「第41回JAXAタウンミーティング」 in 奈良
(平成21年10月29日開催)
「パネルディスカッション」で出された意見
<衛星の画像解析について>
参加者:衛星がある400km上空から今の世界的なカメラの分解度が日本のものとアメリカのものでだいぶ違うと聞いています。その中で、現実に400km上空から1mのものを撮り込んだとき、実際、原画の中でどういうふうになっているのか、それと、デジタル系だと相当細かいピクセルを持っていかないと、1mのものを最低限度でも1画素の中に撮り込むことは難しいのではないかと思います。その辺の画像解析のことを聞かせてください。
道浦:日本の陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の場合は、分解度は2.5mです。「だいち」の後継機は分解度を1mにしようということです。アメリカの場合、商業衛星で既に分解度が50cmのものが出ています。50cmのものがどのくらい見えるかというと、日銀の建物というのは「円」という字になっていますが、それがきれいな形で見えるということで、50cmになるとほとんど普通の航空写真と変わらないと考えていいと思います。処理については、昔、我々は2.5mの分解度の処理をするときも、コンピュータでやるときに1日3シーンか5シーンくらいしかできないと考えていたのですが、我々が考えているよりもコンピュータの性能がどんどんアップしており、たとえ50cmの分解度の処理をするにしても、今のコンピュータの性能だと全く問題なく処理できるという状況になっています。
参加者:そのときの濃度差は、どのくらいまでがその距離を測定していくときの限界になりますか。画素の濃度差とか明るさ、コントラストです。
道浦:コントラストは、どのくらいの階調で分けるかという話になっており、「だいち」の場合はたしか2の11乗で分けています。2の11乗ですから、階調で言うと2,048くらいです。
<使用済み人工衛星について>
参加者:お役御免になった人工衛星は、将来的にはどうなるのですか。
道浦:2種類あります。1つは、36,000キロ上空にある衛星、例えばJAXAでいうと、超高速インターネット衛星「きずな」とか技術試験衛星VIII型「きく8号」が静止衛星です。これらは、地球の自転と同じ速度で動いているので静止しているように見えます。これらの衛星がある軌道は非常に大事なので、お役御免になる前に、36,000キロから約500km高いところに上げます。そうすると落ちてこないようになります。
もう1つ、「だいち」や温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」という衛星については、爆発するとそれが今度デブリとなり、ほかの衛星と衝突し傷めてしまうので、燃料やバッテリーを全部空にします。
<(1)デブリについて(その1) (2)有人宇宙開発について>
参加者:(1)落ちてこない衛星は、ほかの惑星に衛星を打ち上げるとき、デブリとして邪魔になったりしないのですか。
(2)JAXAの技術者に聞いたところ、日本で有人のロケットが完成するのは20~30年以降ということでした。やはりそれは予算が少ないということがネックになっているのですか。
道浦:(1)我々は宇宙のゴミ(デブリ)をアメリカにおいて登録し、そのデータを基に、どこにどういったゴミがあるかというのは常に把握しています。打ち上げの時は、そのデータを基にデブリにぶつからないように計算し打上げるのでぶつかることはありません。
瀬山:(2)日本の場合、従来、有人の宇宙開発計画はありませんでした。現在、戦略本部がひとまず2020年を目標に、有人も視野に入れて月にロボットを送り込むという構想を検討中です。
技術的に言えば、HTV(宇宙ステーション補給機)は有人の技術の基礎になる部分を持っています。そのため、HTVを発展させれば有人輸送機になると思いますが、有人にするには信頼性を相当向上させる必要があります。ロケットの成功率が93%とありましたが、これではとても人を乗せることはできません。信頼性を上げ、もし何かあったときに、きちんと脱出できる技術も勿論必要になります。したがって、予算がないことも確かですが、技術的にも日本としては相当取り組むべき新しい技術が待っていると思います。
<JAXAの組織について>
参加者:政権交代によりJAXAが再編成されるかもしれないというのは本当でしょうか。
