JAXAタウンミーティング

「第38回JAXAタウンミーティング」 in 倉敷(平成21年9月6日開催)
会場で出された意見について



第一部「人工衛星と私たちの暮らし」で出された意見


<(1)研究を行う意義について(2)「きずな」の通信について>
参加者:(1)一部の研究は、既に他の大学などもやっていると思いますが、予算を使って改めて行う意義を説明いただければと思います。
(2)「きずな」は高速通信1.2ギガできるということですが、これは1チャンネルでの話でしょうか。
それとも、携帯電話はそうですが、輻輳するとビットレートがどんどん落ちてきますが、その点について教えてください。
中村:(1)既に行っている研究を改めて行う意義があるかという質問ですが、研究と実利用に向けての仕事の関係だと思います。それは別に相反する、あるいは競争することではなく、例えばいろいろな最先端の研究をしているところがあれば、JAXAは、そのような研究をしているところと協力しながら、実利用に向けていく仕事を行います。
災害や地殻変動を観測する技術そのものは、既に学術的にいろいろやっています。それを実際の実利用に向けた研究開発を行うのがJAXAの大きな仕事だと思いますし、災害に限らず、さまざまな先端的な研究に付加価値を付けたり、一般的な生活の中に現実に使えるような形で仕事を進めていくことが大きな役割だと思います。
勿論研究のところもありますし、我々は応用研究と言っていますが、それぞれの役割や得意なところを協力しながら進めていると理解いただければと思います。
(2)1.2ギガは、全体の通信スループットとして出てくる数字なので、実際にたくさんの人が使うようになると、使い方として時分割があったり、あるいは周波数で分割したりということになりますので、全体で通せる通信量と理解してください。

<準天頂衛星について>
参加者:GPSの衛星ですが、近いうちに運用を終了するものがあり、だんだん精度が低下していくのではと言われていますが、今回、計画にある準天頂衛星の精度補完は、それに間に合うのでしょうか。
司会(広報部長):基本的にアメリカのGPSそのものがどうなるかというのは、アメリカの予算の付き具合と新聞等に出ていたと思いますが、その部分はわかりません。
準天頂衛星は、来年度打ち上がる予定になっており、1機ではその精度が出ないため、全体では4機以上で補完することで考えています。でき上がれば、多分問題なくなると思います。

<(1)人工衛星の軌道について(2)宇宙ステーションにおける太陽電池パネルの利用について>
参加者:(1) 人工衛星について、なぜ同じところを回っているのですか。また、国際宇宙ステーションや「ひまわり」などの静止衛星が飛び続けるエネルギーはどうなっているのでしょうか。
(2)太陽電池パネルの利用は宇宙ステーションそのものの機能に使われていると思いますが、そのあたりを教えてください。
中村: (1)人工衛星はロケットで打ち上げますが、これは基本的な力学の問題で、人工衛星が地球を回るとき、人工衛星には地球が人工衛星を引っ張る、いわゆる引力が働きます。
一方、地球を回っている人工衛星には、簡単に言えば遠心力が発生します。その遠心力は、回る速さによって決まるので、ある軌道の高さに人工衛星を打ち上げると、その地点における地球が人工衛星を引っ張る力と、今度は回ることによって出てくる遠心力がつり合って飛んでいます。したがって、そのまま回り続けることになります。
ただ、そのままにしておけばよいかというと、実はそうではなく、飛んでいるうちにいろいろな力が人工衛星に働きます。そのままにしておくと、人工衛星の軌道は決められたところからだんだんずれてきます。そのため、人工衛星は小さな推進力を出すためのロケットエンジンと燃料を持っており、その燃料を小さなロケットエンジンで吹いて、軌道を制御するような運用をしています。
(2)太陽電池ですが、人工衛星は、だいたい数kWの発電能力を持つ太陽電池を積んでいます。太陽電池で発生した電力は、人工衛星の機器を動かしたりする際などの電気に使われます。

