「第38回JAXAタウンミーティング」 in 倉敷(平成21年9月6日開催)
会場で出された意見について
第二部「ガリレオから400年、日本の宇宙科学のいまとこれから」で出された意見
<(1)宇宙科学の「これから」について(2)衛星開発の費用について>
参加者:(1)タイトルに「いまとこれから」と書いていますが、もちろん今の事業も大切ですし、それ以上に「これから」の部分が重要に思えます。そこで、「これから」の部分について科学あるいは技術の分野で考えているビジョンをお聞きしたいと思います。
(2)衛星開発にかかる費用を学割のようにもうちょっと安くしてもらえたらと思います。私の大学でも衛星を実際つくろうという話が出ているのですが、もう少し費用を数千万円から数百万円ぐらいに安くしてもらえたらと思いますがいかがでしょうか。
阪本:(1)「これから」の部分ですが、惑星探査については、日本が今、猛追しています。私が学生のころにはまさか日本が自力で太陽系探査を行う時代が訪れようとは思っていませんでした。
日本が基礎科学の分野で、どこを重点化していくかというのは、いろいろ議論があると思います。すべての分野において、アメリカと同じようにやっていくのは、あまり戦略的には望ましくないと思っていて、惑星科学については、すごくねらいすましたような、例えば「はやぶさ」のように非常にトリッキーというか、ややゲリラ的なやり方をしています。
また、PLANET-Cという金星探査機に相乗りして、これまで材料がうまく作れないなどの諸般の事情で誰も成功したことがない、新しい推進方法で燃料を使わないで太陽の光だけで進むことができるイカロスという宇宙ヨットにもチャレンジしようとしています。
私たち日本人、あるいは日本がねらっていくのは、全てを総花的にやるのではなく、限定されたところをピンポイントで選んで、そこを深く、そして誰よりも強く進めていくのが望ましいのではと思います。
スペース天文学については、X線天文学がこれまで世界的にも実績を挙げてきました。現在、「すざく」が引き継いでいますが、それに加えてASTRO-Hの準備が進んでいます。更にその先の検討も開始されています。得意分野を決定的に得意にしておくことです。物すごく強いものを持ち、他のところを少しずつ作っていくのが、宇宙の学術の部分については、1つの戦略になり得るのではないかと考えます。
中村:よく人工衛星は高い、高いと話がありますが、例えば部品レベルからいろいろな評価をし、選別、ふるいにかけるわけです。そういった形で非常によい部品を使うことを信頼性を上げるためにアプローチしてきました。
ところが、世の中には非常に安い民生の部品がたくさんあり、日本が性能的に優れたものがたくさんあります。そういうものをいかに宇宙に使えるようにするかと言うアプローチも非常に重要ではないかと思います。
つまり、全体として力をつけていく、性能を上げていく、場合によってはコストを下げていく努力が継続的に必要だと思います。
中村:(2)大学や研究機関が宇宙へ参画しやすい仕組みをつくっていくというのは、今、始めています。それは、いろいろなハードルを低くするという観点で、1つは国の事業として、文部科学省なり経済産業省が小型の衛星を、特に大学等に参加しませんかという話が出ているのもその1つだと思います。それから、小型副衛星については、ロケットの余剰能力を使って、なるべく多くの人に打ち上げ機会を提供しようという努力は進めています。
確かに、参加者の方から審査等が厳しいとか、審査を通すためにいろいろな作業をしなければならず、お金がかかるという意見を聞いています。そのあたりを、少しずつどうしたらハードルを下げられるか、あるいはいろいろなインターフェースのようなものをなるべく共通化のような形で条件を出していけば、比較的シンプルになっていくのではないか、そういったアプローチをしてなるべく多くの人たちが参画できるようにしたいと思っています。
大学、あるいは高等専門学校の学生さんが、参画したいという希望が非常に増えてきて、いろんな大学で計画が出ています。そのような方たちが、より参加しやすいいろいろな条件等をこれから詰めていきたいと思います。その結果、もちろんお金も安くなりますし、いろいろな関門も低くなるのではないかと思います。そういった努力は続けていきたいと思います。
