「第26回JAXAタウンミーティング」 in 出雲(平成20年7月12日開催)
会場で出された意見について
第二部「きぼう」から始まる新たな宇宙活動」で出された意見
<宇宙活動の人体への影響について>
参加者:野口さんはこれから長く滞在されるのですが、それは、人体に対する影響はないレベルなのか。あるいは将来的には問題になるレベルなのかお聞かせください。
野口:宇宙空間での人体への影響を見るのがこの国際宇宙ステーションの大きな目的の一つなんですけれども、これまでガガーリンさん以来、いろいろと結果が出てきていまして、その中でよく言われるのが宇宙放射線の話と、無重量空間に長くいることで人間の体がなまってくるということです。筋肉が萎縮していくとか、あるいは、骨のカルシウムがどんどん溶け出してしまって、いわゆる骨粗しょう症のようなことになるというのが具体的な例として挙げられています。そのために何をすればいいかというのをいろいろと研究されているわけです。
例えば筋肉とか骨が弱くなることということに関しては、宇宙滞在中に運動負荷を上げてあげるとか、サプリメントなども投与したりとか、宇宙線の放射線の被曝に関しては宇宙船のシールドを強くしてあげるということなど、徐々にその辺りの研究が進んでいます。当然ながら、月面に行ったときにどうするのかとか、火星に行ったときにどうなるんだという話も今、盛んに研究されているところです。
<宇宙に行った時の印象について>
参加者:事前にいろいろ情報を得ているとは思うんですが、自分の中で実際に宇宙に行ってイメージと違うと思った点は、実際にあるんでしょうか。それともイメージどおりだったんでしょうか。
野口:訓練に関しては随分予想していたとおりのことができたということがあります。アメリカのスペースシャトルで上がったんですが、彼らも非常に長い期間、実際にスペースシャトルを飛ばしているので、どういう訓練をすれば実際の任務に対応できるかというのは、よくわかっていると思いました。
有人宇宙技術といったときに、恐らく最初に浮かぶのは宇宙船そのものだと思うんです。ロケットとカプセル、あるいはスペースシャトルのハードウェアです。でも、恐らくそれと同じぐらい、あるいはそれ以上に大事なのはソフトの部分なんです。宇宙に人が行くときに、宇宙飛行士をきちんと訓練できるか、何を教えればいいか、どこまでやれば人間は宇宙に行けるのかということをアメリカはソフトとして持っています。それから、宇宙飛行士は目立ちますけれども、その周りで有人宇宙活動を支える人たちの方が大事なんです。地上の管制官とか、宇宙飛行士の健康管理をするお医者さんとか、いろんな人たち、いろんな側面が関わってきて初めて人間は宇宙に行けるんですけれども、そういった意味でアメリカとかロシアというのはしっかりと経験を積んでいると思いました。
イメージと違ったという意味では、宇宙から見ると、特に船外から見る地球のイメージというのは、まさに筆舌に尽くし難いというか、行く前に写真とかビデオとかで見ていたものと全然違いました。例えばきれいなお花があるとして、どんなにきれいな花を本で見ても、目の前に咲いている花とは、受けるリアリティーが違うでしょう。私にとって船外活動中に見た地球というのは、そこに咲いている花なのです。写真ではない。そういうリアリティーというのは、すごい説得力というか、地球というのは本当に自分と同じような生き物で、自分と同じように宇宙の中で漂っている。その実感はすごく印象に残っています。
<「きぼう」の生命維持装置について>
参加者:地元の高校で科学を教えているものです。実は高校の研修旅行ではJAXAにお邪魔させていただいておりまして、大変ありがとうございます。今年も行きますけれども、今年で6回目になります。ちょうど昨年、私が初めて行かせていただきましたら、まさに下の方で「きぼう」の実験棟がつくられつつありました。それがそこにくっ付いたんだと思うと、非常にわくわくしてテレビを見ておりましたが、空気がどのようにあの中でつくられているのか。1気圧を保つには、どのような工夫がなされているのか。変な話ですけれども、長期滞在されたら排泄物などはどう処理されているのか。それから、耐熱パネルが張られているんですけれども、室温を一定にするためには太陽電池の電気系統だけでいいのか、どうか。そこら辺りを教えていただきたいと思います。
