「第34回JAXAタウンミーティング」in 松山(平成20年11月1日開催)
会場で出された意見について
第一部「日本の宇宙開発」で出された意見
<寄付について>
参加者:先程お金の話が出ていたので、私も気になっていたのですが、アメリカの大統領選挙でオバマさんは寄付でものすごいお金を集めていますけれども、JAXAも寄付のようなことはやってないのでしょうか。あるいはやる予定はないのでしょうか。
立川:今のところ残念ながら、そういうアイディアはありません。国の予算、皆さんの税金を使って着実にやっていこうということで、たがをはめているところでありまして、将来的には考えられないわけではありませんけれども、現時点ではそういう考えはありません。皆さんの寄付金を募るためには、もう少しターゲットが明快になってから調整したいという感じです。
<中国の宇宙開発について>
参加者:中国はとうとう有人飛行まで成功させましたけれども、中国はどう見てもどことも手を組まずに、技術そのものはロシアをベースにしているにしても、独立でやっていこうというように見えますけれども、中国は一体何を目指そうとしているのでしょうか。この先に何があるのでしょうか。
立川:中国の戦略は基本的には実力をいかに示すか、これは国内の統治のためにも必要なことだろうと想像していますけれども、彼等は世界先端の国としてやっていける実力を見せたいという感じだと思います。
必ずしも単独で全部やる気はなくて、例えば、次の月探査計画には中国も参加しています。今、14か国がこの検討には参加しているわけで、今までやっていなかった中国、韓国、インドが新たに参加して、新しい枠組みで世界協調していこうという動きもあります。
もう一つ、国際宇宙ステーションにも入りたいということは言っているのですが、もうここまで来てしまった途中段階では、いまさらという感じがあって、これは我々17か国の参加国がありますが、そこの同意を得るに至ってないという感じでしょうか。今後の方向としては、協調していく格好になるのではないかと思います。
中国は国家航天局というところが担当していますが、ここの長官とも時々話していますから、そういう感じかなと思います。
<イオンエンジン説明と予算について>
参加者:2つ質問があります。(質問1)1つは、先ほどイオンエンジンというのが出ましたが、私は初めて聞いた言葉なので、どういうものか教えてほしいというのが1つです。
(質問2)2つ目は、先ほどJAXAの予算が、2000年ぐらいからだんだん減ってきておりましたけれども、どうして減ってきたのか、主な理由をお聞きしたいと思います。
土井:(回答1)ロケットエンジンには色々なエンジンがあります。例えばJAXAの打ち上げているエンジンというのは、化学燃料ロケットエンジンと呼ばれていて、いわゆる化学燃料を使っていますが、このイオンエンジンというのは、実は電気をエネルギーに使います。電気だけでは推力が出ないので、ガス等を噴き出ださないといけません。最近ではキセノンガスを使います。それをまず高温にして、プラズマと呼んでいる状態にします。プラズマは、プラスのイオンとマイナスの電子から成り立っています。それを電極を使って、例えばプラスとマイナスの電極の中にガスを入れますと、電気的にプラスとマイナスに分かれているガスですからプラスのイオンはマイナスの電極に引かれていくわけです。ですから、こういう形で電極の中にプラズマを入れて高い電圧をかけると、そのガスを加速することができ、非常に速い速度に到達することができます。
ロケットというのは、推進力をたくさん出すために速い速度でガスを排出すればするほど性能がよくなります。このイオンエンジンというのは、実は私たちが地上で打ち上げるために使っている化学燃料ロケットに比べると10倍とか20倍の能力を持っているんです。残念なことに、電気エネルギーを使うので、そのエネルギーはどこからか持って来なければいけません。
今、このイオンエンジンは、太陽電池パネルで宇宙空間で使うということに多用されています。実際に静止衛星などではイオンエンジンが使われていますし、宇宙空間を飛んでいく観測用のプローブもイオンエンジンが使われています。「はやぶさ」もこのイオンエンジンを使っています。
立川: (回答2)次に、JAXA予算がどうして減ったかという話についてです。2000年が予算の減り始め、テポドンが日本へ来たのが98年か99年でした。安全保障の観点から何らかの対応が必要ということになり、国の安全保障担当機関が予算を増やそうとしましたが、一気にたくさん増やせない。これが予算制度の1つの問題点でもあります。結果的にJAXA予算がその分削られたというのが理由かと思います。
<中国の有人宇宙飛行とJAXAの宇宙飛行士養成計画について>
参加者:2点ほど質問させてください。(質問1)先日のニュースで、中国の有人宇宙飛行が成功したというニュースがあったのですが、視覚的には、本当に有人での宇宙飛行に成功したのかどうか、極めて疑わしい画像にしか思えなかったんです。その点について、まず1点お伺いしたい。