瀬山:日本の宇宙開発は、各省庁ばらばらにやっているという批判がありました。したがって、宇宙開発利用を一元化しようというのが宇宙基本法の考え方です。一元化するには、行政側も一元化すると同時に、それに対応する実施機関の体制の整備が必要だと言われています。
したがって、最初にくるのは、行政の一元化をどうするか、今は文部科学省、経済産業省、総務省、国土交通省、環境省がそれぞれの目的に応じてさまざまな宇宙開発活動をやっていますが、その指令を一元化する必要があります。実施機関は、我々研究開発機関ですが、各省の利用の計画に対応するように、また新しい利用を生みだしていこう、社会の役に立つような技術を一層提供していこうということになれば、やはりJAXAの在り方も見直しをすることになると思います。
宇宙基本法の附則もしくは国会の付帯決議の中にJAXAの在り方を見直すと書いてあります。これは、独立行政法人が悪いから改善しようということではなく、JAXAは日本の宇宙開発機関の中核機関として、更に社会に役立つ、外交に役立つ、世界に役立つような形に見直すことと理解しています。
<デブリについて(その2)>
参加者:デブリのことですが、放置し過ぎて埋め尽くされてしまうことはないのですか。また、ごみを大気圏で燃やすという話もありましたが、その燃えかすが残って落ちてくることはないのですか。
道浦:今のところ、ごみでいっぱいになることはありません。また、地上に落とすために、今、衛星やロケットでは燃え尽きない金属、例えばチタンとか、そういうものは使わないようにしています。すべて燃え尽きるような形で衛星はつくっています。
司会(広報部長):HTVは燃やしますが、これはコントロールしてあらかじめ場所を決め落とします。その場合、若干ではありますが、やはり燃えかすが残ります。エンジンの部分が燃えかすとして落ちることになります。場所としては、ニュージーランドとチリの間の海域で、ほとんど船舶も通らない場所ですが、11月2日に落ちます。
あと、ごみと言いましたが、これはNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)というところが10cm以上のものを常に観測しており、大体これが13,000個から18,000個あると言われています。地球の人口は60億です。それに対してデブリは13,000個しかないということで、ごみで埋め尽くされることはなかなか難しいと思います。
しかし、何が問題かというと、人工衛星同士がぶつかったことがあります。人工衛星はものすごいスピードで周っているので、ぶつかることによって危険な場合があります。したがって、宇宙ステーションのような大きいものに人間がいる場合は、観測しながら避け、大事にならないようにしています。あたかもごみだらけの宇宙のように思われていますが、実際に数を数えると少ないと考えています。ただし、スピードが速いので危険であることは事実です。
<観測データの利用方法について>
参加者:衛星の観測データで、村松先生や曽山先生などの解析データの具体的な有効活用として森林組合や林野庁などでどのような使われ方を予想していますか、また、これから将来に向けての話を聞かせてください。
村松:森林組合や林野庁の利用ということですが、「だいち」という衛星は、地上をすごく細かく見ることができます。赤とか緑とか青の波長帯の観測モードだと地上体で10mで観測しますし、白黒の写真のようなイメージだと2.5mで観測しています。そこで最近、その衛星データを実際に上手に利用しようという動きを学会でもやっていますし、勿論JAXAもそうですが、衛星データを提供している企業でもそういう取組みをしています。
特に今、例えば林野庁では、GISという地理情報システムを取り入れて、森林組合の持っている情報をデジタル化し、総合的に行政に役立てていこうという取組みが始まっています。その中でも人工衛星データの利用ということに関しては、現在、山梨県などはわりと進んでいますが、奈良県でもできれば今後進めていきたいと思い、我々や奈良県の方、JAXAの方と協力して利用を考えています。
また、現在、私の研究室で、木が突然全部間伐されてしまった場所が特定できないかとか、奈良県の林政課の方からは、針葉樹林を植えている部分と広葉樹の分布が現実的にはどうなっているのか、森林管理簿にはそれなりにあるが、現在どうなっているのかを見たいという要望もあるので、そのようなデータを我々が処理し、提供できるよう努力しているところです。