もう一つ、地上の1気圧のところで慣れた体が、いきなり無重量のところでどういうことになるのか、よろしければ教えてください。
野口:ありがとうございます。さすが理科の先生で、試験を受けているような感じになりました。お答えいたします。お答えの前に、毎年JAXAに来ていただいて、ありがとうございます。まさにおっしゃられたとおり、去年見たものが今、宇宙にあるというのは、まさに我々宇宙開発に携わる者みんなが持っている喜びの一つだと思います。私も全く同じ感想を3月の打ち上げのときと6月の打ち上げのときに持ちました。私は宇宙飛行士になって12年ぐらいですけれども、最初に「きぼう」を名古屋の工場で見たときは、ただのアルミのドンガラでした。ノリの缶のような状態だったんですけれども、それを削っていって、配管していって、パイプが通って、それからケネディー宇宙センターに運ばれてきた。それを土井さんが宇宙に持って行って、全く不具合なしで、いろんなことがうまくいきました。星出さんのときも同じですね。
地上で作業されていた作業員の方とか、訓練に関わった人たちみんなが同じ感想を持ったと思うんです。自分たちが、あのとき見たとか、あのとき触ったモジュールが、ついに宇宙ステーションの一部になったということです。それは本当に大事なことだと思います。
次の難しい話ですけれども、空気の生成ですね。これは、純酸素と純窒素のタンクを宇宙ステーションに持って行っています。基本的には酸素と窒素を地上とほぼ同じ割合になるように常に酸素分圧と窒素分圧をモニターして、足りない部分はボンベを開いて足してあげるということをしています。
排熱ですが、排熱というのは非常に大事です。先ほど宇宙ステーションの写真が出たときに説明をはしょってしまいましたが、宇宙ステーションではエネルギーの発生、つまり発電も大事なんですけれども、それと同じぐらい大事なのは、実はエネルギーの排熱なんです。ラジエータという排熱板を使います。宇宙船の設計をする上で大事なのは、熱の出入りをしっかり管理することですね。人間の活動も含めて、発生した熱をちゃんと宇宙船の外に出してやるのが非常に大事なわけで、宇宙ステーションにも非常に大きな排熱板があります。
太陽電池パネルは太陽の向きに向くようにしないと意味ないですが、ラジエータも同じように、それを太陽側に向けてしまうと意味がないわけです。ですから、そういう意味でラジエータの方向制御も結構大事なテーマです。
あと血液の話は、本当はお医者さんにしてもらうのが一番いいんですが、実体験として私が行って感じたのは、普段、人間の体というのは重力のある環境に慣れるように心臓というポンプが動いていて、無重力に行って心臓というポンプが同じことをすると、頭の方に血が上る。頭に行った血が重力で自然に落ちてくることを計算して、この心臓という機械は血を送ってくれているわけです。それが重力がなくなると、頭が常に重たい状態になります。それがよくいうムーンフェースというものですね。血液が普段よりも頭の方にたまっている状態です。
ですから、毛利さんが最初に宇宙に行かれたときに、普段の顔と宇宙に行ったときの顔を並べたのをごらんになった方もいるかもしれませんけれども、首の周囲が大きくなったりするんです。
ということで、まさに血流の様子であったり血液分布の様子は無重力に行くと明らかに変わると思います。
それから、排泄物、これも大事ですね。先ほど子どもたち相手に似たような話をしましたけれども、実は先々月、星出さんの打ち上げの直前に結構話題になっていたのは、宇宙ステーションのトイレが壊れたということでした。発電が大事だ、排熱が大事だといっても、結局、何が一番大事かというとトイレだという話をしていました。排泄物に関しては、水分と固形分がありまして、水は基本的には遠心分離機のようなものにかけて汚水タンクに入れます。汚物は、そういう形で水を取り除いてから専用のごみ箱に入れて、においが出ないようにした上で、両方とも基本的には地上に補給船が戻るときに、大気圏突入のときの熱で補給船ごと燃やしてしまうんです。ですから、焼却処理ということになります。ある意味では地球に返しているんですけれども、それによって汚水も固形物も処理しています。
