JAXAタウンミーティング

「第21回JAXAタウンミーティング」 in 肝付(平成19年12月8日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙への進出:探査と利用」で出された意見



<宇宙太陽発電の電磁波影響について>
参加者:太陽発電で、電磁波で一瞬に電力を起こすというご説明がありましたが、例えばその下を人が通った時に、電子レンジの中を移動するとか、そういう状態にはならないんでしょうか。それと、地上での通信に、その電磁波が影響を及ぼさないのかという、2点、よろしくお願いします。
佐々木:これは非常に重要な問題です。皆さん、携帯電話で使っているようなマイクロ波が大体、1mW/cm2、これが世界的に決められた基準ですが、今、宇宙から地上へ送ろうとしている電力密度というのは実はそれよりも平均的には20倍程度高いんです。ただしそこを飛行機が通っても、ほとんど何も問題が出ません。あるいは今、20倍、30倍高いとお話ししましたけれども、エネルギー密度で言えばですね、太陽のエネルギー密度は地上で1KW/m2なんです。平米1000Wなんですね。今、マイクロ波で送ろうとしているものは最大でせいぜい平米200W。つまり太陽のエネルギーの5分の1なんです。ですから熱的にはほとんど問題がありません。後は、マイクロ波を使うことによって、生体に問題が起きないかですけれども、これも立ち入り禁止場所より外では皆さんが今、携帯等で使われている程度のエネルギー密度以下にします。逆にそれ以上大きくエネルギー密度を上げないような送り方をするということで、そういった問題が起きないようにします。例えばマイクロウェーブを大きな受電アンテナを使って、2km四方ぐらいの領域に落として、その代わりエネルギー密度は人体、あるいは鳥とかあるいは飛行機とか全く問題ないようなエネルギー密度で、電力を地上に下ろすということで開発することになっています。
もう一つの通信の問題は、非常に技術的な研究が必要な問題なんですが、半径2kmぐらいの部分というのは結構なエネルギー密度になりますから、そこは人が入らないという領域です。その外の領域でも通信に影響してはいけないので、このマイクロ波をちょうどレーザーと同じようにビーム化して送り、それ以外の部分には悪い影響を与えないビーム制御というやり方をとります。これには技術的な研究が必要です。このように外部にはマイクロ波が漏れず、ある指定された所だけにマイクロ波を送るといった送り方をするというのが、設計の条件になっています。ということで、通信には影響がないようなやり方で送ること。また、人体あるいは鳥、あるいは飛行機には影響がないようなエネルギー密度で送ってくることを、原則として考えています。

<SELENE月着陸計画について>
参加者:5、6年前の当初のSELENE計画ですと、月に無人の探査機を軟着陸させるという計画があったんですが、その計画が今、どうなっているか教えていただきたいんですが。
佐々木:SELENEがスタートしたのは約10年前ですね。その当時の計画段階では、エンジン部分を切り離して月面に降ろすという軟着陸構想を持っていました。ただその計画が段々進んでいくうちに、まだちょっと技術的に難しいなというところがありまして実現しませんでした。まだ決まっていませんけれども、今回のSELENE(「かぐや」)の次のミッション、SELENE2にその部分は託そうということなっています。現在、SELENEは非常にうまくいっていまして、SELENE2というのが検討されていて、計画が少しずつ頭を出してきています。SELENE2ミッションでは、着陸することがターゲットになっております。

