「第21回JAXAタウンミーティング」 in 肝付(平成19年12月8日開催)
会場で出された意見について
第一部「『利用する宇宙』から『行く宇宙』へ」で出された意見
<科学衛星の打ち上げについて>
参加者:今回新しい次期固体ロケットの打ち上げの予定とかは決まっているのでしょうか。できたら「ASTRO-G」を打ち上げてほしかったんですが。
森田:宇宙科学の衛星というのは、地球を回る軌道だと2トン近くの大きさのものになります。それだけ大きくなると、計画を考え始めてから、打ち上げてデータを得るまで10年近くもかかるんですね。データは世界一でも、その頻度があまりにもまばらなので、もうちょっと頻度良くデータを得たいというニーズがこれからどんどん増えてきつつあるんです。今考えている小型の衛星というのは、だいたいM-Vで打ち上げる衛星の3分の2ぐらいの重さ、1.2トンぐらいのものです。そういうものをもっと頻度良く打ち上げたい。例えば、いま10年かかるのなら、2年ぐらいで打ち上げたい。そういうことを我々は考えています。当面は、「ASTRO-G」みたいな大きな衛星ではなく、小さめの衛星を上げましょうということです。初号機は2011年度の末ですから2012年の初めの頃に打ち上げようとしていますが、これに載せる衛星をどうしようかというのはまだ検討中です。では、「ASTRO-G」のような大きな衛星は今後どうするのかということですが、今は、この小型のロケットをとにかく造って、小型衛星の要求に応える、これが最初の使命なんですね。そして、次のステップで、大きな衛星を打てるようなロケットに、バージョンアップしようとしています。それはまだ明確な予算がついた計画ではないですが、だいたい2011年度から数年後にはM-Vを超えるようなもうちょっと大きなロケットを是非造りたいと、そういうふうに考えています。その時には「ASTRO-G」がH-IIAで先に上がっちゃいますが、「はるか」の次世代機みたいな衛星は余裕を持って、この新しい固体ロケットの次のステップのロケットで上げられるように頑張りたいと計画しています。
<ロケット打ち上げの地元への経済効果について>
参加者:先生の説明と地元の人間とで考え方に違いがあります。例えば性能と運用性、それから高性能と低コスト、これを認めないわけでもないし、経済的な国の厳しい情勢を考えると、そうなるべきだと思います。ただ、打ち上げから運用まで、最終的にもっと2、3人のスタッフでできるんだということですが、地元としては、あと数年でポンと上げて、はい、終わりました、ということだと、内之浦に対する経済効果というものを心配してしまいます。上げる回数をたくさんできるように頑張って、是非とも地元の経済効果も考えておいていただきたい、そう考えておりますが、いかがでしょうか。
森田:私もこの新しいロケットの開発の責任者である前に、一人の宇宙ファンですので、今のご意見は全く同感です。ちょっと補足させていただきますと、さっき申し上げた2~3人というのは、あくまでもロケットの発射に関して、打ち上げる前にロケットが正常かどうかを判断して、最後にロケットに火を着ける。そこのところの人数が、今の50人ぐらいから2~3人ぐらいになるんじゃないかというところを説明させていただいたんですが、その他にもアンテナの運用をする人とか、あるいはロケットに載せる人工衛星の運用をする人とかありますから、全員で2~3人というわけではないんです。全員の数を入れると、やっぱり報道関係に対応する人たちの数とかも全部入れると、たぶん100人近い規模に、結果的にはなるんではないかと思います。それからもう一つ、何でこんなに少人数で、あるいは短期間で打てるようにしようとしているかというと、頻度を上げたいというところに目的があるんです。頻度を上げるためにはどうしたらいいかということで人数を減らしたり、地上の設備を簡単にしようとしているわけなので、数を増やすためにやっているということも是非ご理解いただきたいと思います。「少なくなった人数×増えた打ち上げの回数=」ということで考えれば、決してそんなにしけた打ち上げにはならないと思います。その方針で頑張りたいと思います。
<ロケットの自律的な点検について>
参加者:自律的にロケットの点検が行われるような技術をお話しになったかと思いまいすが、その為の検査などを踏むことによって、逆に重くなったりとかいう心配はないでしょうか。