道浦:私どもは、どちらかというと公的機関と「だいち」を使って利用を推進しています。先ほど曽山先生から出ました生物多様性センターで、5年に1回緑の国勢調査を行っています。緑の国勢調査は環境省がやっており、それに「だいち」のデータを使おうということで、今、土地被覆分類を一生懸命やっています。
また、林野庁では、今、5、6県だと思いますが、違法伐採とか、そういうものを検知するのに使っています。海外では特に違法伐採が多いので、土地被覆分類のデータを使っていると私どもは聞いています。
曽山:全球に関して言うと、土地被覆分類データを一般の方がどのように使うかはまだわかりませんが、JAXAのサーバの中にもあるので、どなたでも自由にダウンロードできます。逆に言うと、それを見た方からの土地被覆状態が違うのではないかという情報を聞いて、我々が再解析するというように、相互に情報を交換し、より精度の高い情報を生成していきたいと思います。
もう一つ、村松先生の方がよくご存知だと思いますが、今、衛星データを農業で利用するところも出ています。アメリカだと広大なので、衛星データの粗い画素でもかなり有効に使えるようですが、日本だと北海道のように比較的広い農地に適用できると思います。衛星データを使って、化学肥料の投入量のコントロールをしている例もあるようです。
逆に皆さんがどういうことに使いたいということをJAXA側に提案することによって、JAXA側もいろいろな手法を考えることも可能なのではないかと思います。
司会(広報部長):観測データは、どのくらいの分解度があったら衛星なら大丈夫なのか、あるいはどの程度あるとよいというのはありますか。
村松:どういう目的に使うかによりますが、「だいち」であれば10m、LANDSATであれば30mなので、地域的な目的の使用であれば、荒く見ているという感覚にあります。
いきなり間伐されたような場所を探すのであれば、大体10mのデータでこの辺りが怪しそうだというところが見つけられれば、それなりに使えると思います。また、最近、生態系の多様性との関連を研究する場合には、例えば森林内にできたギャップの倒木を調べたいとか、樹種の問題を細かくやろうとすると、1mか、もう少し細かい空間分解能の衛星データを利用しないと厳しいと思います。
<人類の月面着陸について>
参加者:人類が初めて月面に上陸した映像は、実は体育館で撮られていたという噂については、どのように解釈したらよいか教えてください。
司会(広報部長):我々としてはアポロ11号は着陸して、成果をきちんと持って帰ったと認識しています。
瀬山:最近、NASAの衛星がかなり精巧な画像を取得しています。その画像によれば、ちゃんと装置や足跡も残っているので、実際に行ったということが確認されおり、あれはつくり話ではなく、証拠は既に挙がっているとのことです。
<デブリについて(その3)>
参加者:宇宙でのごみの話に戻りますが、ある程度の大きさのものは観測で位置を確認しているということですが、小さいものでもやはり衛星にぶつかれば事故とかある程度機能に障害が出る可能性はあると思います。場所が確認できていれば問題ないと思いますが、やはり確認するよりはない方がよいと思うので、ごみを回収することはできないのでしょうか。
道浦:ごみを回収する方法も、今、いろいろ研究開発をしています。例えば網や吸着の網を張って、そこに小さいごみをくっつけるとか、いろいろやってはいますが、なかなかまだ実現していません。これからおそらくJAXAでも研究開発でいろいろやっており、実験がスタートしてくると思うので、期待するとともに、今、どうすればよいかという若い方からのアイデアも非常に大事で、そういうアイデアをいろいろ考えてもらえればと逆に私どもはお願いしたいと思います。新しい方が新しいアイデアを持って宇宙に入ってくるというのが非常に大事だと思っています。
<アジア各国との関係について>
参加者:JAXAの現状のところで、アジア各国の急成長ということで聞いたのですが、JAXAはNASAとかと国際宇宙ステーションで協調していると思いますが、これから成長していくアジアと、今どういう関係で、またこれからどういう関係を築いていくのか教えてください。
