JAXAタウンミーティング

「第35回JAXAタウンミーティング」 in 長野(平成21年7月19日開催)
会場で出された意見について



第一部「拡がる宇宙・身近な宇宙」で出された意見



<今後の衛星利用の可能性について>
参加者:先ほどお米の話とか、林業の話とか、第一次産業における衛星の利用という話がありましたが、実際ここ長野で具体的に衛星を利用した新しい活動を生み出すとしたら、どういうものが考えられ、どういったことをJAXAとしてやってほしいのか聞きたいと思います。
秋山:排出権取引、これは、今、私の同僚がいろいろ国際協力を進めています。先ほども話しましたが、熱帯雨林がすごい勢いで伐採されています。アイデアとして、熱帯雨林の材積量などを数値化できて、それを日本の技術でもって効率的に森林を保存する、あるいは効率的に農業をする、そういうことを数値化できていくと、将来のCO2の排出権取引で何か使えないか考えています。このアイデアを実現するときに、まず衛星データを使って森林の二酸化炭素の排出量を測定できれば、植林をどういうふうにするかということに使えるのではないか、これは皆まだアイデアです。
しかし、衛星データを使って森林がどのぐらいCO2を変換できるか、あるいはCO2を貯蓄できるか、そういうデータがありません。それで、共同研究をすればよいではないかと言っています。例えば信州大学と共同研究して、森林の種類によって針葉樹とか広葉樹とか違うので、それによってどのくらい定量的にできるか、それがないと世界で排出権取引を定量的に日本が提案するまでに至りません。しかし、そういう提案ができ、そのモデルが世界標準になるとなったら、今から10年後、20年後はビジネスになっているかもしれません。日本の生きる道というのは、そういうやり方がひとつあるのではないかと思います。それには、長野県というのは最適ではないでしょうか。一方、衛星は、耕地とか広いところを一気に撮るのが得意なので、狭いところを対象にするのは余り向いていないです。信州はなかなか難しいと正直思っています。

<JAXAの組織・役割について>
参加者:JAXAは、当然民間ではなく国の組織だと思いますが、組織がどうなっているのか、JAXAは、人工衛星を上げたり、ロケットをつくっているように思いますが、実際は、違うところでつくって、それを打ち上げているとのことでした。聞きたいのは、JAXAで実際にやっていることは何なのかということと、どういうところから資金が出て、どういう方向づけをだれがやっているのかということを聞きたいと思います。
秋山:JAXAは独立行政法人で、長野県で一番近いのは信州大学です。要するに、国が運営費交付金という形で出して、我々の場合は文部科学大臣が事業の指示をしています。
企業がやるという話ですが、企業と我々公的な機関の役割分担で、企業が今一番期待しているのは研究開発です。公的資金で研究開発をやるのが我々の役割です。公的資金で研究開発をやるときに、まず使えそうなことを試してみます。衛星でお米がおいしいということがわかるならば、これは農業に使えるかもしれない、先ほど佐賀のお米の例が出ましたけれども、窒素が多いとテアニンというのが多くてお茶がおいしいそうです。そうすると、さっきのお米同様、おいしいお茶といって売り出して差別化できます。
そういうことは企業ではちょっとできないので、我々が公的資金で研究開発し基本をつくり、実現しそうになったら、今度は企業が製品としてつくる、こういう大きな役割分担です。我々は、役に立つ研究開発をしなさいと今言われていて、一生懸命どうやったら役に立つだろうという方向に向けています。

<JAXAの事業計画について>
参加者:日本のJAXAの5年先、10年先の目標というのは、どういう組織で目標を立ててやっているのでしょうか。
秋山:今年の6月に、政府で宇宙基本計画を初めて立てました。それまでは、文部科学省の宇宙開発委員会で、宇宙開発の研究開発はこうしようということはあったのですが、国として取り組もうというのは、今年の6月に初めて出ました。これは5年くらいの計画です。
今、我々が議論しているのは、日本は一体有人宇宙開発に取り組むのかどうかというのが非常に大きな議題です。これは、どんどんやれという人と、そんなにお金をかけてどうするんだ、無駄だという人がいます。今、宇宙ステーションをやっていますが、輸送機などはNASAのスペースシャトルやロシアのソユーズ宇宙船で行っています。日本は、アパートの一室をくっ付けこれからいろいろな宇宙実験をやることにしています。1年ぐらいで方向性を出そうとなっています。

