JAXAタウンミーティング

「第28回JAXAタウンミーティング」in 稲沢(平成20年8月17日開催)
会場で出された意見について



第一部「40年ぶりの国産旅客機実現に向けての、JAXAの技術協力」で出された意見



<MRJに必要な滑走路の長さと航続距離について>
参加者:MRJの離着陸に必要な滑走路の長さはどのぐらいかということと、航続距離についてお聞きしたいと思います。
石川:必要な滑走路の長さは、条件によって変わります。お客満載とか、燃料満載とか、あと暑い日は離陸しにくくなりますし、また高度が高いとか、いろんな条件がありますが、MRJでは一番厳しいところで1,700メーター程度です。ですから、日本の普通の地方空港は全部乗り入れ可能です。航続距離は、3種類バージョンがありまして、いわゆる普通のものと、少し長いもの、一番長いもの、これはいろんな条件を変えてそういうふうにするんですが、一番長いものですと、東京を出てアジア全域をカバーできます。ですから、一番長いバージョンですと東京-シンガポールは可能です。アメリカ大陸でシカゴに空港を置きますと、アメリカ大陸は全部1フライトでカバーできる。そういう航続距離になっております。ヨーロッパはヨーロッパ圏内でしたら1フライトで行ける設計になっています。

<飛行機の部品数について>
参加者:1つの飛行機は、どれぐらいの部品から構成されておりますか。
石川:勘定の仕方が難しいんですが、ボルト1本まで入れますと、多分20万点ぐらいだと思いますが、ただCFRPにすると、少なくともリベットは非常に減りますので、リベットの数は全然少なくなります。アルミの10分の1以下になります。ということで、CFRPを使うと20万点が10万点は切るぐらいかと思います。でも逆にまだ10万点ぐらいはあります。ワイヤー1本ずつ勘定し出すと、それはまた話が違うので、電線については種類ということにさせていただくと、それぐらいになります。

<感圧塗料を用いた風洞試験について>
参加者:先ほど風洞試験のところで、今までは圧力計測していたが、塗料で試験を行うというお話があり、非常に面白いと思ったのですが、コスト的にはそちらの方が安いということですか。
石川:今までの風洞試験では、翼の模型に小さい穴をたくさん開けて、その小さい穴に細いパイプをつなぎ、パイプにセンサーを付けて点で測っているわけです。実は、その加工に物すごくコストがかかる。ペイントで塗ってやる方が、全然コストが安いです。今まで、自信がないときは両方やっていたんです。穴の方は、過去のデータの積み重ねで精度がちゃんと出る。でも今はもう塗料の信頼性が高くなったので、穴を開けるのはやめてしまいました。

<ウイングレットについて>
参加者:主翼の先端が跳ね上がっていますが、あれはどういう効果があるんでしょうか。
石川:翼の先端というのは渦が出るんです。さっき申し上げたように、飛行機は翼の上の面の圧力が下がって、その圧力の差で飛行機は翼で持ち上げられています。上の方が圧力が低いので、翼の先端では下から上へ回り込むような渦ができます。湿度の高い日に着陸したりすると、その渦がときどき見えることがあります。この渦というのは抵抗の基になっているんです。この渦を完全にゼロにすることは不可能ですが、できるだけ抑えたい。そのやり方として、翼の先にウィングレットといいますが、三角のものを立てて、後ろにできていく渦を少しでも減らし、抵抗を減らすという、そういう工夫です。ここら辺は、まだまだ研究の余地があります。

<YS11の事業化失敗要因について>
広報部長:それでは、質問は絶えないと思うので、ここからは少し私の方から、逆に皆さんも参加していただくという意味で御意見をいただきたいと思うのですが、民間航空機を出すということは、YS11ではうまくいかなかった。今回、新たに挑戦するということですが、このことに対して皆さんがどうお考えか、国はどうすべきか、あるいはJAXAはどうしたらいいかということで、何かお考え等がありましたら、御意見をいただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。
参加者:今、YS11が失敗というお話がありましたが、どこら辺がいけなかったというか、失敗の要因だと考えておられますか。要はそれをカバーすれば、今度は大丈夫だろうと思うんです。個人的には、開発した後の運用、サポートといったところに関して、例えばJAXAとか国とかの関与というのは、どうなるのか興味があります。
石川:YS11は当時の飛行機の技術レベルとしては全然失敗ではない。非常に高かった。非常に頑丈で使いやすい飛行機という評価を得ています。商売の失敗だったということなんです。価格設定を間違ったというか、1機売るたびに赤字が出ていく状態でした。ちゃんとした原価計算ができなかったこともあると思います。あと開発費の回収についてのルールの決め方の問題もあり、そこら辺で1機売るたびに赤字が出ていたという状況になって、国としても、それは困るということで182機で中止してしまいました。実は、同じような飛行機がイギリスにありまして、これは全部で千何機売ってますが、非常に似た飛行機ですが、こちらは商売として成功しました。もう一つの要因として、国のサポートのやり方なんですが、1つの会社ではなく、日本航空機製造という国策会社にやらせたので、責任の所在があいまいになった。そういうこともあります。ですから、今回は最初にプロジェクトをやるときに、1つの会社に責任を負わせて、ちゃんと責任があいまいにならないようにするということで、公募して三菱重工に決まったという経緯があるので、まずそこが違います。今度のMRJでは、勿論失敗をしてもらっては困るわけです。今おっしゃったように、飛行機というのは責任の伴う商品で、売ったら最後、いわゆるメンテナンス、整備も面倒を見ていかなければいけないということで、そういったシステムが大変大事なんです。そういうことで、今回もいろいろ三菱重工さんは工夫されています。いわゆる整備のところは、JAXA自身は整備そのものは余りサポートしないんですが、ただ、先ほどちょっと申しましたが、複合材料を使うという設計思想の部分でサポートします。CFRPというのはさびないという性質があります。そういう設計のところでサポートして、整備コストを下げてあげる。整備そのもののサポートは我々の役目ではないと考えています。

