「第37回JAXAタウンミーティング」 at 開国博Y150(平成21年8月23日開催)
会場で出された意見について
第一部「日本の宇宙開発の将来展望」で出された意見
<有人往還機について>
参加者:理事長の宇宙輸送の例で、有人の往還機のところに20年以降と書いてあるのですが、これは平成20年でしょうか、2020年でしょうか。それと、もし、2020年以降なら、来年にはアメリカの民間の有人往還機は動いて、実際に日本人も行って帰ってこられるのに、なぜそんなに待たなければいけないのでしょうか。
立川:20年後以降と書いてまして、2020年とは言っていません。
20年後以降というのは、日本も有人をやると決めてから、結構かかることを意味しており、今の我々の試算では、日本も有人打ち上げをやると決めてから、実現するまでに10年はかかると思います。観光的に宇宙へ行くということではありませんので、誤解しないでください。
アメリカがやっている民間の方を宇宙へ連れていくというのは、多分、20分間宇宙へ行ってくるというようなものです。一方、我々が考えているのは、どこへでも人間を運んでいける、宇宙ステーションにも行ける、将来的には月へも運べるということを想定して考えており、これは、方針を決めてから開発するには、約10年かかると考えています。そういう意味で、2010年に決断すると、2020年に打ち上げが可能ということです。
<宇宙飛行の実現について>
参加者:ちょっと宇宙へ行って帰ってくることを、なぜ日本はやらないのでしょうか。皆の税金でやっているわけですから、特定のエリートではなく、我々ここにいる皆が宇宙へ行くことを、まずJAXAは目指してほしいと思うのですが、なぜやらないのでしょうか。
立川:アメリカがやっているのは、国がやっているのではなく、民間企業が考えているわけで、どこの国も国が観光用の有人宇宙を考えていることはありませんので、誤解しないでください。我々としては、できるだけロケットの信頼性を上げ、飛行機のように飛べるようにしたいと考えているわけですが、実現のためには、あと30年くらい待った方がよいと思います。
参加者:JAXAは、やはり科学技術ということで、民間の人を宇宙に観光旅行に行かせるということにはならないということでよろしいでしょうか。
立川:そうです。JAXAの仕事としてはやりません。これは、世界の宇宙機関が皆同じです。
参加者:昔国鉄があったと思うのですが、国が、まずバスみたいなものをつくって、民間に投げかけるということはないのでしょうか。
立川:我々がいいロケットをつくって、民間に移譲すれば、民間の人がビジネスとしてやってもいいと考えています。
<テラフォーミングについて>
参加者:火星のテラフォーミングというのは考えていないのでしょうか。
向井:学問レベルでは、JAXA相模原キャンパスの山下先生が、テラフォーミングを研究しています。
テラフォーミングとは、たとえば火星の地質を少しバクテリアなどで変えて、人が住めるような環境に変えていこうという話です。研究者はアイデアに関してはリミットがなく、地球に還元できるいろいろな技術が出てきます。
<ラグランジュ深宇宙港について>
参加者:先ほどスライドで、ラグランジュ深宇宙港というのが火星と軌道間輸送の間であったのですが、このことについてもう少し聞かせてください。
立川:ラグランジュ点とは、地球と太陽との間の引力が均衡しているポイントをいい、地球の周りには何か所かあります。現在、宇宙ステーションは、約400キロ上空につくっていますが、ラグランジュ点は大体地球から50万キロメーター離れたところにあり、ここに基地、すなわち深宇宙の港をつくりたいというのがこの発想です。
港をつくっておけば、火星に行くときにもそこから行けばいいということになり、将来的な夢として、ラグランジュ深宇宙港というのを考えているわけです。したがって、実現というのはかなり先の話だと思ってください。
<地球温暖化の原因について>
参加者:地球温暖化についてまだ余り知られていないと思いますが、二酸化炭素やメタンが原因ではなく、フォトンの影響だという話がかなり濃厚ですが、ご存知でしたら教えてください。