スペースシャトルの場合は少し別で、スペースシャトルは2週間で帰ってくるので、汚水と固形物をコンパクトに処理する装置を持っていて、基本的には全部持って帰るという形にしています。
<宇宙活動に伴うリスクについて>
参加者:宇宙というのはすごく希望とか夢があると思うんですが、それと同じぐらいに危険とか危ないことがあると思うんです。野口さんが船外活動をされたときなどは、美しいのと同じぐらいやはり怖かったのでしょうか。
それと、野口さんが行かれる前にスペースシャトルの事故があったということで、大気圏に再突入するときに怖かったのでしょうか。
野口:危険はゼロではないと思います。まだ人間が宇宙に行くということに関しては、地上での活動とは違う危険度はあると思います。特におっしゃったとおり、私のフライトのときにはコロンビア事故のすぐ後でしたので、船長も含めてそういう話をよくしていたんですけれども、行き着くところは自分の中でのリスクと、それに伴う成果との兼ね合いなわけです。それは普段の仕事でも多分同じだと思うんですけれども、リスクのないところに成果はないわけで、どこまでのリスクを取るか、私の場合には、やはりスペースシャトルを復活させて、日本として有人宇宙活動に船出していくところに関わるということは、リスクを取るのに十分意味のある成果だと思ったわけです。逆にそれがないと思うのであれば行かなければいい。
そうはいっても、そこに発生するリスクを極力下げていくというのが、地上で宇宙活動をやっている人たちの共通の願いというか、取組みだと思うんです。リスクの下げ方というのは、先ほどの話に戻るとハードウェア的に断熱材の性能を上げるとか、何かあったときの不具合対策をしっかりするといったようなところから、あるいはそういうことにならないよう日常での訓練をしっかりするとか、管制センターでのモニターを非常に精度のいいものにするとか、いろんな取組み方があると思います。
私のフライトのときには、本当にNASAも本気になっていましたし、JAXAもいろんな形で不具合対策、事故対策委員会の中に入って行ったりして、特に若田宇宙飛行士はロボットアームの世界的にも第一人者なので、宇宙ステーションにドッキングしたときに、ロボットアームを使っていろいろ点検したんですが、その辺りの手順の効率化、この手順でうまくいくということを我々のために検証してくれたりして、NASA、JAXA、一丸となって危険度を下げるためのことをやっていたと思います。それがリスクを下げるということです。
<地球外生命体について>
参加者:質問の前に、肩の日の丸が素敵ですね。格好いいと思います。
私、農業をやっているんですけれども、日常を離れてこういう話を聞くと、本当にいいなと思って伺っていました。先般、ラジオを聴いていたら、地球以外に高度な生物がいるのかということをやっていたんです。野口さんは、宇宙を飛び回っていて、そういうイメージというか、体験というか、想像というか、そんなことに思いをめぐらされたことがあるのかと思ったんですが、いかがでしょうか。
野口:国旗のことは、ありがとうございます。素敵な国旗だと思います。この時期になるといつも思うのは、オリンピックのときに国旗を背負ってというシーンがありますけれども、私も宇宙に行くときは国旗を背負っているという意識はすごくありまして、その国旗を背負える幸福感というか、自分だけではない、あとは組織、JAXAだけでもない、日本のためにというか、日本を代表して、日本の一青年がアメリカ人と一緒になって宇宙に行くということに、非常に幸福感と達成感と責任感を感じていたのを思い出しました。恐らく北京オリンピックに出る選手の皆さんも同じ思いだと思います。
地球外生物の話は、私の宇宙フライトの間では、残念ながらそういうものはいなかったです。残念ながらスペースシャトルなり、過去に飛んだ人たちも含めて話をしても、そんなのはいないと。
