「第32回JAXAタウンミーティング」 in 尾鷲(平成20年10月4日開催)
会場で出された意見について
第二部「ますます深まる宇宙の謎」で出された意見
<宇宙人の存在について>
参加者:宇宙人がいるのか?という質問を小さなお子さん、中学生からよく受けますが、最新の科学ではどの辺まで煮詰まったのか、その辺をお伺いしたいです。答えにくい部分もあるかと思いますけれども、ここだけの話でも結構ですので、よろしくお願いいたします。
平林:JAXAとしての共通認識はありませんが、私としては、宇宙の中に地球外の文明があるのは、割と自然ではないかと考えています。無限に広い宇宙の中に、私たちだけがいるのというのは不自然だと思うわけです。
新しい進展についてお話しすると、1995年に太陽系外に最初のはっきりした惑星が見つかりました。今現在、太陽系外で見つかった惑星は200を超えています。ただし観測の精度がまだ十分ではないので、地球と同じ重さくらいの惑星を見るのはまだ困難です。ですけれども見つかった惑星の重さはわかります。それから恒星との距離や公転軌道などもわかります。発見した惑星の中には、その星に大気などの成分がわかり始めているものがあります。ですから、これから10年、20年、30年続くと、地球のような惑星が見つかり出すんではないかという気がします。
それから先週、英国グラスゴーで、IACという国際会合が開催されまして、私も出席しましたけれども、その中に地球外文明を科学的に考える学会のグループがあります。そういうところで学問としても認知されていて、これから進展が期待できると思います。
<引力のスピードについて>
参加者:質問(1) 光にスピードがあるように、引力のスピードはどのように考えますか?
質問(2) あと、「同時」の考え方についても教えてください。何千万光年も離れているもの同士の場合に、同時と考えることができるのでしょうか?人工衛星なりロケットが飛んでいくのにも何秒か遅れていますが、それは当然地球から信号が到着する時間が考慮されているのでしょうか。
平林:回答(1) 引力のスピードという意味は、引力が伝わる速さということですね。それについては、あると思っています。光の速さです。ですから、例えば一つの例として、この瞬間に太陽が消えたとします。そうすると、私たちは今現在、太陽の引力を感じているわけですが、8分後には引力がぱっと途絶えます。つまりそれだけ時間がかかるということです。
最初の光の速さをはかったのは、実は天文学者です。光にも速さがあるんだということが言えると、惑星の動きが正確に説明できるということで、レーマーという人が最初に測っています。ガリレオ・ガリレイが地上で一番最初に測ってみようと思ったのですが、当時は光が速過ぎて測れなかったんです。
回答(2) 2つ目の質問ですけれども、時間は、私たちが普通に理解している力学の範囲で言うならば、私たちは衛星との距離を意識して、もちろん時間を考えてやっています。ただし、それだけではなくて一般相対性理論なども考えなければならない時もあります。例えば地球の表面と衛星の軌道で微妙に時間が違っていったり、太陽の傍まで近づいていくと、また微妙なことが起こったりいろいろします。GPSの衛星なども、一般相対性理論を入れないと、あの精度が出ないと言われています。
<ブラックホールについて>
参加者:ブラックホールが誕生したのは、今から何年前ですか。
平林:ものによるんですけれども、例えば星から生まれたブラックホールというのは、ブラックホールになってしまった後ではそれがいつできたかというのは、そのままでは測る手段がありません。
それから、銀河の中心にとても大きなブラックホールがあるというお話をしましたが、そちらの方は、いつ頃からでき始めたかについてヒントがあります。いろいろな銀河を見ていくと、大抵の遠くの銀河の中心にブラックホールがあるらしいんです。と言うことは宇宙が始まった割と最初の頃、銀河ができた時と同時にブラックホールができたのではないかと私たちは考えています。100億光年とか120億光年とか、遠くの銀河まで見つかっていて、そういったところにとても大きなブラックホールがあるらしいという観測事実があります。だから、そういうブラックホールはとても古いです。
<ブラックホールの蒸発について>
参加者:ブラックホールがなくなってしまうということはあるんでしょうか。
平林:ブラックホールが蒸発するというお話を、多分どこかでお読みになったと思います。そういう考え方があります。ブラックホールが表面から蒸発していくのに対して、実は宇宙は真空ではなくて結構いろんなものが周りにあって、それがブラックホールへ落ち込んでいくものです。だから、現実の世界ではブラックホールが蒸発することはないと思います。
例えば星の中心にブラックホールができているという話をしましたが、そういう星は計算するとブラックホールが蒸発するまでものすごく時間がかかります。私たちの宇宙の年齢よりも、何桁も何桁も時間がかかりますので、つまり蒸発しないのに等しい。だから、数字的にブラックホールは蒸発すると頭の中で考えていくが、実際には蒸発しないでむしろブラックホールはどんどん時間とともに太っていくことになります。
<冥王星が惑星から除外されたことについて>
