JAXAタウンミーティング

「第36回JAXAタウンミーティング」 in 大阪(平成21年7月25日開催)
会場で出された意見について



第二部「はやぶさ-地球への帰還をめざして.目下奮闘中」で出された意見



<(1)はやぶさの打ち上げについて(2)M-Vの後継について(3)宇宙科学の予算について>
参加者:(1)当時「はやぶさ」を打ち上げたときは、M-Vロケットで打ち上げましたが、重量の制限があって非常に苦労したことを資料で読んだことがあります。仮に今ありますH-IIAロケットもしくはH-IIBロケットで打ち上げることができたら、もっと早くいろいろなことを調べることができたのでしょうか。
(2)M-Vロケットは、今は廃止されましたが、その後のロケットはどうなっているのでしょうか。
(3)宇宙科学の予算が年々減っており、今も「はやぶさ2」の予算がなかなかつかないということがありましたが、いかがなのでしょう。
川口:(1)意外に思われるかもしれませんが、M-Vロケットで打ち上げていますが、非常に不思議な打ち上げ方をしています。わかりやすく言うと、3段目を軌道に乗せない打ち上げ方で打ち上げているのです。そのため、能力が目いっぱい引き出され、思いがけなく能力のある打ち方になっています。
では、H-IIAを使ったらどうなったかというと、飛行時間が1年間短くなったと思います。ロケットで頑張るか、イオンエンジンは普通のロケットの10倍くらいの性能があるので、イオンエンジンを使って、その後加速をするかという選択になります。「はやぶさ」は1回スウィングバイをしていますが、スウィングバイをしないで打ち上げることができるという意味では、H-IIAを使うと早かったと思います。その意味で、1年間短縮できたということです。
(2)私はやはりM-Vクラスはあった方がいいと思います。全員が大型バスで行かなければならぬということでもないと思います。
今、JAXAは次期固体ロケットをつくろうとしていますが、これは小さ過ぎます。その能力は一世代前のMロケットぐらいで、3分の1、4分の1という感じでしょうか。
(3)JAXAは先ほど月惑星探査に関する組織をつくっていると説明がありましたが、私の期待といいますか、つくった当時は、宇宙科学と月惑星探査の両方がパイを広げられることを期待してつくったと理解しています。例えば今後、月探査を上げたら、X線はちょっと待ってくださいとなると、JAXAのみならず、科学コミュニティから、大変な批判を受けると思います。そこは、きちんと月惑星探査ということにJAXAも活動をひろげていきますというメッセージであってほしいと期待しています。

<はやぶさの帰還について>
参加者:後継者不足、あるいは育てるということの話もありましたが、例えば「はやぶさ」の帰還が真夜中ではなく昼でしたら、NHKとかあるいは民放さんにスポンサーになってもらい、学校の授業のときに生中継をやってもらう。こういうことで夢を与えるということは、ものすごく大事だと思います。
私などは、中学校のときに8時半の始業の前に学校のスピーカーで「宗谷」が昭和基地に接岸をしましたというニュースをたまたま中学は流してくれました。そのようなことで、例えば宇宙などにも興味を持ったということがあります。
そのため、真夜中というのはちょっと残念なのですが、是非ともそういう夢を与える何かができないかと思います。
川口: おっしゃるとおりだと思います。ただ、夜を昼に変えるのは不可能でして、それは勘弁いただきたいです。
私はアポロ着陸のとき中学生で、学校の先生が、「これは歴史的なイベントだよ」と、授業をやめてテレビの実況を見せてくれました。平日の昼間でした。ですから、大変教育的に意味があると思います。
宇宙開発は、私が始めてからもう14年経っています。14年あったら、そのとき小学校だった人はもう働いています。ですから、そのときにこういう情報を発信して、そういう人たちが宇宙に限らず、産業というか、ものづくりというか、理工学分野に興味を持ってもらい仕事に就いてもらえたら、これこそ宇宙開発で最も成果があるところではないかと思います。
夜は昼に変えられないのですが、インターネットを見ていただくというのはひとつどうでしょう。「はやぶさ」の着陸の運用が、午前5時か6時という時間だったのですが、世界中の方に見てもらいました。インターネットでごらんいただくと、ありがたいと思います。