ただ、ロマンも含めて言うと、やはり地球の周りには宇宙人はいないけれども、この広い宇宙のどこかに、似たような知的生命体がいてもおかしくないということは、すごく感じます。実際に出てみると、星たちの世界は広いですね。当然ですけれども、非常に広さと深さと、まさに底が見えない深さというのを漆黒の宇宙を見ていると感じるんです。本当にどこまでも広がっている感じだなと。
そういう意味では、どこか、遠く、遠くの宇宙の果てに、知的生命体がいても不思議ではないと感じました。
<「きぼう」を実感する広報について>
参加者:岡山県で科学館の職員をしている者です。教育のことに関してお伺いさせてください。こちらの科学館では、前回の野口さんのフライトのときに、ちょうどNASAのテレビを中継できるチャンスをいただきました。(その期間中に、別のイベントとして)星空観賞をする観望会をやったのですが、空が曇ってしまって、星が見えなくなってしまったときに、皆さん帰らないでテレビの前に集まってくださいということがありました。ちょうどそのときに船外活動の時間だったので、テレビのモニターを150人ぐらいでじっとながめていたんです。
ISSの構造体が何の変化もなく映っている中で、15分ぐらい経ったところで野口さんの左足がちらっと映ったんです。その瞬間に、うぉっという、拍手と歓声が起こりまして、皆さんそれで非常に満足されて、本当に一生の体験になったと言った人もいるぐらいなんです。そういう体験をしました。
宇宙の傍観者でいることは、JAXAさんもこれまでいろんな働きかけで機会を与えていただいているんですが、皆さん、そこからもう一歩先に進んで、宇宙と何らかの関わりを持ちたい、接点を持ちたいという思いが強いと思うんです。今回、科学館での体験というのが、宇宙で活動している野口さんと映像を通じてですが、ライブの時間を共有することができたと。やはりこの大変は相当インパクトがあったものだと思っているんです。
次の若田さんのフライトで長期滞在3か月、野口さんで6か月、これまでスペースシャトルで長くても2週間でしたので、なかなか宇宙飛行士さんが一般の人たちに関わるチャンスを与えられる時間はなかなかつくれなかったと思うんですが、これからは宇宙の活動の中で、そういった余裕も生まれるのではないか。ひょっとしたら、宇宙飛行士さんは、これからいろんな宇宙教育のために、さまざまなアイディアと実際のプランをお持ちなのではないかということを、我々関係者はすごく期待しています。
是非とも、野口さん、JAXAさん、これから長期滞在が始まる中で、そういった企画というかアイディアをたくさん用意していただきたいと思います。
あと野口さん自身、こういうことを実はやってみたいんだけれどもというアイディアがありましたら、今ここでこっそりとでも教えていただけましたらありがたいと思います。
広報部長:まず最初に、我々もNASAのテレビというのは、放送で使いますけれども、是非これからもそういうものは使っていきたい。あと今後の長期滞在に向けては、科学館だけではないんですが、アピールすることを考えていきたいと思っています。まだ具体的に決めてはないんですが、これから決めたいと思います。
野口:岡山から、わざわざありがとうございます。御指摘いただいた点、私も本当に大事なところだと思っていまして、見ているのではなくて、何らかの形で自分も参加しているプロジェクトだというのは、すごい大事なところだと思うんです。
前回のフライトでも結構そこは気にしていまして、何らかの形で多くの人たちに、自分の関わった事業だった、ミッションだったと感じていただきたいということで、そのときにやっていたのは、メッセージ、寄せ書きをDVDに入れて、それを持って上がるということをやったり、あとは宇宙ステーションからメールを各自治体などに出すということをやったんです。それはもう2年前のことで、随分限定されたやり方でしたけれども、日本で見ている皆さんが、見ているレベルから自分が関わっているレベルにどういうふうにすれば感じていただけるかというのは、すごく大きなテーマの1つです。
1つ考えているのは、宇宙授業のようなものをよくやってますよね。それをもう少しクラスルームに入っていくというか、宇宙の方からクラスに下りてくるというか、そういったことが何とかしてできないか。