<エネルギー供給体制と、マイナスエネルギーの利用について>
参加者:最終的に化石エネルギーがなくなった時代に、宇宙からのエネルギーの発電を行うようになった場合、隕石、デブリみたいなものでも、軌道上全く予想つかないようなものがあり、発電機器などを破壊することによって、エネルギーの供給がものすごく不安定になるのではと思います。そういったトラブルが予想されることがあるのでしょうか。また、月の裏は、太陽が当たりません。マイナスの温度自体をエネルギーとして考えることは難しいのでしょうか。温度が低いものでも、エネルギーとして同じように地球上に送って、それを利用するというのは考えられないのかなと思ったりしたんですけれども。
佐々木:いくつかご質問いただきました。一つは宇宙太陽発電所の話ですね。電力業界の方々の言葉に、「ベストミックス」という言葉があるんです。今後とも、化石燃料ももちろん若干寿命延ばして使います。それと原子力発電や水力発電もある程度使います。そういったものを全部ミックスしていくんです。つまり、どれかがやられると、もう全面的にダメになるようなやり方じゃなくて、エネルギーシステムとしてはいろんな種類のものを集めて使用し、相互が補いながら運用していくという考え方です。あるものは30%、これが20%というふうに、いくつかの方法に分けて人類はうまく使っていって、どれかが問題を起こしても全体として問題にならないように、「ベストミックス」という考えを電力業界の方はちゃんとお持ちで、宇宙太陽発電もその中の一つの候補だろうというふうに思っています。
もう一つは、宇宙太陽発電所のような大きなものを打ち上げたら、宇宙のゴミの衝突の問題があります。宇宙には人間が出したゴミや、メテオロイドと呼んでいるたくさんの宇宙塵、宇宙での埃が、猛烈な勢いで飛んでいます。そういったものにこれが耐えていかないといけません。実は、さっき一つの例としてデザインしたシステムをお見せしましたけれども、一つ穴が開いてもそれが大きく広がらずに、小さな領域の破損ですみ、全体に影響しない設計方法を取っています。30年の寿命でそういったゴミが当たって少しずつ壊れるというのがほんの数パーセント。そのぐらいはしようがないということで、一つの衝突トラブルで宇宙発電所が全部やられるというようなことがないような設計をすることにしています。
三つ目は、私が質問を正しく理解しているかどうかわかりませんけれども、月の裏側が特に冷たいというわけではなくて、月は月に1回自転していますので、月の裏側が常に夜というわけではありません。月の夜の部分は、マイナス170度ぐらいの温度になります。逆に昼の温度の高い所ではプラス130度になります。その低温がエネルギーシステムとして利用できないかということですが、低温というのはエネルギー状態が非常に低い状態です。そこからエネルギーを取り出すのは、なかなか難しいです。むしろ高温から低温に、温度の高い所から低い所に熱輸送ができます。そのプロセスを使ってエネルギーを取り出すことはできますが、月の冷たい所を利用してエネルギーを取るというのは難しいですね。
それと、月には昼と夜があって、低温と高温を繰り返していますが、月の極は違います。地球は自転軸が傾いているんですけれども、月は黄道面に対してほとんど自転軸が90度に立っているんです。ということは、月の北極、あるいは南極では、例えば月の北極にクレーターがあれば、そこは自転してもずうっと日が当たらないので、マイナス220度という非常に冷たい部分になりますね。そこには水の氷があると言われています。「かぐや」でもそれを調べようとしています。もし水があれば、これはエネルギー的にも、または将来人類が月に行った時にも非常に役立ちます。あるいはロケットの燃料にも使えるということで、水がそういう非常に冷たい所にあるかどうかは、国際的な関心の的なんですね。アメリカ、中国、インドでももちろんそうなんですけれども、極に水があるかどうか、将来私たちが利用できる水があるかどうかが、月探査の一つの重要な目的です。水はエネルギー資源というよりも、それを利用してロケットエンジンの材料として使うとか、あるいは生活に使うといった、人類にとって非常に有用な資源と考えられています。ただ温度が低いということだけを利用してエネルギーを取り出すというのは、できないと考えられます。

<次期固体ロケット打ち上げ候補地>
参加者:2011年ですか。新しい固体ロケットでは、内之浦は候補地なんでしょうか。内之浦がいいのか、また他に候補地があるのでしょうか。
森田:公式には内之浦を第一候補として考えることになっています。いろいろな理由を分析すると、内之浦が最適だというふうに考えています。少なくとも二つのポイントがあって、一つはこの新しい固体ロケットは、運用性というか、組立始めてから1週間ぐらいで飛び、その時にあわせて衛星の整備も終わらせようというふうに考えています。例えば種子島で打ち上げようとした場合、種子島では大きなロケットの整備とか、大きな人工衛星の整備が、同時に走っている可能性が非常に高いわけですね。大きな衛星の燃料というのは危険なので、燃料を入れている時には、他の作業はできません。その期間は、1週間とか2週間かけてやらなくてはいけません。そうすると新しい固体ロケットは、簡単にすぐ打てるというところにメリットがあるのに、大きな衛星の整備があるから、今日から2週間作業できませんよなんて言われると、そのメリットはなくなっちゃうわけですね。ですからこの新しい固体ロケットの目的、小型衛星を頻繁に、簡単に打つという目的から照らすと、内之浦で他のロケットとか衛星の作業がない所で準備をするというのが一番最適だろうというふうに考えています。
もう一つの点は、これはロケットの打ち上げ能力の観点です。例えば、去年打ち上げた「あかり」とか「ひので」みたいに南北に回す衛星がありますね。南北に打つ場合は、簡単には真南に打ちたいわけですね。だけど内之浦から真南に打とうとすると、種子島があって危ないから、ちょっと東寄りに打って迂回して打つわけですね。種子島も同じで、種子島の射場より南側にいろいろあるので、やっぱり東寄りに寄って、迂回して打たなきゃいけません。実は、迂回しなければいけない量が、内之浦のほうが少なくて済むんです。例えば簡単にいうと、極軌道の衛星を内之浦から打つと、500kg上がります。種子島だとおそらくその半分ぐらいしか上がらない。打ち上げには制約がありますから、現状も新しい小型ロケットも能力が限られていますから、できるだけ条件が良いところで打ちたいということを考えると、内之浦が最適かなと思います。技術的な観点とその運用性のしやすさ、管理のしやすさから考えると、第一候補というよりも、最優先の所なのかなというふうに、私は考えています。

