が存在していることのありがたさは一番感じたことです。宇宙飛行は危険を伴います。スペースシャトルも130回打ち上がっている中で2回も事故を起こしています。リスクがあっても宇宙に人が行くということで、日常の生活を豊かにする技術とか、これまで人類が持っていなかった新しい知見を獲得することができます。リスクを負う仕事をすることの意味を感じながら、仕事をしていく中で命の大切さ、そして美しい地球、青い地球をふるさととして持っている自分たちの幸運さを感じました。そして、かけがえのない地球を守っていかなければいけないという思いをより強く持ちました。
(2)多分山に登ったときに耳がキーンとなるのは、温度や圧力の変化で感じたのだと思います。国際宇宙ステーションの中は、我々が今ここで吸っている空気と同じ1気圧ですが、船外活動を行う際に着用する宇宙服の気圧は、地上や船内気圧の約1/3になります。圧力が変動する場合は、圧力調整を徐々にやっていかないと何らかの生理学的な問題が起きることがありますが、慎重に圧力調整を行うため、特に耳がキーンとなることはありません。
<国際宇宙ステーションを地上から見るには>
参加者:いつも雲や夕焼けや星を毎晩眺めては、きれいなときは写真を写しています。若田宇宙飛行士が乗っているときの4月2日と5月30日の国際宇宙ステーションをベランダからしっかり見ました。乗っていない昨年の11月19日と11月22日もはっきり見ました。友達にもどんどん電話をかけみんな喜んでとてもわくわくして楽しかったです。
司会(広報部長):JAXAのホームページで、国際宇宙ステーションがいつ、どこを通過するかわかるので、是非皆さんも見ていただければと思います。
<長期滞在中に体調を崩した際の対処について>
参加者:万が一、長期滞在中に体調を崩したり病気になったとき、その対処法はどのようにしているのか教えてください。
若田:特にインフルエンザ等のウイルスに感染しないようにするため、まず宇宙に行く前の段階で健康状態が確かめられます。例えばウイルス性のものに関しては、宇宙に行く前に1週間隔離状態になり、その段階で風邪をひいたりしていると症状が出てくるので、ウイルス性の病気に関してはそこで予防しています。
ほかの医学的な問題、例えば怪我や病気に関してもいろいろありますが、応急処置ができるように訓練をしています。スペースシャトルの場合、長くても2週間程度なので、大きな医学的な問題に遭遇する可能性が低いのと、緊急時にはシャトル自体が緊急着陸をすることで対応できます。国際宇宙ステーションでの半年の滞在の場合には、重病とか大きな怪我をした場合、必要によっては応急処置をしますが、それでも対応不可能な場合には、ロシアのソユーズ宇宙船に乗って緊急帰還をする形で対応します。
飛行前の医学チェックによるスクリーニングが難しく、且つ発生の可能性のある医学的な問題の中で、我々宇宙飛行士が一番恐れているのは盲腸です。盲腸炎は、宇宙での処置は難しいので、ソユーズ宇宙船で帰還する可能性があると思います。
私たちは、応急処置の訓練として、ヒューストンにある救急病院で実地訓練等をしています。実際に尿カテーテルや切り傷を縫うなどの救急医療の訓練は、長期滞在のクルーの場合は全員が行っています。
<国際宇宙ステーションの中での音について>
参加者:宇宙ロケット、国際宇宙ステーションの中の音、無音状態から轟音で出発するわけですが、その後の耳からの癒しについてお聞かせください。
若田:音に関しては、例えば航空機の中で空調のファンが回りゴーっとした音が連続して聞こえますが、国際宇宙ステーションの中もやはり同じような感じがします。ただ、旅客機よりも騒音のレベルは低いです。特に「きぼう」は静かなところで、これは感じるだけではなく定量的にセンサーを使って測っても「きぼう」は非常に静かな区画です。
打ち上げの時、スペースシャトルは確かに外から聞くと轟音を感じますが、中にいる私たちはヘルメット、その中には通信用の音声を聞き取るためのヘッドセットをしているので、うるさいという感じはしません。仲間との通信は、ヘッドセットを通じて行っており、轟音が耳に入って困るといったことは全くなかったです。