<天文と宇宙の違いについて>
参加者:我々素人は、宇宙と聞くと、地球から上へ上がった空間全部だと思うのですが、天文と宇宙の境というのは、研究分野では一応あることを聞いたことがあるのですが、そのあたりをお聞きしたいと思います。
秋山:宇宙科学といっていますが、同じ独立行政法人で国立天文台があります。宇宙科学の先生方は、宇宙を使うのが宇宙科学だといいます。例えば大気球というのは、高度40kmくらいでギリギリのもので、ロケットは宇宙科学だと。「すばる」はすばらしい望遠鏡ですが、地球上には大気が100kmあります。「すばる」などは、大気の揺らぎをシミュレートして、星空から来る光の揺らぎを補正して戻します。宇宙科学だと、邪魔な大気のない外へ出てしまえばいいのではと言いますが、やはりロケット代が高いとかいろいろあり、「すばる」のような大型の望遠鏡はできません。しかし、宇宙技術を使って衛星を並べ、巨大な赤外望遠鏡をつくるといった構想があります。
宇宙といっても、気象庁の気象衛星も社会の1つの観測手段です。地球観測も田んぼのお米のタンパク質量は実際にそこへ行って稲を計ります。タンパク質量6.3%未満で売っているのが人工衛星米で、佐賀県の普通の基準だと6.8%くらいあればいいそうです。人工衛星米として差別化するために6.3%未満のタンパク質のものを売っているそうです。宇宙というのは、1つの手段にすぎません。

<衛星写真と航空写真の使い分けについて>
参加者:森林伐採監視とか、お米のマップとか、キャベツとか書いてありますが、これは例えば高い高度に飛行機を飛ばして観測するのとは、違うのですね。ちがった見方をすると、わざわざ何億円もかけて人工衛星を飛ばすより、飛行機を飛ばした方が安く上がるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
秋山:おっしゃるとおりです。何も衛星から撮る必要はなく、航空写真を撮った方がもっと詳しくわかります。ところが、航空機で写真を撮るといっても、1回の幅が3kmとかそのようなものです。「だいち」は1回で70km撮れます。70km×70kmです。そうすると、例えばインドネシアのスマトラ島でもいいのですが、スマトラ島という島の植生分布がどうなっているかを調べようとしたら、これは航空機では無理です。とても調べられません。「だいち」を使って、今、日本の2万5,000分の1の地図を改訂作業しようとしていますが、国土地理院は航空機の測量写真を使って地図を直しています。そうすると全国津々浦々ある都市を、航空機で2万5,000分の1を撮るとものすごくお金がかかるそうです。「だいち」だったら、簡単に直せるといって、今、少しずつ使い始めています。
「だいち」の解像度は今2.5mで、航空機は10cmとか20cmです。より細かく調べようと思ったら航空機を使う、そして、もっと広い地域を調べるには宇宙の方を使う、そのときそのときで、良い組み合わせを行うのが良いと思います。

<日本の衛星開発の取組みについて>
参加者:イメージとして、日本の衛星開発の取組みというのが、あれもやりたい、これもやりたいといろんなことを、限られた予算の中で手を広げていて、できたら限られた予算なので、この部分はアメリカの衛星の写真を使わせてくださいとか、日本はこれをやりますというような各国で分担ができ、もっと効率的な観測体制ができたらいいなと思いますが、いかがでしょうか。
秋山:衛星の話ですが、今、地球観測衛星で撮ったデータというのは2つ流れがあり、1つは、どんどん安く皆に提供しようという流れがあります。アメリカがこの分野に最初に取り組んだのですが、ランドサットというデータは無償で提供されています。ところが、最新の衛星画像は、1シーン10km×10kmの映像が60万します。
「だいち」はどうするかということで、研究開発ということなので、非常に安い値段で出しました。
地球観測衛星データの基本的なもの、標準的なデータについては、気象データのように無償で提供され、それから気象予報の会社が付加価値を付けてマーケットに出すというのが将来のビジネスモデルとしてよいかと思っていますが、いろいろ議論があります。
今度の「だいち」の後継衛星では、民間のニーズと公的機関の研究開発のニーズを組み合わせてやろうとなっています。
いろいろな分野をやっているというご指摘ですが、通信放送、気象観測というのは、すでに研究開発から実用になっているので、研究開発の任務はJAXAではなく、実際に衛星データをデータの1つとして使う機関がその役割を担っています。JAXAはずっと研究開発をしていこうというのが今の考え方です。