(質問2)2点目は、JAXAでの今後の宇宙飛行士の養成計画で、韓国人の方が予定されているというのをニュースかインターネットで拝見した記憶があるので、その点をお伺いしたいと思います。
立川: (回答1)まず中国の打ち上げげは信用できます。中に人間が乗っていたということも十分推測できます。宇宙を周回してきたことも事実で、これはほかの国も確認できていますから、そういう意味では疑いはないと思います。
宇宙遊泳をやったかどうかという話ですが、これも一応映像は撮って送られてきていますが、これは中国が自分で流したものですから、どこまで本当かと言われると信憑性はわかりませんが、一応そういう映像も公開するようになってきているという最近の中国の実態からすれば、信用して良いのではないかと思います。
(回答2)2点目、韓国の宇宙飛行士の話は誤解で、韓国の宇宙飛行士をロシアのソユーズで今年打ち上げました。これは韓国がロシアにお金を払って打ち上げてもらったわけで、その人が国際宇宙ステーションに行きました。その時に、日本の「きぼう」の実験棟に行きたいという話があって、それをどうするかという議論をしたということです。日本で韓国人の宇宙飛行士を訓練するということはありません。当然、宇宙飛行士募集の中にも日本人に限るということにしてありますから、今のところ外国人が入る可能性はないと思います。
<レーザサウンダーとソーラーセイルについて>
参加者: (質問1)「かぐや」の話題がありましたが、レーザサウンダーで月の地下を調査したという話がありますが、それをほかの星でもやられる予定があるのでしょうか。
(質問2)もう一つは、以前ソーラー電力セイルで探査する計画があるというふうに見たんですけれども、それは現在どうなっているのかお聞きしたいと思います。
立川: (回答1)まず月でのサウンダーの件については、今、詳細を発表していません。これは科学コミュニティー、研究者が一所懸命分析していて、その結果を学会に発表する格好になりますので、しばらくお待ちいただきたい。これはどの惑星についても調べたい問題でありまして、当然火星でも、さらにはそのほかの星でも調査したい内容であります。
(回答2)ソーラーセイルについては、平成22年度打ち上げげ予定であります。別の衛星を打ち上げるときの相乗り衛星で、金星に行く衛星と一緒に打ち上げて、ソーラーセイルの実験をやろうということを考えています。それで成功すれば将来的にはこのソーラーセイルで木星やさらに遠いところへ飛んで行く衛星に有効ではないかと考えています。
<筑波大学との共同研究とデブリについて>
参加者: JAXAにはいろいろな組織があると思うんですけれども、教育センターもありますし、色々な共同研究や高校生対象のものがあると思うんですけれども、筑波大学との共同研究というのは、どんなことをしているのですか。
立川:まず、JAXAには宇宙科学研究本部があります。日本の大学のすべてと共同利用機関になっていますので、そこの学生さんはどなたでも施設を利用できるといいますか、宇宙関係分野を研究している人はお互いに利用できるという形を作っています。具体的には研究テーマを見つけて、科学研究本部と共同研究をやるか、あるいは施設を使うだけか、学生を送るだけか、それは適切にやっていただく。筑波大学は、そのone of themにあると考えてください。
それから、高校生はどうかといいますと、(質問された方は)高校生のようですから紹介しておきますと、高校生もこのごろ衛星をつくることに興味を持っておられる。いわゆる高等専門学校の方でありまして、来年の冬期の1、2月に打ち上げる相乗り衛星の1つが、東京の高等専門学校の生徒さん方がつくった衛星が一緒に飛ぶことになっています。そういう格好で宇宙に参画される方もいるということであります。
筑波大学はone of themと言いましたが、先月、ちょうどJAXAと筑波大学とは、相互連携協力協定というものを結びまして、宇宙工学のみならず、総合的な分野で共同研究をやっていきましょうということにいたしました。特に筑波大学はスポーツ学科を得意としています。今回は、新しい文化の側面を取り入れるためにも、筑波大学と協定調印式を行ったところでありまして、これからの相互協力関係の発展が期待されるところです。
土井:あなたは、高校生ですか。筑波大学に行きたいのかな。
筑波大学に行ってJAXAと一緒に研究するとしたら、何を研究したいですか。
参加者:私は衛星に興味を持っています。今、一番気になっているのは、ケスラーシンドロームについてで、やはり宇宙開発にとっては深刻な問題かと思っています。
土井:ケスラーシンドロームというのは、どういうものですか。
参加者:宇宙デブリがありますが、それが衝突していって、衛星などにぶつかってデブリができて、そのデブリがまたぶつかってということを繰り返して。
土井:専門的ですごいね。
参加者:デブリが増えていって、結局はデブリが多くなって外に出られない、宇宙から出られない環境をつくってしまうようなことは危険だと思います。
土井:今すでに、スペースデブリは非常に大きな問題になっています。