立川:地球温暖化の原因は、今、世界の科学者が集まり、委員会をつくって検討しており、確かに何が原因か明確な答えはありませんが、炭酸ガス、メタンガスも一つの大きな原因ではないかと言われています。したがって、我々としては「いぶき」によって濃度をはかることを今やっていて、濃度分布がどのように変化するかを長期的にとらえれば、地球上の温度の変化との関係で、少しは相関関係が出てくるのではないかということで検討しています。
いろいろな学説があり、フォトンも影響しているのではないかとか、あるいは太陽との関係で、地球は、長期で考えると、氷河期の時代に向かっているのではないかという意見もあります。また、太陽の活動が少し緩くなっているから温度が上がっているだけという意見もあります。いろいろな意見があるので、どれが一番支配的かの方向づけをしようというのが「いぶき」を打ち上げた一つの理由であり、これが最大の原因というのは、まだ世界的に明確になっていないと理解してください。
<無重力について>
参加者:私はボンベを背負って海に潜るのですが、重力がないというのはこういう感覚かと考えたのですが、実際、ほとんど真空に近いところで、重力がない状態だとどういう感覚なのか教えてください。
向井:多くの人が間違うことですが、重さのない世界と空気のない世界は違います。
真空というのは、空気がない世界です。真空の世界だと音はほとんど伝わりません。スペースシャトルや国際宇宙ステーションなど乗組員が乗っている場所には、空気はちゃんとあり真空ではありません。地球で、私たちに何で体重があるかというと、自分の体が地球の中心に引っ張られているからで、空気のない世界と重さのない世界とは違います。
先ほど話された、水の中に潜っていったときなんとなくぷかぷか浮かんでいる感覚というのはありますが、大きく違うのは、水圧で周りからぎゅっと締め付けられますが、宇宙はこの様な状態はありません。宇宙では、自分の体が本当に羽になってしまったような、押せば押される、無重力状態となります。
地球上では、なるべく宇宙に近い環境をつくり、人工衛星の確認や太陽電池パネルが広がっていったときなどの検査をしますが、やはり地球上にいる限り重さのない世界というのはできないです。
実際、宇宙ステーションは地球に向かって引っ張られて落ちている状態なのですが、落ちないような速度で地球を回っているため、滞在している人には、相対的に物の落ちない世界ができています。
私たちは、重力文化で考えてしまいますから、本当に重力がない世界がどういうものか体験できたらいいなと思います。
<現在の教育について>
参加者:数学か理科系かよくわからないのですが、今はたくさんのことをインスタントに覚えるというか、情報が多過ぎるのではと思います。今の宇宙についても、たくさんの情報が必要なのか、私としてはやはり整理してできるだけ少ないほうがいいのではと思いますが、その点を聞きたいと思います。
立川:最近の若い人は、与えられたことに対する答えを出すのはうまいのですが、自分で考え、答えを出すというのは、どうも苦手みたいです。これは教育から考えていかないといけないと思います。是非、ここにいる皆さん方にお子さん、お孫さんがいるなら、考える力を付けていただきたいと思います。あるいは問題意識を持つように力を注いでいただきたいと思います。
宇宙に携わっていると、宇宙にあるもののうち96%がわかっていないとよく言われるわけで、我々はわからないものを相手に一生懸命研究し、調べ、次に何を明らかにしようかと考えています。小学生に宇宙の話や星の話をすると、大変興味を持ってくれるので結構かと思いますが、中学生になると、興味を持ってくれる人は5割に落ち、高校に行くと10%くらいになります。さらに、大学に行くと2~3%になってしまうということで、今、我々としては問題意識を持ち、できるだけ関心を持ってもらえるよう取り組んでいます。
そのため、まず、小中学生の理科の先生に宇宙のことをわかってもらい、授業で取り上げてもらいたいとともに、小学生、中学生にも是非宇宙に関心を持ち勉強してもらいたいということで、JAXAでは出前教室という教室を開いており、JAXAの研究員が出張し教室で話をするこ行っています。
また、教材は今、残念ながら宇宙のことは何も書いてないです。書いてないのでは、先生も取り上げようがないので、教材に宇宙のことを取り入れてもらうという意味で、教科書の執筆者にお願いをする努力もしています。是非若い人には、いろいろなことに関心を持ってもらう、そういう教育がよいと思います。