参加者:学校で私たちのころは、太陽系の惑星は、水金地火木土天海冥と習いました。最近、冥王星が惑星が外れたと、報道でありましたけれども、なぜ冥王星が外れたんでしょうか。また、冥王星と海王星の順番が入れ替わるということも聞いたことがございますが、それでしたら海王星も太陽系の惑星でなくなるんじゃないかという気がするんですけれども、いかがでしょうか。
平林:実は冥王星と似たような天体が幾つも見つかり出したんです。冥王星より重かったり、冥王星よりもっと円軌道が近いとか、いろいろあります。ここ10年来こういう状態が続いていて、こういったものを惑星と呼ぶか呼ばないかの議論がずっと続きました。
私は実は物理学の天文学科を出ていますが、天文学を学生時代に習ったときには、先生から既に冥王星は惑星と呼んでいいかどうか、大変際どい星なんだということを教えられていました。
ですから私は、国際天文学連合の総会で、冥王星はもはや惑星と呼ばないことにしようというのは、全くショックを受けてないんです。やはりそういう時代が来たかと、いろいろ宇宙がわかってきた結果、そういう分類の方が自然だという時代に入ってきたと思います。
おっしゃるように、ある時期は冥王星の方が海王星の内側に来ます。海王星も含め太陽系の惑星は、大体同じ平面で公転していますけれども、冥王星は軌道が斜めなんです。
<ウラシマ効果について>
参加者:「きぼう」のようなところに人間が行って、そこで1年なり10年なりのスパンで行って帰ってきたとすれば、「ウラシマ効果」というのがあるのでしょうか?そうしたら「きぼう」に行っている人たちはそういうことを経験しているのでしょうか。また「ウラシマ効果」を考え出した日本人は、古代からそのような時間的感覚を持っていたのでしょうか。
平林:一般相対性理論で計算しますと、例えば地球の表面と地球のちょっと上の軌道では、重力の大きさが違いますので、時計の歩みはおっしゃるように非常にわずかに違います。これは、1970年代だったと思いますが、アメリカの人が水素メーザー発振器という、非常に精度の高い原子時計を宇宙に打ち上げて、そして帰ってきて、地上にある時計と比べて、そして計算どおりになっていることをしっかりと証明しています。ですから、その「ウラシマ効果」は正しいということです。
若田さんや星出さんとかが宇宙に行って、帰ってきた時に、私たちと比べて、若田さんたちが余計に歳を取ったかというと、(若田さんだから若くなったとかはないでしょうが、)人間の老化の進行を正確に測ることはできません。
人工衛星等で、太陽系の向こう側に入って帰ってくるような通信の場合は、一般相対性理論などをきちんと考慮に入れないと正確なことはできない場合があります。
それから、太古の昔から日本人がそういうことをよくわかっていたかというと、それはないと思います。
<宇宙ぼけについて>
参加者:海外から帰ってきたときに、時差ぼけがあるんですけれども、宇宙から地球に帰ってきたときには、宇宙ぼけはあるんですか。
広報部長:「宇宙ぼけ」というよりは、宇宙に行ったとき、例えば血液が脳に行くとか、通常は重力があるから下に行くんですけれども、血液が上に行くとか、そういうことで「宇宙酔い」になるという話は、宇宙飛行士の方から聞いています。
小澤:宇宙飛行士が、宇宙に行くときの時間というのは、スペースシャトルでの作業スケジュールに合わせて、ケネディー宇宙センターにいる間に睡眠時間を調整するという工夫をして、宇宙に行っているようです。
ですから、時差ぼけのような話は聞いたことがありません。ただ、それより体の変化の方が問題で、いろいろ工夫がされているようです。
<天体の衝突について>
参加者:天体同士が衝突することをお伺いしたいんですが、木星と彗星が衝突するというのもありましたし、銀河同士の衝突もあるように聞くんですが、天体同士が衝突する可能性は低いものかどうかお聞きしたいと思います。
平林:木星にSL9というのが次々とぶつかっていきましたね。あれは、わりと自然なことだと思います。そもそも地球や月も、微惑星という小さな惑星が、次々と衝突、合体を繰り返してできてきたとされていますので、あれはそういったことの残りの現象だと思っていいと思います。次に、ハッブル宇宙望遠鏡などで、遠くの宇宙をながめてみますと、銀河同士がぶつかっている例は幾つも見つかっています。今の理解は、惑星が微惑星からできるように、昔は小さな銀河がたくさんあって、それが合体、衝突を繰り返して、今のような銀河になっているというのが自然な考え方です。私たちの銀河系や近くにあるアンドロメダ銀河は、2つとも超大きい銀河です。周りに小さい銀河が20個か30個あります。ですから、私たちの銀河系は、うまくそういうものをかき集めてできた銀河なんです。銀河については、ぶつかるのがごく自然なことで、むしろぶつかることによって銀河が発達してきたと言っていいと思います。
最後の御質問で、星と星が衝突する確率はものすごく小さい。星の大きさにくらべると、星と星との距離は非常に遠いですから、なかなか難しいです。ただ、例えばブラックホールや中性子星や白色わい星などが互いに合体して、そのときに重力波が出るんじゃないかとか、いろいろなことを考えていますので、頻度は少ないけれども、これから先、観測技術が進んでいったときに、そういうことが見つかるかもしれません。