<インターネットでの画像利用について>
参加者:Googleマップのように無料で自分の住んでいるところを撮ることは可能でしょうか。今のところ有料ですごく高いのではないでしょうか。
司会(広報部長):gooやYahooの地図を検索してもらうと、JAXAが出てくると思います。これは「だいち」で撮った画像をそのままgooやYahooに提供しています。更に詳しいデータを自分でいじりたいのであれば、高額ではないと思いますが有償で買ってもらうことになります。通常にgooやYahooを見る分には問題ないと思います。

<使用済み衛星の状況について>
参加者:使用済みの衛星は、宇宙空間をただよっている状況だと思いますが、いつまでも地球へ落とすときに、摩擦熱で蒸発させる手段を取っているのがよいのかはわからないのですが、使用済み衛星を回収することはあるのでしょうか。
中村:このことについては、いろいろな技術的検討を進めています。
まず現状を話しますと、静止衛星、これは赤道上空36,000キロの高さで、地球の周りを回っています。この軌道は一つしかないのでそういう意味で、非常に重要で我々は資源と言っていますが、当然、人工衛星は幾らでも並ばないわけですし、あまり近くに打ち上げるわけにはいきません。その1つの理由は、例えば電波を上げたとき、目的の衛星に信号を与えようとしたのに、横の人工衛星に影響してしまうことが懸念されます。そういう意味で、ある程度間隔をあけて人工衛星を打ち上げます。
静止衛星は、通信に使う利用価値が多いので集中しますが、有限の資源なので、使用が済んだ衛星がその場所にとどまっているのは大きな問題になります。そのため、最近の衛星では、寿命が尽きた後、自分で少し軌道を持ち上げる対策をしています。つまり、使い終わった後、いつまでもその軌道にとどまっていることがないようにしており、静止衛星では、比較的この考え方が浸透してきています。
それ以外の、低い高度を飛んでいる衛星は、使い終わった後もただよっている場合があります。指摘があったように、それは将来的には非常に大きな問題になると思います。宇宙のごみをデブリと言いますが、これらが最近増えてきて、人工衛星にいろいろな障害を与えるのではないかと本格的に心配し始めました。
ではどうするかというところが議論ですが、我々はデブリについてはいろいろな研究を進めており、1つはこれらのデブリを正確に観測する、これが非常に重要なことです。それから、デブリをどうやって避けるか、人工衛星は、観測しているとそばをデブリが通ることがあり、衝突の確率が増えると、デブリを避けるための操作をします。
しかし、これは本質的な解決にならないので、いずれ使わなくなりただよっている人工衛星を回収する技術の研究を始めています。それには、いろいろな方法があり、最終的には使用済みの人工衛星に近寄り、何らかの方法で軌道を変えるという技術も将来的には考えなければいけないということで研究を進めています。