<(1)使用済み衛星の処理及びスペースデブリについて(2)宇宙飛行士の年齢について>
参加者:(1)人工衛星の話で、以前、人工衛星が軌道でぶつかって問題になったと思いますが、人工衛星を使わなくなった後とか、例えばほかにもスペースデブリなど、地球の環境問題と同じように、宇宙での環境問題等があると思うのですが、どのような対策をしているのでしょうか。
(2)宇宙飛行士は、もう少し若くはならないのでしょうか。たとえば私は、今19歳なのですが、今から5年間、条件さえあえばみっちり訓練して、24歳で宇宙へ行くことは可能なのでしょうか。
立川:(1)衛星の衝突の問題ですが、人類が最初に衛星を打ち上げたのが1957年で今から52年前です。、それ以来、ロシアを中心に多くの人工衛星を上げてきました。人工衛星は宇宙に打ち上げても、地球の重力が少しは効きますから、だんだん落ちてきて、最後は大気圏に入って燃えてしまいます。そのため、デブリというか、宇宙のごみには最終的にはならないのですが、その途中過程では、宇宙にとどまることになります。また、ロケットの2段目は、衛星と同じように宇宙を回ります。これは長いもので100年、200年かかって落ちてくるので、どのようにコントロールするかということになります。
現在、10センチ以上の物体が大体1万3000個くらいあると言われています。これらは最終的には全部落ちてくると思いますが、ただ、時間がかかり、中にはぶつかってしまうものもあります。去年、ロシアとアメリカの衛星がぶつかったのが、その例です。これは、52年の歴史の中で初めてのケースでそのくらいまれだということが言えると思います。
しかし、人類が今の計画でどんどん上げていくと、この数が増えていくので、国連でごみを増やさないようにする議論をしています。
まず、衛星ですと、寿命がきたら最後に減速して地球に落とせば大体燃えてなくなるので、燃料をできるだけ残して最後に地球に落とします。ロケットについても同じで、2段目が役割としての衛星を切り離し、あとは自分で方向転換し減速して地球に落とすことにより、ごみを極力減らそうということで考えています。世界的にこれから手をつけるところですが、この方法によりごみは発生しなくなり、より安全になると思います。
しかし、我々がコントロールできない部分があります。隕石というのは、地球の周りも飛んでいますが、幸い大気があるからほとんどは大気圏で燃えてなくなります。我々がかぐやで月を調べたら、ものすごい数のクレーターがありましたが、あれは隕石の衝突跡です。地球は、大気があるがゆえに助かっていますが、たまには地球にも隕石が落ちてきて、恐竜が絶滅したと言われているわけで、何億年に1回かは、隕石が落ちてくることはあるという気はします。
しかし、今のところ、大気圏で守られているがゆえに、人間がつくったごみはほとんど影響がないと言えるかと思います。むしろ問題は、外から飛んできた大型の隕石がきたら大気圏を突き破って地球にぶつかるおそれがあるということです。
向井:(2)宇宙飛行士というのは、一つの言葉でしかないので、今の宇宙飛行士のイメージがありますが、これからは、宇宙に行く目的が何か、宇宙でどういう仕事をするかで、決まってくると思います。
現在の職業宇宙飛行士、いわゆるプロフェッショナル・アストロノート、プロフェッショナル・コスモノートは、国のプログラムの下で仕事をしています。国が考えたプログラムを皆さんの税金を使っておこなっているわけで、皆さんのコンセンサスの下に、宇宙で決められた仕事を遂行する役割があります。それが任務、ミッションです。その任務を果たすためには、たとえば、宇宙で建設をするのであれば、地球上でもロボットアームをちゃんと使えて、、宇宙工学がわかり、宇宙で建設ができることが検証された人となると、今の大学のプログラムを卒業後、ある程度実社会でのトレーニングが必要です。その結果、どうしても30代後半からになってしまいます。