<MRJの市場について>
参加者:国際的に売るということなんですけれども、どこに売るのでしょうか。あと日本国内で、まだ開発段階から決まってないとは思うんですが、欲しいと思っている、例えば日本航空とか全日空が欲しいとか、そのような話はあるんでしょうか。
石川:飛行機というのは、設計して、ゴーをかけるときに、絶対買うという会社が1社でもないと、注文が出ないとゴーがかからない。それをキック・オフ・カスタマー、あるいはローンチ・カスタマーと言いますが、要するに開発を決断させる最初のお客さんというのが必ず必要になります。MRJでは全日空さんでして、飛行機の注文というのは確定何機、オプション何機と言い方をして、例えば全日空ですと18機は絶対買いますと、場合によっては27機に増やしますという注文の仕方をします。日本航空は、まだ確定、オプション何機という話はありません。 海外のエアラインも、どこだとは言えないんですけれども、数社がかなり相当真剣な興味を示しているということは聞いていますが、まだ新聞報道で確定何機とまではいっていません。まだまだ時間がかかる、長期戦の商売だと思っています。

<MRJのエンジンについて>
参加者:機体そのもののお話はあったのですが、これに搭載されるエンジンは、どういった種類で、従来のエンジンと比べて特徴はあるんでしょうか。
石川:エンジンは残念ながら国産ではないんですが、アメリカのプラット・アンド・ホイットニーという、伝統的なエンジンの会社ですが、そこのエンジンです。これは、非常に新しい方式の、ギアード・ターボ・ファンというエンジンです。ちょっと説明が難しいんですが、飛行機のエンジンというのは、前に大きなファンという羽根が回っていますね。あれは排気ガスが通るタービンというもので動かしています。実は、飛行機のエンジンというのは回っているのが2系統ありまして、前のファンと後ろの方のタービン、それと空気を圧縮していくコンプレッサーというのと、排気ガスがエンジンで燃えた直後に当たるタービン、その2つが違う回転数で回っているんです。違う回転数で2つ回っているのが普通のエンジンなんですが、このギアード・ターボ・ファンというのは、このファンを回すところの軸に、後ろのタービンとの間に遊星ギアというギアをかませて、タービンの回転数を3分の1に落とすというやり方で大きなファンを回しています。大きいファンは、できればゆっくり回した方が効率がいい。だけれども、タービンというのは逆にゆっくり回られると困るということがあります。今まではそれを無理に直結していたので、タービンにとっては遅過ぎる。ファンにとっては早過ぎる。これがなかなか困っていたんです。ギアをかませるということで、単純なアイディアのように見えますが、それをやるといろんなトラブルとかデメリットがあるということで、今まで採用されなかったんですが、プラット・アンド・ホイットニーはこの研究を20年以上やってきて、大丈夫だということで、ギアード・ターボ・ファンというものを採用して、これで燃費が一遍にぼんとよくなります。さっきMRJはライバルより26%燃費がよくなると言いましたが、実は半分はエンジンの貢献です。ギアード・ターボ・ファンは世界で初めて、MRJが採用します。それはリスクだという人もあります。でも、MRJとしてはオイルの高い世の中で、やはり燃費のことを考えるとライバルに勝つためには、ちょうどいいタイミングでギアード・ターボ・ファンというものが世の中に出てきたので、それを使いました。そうしたら、ライバルのカナダのボンバルディア社も、ギアード・ターボ・ファンを使おうという計画を早速発表しました。そういう新しいエンジンを使います。