国際宇宙ステーションでクルーの仲間が共通して行っていたのは、仕事のときは音楽はかけませんが、夕食時やその後は自分たちの好きな音楽を国際宇宙ステーションの中でかけ、リラックスしていました。今回のコマンダーは、既に580日くらい宇宙に滞在しているロシア人で、長期滞在も3回目でしたが、彼が宇宙で心理的なストレスに耐えて仕事をしていくために、食事は皆で一緒にしようと呼びかけました。家庭の食事も同じかもしれませんが、朝から実験を始めると夜まで会わないようなことが多い中で、朝・昼・晩の3食だけは、国際宇宙ステーションの中に3人しかいないので、仕事のスケジュール的に無理な場合を除いてはできるだけ一緒に食べようということで、そのように心がけました。これは宇宙飛行士3人の士気を維持した上で、ミッションを遂行するためにとても重要なことだったと覚えています。
<(1)日本の物作り技術について (2)日本の教育について>
参加者:福岡市の工業高校で働いている教員ですが、
(1)日本の物作り技術に関して、どのように考え期待していますか
(2)日本の教育に対して何か意見がありましたら一言お願いします。
若田:
(1)物作りに関しては、技術立国として日本が次世代も栄えていくために、今、私たちが持っているもの、世界に誇れるものを伸ばしていく必要があると思います。私も小さい頃、宇宙は遠いところにある存在で、すごく難しい、お金がかかる、人工衛星を飛ばすこと自体どんなに難しいことかと感じていたと思いますが、実は国際宇宙ステーションで私たちが使っているもの、例えばプリンター、カメラなど普段の生活で使われている日本の優れた技術がそのまま使われているものが多いです。皆さんが日々使っているものをそのまま宇宙に持って行っても使えるだけの品質を日本は既に作り出していると思います。物作りという観点からは、今、持っている日本の技術をどんどん宇宙で使ってもらい、宇宙が高い垣根の先にあるものでないという形でとらえながら、物作りの技術を宇宙に活かしてもらいたいと思います。
(2)教育に関しては、ロケットを作ったり、国際宇宙ステーションを作って運用していく仕事を通じて、そうした活動が次の世代を育てていくための糧になってほしいと思います。そして、ロケット技術も一朝一夕にできるものではないのと同様に、次の世代の子どもたちが科学技術立国を背負ってくれるような人になってもらうための投資は、長期的な観点で見なければいけないと思います。1、2年では結果が出ないようなものをしっかりと見据え、長期的展望に立って教育を考えていく必要があるのではと感じています。
白木:
(1)「きぼう」は、2003年5月にアメリカのケネディー宇宙センターに持って行き、NASAから非常にきれいなモジュール、非常によくできたモジュールと大変褒めてもらっています。
NASAにはモジュールの中の騒音レベルの基準がありますが、日本人は、その基準を満足させるために一生懸命やり達成したのが今の結果だと思います。実は、NASAのモジュールは、その基準がなかなか達成できなく、基準値からかなり遠いレベルだったりします。そういう意味では、日本人は言われたことはきっちりと何としてでもやり遂げるところが、非常に優れているところだと思います。
また、日本のハイビジョンカメラなど世の中に出回っているもので非常に優れたものがたくさんあり、そのようなものは国際宇宙ステーションの中でも使えます。民生用と宇宙用のもの、特に有人の分野においては、あまり垣根がなくなってきたように思います。ただ、宇宙という非常に厳しい過酷な環境の中で使うためには、どうしても地上で使っているものとは違った要求をしなければならず、宇宙のものを作る場合と民生品を作る場合ではかなり差が出てきます。
国際宇宙ステーションも含め、いろいろな宇宙開発を進める上で、宇宙の苛酷な環境で使えるもの、あるいは宇宙飛行士がちゃんと運用できるものを作る、そういったことが技術として習得されると思っています。宇宙ステーション補給機(HTV)がぴたっと止まったところを見て、NASAのマネージャーが驚嘆したそうです。もともとロボットアームでつかもうとしてもつかめないのではないかと心配したのですが、国際宇宙ステーションとの相対速度がゼロになるように、非常にうまく制御されたところは、我々として誇れる技術だと思います。
(2)教育ではやはり高校、大学で基礎的なことをしっかりと身に付けていけば、応用はいろいろな分野で対応できると思います。そういう意味で、基礎的な力を学生さん含め、面白く勉強ができれば一番よいのですが、数学だの、物理だの、面白くないところもありますから、これらをどうやってうまく興味を持たせるかが、教育の視点だと思います。
<宇宙で見える新たな色について>
参加者:地球で見る可視光線は地球に届いた光で色が見えていると思うのですが、宇宙で見える新たな色はあるのでしょうか。また、若田宇宙飛行士にとって癒される色、宇宙に行って癒されると思った色、好きな色とかあったら教えてください。