<衛星技術の積み重ねについて>
参加者:「はやぶさ」が今、帰還中と聞いていますけれども、どの辺に飛んでいるのでしょうか。いつ地球に帰ってくるのでしょうか。それから「ひてん」には、「はごろも」という孫衛星が、月の周回軌道に載ったということでした。残念ながら計器の故障で帰還することできなかったように聞いております。こういった一連の活動が、「かぐや」の成功の下敷きになっているんじゃないかなと、私は思います。
森田:まず「はやぶさ」については、既に地球に帰還する軌道に載っています。帰還する時期は、2010年の6月ごろで、地球の大気圏にリエントリーして、サンプルを地上で回収する運びになっています。ですからもうしばらくお待ちください。それから「ひてん」と「はごろも」ですが、「はごろも」という孫衛星というか小さな衛星を月の周回軌道に入れた経緯もあるんですけれども、残念ながらそこから電波が出なかったものですから、正式に周回軌道に載ったかどうかは認定されていません。ただ月に関しては、「ひてん」とか、火星探査機「のぞみ」というのがあります。「のぞみ」は実は「はやぶさ」みたいにいきなり火星に飛んで行ったんじゃなくて、月で何回かスイングバイして、火星の軌道に飛んで行くということをしていて、そういう積み重ねが確かにあるんですね。ですから「ひてん」だけじゃなくて、そういう「のぞみ」とかの成果を含めて、月に非常に近い軌道に探査機を入れるという技術を積み重ねてきたことが、「かぐや」の成功の一因だったことは、確かに言えると思います。
佐々木:「かぐや」の軌道計画は、「ひてん」の軌道計画をレファレンスとして、今回選んだコースです。その意味では10年以上前の「ひてん」の計画や知識が、「かぐや」に活かされたと思います。

<ミッション終了後のロケット、衛星について>
参加者:今、世界中から上がっている衛星、ロケット、それから毎週上げようというロケット。一体このロケットや上がった衛星は、一体どうなるんでしょうか。何か単純にそういうことを知りたいなと思って質問いたしました。
森田:用がなくなったロケットとか人工衛星をどうするか、という趣旨について、まずロケットの話からしますと、冒頭、私は1週間で打ちたいとか、2週間で打つような世の中が来るでしょうと申し上げました。それは、佐々木先生のお話の中でもありましたが、ロケットはゆくゆくは再使用、完全再使用になると考えているからのことで、未来のロケットは飛行機のように気軽に飛んで行って、そのままの形で帰ってくるでしょう。ですからロケットに関しては、捨てちゃう部分というのはなくなると思うんですね。使い捨てのロケットというのはしばらく運用されますけれども、我々が目指しているのはあくまでも完全再使用のロケットです。その為にはそういう整備の期間とか準備の期間も短くしていく必要があります。その為の準備が、この新しい固体ロケットだと思っています。そういう意味ではロケットは完全再使用になります。
人工衛星について、これは地上で回収しようとすると、すごく大変なんですね。人工衛星というのは非常に軽量で高機能に作ってあって、とても大気圏の突入に耐えられるようなものではありません。それを逆手にとって、任務が終わった人工衛星は、地上で回収するのではなくて、例えば大気圏に突入させて、燃え尽きさせてしまうということを当面は考えています。その為に人工衛星は、最後に必ず軌道を制御する燃料を取っておいて、人工衛星の役目が終わった時には、その燃料を使って地球の大気圏に突入して、燃え尽きるということを考えています。それが地球の大気の環境にどう優しいかと言われると、たぶんそんなに優しくもないと思うんです。ですから、次の段階ではどうするかということも、考えてないわけではないです。一つには、宇宙の軌道、周回軌道のある1か所にそういう人工衛星の墓場というと言い方が悪いですけれども、任務を終わった人工衛星を集めておく場所を作っておきましょう。衛星は最後に残った燃料でその軌道に移るんですね。そのままだと具合が悪いので、おそらく将来は再使用のロケットでそこに行って、今のスペースシャトルみたいなものですね、荷物を積むスペースがあって、そこで利用済みになった人工衛星を全部乗せて、地球に再び帰ってくる。そういう世界が、まあ近い将来とはとても思えないんですけれども、50年とかそのぐらい先にはそういうシステムができるだろうと、我々はそういうことも考えています。ですから大事な宇宙空間に人工衛星をほったらかしにはしません。大事な地球の空気も人工衛星を燃やしたりして無駄にしたりしないという、そういう方向でも考えています。