<水素エンジンについて>
参加者:水素の燃料を使ったエンジンというのが将来的に、コスト面や環境問題の面でも出てきていますが、それに対してのこの先の考え方をお願いします。
石川:勿論、石油燃料は、いつかは枯渇するということなので、水素航空機は、研究自身は少しずつですが連綿と続いています。水素の一番の問題は体積が大きくなってしまうことです。アイディアとしては胴体を全部水素タンクにして、人間は翼から下げたカプセルに乗りましょうとか、いろんなものがあります、まだアイディア段階なんですが、研究はされています。水素を燃やすこと自身は、ロケットの経験があるので、別に問題なく、ちゃんとやれば結構効率のいいエンジンになります。ですから、もし石油燃料が枯渇したらどうなるかというと、水素にするかバイオアルコール系の燃料にするか、どちらかになるだろうと思いまして、水素エンジン航空機の研究については、いろんな問題点をつぶす研究をやっております。燃料の体積が大きくなってしまうので、今はジェット燃料を翼に入れていますけれども、そういうやり方は無理かなと思っています。全翼機にするか、翼の上に大きなタンクを積むか、いろんなアイディアはありますが、そうすると抵抗が増えますので、困る点はいろいろ出てきています。

<飛行機の燃費について>
参加者:ガソリンエンジンの車だと、リッター何キロ走りますというふうに聞きますけれども、航空燃料を使った飛行機というのは、1リッターでどれだけ進むとか、燃費はどれだけとか、教えていただけますか。
石川:ある種条件を出して、上空11,000メートルのところをマッハ幾つで飛ぶという条件を出して、それに対してエンジンの回転数とか、抵抗はどれだけとか計算し、その燃料消費率を出すわけです。それで最後に、乗客数で割って、お客1人当たりどのぐらい燃料を1時間で消費しますという数字にして、エアラインに渡します。そうすると、公平な比較ができます。そういう公平な比較にしてエアラインはライバルのデータと比べて見て、こちらの方が燃費がいいというふうに判断します。

<日本の航空機開発体制について>
参加者:日本の航空機産業をこれから育てていくという観点で、今回、三菱さんがこういったことをやっていくということですが、個人的な意見としましては、はっきり言って三菱重工さんというのはすごい大きな会社で、何でもやっている会社で、正直言ってそういう会社で航空機産業を本当にやっていくのは難しいんではないかと思うんです。例えばアメリカならボーイングとか、航空機専門メーカーには勝てないのではないか。技術的にはいろいろいいものがあるかもしれませんが、日本の航空機産業を育成していくに当たり、日本にもそういう航空機専門の会社、今回このMRJがある程度成功を収めた後の話になるんですが、三菱の航空機部門が独立して、更にJAXAの航空機開発についても技術的な開発をするところと、より製品に近い開発をするところがあると思うんですが、そういう実現する技術をやる部分がくっ付いて、実際に航空機専門メーカーとして世界で闘っていくというような、10年、20年、30年に向けてのビジョンがあるのでしょうか。
石川:非常に鋭い御意見で、経済産業省にもそういうことを思っている人もいると思います。日本の航空機産業は、戦前を引きずっていて、戦後アメリカによって一回ストップさせられ、重工メーカーの船をつくっている部門の一部門として復活して航空機をつくり始めたという歴史があって、大きなものの一部としてやっているということであり、本当にそれがいいのかというのは、まさにある意味当を得た御指摘だろうと思っています。日本の規模で3社、ちょっと小さい会社を入れて5社あるんですが、これが多すぎるとか、そういう意見も実はありますが、なかなかそこは統合といっても簡単ではなく、そう簡単には再編は進まないんですが、やはり専業でやるべきだという御意見も勿論あります。三菱さんが、今回MRJをつくるために三菱航空機という会社を設立されたんですけれども、もしビジネスに成功してうまく回っていくと、いずれは独立する形になっていくであろうと思っていまして、そういうスパンで考えますと、業界の再編というのも、私はあるのかなと思います。ただ、これは私企業のことなので、強引にそこを分離しろとか、くっ付けろとか、そういうこともなかなかできませんので、幾ら経済産業省さんといえども、それを権力的にやることはできませんから、自然に今おっしゃる方向になっていくのかなと考えています。
参加者:では、JAXAとして、実際そういう動きの中で主導的な役割を果たすという位置づけではないということですか。
石川:いえいえ、技術開発という意味では、今でも主導的な役割を持っていると私ども認識していますので、相手がだれであれ、我々は世界を争う技術をちゃんと種から育てて、大きくして、会社へ渡せるようになったら渡して、次の種を発掘、育てるということを何回もやっています。炭素繊維の複合材料というのも、それは一つの例なんですけれども、そういうことを育ててといっても何十年かかかりますので、そういうことはやっていまして、JAXAとして相手の形がどうであれ、技術を育てて渡していくことはずっとやっていくつもりです。

<JAXAの特許出願について>
参加者:特許出願というのは、非常に大切なことかと思いますが、JAXAとして特許出願の体制とか、どの程度特許出願されているとか、そういうことをお聞きしたいと思います。
石川:それぞれ研究をやっている部門では特許出願していて、件数までは覚えておりませんけれども、実は国の研究所というのは30年ぐらい前は余りそれを意識しなかった悪い時代がありまして、20年ぐらい前からそれをかなり変えてきていまして、どんどん出願を増やしております。ただ、今度は余りくだらない特許は取るなというのもありまして、特許というのは維持も結構大変なので、そこは判断しつつ、相当程度、それぞれの部門で出しております。