阪本:小型副衛星はソリューションの1つで、学生の皆さんが宇宙で一体何をやりたいかによると思いますが、人工衛星にこだわらなければ、例えば小型の観測ロケットとか大気球とか、そういった実験の機会をJAXAとしては提供しています。研究者のコミュニティーに対して非常に手ごろな価格で実験できる機会を提供しているわけですから、是非使っていただきたいと思います。
例えば気球の場合、高度は約40kmまでしか上がりませんが、目的によっては十分な環境を提供することができますし、それこそ振動に対する試験などもだいぶ省略することができます。それから、虎の子のお金を使ってつくり上げた実験装置を、そのまま宇宙に上げっぱなしにするのではなく、回収し、それを必要に応じてまた使うこともできます。
小型副衛星は、非常に面白いチャンスではあると思いますが、ほかの手段として観測ロケット、あるいは大気球についても是非お考えいただきたいと思います。
<「はやぶさ」の帰還について>
参加者:「はやぶさ」は帰還するのでしょうか。
阪本:帰還すると願っています。
「はやぶさ」は、既に耐用年数は過ぎているというか、普通だったら運用をやめています。その中で継続しているのは、やはり「はやぶさ」が持ち帰ってくるであろう成果に我々が期待していることになります。しかし、同じリアクションホイールを使っているのに既に複数個壊れ、残り1個になっており、これが壊れたらもう我々としてはさすがになすすべがないと思っています。何とか戻ってきてほしいと強く願っていますが、決して楽観はできません。
ただ、人的な要因というか、運用する側の都合で帰還できなくなるという事態は避けたいということで頑張ってやっているので、是非期待いただきたいと思います。
<金星の大気について>
参加者:金星の大気は約400kmで流れており、まだ原因があまりわかっていないということですが、今の時点での原因の推測を教えてください。
阪本:私も惑星大気の専門家ではないのであまり詳しいことはわかりませんが、分厚い大気を持った自転速度の遅い天体というのはどうも速い大気を持っているようだというのは経験的に知られています。タイタンなども同様のようです。
一方、我々の普通の気象学の考え方を当てはめると、天体が止まっているわけなので、日の当たっている面は決まっています。そのため、日の当たっている面が温度が高くなり、そこの空気が膨張し、夜側に流れていくというのが通常の気象学の知識です。
地球の大気なども高さによって流れる向きが変わったりしているので、何か別の高度に影響を与えているのかもしれないとつぶやかれていますが詳しいことはよくわかりません。
月の形成については、巨大衝突説がよく知られていて、それを検証するために「かぐや」は行ったわけですが、それに比べると金星の大気のモデルは、観測データがかなり欠乏しているというのが正直なところだと思います。
<宇宙開発における国際的な協調関係の形成における日本の役割について>
参加者:ロケット、飛行機もそうですが、宇宙技術はもともとは軍事目的で米ソの競争の中でぐんぐん伸びてきた分野だと思います。しかし、国際宇宙ステーションを始めとして、最近は日本的な考え方というか、協力をするとか、気持ちを合わせるとか、そういうことがないとやっていけないような世界にだんだん変わってきているということが、すごくうれしく思います。
日本人がこれまで培ってきたものが本当に生かせるときがくるのではないか、また、方向的に軍事目的にならないようにしていかなければ、地球そのものも破滅してしまうと思うのですが、これからの日本の宇宙科学というか、技術の方向性として、日本の文化のようなものを全面に打ち出していくような、それは宇宙飛行士としてだけではなく、研究者として売り出せるところがないかという気がしますが、その点はいかがでしょうか。
阪本:研究者は、国際協力に対して極めて寛容というか、国際協力に慣れています。昔、ハレー彗星の探査計画がありました。当時、米ソはまだ冷戦時代で、そんな中、日本が「さきがけ」と「すいせい」、そして旧ソ連が2機、ヨーロッパが1機、アメリカが1機ということで、ハレー艦隊という国際的な探査ミッションを組みました。そのとき科学者が何をしたかというと、情報を完全にリアルタイムで共有したのです。日本を含め冷戦当時のソ連とアメリカが、そのような情報を共有することは通常では考えられなかったわけですが、それを科学者は平然とやってのけたわけです。そのことは非常に重く受け止められ、平和への貢献と評価いただいたこともありました。