<JAXAにおける宇宙科学の位置付けについて>
参加者:今日の話を聞いていると、我々国民に非常に直接的に役立つことをしていますとか、非常に実用性がありますということがかなり意識された話になっていると思いますが、自然科学としてみれば、実用的なこと以外に我々にロマンを与えてくれるような、または神秘的なことを解明してくれるようなことを一方で期待しているわけです。JAXAはサイエンスの分野というのは、守備範囲ではないという考えですか。それとも、今日は2,000億円使って独立行政法人になったというミッションから、実用的なことをかなり話しているのか、私としてはロマンを与えてくれるようなことを、もう少しいろいろやっているのかを知りたかったのですがいかがでしょうか。
秋山:非常に単純な理由で、実は科学の先生に来てもらえないか頼んだのですが、忙しくて無理だったため、今回は宇宙ステーションと実用に特化しました。科学の方も、打ち上げ予定があります。X線観測衛星ASTRO-Hが次の衛星です。それから、電波観測と赤外観測でそれぞれ後継衛星を打ち上げる予定です。JAXAの中で、科学のシェアというのは、今は、大体予算的に200億円弱で、JAXAの財源の10%よりもちょっと少ないです。先生方は、もっと必要だと言いますが、なかなか難しい問題です。
広報部:宇宙科学では、今度、金星探査機のPLANET-Cも来年度には打ち上げ予定になっています。
秋山:科学といっても探査が別にあり、探査には科学の部分もありますが、他に新しい天体に行ってみたい、どんなことがあるのだろうと人類の活動領域を広げるためもあります。科学と探査の関係が、今、宇宙科学とは別に探査専門の組織も設けていますが、なかなか付かず離れずの関係が難しいです。。

<衛星の高度について>
参加者:衛星の「ひまわり」と「だいち」で随分飛んでいる高さが違いますが、これはどういうふうに違うのですか。
秋山:まず「ひまわり」ですが、高度36,000kmと言いましたが、人工衛星の軌道は地球のそばだと早いです。90分で1周します。高度36,000kmとなると、地球と同じに回ります。そのため、「ひまわり」はいつも日本を見て撮影できます。それには高度36,000kmという高いところにいないといけないのです。一方、「だいち」ですが、もっと下げたいのですが、余り下げると落ちてしまうという問題があり、地表を太陽光で見るときに、太陽の動きに合わせていつも大体同じ時間に飛ぶようになっています。それには700kmぐらいの高さがよいということです。

<監視衛星・軍事衛星について>
参加者:監視衛星、軍事衛星の関係はやっているのですか。
秋山:軍事衛星はやっていません。
参加者:情報の収集とかはどこでやっているのですか。
秋山:政府の内閣官房で情報収集衛星はやっています。

<資源探査の活用について>
参加者:資源探査もやっているということですが、何か成果は出たのですか。
上野:資源探査について観測をする衛星は、JAXAが開発をして打ち上げて観測しています。そのデータを使って、鉱物資源のありそうなところについては経済産業省の研究所が調査や研究をしています。日本あるいは世界中どこでも観測しており、特定の鉱物がこの辺にありそうだということはわかっています。ただ、日本の政府が外国のこういうところにありそうだといっても、実際にそこへ行って確認できるわけではありません。

<有人宇宙活動の意義について>
参加者:有人の分と遠隔操作の分とでコストが随分違うと思うのですが、有人をやる必要性が私はかなり低いと思っていますが、どのくらいあると考えていますか。
上野:これは、いろいろな議論がありますが、人が行くことの一番のメリットは何かと言うと、その場に人がいることによって、そこで得た情報を基にその場で判断し、一番よい方法が取れるということです。無人あるいは遠隔操作ということになると、基本的にはロボットに頼るわけですが、あらかじめプログラムしておいて、想定された範囲の中のことであればできるわけですが、そこで行ういろいろな作業のパターン、複雑さにおいては、やはり人間がそこに行って作業することの強みというのは、現時点でも人が行ってこそできる作業がたくさんあります。
ご存じかもしれませんが、NASAが打ち上げ運用しているハッブル宇宙望遠鏡があります。非常に大型の衛星で、普段は無人でいろいろな天体の観測をしていますが、これを修理するときには、やはりスペースシャトルに人が乗って行って修理します。それを全部ロボットにやらせようと思うと、はるかにたくさんの重さのものを打ち上げたり、時間をかけたりしないとできないものが、人間が行って本当に必要な作業だけを的確にやることによって、あの望遠鏡は何回も修理しながら長い間使い続けていられるということもあります。宇宙ステーションもしかりです。もう大体わかっていることだから、全部ロボットでできるのではないかと思われるかもしれませんが、あそこに人がいることによってできていることはたくさんあります。あとは、本当にロボットに任せられることと、そうでないところをきちんと分けて、ロボットで十分できることは人が行って危険に身をさらすことなくやる、人がいなければできないことは人が行ってやるということの二本立てで、今後もやっていくと思います。

<固体燃料ロケットについて>
参加者:日本は、M-V型とか固体燃料ロケットでかなりいいものをつくっていたと思います。あれは、打ち上げ費用がかかり過ぎるということでやめて、新しい固体ロケットを開発していくことを聞いたのですが、予算を付けて開発しているのですか。
秋山:小型固体ロケットは、今研究しており、平成24年、2012年度に科学衛星を載せて打ち上げようとしています。