最近、ネット環境が整ってきて、教室でインターネットをつなげる環境が増えてきているじゃないですか。Skypeとかネットミーティングのようなものが一般的になっているので、教室で宇宙ステーション、あるいは私の実験の様子が見られることができるといいなというのがすごくあります。
もう一つは、一緒にやるという感覚かな。前回は、私は結構音楽が好きなので、民放の某番組とのタイアップでカレーをつくってもらったりとか、ウェイクアップミュージックで流してもらったり、それに対して私が宇宙でカレーを食べている風景を流すとか、私がキーボードを弾いている映像を下ろすということをやったんですけれども、次はリアルタイムで一緒にやりたいというのがあります。合奏のような感じで地上とジョイントするとか、歌を一緒にやるというのもあるだろうし、楽器を何とかしていろいろ持って行こうとしているんですけれども、そういったような形で地上と一緒にやる参加意識、一緒にやることで、自分たちの生活がそのまま「きぼう」につながっている。あるいは「きぼう」でやっていることは、実は自分たちがやっていることと密接につながっているんだという意識を、参加している皆さんに感じていただきたいと思っています。
<(1)宇宙活動に伴う神秘体験について (2)ISSの運用期間について (3)「きぼう」の有償利用について>
参加者:地元の者ですけれども、3点だけお願いしたいと思います。
1点目は、昔からアポロ宇宙船、地球周回旅行とか、いろんな飛行をされた方がよく言われることなんですけれども、神を見たということをおっしゃいますが、そういう経験はございますでしょうか。また、そういう経験がなかったら、だれかにそういう話を聞かれたことがないかということをお伺いしたいと思います。
2点目は、今、画面に出ましたけれども、ISSは2016年に運用終了という言葉が出ていましたけれども、あれはどういう意味なのか、それでもう終わりなのか。
3点目は、政府に予算がないから付けてもらいたいという気持ちはわかりますけれども、民間から資金を募集してやる方法はないかという点を感じました。
野口:スピリチュアルな体験の話は、日本でよくその質問を受けるんですけれども、立花隆さんの『宇宙からの帰還』という本が、もう20年ぐらい前に出まして、私もすごく好きな本なんですけれども、その中でそういう経験をしたという宇宙飛行士たちのルポルタージュがあったので、それで注目されたようなんですけれども、そういう経験をされた人は確かにいます。でも、すべてではないです。
私も宇宙飛行士になったときに、同じ感想を持っていまして、アメリカに行ったときに先輩宇宙飛行士をつかまえて同じ質問をしたんですけれども、そういうことを感じる人はすごく少ないんです。
私自身はどうだったかというと、特に神の存在を感じたことはなかったです。これは一神教のキリスト教の世界と多神教というか、やおろずの神を信じる日本人の世界との違いかもしれませんけれども、ただ、地球の美しさであったり、地球の周りを回っているという不思議さに関して、人間の力の及ばない、何か非常に大きな自然の摂理のようなものを感じたのは確かで、やはり地球というのは偉大な存在であるとともに、非常にはかない存在である。すべての命を1つの固体の中に収めつつ、その存在は本当に薄い大気のベールによってのみ守られていて、その外側はすべて死の世界であるというのが、概念で話すのと、目の前に固体を持ってこられて見せられて受ける感覚というのは、やはり全然違うわけですね。
2016年に運用終了の話は、現在そういう計画になっているということです。すべてのプロジェクトは始まりがあれば終わりもあるわけですから。国際宇宙ステーション計画も何らかの形で終わりがやがて来るので、そのときにどうするかというのは、非常に大きな問題だと思います。
最後のお話は本当に大事な話で、私に関わっている部分だけで言うと、「きぼう」のいろいろな利用形態の中で、大きなものは利用実験なんですけれども、そこに民間の知恵とアイディアとノウハウを入れていこうということで、有償利用という言い方をしていますけれども、民間の利用時間を設けて使っていこうという動きが実際に始まっています。若田宇宙飛行士のときから、一部始まりますし、私のときにも有償利用の枠がしっかり設けられるようになっています。
