JAXAタウンミーティング

「第32回JAXAタウンミーティング」 in 尾鷲(平成20年10月4日開催)
会場で出された意見について



第一部「宇宙開発と防災」で出された意見



<災害発生時の衛星データについて>
参加者:ものすごく基本的な質問かもしれませんが、衛星は何か災害が起こったときに、すぐに対応して被災地の映像を映してくれるのではないですか。今日の説明では3日程経ってからいろいろなことが起こっていることがわかったのですが、災害直後の映像はないのですか。
小澤:ALOS「だいち」の例で申し上げますと、1回「だいち」が例えば尾鷲の写真を撮ると、次のタイミングで尾鷲の写真が撮れるのは、1時間後なのか、2時間後なのか、どれぐらいなのかという御質問だと思いますが、「だいち」の場合ですと最低2日間は待っていただかなければなりません。静止衛星の気象衛星「ひまわり」の雲の写真がしょっちゅうテレビの天気予報で出ています。あれは、高度3万6,000kmのところに衛星がいますので、地上から見ていつも日本の真上にあるように、衛星の位置が変わらないように見えます。それを利用して常時、雲の観測ができるのですが、静止衛星から地上を詳しく観測する場合は非常に大きな望遠カメラが必要になります。将来的には、静止軌道から常時観測できるようなシステムを作り、災害があれば、それこそ30分後、1時間後でも、すぐに現地の写真を届けられるようにしたいと思っていますが、今はなかなか技術的には難しいところがあります。
防災対策本部や防災の現場の方へお話をうかがっていますが、衛星写真が仮に手に入るとすれば災害が起こってから大体何時間後ぐらいに入手できれば、本当に役に立つのかと聞いたところ、大体返ってくる答えが3時間後ぐらいには欲しいとのことです。
では、そのためにはどうするか。
現在のところ「だいち」は1つしかありませんが、衛星の数を増やそうとしています。今考えていることは、4つ上げることを検討しています。4衛星でも3時間後に映像を映すことは難しいので外国の衛星にも少し応援してもらい、災害が起きてからどんなに遅くとも3時間以内には対策本部に衛星写真が届くようにしたいと考えています。

<災害時の状況把握、通信網の確保等について>
参加者:尾鷲は雨が多く心配になることがありますが、災害時はヘリポートの位置をどのように確保しているでしょうか。だいちで安全な場所を確認することはできませんか。また通信網確保が心配です。衛星を有効に使用できれば良いと思っていますが、いかがでしょうか。
小澤:衛星写真というのは、その時点で非常に広域にわたる最新の情報をお届けすることが出来るというのが利点です。事前準備として、実際に災害が起こったときには、この衛星写真を使ってヘリポートの場所や住民の方々の避難場所あらかじめ決めておくような準備ができます。
大きな災害が起こったときは、恐らく対策本部などでは、さまざまな情報を収集されて、現地に歩いて行っている実際の救助員の方からの無線連絡やヘリコプターから入ってくる情報、新聞社のヘリコプターから入ってくる情報、あるいはテレビから入ってくる情報を全部をお使いになると思います。ですから、これらの情報により、そこが安全かどうかということを確認されて、実際にヘリポートとして使うかどうかという判断が総合的になされると思います。
そのときに問題になるのが、それだけたくさんの情報があるので、通信網がきちんと確保できるのかということが、非常に大きな問題だと思っています。携帯電話や固定電話等が、使えればいいですが、ややもすると大災害のときには頼りにしている携帯電話が使えない可能性があります。特に対策本部でお仕事をされている方が、防災無線や警察無線をはじめ様々な無線をもっと安定した使い方できるように、今日御紹介したような衛星を使った通信システムができれば、もっと確実に情報交換のお役に立てるのではないかと思っています。