参加者:それを小さいデブリでもいいので回収していこうと、そういう衛星をつくっていく研究をしたいと思っています。
土井:すごい重要な研究だと思うし、今、スペースデブリは非常に大きな問題になっていて、スペースシャトルにも実際衝突しています。まだ小さいので、スペースシャトルが飛べなくなってしまうということはありませんが、これからもっと宇宙に行こうとすると、この問題は大事な問題なので、是非立派な研究をしてください。
立川:JAXAにもデブリの研究をやっているグループがあって、まずデブリを見つけて、常に軌道を回っていますから、デブリも軌道を持っています。その軌道を確かめれば、いつ、どこで、どれとぶつかるかという可能性がわかります。これは今、アメリカの方が情報を出してくれますので、今は逆で仕方がないですが、衛星の方を動かして避けているわけです。宇宙ステーションもこの前1回避けましたね。衛星や宇宙ステーションをずらして、デブリが通り過ぎるのを待って、また元へ戻すということをやっています。日本の衛星もこのようなことをやったことがあります。
そうやって今は逃げていますが、将来的にはそのデブリを掃除するのがいいですね。是非そういういい衛星を効率的につくれることを考えていただくと、大変ありがたいと思います。
<スペースシャトル引退後について>
参加者:2010年にスペースシャトルが引退するということを聞いたのですが、スペースシャトルの次は、どういったスペースプレーンが世界的に使われると思いますか。
土井:現在、NASAの方で開発しているのは、昔のようなカプセルタイプのロケットです。ただ、このロケットはスペースシャトルのエンジンやいろんな装置を多用しています。一番最初に彼等が打ち上げようとしているのは、今、2015年の予定でオリオンというロケットです。これは6人乗りです。アポロに比べると随分大きなものですけれども、スペースシャトルと違って、これは翼を持っていませんので、大気圏に突入するときはパラシュートでゆらゆらと落ちてくることになります。今のシャトルのように飛行場に着陸して、気楽に出てくるわけにはいきません。
ただ、このロケットはいろんな目的を持っています。スペースステーションにも行きますし、また月にも行こうとしています。2020年以降月に基地を作ろうとした時に、NASAではこのロケットを使おうと考えています。
立川:2010年~2015年の間はどうするかというと、ロシアのソユーズというものが現在使われていますが、それに依存をして人間を送り迎えすることになります。
物資の方は、ロシアのプログレスというものもありますけれども、日本のHTVというのも、いよいよ来年から役に立つわけでありまして、来年から日本で物資を輸送するロケットを毎年打ち上げる予定です。
ヨーロッパはATVというものがありまして、これはもう既に今年打ち上げましたが、来年以降は1年半ごとに1機ずつ打ち上げて物質の供給をする。だから、人間を運ぶのはロシアのソユーズ、物資はロシアと日本とヨーロッパで運ぶという格好で2015年まではしのぐ予定であります。
<スペースシャトル後継機の利点について>
参加者:スペースシャトルが廃止されて、新しいロケットが作られると言われたのですが、新しいロケットに変えることによって、どのような利点があるのでしょうか。
土井:利点は、さっき言ったように月に行けるとか、ステーションに行けるとか、多目的というところにありますが、スペースシャトルに比べて性能的には落ちます。
では何でスペースシャトルをやめて、新しいロケットを作らなければいけないかというと、実はスペースシャトルは1970年代の設計でつくられたもので、いろいろな部分がコンピュータも含めて古くなってきてしまったんです。古くなって壊れてしまうと、それを修理できなくなってしまっている。古い部品がなくなってきているんです。
ですから、皆さん古い50年代、60年代の自動車を持っていて、それをすごく気に入っているんだけれども、使えなくなっている。というのは、壊れても修理するための部品がなくなっているということに似ていますね。それが今一番問題になっています。
スペースシャトルは7人乗りです。大きな30トン近い貨物を宇宙に運ぶことができますし、そういうこともできなくなってしまうということで、さっき立川理事長がおっしゃったように、2010年~2015年までどうするかということで、NASAの方ではスペースシャトルをもう少し延ばして使おうということも考えています。
私は、実際にスペースシャトルに乗りましたけれども、最高な乗り心地のすごいロケットです。私自身も2010年以降も、是非、NASAにはスペースシャトルを使ってほしいと思っています。
立川:私もスペースシャトルは、地上にあるものは乗りましたけれども、あれは結構狭くて大変で、よく宇宙飛行士は我慢しているなというのが私の印象です。
土井:理事長が乗った時は恐らく地上なので、宇宙に行くとこれが三次元的に使えるようになります。狭く見えている空間でも広く使えます。ですから、7人で生活しましたけれども、すごく狭くて困ると思ったことはなかったです。