広報部長:今のところ有償利用というものをやっておりまして、先日もロッテのキシリトールガムの広告があったかと思うんですけれども、そういう形でどんどん有償利用は増やしていきたいと思います。わずかな資金かもしれませんけれども、それを私どもがいただいて、宇宙ステーションをよくしていくというふうに持って行きたいと考えております。
<スペースデブリについて>
参加者:先ほど宇宙から放射線が飛んできて、危険なことがあるということは聞いたんですが、地上でもいろんな乗り物が衝突なんかしているんですが、各国が上げた人工衛星とかの残骸、近年では中国が人工衛星を打ち落としたということもありましたけれども、それと宇宙から飛んでくる漂流物のようなものがあって、危険なことがあると思いますが、それに対応することは考えておられますか。
野口:ありがとうございます。今、御指摘いただいたのは、いわゆる宇宙ごみの問題、スペースデブリと言ったりしますけれども、おっしゃるとおり非常に大事な問題です。間違いなくそこに存在する危機の1つで、中国の衛星破壊のときにも、非常に我々も宇宙ステーションの軌道と重なる部分がどれぐらいあるかというのをいろいろと解析していましたけれども、大きなごみに関しては、地上からレーダーを使って、専門の職員が何人も配置されて、そういった宇宙ごみのトラッキング、追跡をしている人がいるぐらいですので、状況によっては先ほど出てきている宇宙ステーションを衝突を避けるためだけに軌道を変えるようなことができるようになっています。
宇宙船の外壁にも、単に熱とか放射線から守るだけではなくて、宇宙ごみと衝突したときにもそれが貫通しないようにするための、バンパーパネルと言っていますけれども、防御パネルのようなものがわざわざくっ付いていたりして、日本の「きぼう」にもちゃんと付いていますけれども、そういったような形で何重にもプロテクトしています。
ただ、私がやっていた船外活動で言うと、どんなにやっても衝突の可能性としては残るわけです。特に宇宙服の場合には、そんな分厚いバンパーパネルを着せるわけにはいかないので、そんなのを着せたら中世の騎士のようになってしまうので、そこのところのリスクは排除できないです。
ですから、変な話ですけれども、船外活動を2人1組でやる理由の1つはそれなんです。何らかの理由で、私なり相棒なりが宇宙ごみの貫通で出血多量になった場合に、意識がなくなりつつある宇宙飛行士をつかまえて、自分の命綱にくっ付けて、さっさと入ってくるという訓練をやるんです。
そうなる可能性が否定できないので、そうなったときに、ともかく早く宇宙船の中に連れ込んで手当するという訓練をしています。幸いにして、船外活動中の宇宙飛行士にぶつかった例はないんですけれども、宇宙船の外側に宇宙ごみが衝突して穴が開いたのは幾らでも例があります。衝突したときに、バンパーパネルを通過してたけれども宇宙船の外壁には穴が開かなかったということですね。それは本当に多いです。
<(1)アメリカとロシアの宇宙活動の違いについて (2)JAXAの長期展望について>
参加者:いろいろ面白い話をありがとうございます。まず、野口さんにお聞きしたいんですけれども、今度、スペースシャトルではなくてソユーズで宇宙に行かれるということなんですけれども、アメリカのやり方とロシアのやり方で、こういったところが違うというのがあれば教えていただきたい。
それから、これは間宮先生にお伺いした方がいいと思うんですけれども、JAXAの次期の宇宙活動で、月や火星に行くということなんですけれども、第一部の話でもあったんですけれども、なかなか夢がないとそこへ到達する技術が育たないということなので、JAXAの持っている月とか火星での夢はどういうことなのかお教えください。