<JAXAの広報活動について>
参加者:半分以上の国民の人はJAXAを知らないというのが現実のようですが、どうやったら革新的なことをやっていることに対して多くの人が知っていけるのか、どういう宣伝をしていけばよいのか、私は教育関係者なのですが、例えばコマーシャルとしてこのような方向を考えているとか、宇宙に関してはこういう方向を進めるとよいのではないかとか、もし何かあれば教えていただければと思います。
司会(広報部長):私どもが行うプレスリリース、報道発表は、年間大体250件くらいです。それが全部新聞に掲載されるか、あるいはテレビに取り上げられるかというと、今度は伝える側の論理で、宇宙より話題性のある事柄が取り上げられることはよく聞く話です。これは、我々ではコントロールできない話です。これをいかに変えるかは我々の力では難しいので、皆さんが是非宇宙の話題を教えてほしいという形で、新聞社やテレビ局にアクセスしない限り、我々のところでは既に限界が来ていると思います。
一方、もう一つ私どもが考えなければならない点は、最近はどちらかというと、テレビは宇宙の話題を撮っていただいていますが、新聞は宇宙の話題を掲載しますが、読者の方が少ない。なぜかというと、若者、特に20代の方は私どもの調査だとインターネットから情報を得ることが多く、新聞をそもそも取っていない、読んでないというのが実態のようです。したがって、我々がこれから考えなければいけないのは、インターネットをうまく活用しなければ、若者には宇宙のことを理解してもらえないだろうと思います。
そのため、私どもはインターネットには少し工夫をしており、YouTubeの中にJAXAチャンネルを設け、そこで最新の若田さんの話とか、ロケットの映像とかを載せるようにして、少しでも別の角度から皆さんに情報を伝えることをやっています。
お金を付けて新聞の1面広告をやるかというと、それはとても公的機関がやっていたらきりがなく、難しいので、お金のかからない方法で何かできないか考えています。
ちなみに一番の広報効果は何かというと、宇宙プロジェクトがうまくいくということです。
中村:補足になりますが、今、司会のほうからは、広報の観点から皆さんに話をさせてもらいましたが、我々技術サイドから言うと、より多くの人が宇宙の活動に参加できる機会を増やす努力をしています。
1つは、日食の中継を見た方があると思いますが、それを人工衛星経由と意識したかどうかわかりませんが、宇宙を使って一般の人に見てもらう機会をなるべく増やすようにしました。それから「いぶき」の打ち上げのときの「まいど1号」という名前はご存じかと思いますが、中小企業の方や大学の方、専門学校の方たちが開発した人工衛星を一緒に打ち上げました。
人工衛星はロケットで打ち上げますが、本体の衛星のほかに、多少重量として余裕が出るケースがあります。今後、なるべく多くの人たちに参加していただき、勿論、大きな衛星は難しいですが、それぞれの得意分野を生かした小さな衛星をなるべく上げる機会をつくったり、あるいはJAXAのつくった衛星に、例えばある部品とか、あるいは何かのセンサーといったものを宇宙で実証する機会を提供するという努力は今後増やしていきたいと思います。
阪本:更に補足ですが、テレビ等で最近宇宙に関する番組が増えてきています。ただ、その番組の内容は玉石混交で、例えば先日アポロ11号の月着陸40周年でしたが、その機会にテレビ、あるいはインターネットの場合はもっとひどいのですが、アポロ捏造疑惑が前面にきてしまいました。疑惑に関するところにだけアクセスが集中し、実際に科学の調査をしている最新の状況がなかなか伝わっていきません。
メディア側にも責任はあると思いますが、一方で、インターネットは我々個人個人がつくっていく、あるいは選んでいくものなので、地道なことではありますが、一人ひとりの「真実を見極める目」のようなものを長期的に養っていく努力も怠れないのではないかと思います。

<(1)ISSの今後について(2)有人開発について>
参加者:(1)今年、日本の宇宙ステーションの「きぼう」が完成したと聞きましたが、あるインターネットの情報で2015年にISS自体の運用が終わるのではないかとの情報を聞いています。長い開発期間と費用をかけてせっかくつくったものを、今後どういう形で運用するのでしょうか。
(2)今度、HTVで無人の物資輸送が実現できる可能性が出てきていますが、有人宇宙の開発は今後JAXAとしてどういったビジョンを持ってやるのかということを教えてください。
司会(広報部長):(1)今のNASAの計画では、2015年で宇宙ステーションの運用をやめると言っていますが、米国はオーガスチン委員会という検討会をつくっており、今後レポートが出ると思いますが、運用を延長させようという動きがあります。それが5年か10年かわかりませんが、延長の動きがあるため、必ずしも2015年で終わるということではありません。インターナショナル・パートナーであるJAXAと欧州宇宙機関は、延長したらどうかと提案していますので、おそらく方向としては、2020年あるいは2025年と延びる可能性があります。したがって、2015年で宇宙ステーションの運用が終了することがまだ確定したわけではないということを理解いただきたいと思います。
(2)次に有人の議論ですが、これはなかなか難しい議論で、個人的なレベルではいろんな意見があると思いますが、我が国として有人にどう取り組むかというのは、国の宇宙戦略本部という機関が内閣官房にあり、そこで議論をしていくことになると思います。まだ明確に有人をやるという結論は出ていませんが、将来的にどうするのかは、この1年ぐらいかけて決めるのだろうと思います。
やはり有人の問題はお金がかかるという問題、また、リスクがあるところが一番の課題だと思います。私どもの理事長がよく記者会見で申し上げますのは、今から有人をやりますよと言って決めたとしても、10年ぐらいの期間はかかるといわれています。技術的にそれくらいかかると思います。そのため、決めてもすぐに有人ができるわけではなく、ある程度の期間が必要だということです。