私たち科学者は、そういうことに慣れているので、それを継続することがほかのグループに対する大きなメッセージになるのではないかと思います。
あと私個人としては、科学者がもう少し社会に発言をしていくことが必要ではないかと思い、我々科学者のものの考え方、国の枠を超えて協力するようなものの考え方を広く伝えていきたいと思っています。
日本というのはご指摘のようにユニークな立場にあります。例えば被爆国であることとか、宗教に関してあまり厳格でないこととかです。世界平和を実現するにあたって大きな障害となっているのが宗教の違いなどお互いの価値観を認めないことだと思いますが、そんな中で日本人はバッファーになれるのではないかと思います。宇宙飛行士がやっているのもまさにそういうことで、言葉も違う、民族も違う、生まれも育ちも、肌の色も宗教も違う、そんな人たちが一つの物を作り上げていく、その生きざまは日本人が得意としているところでしょうから、それを科学主導でやっていく。そしてそれがあわよくば外交の世界にも反映されればいいと願っています。
そのためにも、科学者としてできるだけ研究室にこもるのではなく表に出て行くことが、私たちの責務と感じています。
司会(広報部長):パリに長くいた中村さん、国際的な観点でどうですか。
中村:私は、科学というよりエンジニアの出身ですが、もともと宇宙は、国際競争という観点もありますが、その一方で国際協調あるいは国際協力に非常になじみやすい分野だと思います。例えば地球規模の気象変動とか、あるいは温暖化とか災害とか、このようなことに対する宇宙の貢献は、国にとらわれず、世界的な規模で仕事ができる、そういう意味で宇宙は国際協力にふさわしい分野だと思います。
特に昨今いろいろ話題になっている宇宙ステーションは、計画から随分時間が経ち、いろいろな議論があります。それは、科学的な価値としてどのような成果が出せるかということが非常に大きな関心なのですが、私は宇宙ステーションの計画が始まったときから、しばらくいろいろな人と議論していく中で、世界中の国が力を合わせて1つの目的のために作る大きな試金石になるという議論をした記憶があります。
このことは、人間の有史以来、そんなにたくさんはありません。当時はアメリカとロシア、それからヨーロッパと日本、それぞれ思想、信条が違い、政策が違うものが1つの目的を持って1つのものをつくり上げる、そういう協力に向けて努力する、これはすごく大きなことだったと思います。
もう一つは、宇宙から見た地球、これはアポロ宇宙船の飛行士もそうでしたし、宇宙ステーションに乗った人々も地球を見たとき、地面の上には国境がないという印象を非常に強く持ったということを何度も漏らしています。これは非常に象徴的な話で、ステーションの中にはどこにも国境がない、その議論の中で宇宙ステーションの中に法律上の議論がありました。例えば宇宙で何らかの法的なことを考えなければいけないとき、どこの法律を適用するか、日本の上を飛んでいるとき、アメリカの上を飛んでいるとき、ロシアの上を飛んでいるとき、それぞれの法律を適用するわけにはいかないだろう、そういう意味で宇宙ではどのような法的な問題をクリアーしなければいけないかという議論が随分ありました。
そういう中で、日本人の果たす役割というのがおのずとあり、今、阪本からも話があったように、いろいろな意味で柔軟性があったり、日本人は自己を主張するのは余り得意ではないところがありますが、間に立って、うまく物事をおさめるのが得意なところがあります。日本人の持っているもともとの特質は、これからのいろいろな国際協力の中で案外それなりの存在を示すことができる分野ではないかと感じることがあります。宇宙活動がもともと国際協力になじむ分野であることと、その中で人間とは何か、あるいは日本人が果たせる役割はずいぶん大きな役割があるのではないかと感じることがあったので、そういうことをこれから生かしていけたらいいのではないかと思います。