野口:ロシアとアメリカの違いは、いろいろ面白い話があります。アメリカはスペースシャトルで上げている。ロシアはソユーズで上げている。やはりそれぞれねらうものが違うわけです。アメリカの方は、スペースシャトルという非常に多目的、ある意味多目的過ぎるぐらい多目的な宇宙船を上げることで、大きな宇宙ステーションをつくっているわけですけれども、ロシアの場合には3人の人間が宇宙に行って帰ってくるために、最低限何が必要かというのをある意味突き詰めているのがソユーズ宇宙船だと思うんです。本当に狭いですし、私がソユーズの訓練をして、コックピットに座ると、いつも日本の押入れを思い出すんですけれども、すごく狭いところで、でもそれで確実に3人の人間が宇宙から帰ってくる技術を詰め込んでいる空間なわけです。
スペースシャトルでの経験は、JAXAは計6人、10回の有人飛行を経験していますけれども、ソユーズに関してはこれからで、ましてやカプセル宇宙船の操縦を直接担当するポジションに外国人が入るということ自体非常に珍しいんです。そういう意味では本当に光栄ですし、これを機にいろいろ勉強して、それが日本の将来の有人活動につながるように持っていきたいと思います。
ですから、カプセルをつくるということも大事ですけれども、先ほどの話じゃないですけれども、ではカプセルが動いてきて、それだけで何なのかという議論があるわけですね。でも日本の場合には、過去20年かけて、世界に並ぶ、第一級の研究モジュールを実際につくって打ち上げたわけじゃないですか。その間のいろいろな環境利用に関する成果も十分出してきているわけで、こういう話は私もよく宇宙飛行士同士でもやりますし、毛利さんとか向井さんともよく話しますけれども、何のために宇宙に行っているかというところに自然に返ってくると思うんです。ですから、単に有人カプセルがないからといって、どこの国よりも負けているということはないと思います。その間に、我々日本がやってきたこと、そしてこの「きぼう」モジュールで成し遂げたこと、更に言うと「きぼう」を運用している管制センターの能力というのは、世界第一級のものです。我々宇宙飛行士もそうだし、それを支える人たちも含めて、そういったインフラをつくってきたというのは、本当に大きなことだと思います。
ですから、そこにこの後、HTVという、日本の種子島から打ち上がって宇宙ステーションまで、少なくとも片道は問題なく行けるという輸送手段が確保されると、そこから先は結構早いんじゃないかというのが、現役宇宙飛行士としての希望でもあるし、実は似たようなことを考えている、そういうふうに見ている外国人宇宙飛行士も結構多いです。
間宮:後半の話ですが、先ほどの私の中でも触れたんですけれども、私個人が今、何を考えているかといえば、やはり一気に火星というのは日本はまだ無理だと。まず月だと。月が南極のように各国が寄り集まっていろんな活動をする場になるだろうということです。そのときに、日本が各国と並ぶような活動をできるようにしたいということです。
したがって、最初は輸送に関しては、アメリカに頼るだろうと思います。並行して、日本独自の技術をつくっていき、最初は輸送は頼んで、月でも活動をやりますけれが、いずれは自前の有人技術を持つ。
そのためには、何が必要かということを考えていって、ここの部分はH-IIBの信頼性を上げていけばできるとか、ここから先はH-IIBを有人化していけばできるとか、あるいは今、帰りは燃やすことにしていますけれども、あれが燃えないようなカプセルを積んでいって、まずソユーズ型の有人帰還をやるとか、そこはこれから着実にやっていきたい。今、野口さんが非常にいいことを言われたんですけれども、やはり日本というのは非常に静かではあるけれども、ひたひたといろんな技術を獲得しているわけです。
今度の宇宙ステーション参加の意義ということを問われるんですが、我々が考えているのは有人をやっていくときに必要な技術の中で、上で居住するという技術が要るわけです。この居住するという技術をつくり上げるために、アメリカのNASAはアポロ計画以来36兆円使っているんです。住むということだけに関して言えば、日本は1兆円も使わずにその技術が手に入るわけです。つまりいかに効率的に必要な技術を獲得していくかということです。これはまさにJAXAが持っている戦略であって、ただ、一気に大きな声で叫んでもできないけれども、要請が来たらできるという状態を着実に作っていくというのがJAXAの役割だと思っています。