JAXAタウンミーティング

第27回「JAXAタウンミーティング」 in 所沢(平成20年7月27日開催)
会場で出された意見について



第二部「誰もが乗れる静かなSST(超音速旅客機)を目指して」で出された意見



<SST実験機について>
参加者:オーストラリアで飛んだ実験機は、もともとはどこでつくったんですか。
大貫:メーカーで、設計開発チームというのを作りました。まず三菱重工業が主契約者で、その下に富士重工業、川崎重工業、打ち上げに使うロケットについては、IHIエアロスペースから技術者を派遣していただき、その設計チームとJAXAと合同で開発しました。

参加者:どのような実験データを取ったんですか。
大貫:抵抗を減らす、空力的な設計技術の実証を目的としましたので、空力実証のためのデータを取りました。特に揚力・抗力を始めとする力関係のデータ、境界層のデータです。境界層というのは翼の上の空気との間の層ですが、その境界層を計測するために300点以上のセンサーを翼の中に入れて、そのデータをすべて取得しました。その結果、コンコルドの技術に比べて、約12%効率の改善が図られるという見通しが得られました。次は、環境適合性ということで、次のプロジェクトについては、低抵抗化の技術とソニックブームを始めとする環境適合性の技術を入れた実験をしようとしています。

参加者:エンジンの話ですが、IHIがハイパーというものをつくったと思うんですが、それとの関係はどうなるんですか。
大貫:将来のSSTのエンジンとしては、ハイパーの技術は非常に有効だと思っております。ただアニメーションでお示しいたしましたのは、機体が13m規模の非常に小さいエンジンです。また、飛行実験の目的自体がエンジン開発ではございませんので、エンジンは既製品を買ってきて搭載しようと考えております。

<SSTの事業可能性について>
参加者:確かにこれから世の中が非常にグローバルになると、いろいろな国へ行くのに、短時間で、より効率的に移動しなければいけないんですが、先ほどの話にあった機体の市場価格、400人乗りならそれに0.5を掛けて、それが億単位で200億という算出がありましたが、SSTになるとこのフレームから外れると思うんです。それで果たして市場で売れるのか。またコンコルドのように中座してしまうんではないか。そういう経済的なポイントをお聞きしたいと思います。
大貫:SSTは私どもの試算では非常に高額なものになると考えております。ただ、高額であっても、先ほどのインターネットの調査でもございますように、あれぐらいの値段、3割増しぐらいの値段であれば乗っていただけるという方がいらっしゃるとすれば、事業としては成立するという試算も持っています。これは、先ほどと同じ三菱総研に依頼して、事業性の検討を少しやってみたのですが、事業として成立する見通しはあります。実際には、事業性の見通しについては、いろいろなモデル化がありまして、そう簡単に見通せるものではないです。MRJの開発にしても数年間の技術検討を続けて、やっと事業化判断にこぎ着けたところですので、実際に航空機を1機開発するのは、それほど容易な話ではないと理解しております。今の段階での、私どものやっている提案というのは、技術目標として提案しようとしていた小型のSSTが、箸にも棒にもかからないものなのか、あるいは少しでも事業性の見通しのあるものなのか、そういうための検討です。実際に私どもがやった検討を基に、事業が進むはずだというものではございません。
石川:1つ補足させていただいてよろしいでしょうか。非常に重要な御質問ですが、先ほど紹介スライドの中であったAerion社というベンチャービジネスに注目しております。彼らもちゃんと値段を発表しているわけではないんですが、多分全体の売り上げと機数から見るに、100億をちょっと切るぐらいの高いものです。それに50機注文があるということは、そういう時間価値を見出す人種が、少なくともアメリカにはいるということで、それぐらいなら安いと考える人もいるということです。私どもとしてはそのビジネスに注目しています。申し添えますと、Aerion社のものは、新しい技術、ソニックブームの技術は一切入っていない、既存の技術の寄せ集めでつくろうというものでして、ひょっとしたら太平洋を渡るのにアラスカに1回降りなければいけないかもしれないという可能性もあります。そういうものでも注文があるという状況でして、私どもとしてはそれに注目しています。
ただ、ここを間違っていただきたくないのは、JAXAが50人乗りの商用機を開発しようということではなくて、それに至る技術を提供しようとしているのだということだけは誤解なきように申し添えます。