<はやぶさの運用制御について>
参加者:着陸のときの話を伺いたいのですが、打ち上げ前のテレビのニュースで、向こうまで電波の往復でかなり時間がかかるので「はやぶさ」には全部自動的に着陸し、サンプルを採取するというプログラムを組み込んであるという話だったのですが、リアクションホイールの故障などで、そういうわけにはいかなくなったと聞きました。実際はどのような制御をしたのでしょうか。
川口:打ち上げ前にプログラミングされていたのは、自動の形から着陸場所を自動で認識する、そこまでは全自動でした。言葉で簡単に言うと、半自動で降りたということだと思います。
どのあたりが半自動かというと、結局、打ち上げ前というのは、行ってみないとわからないのですが、行った結果、相手の形状が、もともと組んでいる画像処理装置で処理できる形状ではなかったということです。
それから、リアクションホイール等が故障し、途中でたくさん軌道制御などしなくてもいいはずなのに、アンバランスで出る加速度で流れるため途中で直していかなければいけないため、補う運用というのも交えていかなくてはいけなかったのです。
そのため、いろいろな工夫をしました。その中で、非常に大きく前進したのは、地形を基にして精度を確保する、要は場所がどこにいるかわかる方法です。最後は、10mぐらいの精度で場所が総体的にわかっていました。そのため、最後着陸する場所は、着陸の目的の場所から20m以内に降りていました。
その地形を基にして10mぐらいの精度で場所がわかるということができたということは、おそらく技術的には最大の成果で、これはどのようにやっているかというのは企業秘密で、学会や諸外国には出していません。そういうこともあって、大変大きな経験をしたと思います。

<(1)固体ロケットの今後について(2)内の浦宇宙観測所について>
参加者:(1)ロケットの後継機が小さ過ぎるということですが、固体ロケットは全部やめてしまうのでしょうか。
(2)先ほどJAXAの関係する場所がずっと出ていましたが内之浦が入っていませんでした。やめてしまうのでしょうか。
司会(広報部長):(1)固体ロケットは全てやめるというわけではなく、小型ロケットは固体でやる予定で、今、計画を進めています。
(2)先ほどは主な事業所ということで、内之浦がなくなっているわけではなく、内之浦は今もちゃんとあります。ほかにも出ていないところが幾つかあります。すべての事業所を書いているわけではありません。

<(1)HTVの有人化について(2)日本の月惑星探査について>
参加者:(1)宇宙ステーションの話で、これから「きぼう」が活動するということですが、アメリカのスペースシャトルが来年で運用をやめ、その後は「ソユーズ」でやる、荷物を運ぶのは運搬ロケットでやるということですが、その運搬ロケットをスペースシャトルタイプのものにして、人も物も「きぼう」に運んで完成品を持って帰るということは考えていないのでしょうか。
(2)アメリカもヨーロッパも中国も月に探査をし、資源開発をして、居住をする、そして次のステップとして火星の方もそういう設定でやりたいということなのですが、日本はまだはっきりしていないので、そういった点をどう考えているかということを聞きたいです。
司会(広報部長):(1)HTVを有人化しようかという話ですが、これは研究段階として、そういう考えはあり、研究をしているものもあります。しかし、まだすぐにそれを計画するという段階には達していません。
川口:(2)月探査ですが、中国は月探査を自前でできるのかもしれませんが、JAXAといいますか、日本としては、やはり国際共同で進むべきだという考えを持っています。世界14機関で構成する共同の場があり、そこで将来、有人の月探査とか有人の火星とかもありますが、そういう探査について検討しています。国際共同というのが、JAXAの基本的な考え方です。

<(1)はやぶさ本体の回収について(2)カプセル回収後の分析について>
参加者:(1)最終的にカプセル部分だけを回収するという話なのですが、計画そのものは14年前から構想しているということもあり、今の技術だと、例えばISSとかで本体の確保とかができないものでしょうか。せっかくこれだけ長い旅をしてきた「はやぶさ」本体を何とか残せないものかと思いまして。
(2)カプセル回収後の扱いなのですが、もちろん「イトカワ」の破片を分析するという観点から、相当に慎重な扱いをすると思うのですが、どのような形で例えば処理というか、最後は進めようとしているのか、その点について教えてもらいたいと思います。
川口:(1)打ち上げ当初の考え方は、今と基本的には変わらなく、要は、母船は化学エンジンが生きていれば逃げられます。もともとは逃がすつもりでした。さらに、もう一回別の場所に行ける計画も頭の中にはありました。しかし、今ではもう無理です。イオンエンジンは瞬発力がないため、カプセルを離してから残りの時間で大気への突入を避けることは不可能です。残念ながら、今回は大気の中に入ってしまいます。ただ、もともとは大気の中に入れるつもりはありませんでした。
だから、もう少し大きめの探査機をつくり、時間を1年半ぐらいかけると、例えば太陽と地球の間のラグランジュ点というところに置くとか、置いてもう一度回収するということができたはずですし、できるはずです。そういう計画も頭の中にはありましたが、今回はできません。
(2)分析の方法ですが、手順はいろいろ詰めています。回収したものは、密封したり、あるいはガスの中に入れて日本に運んできます。相模原にそのためのキュレーションセンターという専門の設備をつくってあり、もちろん外部との遮断とかもはかって、安全に分析というか、処置できるように体制は整えています。
司会(広報部長):ちなみに、採取したサンプルを一般の人に見せるということはないのですか。
川口:もちろんきちんと取れて回収できれば、そのように思っています。しかし、今回は、本来の方法ではサンプル採取ができなかったと思われます。というのは、弾丸を発射することができませんでした。そのため、取れていても、多分微粒子の形でしか取れていないと思います。アポロの月の石が全国を行脚し、皆さんが触ったというような状態というのは、今回はできないと思います。そこは残念ですが、もちろん成果は公にしていきたいと思っています。