<ホームページの見方と打ち上げカウントダウンの町内放送のお願いについて>
参加者:宇宙の映像とか研究の成果をインターネットで見ようと思うんですけれども、インターネットに詳しくないのでなかなかたどり着けないんです。そういったものが内之浦で簡単な操作で見られるような設備があったらいいなと思うのが一つです。それから、ロケットの発射を関心を持って見たいのですが、実験場の近くの見学には、カウントダウンが確かあったと思うんですが、このへんでは流れないんですよね。だから空を見上げて待ったり、よそ見しているとつい見逃してしまうというようなことがあるので、カウントダウンが町内放送で流れるということがあれば、緊張感があっていいかなって思います。
矢代広報部長:まず一つ目について、宇宙の映像や研究の成果は、JAXAホームページ、あるいはデジタルアーカイブスなどで、そういう画や情報がございます。最近の「かぐや」の月の画や地球の画が、動画も含めてダウンロードできるようなサービスを提供しておりますので、是非トライをしていただきたいと思います。またそれではよくわからないいう方は、JAXAのホームページに広報部の電話番号やメールアドレスがなどお問い合わせ先がありますので、そこにご連絡ください。インターネットをお使いでしたら、こういう順番にやってください、とお伝えすることができます。あるいは画像などを教育的に使いたい、転用して使いたいなど、いろいろなご要望があるかと思いますが、そういうことも含めて、是非広報にご相談をいただければと思います。それからもう一つの内之浦で提供してもらえないかというお話でしたが、これは宿題として検討させてください。
それからロケットの発射の時のカウントダウンも、内之浦の状況を確認して、どういう形で、カウントダウン情報ですから5分前とかそういう話ですので、それを流せるかを検討いたします。

<次期固体ロケットの打ち上げ範囲規制について>
参加者:ロケットの打ち上げを見るのが、ちょっと趣味ではまっているんですけれども。次期固体ロケットの打ち上げ時の範囲規制というのはどれぐらいなんですか。Mロケットよりもっと近くで見えるのでしょうか。
森田:その点に関しましては、今、安全上の検討をしているところです。今回のロケットは、今までのMロケットみたいに斜めに打つんじゃなくて、垂直に打とうとしているんですね。それは何故かというと、斜めにして打つよりも、ロケットの強度とかいろいろな理由で有利なんです。コストとか利便性を考えると垂直のまま打ちたいと思っています。そうすると、今まで斜めに打ってすぐ海の上に出ていたので、地上に対する危険度が相対的に下がっていたんですけれども、垂直打ちだとしばらく地面の上に飛んでいくので、なかなか海の上にすぐには出てきません。若干安全上の規制という点では不利になってしまうかもしれないですね。そういう意味では、まだ検討中でどうとも言えないんですけれども、もしかしたらM-V時代よりも若干、数百メートル遠くで見るということになるかもしれないですね。なるべく近くでご覧いただけるような方向で進めたいと思いますけれども。そういう制約があるということだけは知っておいて欲しいと思います。

<次期固体ロケットの設備について>
参加者:発射台とかはまた新しく建設されるんですか。
森田:発射台を今の設備をそのまま使ったほうが得なのか、もうこの際、全く新しい仕組みのものを考えたほうがいいのか、いろんな観点から検討しています。私の感触からすると、新しい発射台を作ったほうが、いろいろ新しいコンセプトを導入しやすいのかなと考えています。M-Vロケットを打っている発射台のあたりに新しい発射台を作ったらいいんじゃないかという方向でも検討しています。
参加者:Mのランチャーとかもそのまま使用されるということですか。
森田:Mの発射台の建物を組み立てのためにそのまま使えるか、使わないほうがいいかという点も含めて、今検討しているところなんです。使わないんだったら撤去して、逆にその場所を新しいロケットの打ち上げに有効に使えるんじゃないかなと考えています。