<衛星を利用した地震予知はできるのか>
参加者:中部東海地方には大型地震がそろそろやってくると言われていますが、そろそろ危ないということが、はっきりとした状態としてわかれば心づもりもできるし、対策をたてやすいのではないか。地殻変動やひずみが大きくなってきたということはわかりますか。
小澤:地震については、恐らく地震専門家の方がいろいろと検討されていると思いますが、GPSを使った地殻変動を観測する装置が数多く設置されていると思います。
衛星を使用した地震予知についてはまだ力が及んでいませんが、火山では大分技術が進んでいます。
火山というのは、噴火する前にゆっくりと山が大きくなり、地殻の変動が目に見えるというか、衛星からのデータで見ると、その差がわかるぐらいの変化が出てきます。
現在、火山の専門家の方と一緒に、日本全国の108の火山について、地殻変動の様子を定期的にモニターしています。
様々な衛星データを専門家の方へお渡しし、火山の噴火が近づいているなどの判断に使われるようになってきました。
地震についても、もう少し技術が進めば可能性がでてくると思いますが、残念ながら現在のところはまだ衛星を利用した地震予測はできていません。

<衛星を利用した緊急地震速報について>
参加者:先ほども質問にありましたように、この付近は東南海地震の心配があるということで、地震発生時は緊急地震速報が防災無線で流れるようになっていますが、地震というのは状況がわからないとなかなか避難しにくいということが言われています。将来的には、今、防災無線で送られているような情報を人工衛星で解析をした上で、直接我々の携帯電話に送られるということは難しいでしょうか。
小澤:実は2005年にJAXA長期ビジョンというものを出させていただきました。そこで、新しく防災分野に衛星技術を役立てられないかという検討を始めた時、インドネシア辺りに大きな津波が来て、たくさんの人が亡くなった事件がありました。あのときに、もし海岸におられた方の携帯電話に津波が来るぞという情報がストレートに伝わっていれば、もっとたくさんの人が早く避難することができたのではないかという思いがありました。
最終的には衛星だけではなく、いろいろな防災に関する情報、あるいは避難の情報、こういったものが直接、皆様方の携帯電話や防災用の通信機器に伝わるような、そういう仕組みを最終目標に考えています。そこで、先ほど大きなアンテナを持ったきく8号を紹介をしましたが、やはり個人レベルの方にきちっとした避難情報や火災、防災に関する情報が伝えられることを目標にして、これから技術開発につなげていきたいと思っています。

<GPS誤作動について>
参加者:ある雑誌にイギリスでカーナビが誤作動を起こしたという話がでていましたが、そのような研究はしていますか。
広報部長:具体的なことは知らないのですが、GPSが誤作動を起こしたという話だった思いますけれども、いろいろなことで衛星は誤作動を起こします。
例えば宇宙線が当たると半導体がショートしたりと、やはり宇宙ではいろいろなことがありますので誤作動を起こしますが、GPSは全世界で20機ぐらい回っていますので、そのうちの1機に誤作動が起きても、全体的には問題ないと思います。
小澤:宇宙空間を飛んでいる衛星には、いろんなものが飛んできます。特に放射線の粒子などが飛んでくるわけです。それが、地上では余り影響がありませんが、宇宙にある人工衛星の中のいろんな機器にぶつかり、その機器を悪くしてしまい、故障させる原因になってしまいます。そういうことが大体わかっていますので、人工衛星は放射線に強いものにする技術や放射線をブロックするような仕組み等を打ち上げる前に十分に検討しています。そうしないと、すぐに人工衛星がだめになってしまいます。人工衛星というのは非常に高価なものですから、一度、宇宙に上がってしまうと修理ができない。宇宙飛行士が修理できればいいのですが、なかなかそういうわけにもいきません。なるべく故障しないように、1つが故障してももうひとつ別のもので、よくバックアップとか予備とかいいますね。そういうものを積んでいて、1つ故障したら別のものに切り替えて、衛星全体が死なないようにする。衛星全体として使えないということにならないようにする。こんな工夫などをしています。これは衛星にとって非常に大切なことだと思います。