瀬山:確かにアジアは急成長しているので、JAXAとしてもアジアの国と協力し、宇宙開発をやっていきたいと強く思っています。実際、既に相当な協力活動を行っており、アジアの宇宙関係機関の長が集まる会議、協力の枠組をJAXAが主催をしています。例えば、「センチネル・アジア」といっていますが、災害が起こったときに、日本の衛星、インドの衛星、韓国の衛星がそれぞれ画像を提供し合う仕組が構築されているとか、今年の4月からは、JAXAの相模原キャンパスにアジア各国からの人材を受入れ、、共同で衛星をつくる事業JAXAが主催してやっています。
宇宙基本計画では、外交に宇宙を使っていくことが強調されています。その際には、アジアの国は宇宙に対する強い期待もあることから、日本として更にアジアの国との協力が深化していくと思っています。
参加者:やはりそれは日本が主導で頑張っていきたいということですか。
瀬山:どんな分野でもそうですが、アジアの中でだれがリーダーシップをとるかというのは、日本の国益にとって極めて大事です。宇宙開発利用についてもアジアのリーダーとして、更に存在感を発揮したいと思っています。
ただ、これはむしろお願いですが、日本の予算の伸び、人員の規模は外国に比べたらまだ小さいと思っています。宇宙分野には、日本は技術もあります、知恵もあります。日本は国際社会の中で存在感を十分発揮できると思っています。そのためには、社会全体が宇宙は大事だと思ってもらえるように皆様には、宇宙開発利用に様々な意見を出していただければ大変ありがたいと思います。
<国際宇宙ステーションの今後について>
参加者:国際宇宙ステーションについて聞きたいのですが、これから本格的に始動した際に何に使うことができるのか、あるいは何を期待しているのかということを教えてください。また、その期待していることはどの程度実現性があるのかということも教えてください。
瀬山:「きぼう」日本実験棟が国際宇宙ステーションのモジュールの1つになり、そこでさまざまな科学実験等を今後本格的にやっていきます。物質科学分野、ライフサイエンス分野での研究、実験、例えば、宇宙でつくるときれいな組成の物質、タンパク質ができます。それを地球に持ち帰り、その組成を分析すれば、新しい物質、新しい薬の創成に役に立ちますが、そういった実験、研究を本格的に進めていきたいと思っています。
そのためには、JAXAだけではとてもできないので、大学や研究所、一部民間の方の知恵や力を拝借しながらやっていくということで、既に公的機関の利用に加え、民間の方に「きぼう」の利用主体になってもらい、テーマの募集を始めています。
もう一つは、中長期的に見れば、宇宙という存在が地球にとって非常に大事になってくるということで、各国も月や火星の探査を行っており、そういう将来の新しい宇宙活動展開に、宇宙ステーションの技術やそこに輸送する技術、滞在する技術というものの経験、技術の蓄積が必ずや将来の宇宙開発活動に役立つと思っています。
アメリカは、2015年でISSをやめるという動きが一時期ありました。今はそれを見直し中です。ヨーロッパ、ロシアはまだまだ期待できるので当然延ばすべきだと言っています。国際社会がこれだけ積み上げてきたプロジェクトということで、恐らく我々は2020年くらいまでは最低延びると期待していますが、これはアメリカの決断を待つというところもあります。
延長が決まれば世界の主要国が宇宙ステーションに対し、大きな期待を持っているという証拠だと思っています。
司会(広報部長):例えばたんぱく質の結晶があって、それをつくることにより、今、実際に利用していますが、新型インフルエンザの特効薬になるかどうかはわかりませんが、改良をするとか、無重力下における結晶を提供することによって役に立つ実験はこれからどんどん加速するのではないかと思います。
<国際宇宙ステーションでの滞在期間について>
参加者:国際宇宙ステーションで長期滞在は大体6か月のようですが、何か理由があって6か月なのでしょうか。体力的とか、研究が大体6か月あれば終了するとかあるのでしょうか。
司会(広報部長):詳しいことはわかりませんが、1つはやはり体力的、いわゆる骨がもろくなるとか、筋肉が衰えるということもあります。あと放射線の問題があり、1日で地上にいる1年分の放射線を浴びることもあるので、今のところステーションでの滞在は、半年というのを最長でやっています。
瀬山:最大の滞在日数はロシアの宇宙飛行士です。たしか6か月をはるかに超える14か月くらいだったと思います。