<(1)国際共同研究と機密保持について (2)ソニックブームを低減する複葉機について>
参加者:飛行機は最先端技術だと思うんです。例えばAerionの50機の発注も、裏を返せば科学技術戦争なんです。先端技術をどの国も欲しいですから、買い取って分解するわけです。そういうことが必ず裏にあると思うんです。数年前にフランスと日仏共同研究をやって、うわさに聞くとJAXAの研究所にはフランス人が出入りしていると聞いたことがあります。それはどうなっているのでしょうか。それから、私も衝撃波については非常に関心がございまして、東北大学の先生が複葉は衝撃波を吸収するような技術だと言っております。それはどういう展望があるのでしょうか。もう一点、私は科学技術戦争だと言いましたけれども、JAXAには外国人の研究者が結構来ていると思うんです。その方たちとは秘密保持契約をやっているのでしょうか。
大貫:まず、日仏の共同研究は、日本の工業会とフランスの工業会の共同研究契約でして、将来のSST開発をにらんだときに、要素技術の研究をお互いやりましょうということになりました。共同研究を結んでいるのは日本航空宇宙工業会ですが、私どもも研究の立場で参加はしております。日仏共同研究は、テーマが幾つか限定されておりまして、例えば材料技術だとか、総合開発技術だとかございまして、そこに私どもも参加しております。

参加者:私がフランスにこだわるのは、フランスというのは非常に独自な研究をやっていて、例えば今度のサミットでもフランスの大統領は福田総理と会見しないわけです。そのぐらい非常に独自の発想を持っているんです。ですから、非常に注目しているんです。コンコルドに関しても、イギリスと非常に軋轢があって、何とかあそこまで行ったと聞いています。だから、フランスとやるのは大変なことではないかと。日本人もそうかもしれないけれども、フランスというのは非常にしたたかな国だと思います。
大貫:フランスの国民性については、私の立場では何とも言えないんですが、日仏の共同研究については、いい成果が出ているということで、また今年の7月、今月から3年間延長するところで、引き続きまた共同研究関係を続けましょうということになっています。技術的に申し上げれば成果が出ているということです。それから、東北大学の複葉機でありますが、理論自体は非常に古いものでありまして、ブーゼマンの複葉理論を実用化するというイメージになるんではないかということですが、なかなか実際その設計点においては、まだ改善の余地があるということで、あれが直ちに、あの形態で飛行に至るというところは、まだだと思っています。
広報部長:最後の質問の海外からの研修生等の話ですが、これは外為法というものがあり、この法の下で審査をやっています。滞在期間半年未満の外国人に関しては、外為法では、技術に係るものは審査を受けなければ教えないことになっています。それが半年以上になると外為法の効力がなくなるわけですが、この法令等の趣旨に沿って、機微な技術については外国人に入れないことを、やっております。

参加者:最近の企業は、社内の職員のパソコンのアクセスログを全部記録として取っている。JAXAもそれぐらいやっているんでしょうか。
広報部長:アクセスログをどこまで取るかという議論はあるかと思います。そういう機微な話を、こういう公開の場で公開するのはいかがなものでしょうか。詳しくは申し上げられませんけれども、結構厳しいことはやっております。

<新幹線の騒音対策の応用について>
参加者:大きな騒音技術で、頑張って研究しているのが新幹線だと思います。トンネル音でドーンと、多分ソニックブームと似たような音がしていると思うんですが、新幹線から超音速に逆に技術が入ってくるようなことはあると思いますか。
大貫:いい御指摘だと思います。新幹線がトンネルに入るときの衝撃音は、まさにソニックブームと同じ原理です。JR東海さんと私どもで連絡を取りつつ、その辺は情報交換しているところです。しかし、JR東海さんは一民間企業でありまして、機微な情報を出していただくには枠組みづくりが必要になりますので、実はまだそこまで行っておりません。ただ、私どももJR東海さんの持つ技術は似ているところがあると認識しておりますので、今後、何らかの形でちゃんとした共同研究ないし研究協力の体制をつくって、協力していければと思っています。