若田:宇宙で見える新たな色はないのですが、やはり宇宙空間から地球を見たときの大気層の青とか、海のさまざまな青、特に大気層の色は、今まで見たことのないような宝石箱を開けて、そこから輝く青い光が放たれているような青で、宇宙に行くまで見たことがないようなきれいな色だったと思います。
<(1)日本の宇宙開発のレベルについて (2)月へ有人飛行した際の金額について (3)宇宙で見た夢について>
参加者:
(1)今の日本の宇宙開発が世界レベルでどの程度かということを忌憚ないところで教えてください。
(2)日本が月への有人飛行として今のレベルで見積もったとき、お金で換算してどれくらいになりますか。
(3)若田宇宙飛行士が宇宙で見た最初の夢は何だったのでしょうか。
白木:
(1)日本の宇宙開発のレベルが世界でどの位置にあるかですが、宇宙開発でレベルが高い・低いというのは、いろいろな尺度があると思います。例えば火星に無人探査機を送って火星のいろいろな科学研究・探査をやるとか、あるいはこの前アメリカが月に衛星をぶつけて水を発見したと言っていますが、要するに地上ではできないことを宇宙ロケット、あるいは人工衛星を飛ばして遠隔でいろいろなことをやるといった難しいことをやるという点では、今のところアメリカが最前列を走っていると思います。
もう一つの観点は、商業的にビジネスができ、例えばロケットでお金をもらい衛星を打ち上げるところでは、価格的に安いロシアや中国、あるいはヨーロッパがやっています。日本の場合はどうしてもコスト高になって、商業的な宇宙でのビジネスがまだ十分ではないと思います。
それから、ロケットそのものは、最近H-IIAロケットが15回のうち14回打ち上げに成功しており、非常に安定してきたと思います。H-IIBロケットは今回初めての設計で、初めての打ち上げでしたが、一発でうまくいったことで、日本のロケットのレベルは相当高くなったと思います。
ただ、15、16回の打ち上げといっても、ロシアのソユーズ、アメリカのロケット、あるいはヨーロッパのロケットに比べると数が少ないこともあり、今後打ち上げの成功を継続することで、ロケット技術が世界に肩を並べるところにいくのではと思います。
また人工衛星の中で、特に日本の上空に止まったように見える静止衛星で、例えば「ひまわり」や放送衛星、通信衛星等がありますが、これらの衛星は、世界レベルではアメリカやヨーロッパが進んでいます。日本も人工衛星の技術については、アメリカやヨーロッパに肩を並べるところになっていますが、若干まだコストが高いということで、世界中から多くの注文がくるようなところまでには至っていません。
日本の宇宙技術は、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアに続くくらいと思います。残念ながら有人宇宙飛行に限れば、アメリカ、ロシア、中国です。その次がヨーロッパやインドで、これから打ち上げようとしていますが、日本が遅れを取らないようにと思っています。
(2)月については、今、日本も有人月探査、あるいは無人月探査をやったらどうかということで、国でこの1年かけて月に行くための検討をやっています。その中で、まず2020年くらいまでにはロボットでローバーを下ろし、月の探査をやろうということが計画されています。その規模が、大体3,000億円くらいとみています。
その次の有人、人を送るとするといくらかということで、そこのコストも計算していますが、そこは有人の宇宙船だけのコスト、あるいは月に着陸するための着陸船のコスト、更にこれらを支援するためのいろいろな支援設備が必要なので、全てをまとめると、一声1兆円という数値もありますが、実際に月に人を送って、また安全に戻ってくるという検討を今後だんだん詰めることで、開発に必要なお金もかなり煮詰まってくると思います。日本単独で月に人を送って戻ってくるのは、まだかなり先の話だと思います。
若田:
(3)宇宙で見た夢に関しては、失敗は許されないことをいつも自分に言い聞かせながら訓練をしていますが、やはり宇宙に行って一番の恐怖は失敗です。宇宙船が爆発する恐怖より自分が失敗することに対する恐怖を感じている宇宙飛行士は多いと思います。
私が最初に宇宙に行ったのは1996年1月11日ですが、種子島からH-IIロケットで打ち上げた人工衛星を回収することが私の最初のミッションでした。人工衛星は今回のHTVのようにロボットでつかみ、そのつかむところには取っ手のようなものがついているのですが、私が最初に見た夢は、その取っ手が人工衛星から外れロボットでつかめなかったときに対する恐怖がそのままあらわれたのが最初でした。