<JAXAの事業への参加について>
参加者:6月11日に「かぐや」が月面衝突しました。そのとき、月面発光が見られるのではないかということで観測をしてほしいという依頼が一部に出て、私も個人としてわくわくしながら楽しみにしていたのですが、あいにく天気が悪くて観測できませんでした。ずっと以前に、SL9が木星へ衝突したときも予報が出て、余り大きな変化は見られないだろうと思っていたのが、小望遠鏡でも見られるような大きな変化が見られました。
今回の月面衝突による発光でも、場合によっては、ホームビデオで月面の暗部を拡大して映していれば、発光がとらえられる可能性があったのではないでしょうか。また、その発光を画像としてとらえたとき、観測的価値があったのでしょうか。つまり、我々個人がJAXAの計画に連携しながら宇宙を楽しめることも広報してもらえればと思います。ISSを見てみようというキャンペーンも、例えば倉敷市の上空をいつ飛びますという情報を科学館などが流してくれたら、子どもたちも見ることができるのではないかと思います。こういうことで啓発にもつながるのではないかと思いますがどうでしょうか。
阪本:6月11日の「かぐや」の衝突閃光の件ですが、呼びかけたところかなり大勢の方に協力いただきました。あいにく当日は、全国的に曇りあるいは雨ということで、国内での撮影成功の報は受けていませんが、オーストラリアとインドから撮影に成功したという連絡を受けています。それが科学的にどれだけインパクトがあるのかというのは、まだよくわからないところはあり、しかもどのくらいの明るさで光るのかというのも残燃料がどのくらいあるかにもよる部分があるので、なかなか予報が難しいところがありました。
いずれにせよ、滅多にない機会なので、それを全国に、あるいは世界中に呼びかけ、何らかの形で参加してもらえるようになればよいと考え、衝突のタイミングを出すのが本当によいかという議論も内部ではありましたが、是非皆さんに楽しんでいただこうということで、できるだけの予想データを出しました。
司会(広報部長):ISSを見ようというキャンペーンですが、実は私どものホームページでISSがいつどこを通るというのはわかる仕組みになっており、倉敷での位置もわかるようになっています。しかし、全国的なキャンペーンをやっているかと言われるとやっていないので、そこはこれからの宿題だろうと思います。
阪本:いろいろなことをやっているつもりですが、やはり宇宙の研究開発というと、かなり広範囲になり、その中の天文学に関する部分、あるいは惑星科学に関する部分は、かなり皆さん身近に、特にアマチュア天文の方にとってはすごく興味のある対象だと思うので、そういったところで何かできればと思います。
「はやぶさ」は、日本には直接戻ってこないのですが、早くもオーストラリアに迎えに行くぞツアーのようなものができ上がっているようです。日本のアマチュアの方たちは高いレベルを持ち、流星観測あるいは隕石の観測等で実績を挙げているので、そういった方のネットワークがそのままオーストラリアの方に直輸入されると、落下位置の予想精度なども上がっていく、そして回収が速やかになされるのではないかと考えます。
実際に落ちるところは軍の施設なので、どんどん入ってくださいというわけにはいかないのですが、皆で盛り上がっていただければと思います。
司会(広報部長):「きずな」のキャンペーンがあるのではないですか。
中村:超高速インターネット衛星「きずな」を皆さんに理解してもらう目的で、昨年はクリスマス、今年は七夕の時期に、「きずな」を経由したメールをお試しくださいということで、多くの方に参加いただき、そのメールを実際に軌道上の「きずな」に上げ、その後、「きずな」経由で受信者の方に受信してもらうキャンペーンをやらせてもらいました。これは非常に好評で、なるべく多くの方にこのように知っていただく機会を設けたいとアイデアを絞りながらやっていますので、是非積極的に参加いただければと思います。