<SSTを使った場合の日米間の時間的距離について>
参加者:日本の成田とニューヨーク間は、SSTだと何時間で結べるのでしょうか。
大貫:成田~ニューヨークですと亜音速ですと13時間ぐらい。SSTですとマッハ2で行けば、まさに半分の時間で行けると思います。ただ、マッハ2のSSTというのは、割と技術的なハードルが高いということで、今、アメリカもヨーロッパもマッハ数をちょっと下げて1.6というところをねらっております。マッハ1.6で飛びますと、ニューヨークですと7時間ぐらいかかると思います。

<水素エンジンについて>
参加者:水素エンジンの開発は、SSTでは使われることはあるんですか。
大貫:水素エンジンは、今のところ具体的な研究はしておりません。今、概念的に、例えば水素エンジンで飛ぶとSSTはどんな形になるか。燃料効率からちゃんと詰めるかというところの概念的な検討は始めたところです。ただ、まだ余り具体的な深い検討にはなっていません。
石川:JAXA航空プログラム全体としては、東大との包括研究協定というものを持っています。東大の航空学科にも興味を持っている先生がいます。まだ要素技術の非常に早いレベルを始めている状態です。まだ本格的な研究ではありません。超音速よりもっと早く飛ぶための水素エンジンという意味では、もう少し手が付いていて、マッハ5を目指したものですが、ここら辺はまだ小さな模型エンジンを始めたぐらいであります。

<エンジンの外部調達について>
参加者:少し気になったのが、皆さんの話を聞いていると、やはりエンジンに興味のある方が多いと思うんです。ただ。先ほどのMRJも今回のSSTも、エンジンは外からということです。そこら辺は判断基準はどうなっているのでしょうか。
石川:私どももエンジンの研究はしております。今日は申し訳ありませんが、パネルだけになってしまっています。エンジンの研究は、MRJに似た形で、MRJに使うエンジンよりはちょっと小さいエンジンを、エコエンジンと称しますが、経済産業省がプロジェクトで進めていて、50人乗りぐらいの飛行機に使おうとしています。これを今、MRJ並みに本当に売り物にするぞという宣言は、まだなされてないんですが、それに至るためのデモエンジンを1個つくって運転して見ましょうということをやっております。JAXAはこの中のいろんなコンポーネント、燃焼器ですとか、タービンのところのコンピュータの計算ですとか、そういうことをいろいろやって、やはりMRJと似た形でお手伝いをしております。ただ、まだ宣言されていませんので、今日のトピックにはしませんでした。経済産業省のプロジェクトをサポートとする形、あるいはその先を更にねらう形で、いろんな要素技術をつくり、技術移転をするということで、ジェットエンジンは、メーカーさん、日本のIHI、川崎重工業、三菱重工業の3社と共同歩調を取って、いろいろやっております。ただ、先ほどの超音速実験機のプロジェクトには、間に合わないというか、そのためにやるのはいかにもお金がかかるので、既製品を買ってきましょうということです。今申し上げたエコエンジンについては、今日のトピックの超音速とは関係がない。いわゆる亜音速のもっと小さな飛行機に使おうというエンジンなので、今日はそういう意味では紹介から漏れています。

<既存の空港が利用できるSSTの開発について>
参加者:機体形状の設計の段階で、離着陸に必要な滑走路の距離とかも必要なパラメーターの中に入っているんでしょうか。というのも、アジアの話をさっきされておられたので、既存の空港に合うようなSSTに果たして成り得るのか気になったんですが、いかがでしょうか。
大貫:逆に言いますと、既存の空港で離着陸できるようにしておかないと、SSTにしても受け入れられないということになりまして、そこが開発の技術目標であります。したがって、滑走路長につきましても、既存の空港、2,000m級で離着陸できるようにせざるを得なくなります。したがって、コンコルドの場合は、向かい風を取るために機首を曲げて、パイロットの視界を確保するために機首を曲げるという構造にせざるを得なかったんですが、カメラなどを使った人工コックピットをつくって、そういう機首を曲げなくても向かい風が取れるようにするとか、そういう研究もされています。そういうことは、すべて既存の空港の滑走路長なり、騒音規制なりに当てはまるようにしなければいけないという考え方からなっております。