<衛星の打ち上げコストについて>
参加者:2つ質問があります。
質問(1) ひとつめは東大阪の企業が、まいど1号・2号を打ち上げることになっています。
打ち上げ方法としては、ロケットで打ち上げるほかに、飛行機の胴体の下に取り付けて、そこから宇宙へ飛ばす安くすませる方法がありますが、どこまで安くできますか。
質問(2) 2つめは、現在宇宙にある旧式で使用できない状態の衛星がまわりつづけていますが、回収はどうしているのでしょうか。
小澤:回答(1) まいど衛星、これは先ほどお話ししましたGOSATという衛星と相乗りで、今年の冬に打ち上がる予定です。ただ、非常に小さい衛星で、値段は正確にはつかんでいませんが、相当安いと思います。今日御紹介したJAXAの人工衛星ですと、大体200億円とか、安いもので150億円ぐらい、高いものですと300~400億円ぐらいかかってしまいますが、まいど1号というのはもっと安く、2桁ぐらい数字が小さい金額になっていると思います。
しかし、衛星の値段といいますのは、その衛星にどんな仕事をしてもらうかによって決まりますので、一概に安いからいいというものでもありません。そこは衛星がやる仕事と値段で評価をしていかないといけないと思います。
ロケットの打ち上げにしても、今お話がありましたように、航空機の下に付けて打ち出す。これも非常に安い打ち上げ方として、アメリカでは一部実用化されると聞いていますけれども、日本でも関心を持っており、検討しようという方がおられるようです。JAXAではまだやっていませんが、そういう方法ですと確かに安くロケットの打ち上げができますが、逆に大きなものは打ち上げられない。大きなロケットが必要になるということは、先ほど申しましたように、その衛星にどんな仕事をしてもらうかによってきまります。
仕事をしてもらうには、ある程度の大きさが必要です。そのためには大きなロケットが要るということになれば飛行機から打つのは厳しいと思いますので、今までどおりの打ち上げ方にしないといけないと思います。
それは用途によってこれから変わってくると思いますので、日本でもゆくゆくは目的に応じた、非常にバラエティーに富んだシステムづくりが大切になっていくと思います。
回答(2) それから宇宙のごみの話ですね。残念ながら、宇宙のごみ、古くなった人工衛星などを回収するようなシステムは研究段階にあり、まだ実用化されていません。今、私どもが取り組んでいるのは、人工衛星が古くなり、ばらばらになって更にこまかく壊れないように、小さなごみにならないような工夫をやっているところです。
ですから、人工衛星を打ち上げると、それが更にごみの数を増やすということにならないようにしようという努力をしています。

<人工衛星の再利用について>
参加者:古くなった人工衛星を回収して、再利用はできないんですか。
小澤:回収する方法は幾つかありますが、それはものすごく難しくて、回収できる軌道に行けるのは、今のところスペースシャトルだけです。スペースシャトルで回収したものが幾つかあります。そして、軌道上で修理ができます。
以前、ハッブル望遠鏡を直す作業が行われました。そういうことはやれますが、ただ、それは限られています。高度的にスペースシャトルが飛行できる低い軌道の衛星は回収できますが、それより高い軌道のものは、現実にはできないというのが状況です。

<宇宙での食事について>
参加者:会場入口に宇宙食が何種類が展示してありましたけれども、宇宙に行ったときに、この宇宙食をどれぐらい持って行くのか。例えば若田さんは3か月、野口さんが6か月宇宙船で滞在されると思うんですけれども、1日に何食を食べるのか。
あと、今後の宇宙開発で宇宙ステーションをつくっていったときに、宇宙でタンパク源を確保することが必要だと思います。向井さんが宇宙に持っていったメダカや鯉を使って、宇宙で産卵させて持ち帰ってきたと思いますが、その後タンパク源を確保するために、どういう研究が進んでいるのでしょうか。
広報部長:まず宇宙食ですが、どれぐらいの量を持って行くのかはわからないので申し訳ないんですが、宇宙食そのものはシャトル、もしくはロシアのプログレスという補給船で運ぶようになります。足りなくなれば補給船で持って行くということで、常にそういうことをやっています。
ですから、3か月滞在するにあたり、何回か下から補給することになります。通常は、宇宙飛行士も1日3食、朝昼晩というように通常の食生活をします。
小澤:タンパク質については、向井さんが実験したIML-2の話だと思います。
日本人の宇宙飛行士やNASAの宇宙飛行士が宇宙ステーションやスペースシャトルにいろいろな水生生物を持って行って実験をしていると思いますが、目的は宇宙でタンパク質を確保するためというよりは、もう少し手前の実験で、宇宙で生物がどういう行動をするということを研究するためにやっていると思います。将来的に、非常に長い宇宙飛行をしないといけないということになれば、今は地上からロケットによって必要な食料を運んでいる状況ですが、ひょっとするとそれに限界があって、自分で飛行中に必要な食物を自給自足しないといけない状況になるかもしれません。そのための研究は非常に基礎的なものがやられていると思いますが、まだ具体的な話まではいってないような気がします。