しかし、宇宙飛行士の職業の範疇が今後はどんどん広がってくると思います。初めは、パイロット、科学者、技術者だったのですが、NASAは現在、エデュケーター、エデュケーショナル・アストロノートといった、理科の高校の先生の経験がある人を宇宙飛行士として雇っています。子どもたちにいろいろなことを伝え教育していくためには、エンジニアとか医者とかではなく、教育を専門にやっていた人を宇宙飛行士として宇宙に送ろうとしています。現在のような国の税金を使って行っている以上は、皆のコンセンサスでどういう宇宙飛行士が必要かということになると思います。ここが、さっきの議論と同じようになりますが、観光旅行で行くのと違うところです。
立川:あなたは、まだ若いからチャンスがあるので、よいのではないかと思いますが、我々が一つ問題にしているのは、もっとお年寄りも宇宙に行けるようにできないかということです。アメリカで唯一お年寄りが行きましたが、世界的に見ると、大体50代半ばくらいでリタイアしています。将来的には、是非もっとお年寄りも行けるようにしたいと思っていますが、それには今のようなミッションではとても無理で、今だと30歳~50歳の間、その層が多いということになります。しかし、将来的には、もっといろんな人が行けるようになればよいと思います。
向井:JAXAでリタイアの年は60歳くらいですが、私と一緒に飛行したジョン・グレンは当時77歳でした。飛行という意味では、スペースシャトルは3Gしかからないので、10日から2週間くらいであれば77歳で元気な人は宇宙へ行けます。
なぜかというとNASAはアポロ計画などで有人宇宙飛行経験を培ってきたと同時に、宇宙医学の知識を蓄積してきているので、健康な人であれば、77歳であれ80歳であれ宇宙に10日から2週間行って楽しんでこられることを裏付けできるだけの宇宙医学が研究されているからです。宇宙飛行士の訓練も同じです。訓練はステップ・バイ・ステップで少しずつ難しい段階へ進み、気がつくと、できるようになる、しっかりとした訓練システムができています。私は、有人宇宙飛行経験だけではなく、見えないソフトの部分までがきちんと構築されたNASAは素晴らしい組織だと思います。
立川:グレンさんは、元宇宙飛行士ですが、彼はミッションはやっていないのではないですか。
向井:やっています。ミッションというのは、組立てをするのも、船外活動をするのも、中で研究するのもミッションです。何を必要とするかで宇宙飛行士も変わってくると思いますが、コロンビアの事故後、研究目的のスペースシャトルミッションの機会がなくなってしまったため、私は3回目の飛行に行けませんでした。もちろん組立ては大事だと思いますが、組立てには、専門の宇宙飛行士がいます。しかし、何のために組立てをしているかといったら、研究室ができ、その研究室を使って研究を行うためです。
<医療技術発達による宇宙飛行について>
参加者:病気を持っている人、たとえば脳の血管障害とか、そういう障害を持っている人も宇宙に行くことは可能でしょうか。
向井:脳の血管障害の種類によると思います。たとえば健康と言っているのは、オリンピック選手のように自分の肉体を極限までもっていかなければいけない状態ではなく、通常の人のことです。
70年代初めは、医者もどのような人が宇宙に行けるかわかりませんでした。宇宙に行くと、自分の唾液が出てきて飲み込めないから窒息してしまうかもしれないということを心配し、自分の唾液が吸い取れるような装置までつくりました。しかし、初めの人が宇宙に行ったら、人間の体というのは、唾液はちゃんと前後運動があるから、重さのない世界でも飲めるということがわかりました。
60年代、アメリカの宇宙飛行士は、軍のパイロットで、肉体をきちんと厳しく見ていて、目もこのような条件でなければだめとか、むし歯があったらだめとか言っていましたが、70年代、宇宙飛行士はパイロットだけでなく科学飛行士が入ってきたときに、枠が広がってきました。スペースシャトルになって、女性の宇宙飛行士が入り、今度は眼鏡をかけている人、今、宇宙に滞在している人たちを見れば、みんな眼鏡をかけたり、コンタクトを入れたりしています。
医療技術の発達と経験を積んできていることで、今までは宇宙には行けなかった人がどんどん行けるようになってきていますので、普通の健康体であれば行けるようになってくると思います。より多くの人が普通に宇宙に行けるように、宇宙医学は何をすればいいのかという観点から幅を広げる努力をし、NASAの宇宙飛行士の選抜基準も医学の選抜基準も変わってきています。