<(1)海外の小惑星探査の状況(2)はやぶさ2について>
参加者:(1)「はやぶさ」のいろいろな今までの成果の中で、学会等で発表されていることもあると思いますが、内緒にされていることもあるということで、日本のアドバンテージというのが失われつつあるという点で、ほかの国の追随がどのような状況なのかということが知りたいです。
(2)「はやぶさ2」の計画では、どのような小惑星をねらっているのか、その点を教えていただきたいと思います。
川口:(1)アドバンテージを保てるか、外国の状況はどうかというと、外国は虎視眈々と「はやぶさ2」が立ち上がらなければ自分たちがやろうという構えです。我々がよく外国で聞かれるのは「はやぶさ2」の状況はどうですかと、そのことしか聞かれません。ヨーロッパに行っても、アメリカに行ってもです。
NASAは7月にニューフロンティアというプログラム計画の締め切りがきますが、その中には幾つもの提案が出ているのは知っています。同じ天体に向かう提案も出ています。ヨーロッパも同様です。それから、この夏から始まるNASAの提案プログラムの中にも、名乗りを挙げようとしているグループがあります。ですから、是非知識伝承ができるように、これを立ち上げていかないとと思っています。
(2)C型と呼ばれる小惑星で、名前は1999JU3という番号が付いている小惑星です。C型というのは、太陽系の距離を書いているのですが、小惑星の種類は太陽系の距離に応じて分布があります。一番内側はSといって、ケイ素質なので、まさに地球をつくっているような材料でできているところが地球に近いところです。地球型と言っていいでしょう。その外はC型と呼ばれている有機物や水を含んだ部分です。そのほかにPとかDというタイプがあります。
皆さんが日ごろ歩いている靱公園の土も、もともと小惑星かもしれません。問題は、それがどういう小惑星からきたかわからないというところです。そのため、実際に望遠鏡で見えるものと、実際の材料がどう対応しているのかを調べるのがサンプルリターンの探査目的であるということになります。特にC型というのは、有機物を含んだ天体ということについて言えば、生命の進化に関係があるということで、大変重要なところです。

<民間資金の活用について>
参加者:予算の問題で、なかなか「はやぶさ」の後継機が実現できないという話を聞いたのですが、民間の資金を活用するということはできるのでしょうか。ニュースとかで聞く限り、マイクロソフトやアマゾンといったIT企業で富を成した方々が、自己資金で宇宙科学を進めているという話を最近聞きますが、そういう点で民間の資金を活用し、計画を進めるといったことは考えていないのでしょうか。
川口:そうありたいと思いますが、アメリカとは文化が違います。ご存じのように、スペースシップワンというヴァージン・ギャラクティックという会社がやっている人間を飛行させるプログラムがありますが、あれもプライベートな投資です。これらの投資というのは、アメリカなどは非常に盛んですが、日本ではなかなか難しい状況にあります。
なぜこんなに違うのかということはいろいろ考えなくてはいけないのですが、日本では、宇宙産業というのは、まだある意味きちんとした投資先に見えていないというところにきっと問題があるのではないかと思います。そういう意味では、産業構造という問題に入ってしまうのかもしれません。
政府として公共事業で投資するにしても、果たしてJAXAというか、宇宙産業に何千億使いなさいと言っても使い切れない、使える基盤がないということだと思います。そのため、公共事業として見たときでさえ、投資先として的確性を持っていないというところに宇宙産業の構造的な問題があると思います。
司会(広報部長):ちなみに、民間企業は本当に1,000億とか100億を出しますか、それはどうですか。
参加者:最近も雑誌に載っていたのですが、日本国内でも興味を持っている資産家がいるということで、将来的には可能性があるのではと思って少し期待しています。
司会(広報部長):そういうのはこれからもどんどんあると思います。我々も期待しています。民間企業の投資とか、寄附というのもありますが、それがどのくらいの規模になるかによって、我々としてはプロジェクトを立ち上げられるかどうかだと思っており、すぐにはならないのではないかと思います。