この前、若田さんが4カ月半滞在し、地球に帰還しました。普通そのくらい滞在すると、地球に帰ってきたとき、重力に慣れるまでの間、普通に歩くことはできません。座りながら宇宙船から出てくる映像を過去にたくさん見られたと思いますが、若田さんに聞いたら、4ヶ月半よりもっと滞在できそうだと思ったということです。
その理由は2つあり、毎日2時間自転車をこいだり、運動したりして、筋肉が落ちることを防止していました。それと、骨粗鬆症というか、骨がもろくなるので、それを防ぐ薬を飲んでいたようです。
長期滞在は、放射線の問題とか、人間の健康の問題に係ります、これから着実に実績、経験を積みながら考えていくことだと思います。
<(1)宇宙飛行士の労働時間について (2)国際宇宙ステーションでの娯楽について>
参加者:(1)宇宙飛行士の宇宙での労働時間は、1日どの程度でしょうか。
(2)国際宇宙ステーションでの娯楽はどのようなものがあるのでしょうか。
瀬山:
(1)地上と同じで、1日8時間、週休2日制です。8時間は割り当てられた仕事をきちんとこなすということですが、残りの時間は、自由時間として自分のプログラムに使っています。
(2)それぞれの宇宙飛行士は、音楽を聞くとか、本を読むとか、宇宙や地球を眺めるとか、それぞれの宇宙飛行士が自分のやりたいことをしています。
<地球の質量等について>
参加者:長い視野で考えて、国際宇宙ステーションや衛星など地球内でつくったものを地球外に持っていきます。その物質が燃え尽きたりそのまま宇宙へ放置されると聞きましたが、普通考えると、このようなことを繰り返すと地球内の物質がなくなり、地球の質量が変わったり、軌道が変わったりすると考えますがいかがでしょうか。
瀬山:非常に壮大な質問で、我々はそこまで思い至りませんが、地球内のものを宇宙に打ち上げるからといって、地球がすかすかになるとは思っていません。むしろ我々が今、可能性として考えているのは、例えば月の資源です。月に希土類とか、地球が必要とする貴重な資源もたくさんあるようです。太陽光を利用した宇宙発電の構想があります。これも中期的な課題ですが、宇宙のエネルギーを地球に持ってくるというものです。
<奈良地域における環境について>
参加者:村松先生、曽山先生は環境のことで話をされ、地域だけでなくもっとグローバルな話でということで画像を見せてもらったと思いますが、この地域で具体的に環境のことで調査している大きなこと、あとこの奈良地域で課題と思っていることがあったら教えてください。
曽山:今、奈良県の過疎が進んでいる村を調査していますが、奈良県はご存じのとおり、ほとんどが森林です。森林の役割というのは、勿論、今、話題になっている地球温暖化を抑制するための二酸化炭素の吸収という役割がありますが、保水機能や多様な生物の生息の場としての役割、また人間に関しては、癒し効果もあります。海外から日本に飛行機で帰ってきたときに、空から見る日本は緑深い山が多いのだとあらためて感じます。逆に言うと、これだけ緑で囲まれているが、ほとんどが山で、農地として利用することが難しい地域が多いということです。今は森林の荒廃が問題になっていて、森林税などの住民からの税金を使って森林を守るという動きが全国的に出てきています。住民がそういった税金を支払うことにあたって、誘因性を持たせるための情報として衛星データを使って土地被覆状態を示せるようにと思っています。
村松:税金の話になりましたが、奈良県も森林環境税を導入しています。導入するに当たり、県の森林政策課の職員の方がいろいろな場所に行き、税金を徴収することの意義を話したそうです。そうすると、地域によっては非常にその税金をかけることに賛成な地域もありましたし、地域によってはなんで税金で人の持ち物を整備するんだというような意見もあったとのことです。
林業の後継者問題もあるため、森林環境税を導入したことによる効果が衛星データを使って画像として可視化できれば説得力のある資料になるのではと思います。また、森林や河川の保全に関して、生物多様性を維持しながらどのように保全していくかということを、生態学の分野では考えています。
生態学の分野の方々は現場では各点毎に詳細に調査を行っておりますが、河川の流域系とかある山の全体の系がどうなっているかという事は生態学者の方も把握したいことだそうです。衛星データですから現地調査に比べ、より細かいことまではわからないのですが、人工衛星データで全体を把握する、ここまではわかる、ここからは無理だということをなるべく明らかにしながら、生態系の保全ということに関しても、衛星データが利用できればよいかと考えています。