森田:ロケットの中の状態と言いましても、たいがいが電気製品の中のチェックなんですね。例えば、通信装置とか誘導制御に使っている計算機とか、点火系でいうと、電線の抵抗値なんかです。これを測るため余計なセンサーを載っけたりとか、そういうことは実は必要ないんです。簡単に言うと、パソコンの中がどうなっているか点検をする時に、特別な装置はいらなくて、例えばインターネットでつないで、パソコンの中のメモリの状態がどうなっているか、チェックするだけですよね。それと同じことをロケットでもしようということです。誘導制御系の計算機のチェックを考えると、誘導計算機の中のメモリにアクセスして、それが正常か異常かをチェックする程度の話ですから、こうすることによってロケットの点検の手間というのは、コストにおいても大幅に削減できるというふうに考えています。
<無誘導打ち上げについて>
参加者:30年ほど前に無誘導で人工衛星を打ち上げたと聞きます。無誘導で人工衛星を打ち上げて軌道に載せるというのは、相当な技術があったのでしょうか。制御する技術はまだまだそこまでいっていないのに、敢えて打ち上げたのでしょうか。
森田:当時は誘導制御をするために必要な、例えば計算機とか、あるいは姿勢を知るためのセンサーとか、軌道を知るための加速度計とか、そういうものの精度があまり高くなかった。やろうとしても、当時はそんな高級な制御はできなかったんです。ですからてっとり早く人工衛星を上げるためにはどうしたらいいかというのを考えると、もう無誘導でやらざるを得なかったのです。ただし無誘導というのは実は良いこともあって、というのは、内之浦のロケットは斜めに打ち上げていますが、最終的に人工衛星になるスピードの時は地面に平行なわけです。だからロケットというのは、斜めに打っても、あるいは種子島みたいに垂直に打っても、段々段々と姿勢を寝かしていかないといけないわけです。寝かすために、ロケットは制御していくんですが、実は制御しなくても寝てきちゃうんですね。速度の方向を重力が引っ張るために、段々上に伸びていたものが自然に寝てくるんです。それを逆手にとったわけです。だから無誘導というのは、全く何もしないということではなくて、重力のお陰で人工衛星の軌道にロケットが自然に向かっていく。その軌道を適切に設計していたということなんですね。軌道を適切に設計することによって、無制御でも人工衛星の軌道に乗るようにすることができたわけです。これは当時でも画期的な打ち方であったそうで、そんな打ち方では絶対人工衛星は上がりっこないと、世界中の人たちから言われていたそうです。それを敢えて糸川先生のグループは、そんなことはない、こんな方法でも絶対上げられるという信念で上げたそうです。ですからそれも、この日本が誇れる技術の一つですよね。世界中の人たちから笑われても、信念を持ってやれば絶対実行できるという、そういう一つの実例であったと思います。
<打ち上げのインテリジェント化について>
参加者:インテリジェント化で、ロケット打ち上げの人員を削減したいということですが、これはNASAなんかはどれも技術的には持っているわけでしょうか。
森田:インテリジェント化の話ですが、世界の流れというのは、間違いなくそっちに向かっていると思います。ロケットがあたかも知能を持ったロボットように、人間がああだこうだと言わなくても、自分で自分の状態を知って、そして上がっていくというそういうシステムに必ず未来はなると思います。ただ現状は全然違います。たくさんの人が、たくさんの装置を使って実験して、お祭りのような騒ぎで打っているというのは、世界中のどこのロケットでも今、共通です。その事は私たちだけでなく、アメリカの人もヨーロッパの人も、みんな同じことに気づいて、同じことをやろうとしているに違いないと思うんです。今は完全には日本もどこもできていない。私たちは、頑張ってこれを予定通りの計画で進めれば、世界で初めてこういうシステムを実現させる、今そのスタートラインに立っているんです。ですからこういうことを予定通りにやれば、M-Vロケットが性能で世界一になったのと同じように、新しい固体ロケットは、ロケット打ち上げの仕組みという意味でも世界一になれると思っています。
<小型衛星の商業打ち上げについて>
参加者:商業化を目指して、一般企業などの人工衛星の打ち上げに対応するのでしょうか。
森田:小型衛星の商業利用。これも当然、考えています。今、内之浦から打ち上げている衛星というのは、みんな科学衛星なんですね。これからも科学衛星は絶対必要なんです。日本の天文学とか、惑星科学というのが、やっぱり世界で一流のレベルにあるのは、こういう衛星で観測してデータを採っているというところにあるんです。ですからこれからも宇宙科学をリードするためには、内之浦から科学衛星をどんどん打つということは絶対必要です。けれども、こういう新しいロケットとかコンセプトとかにするのなら、それだけじゃ物足りない。やっぱり世界中のいろいろな小型衛星を打ち上げるようにしたいです。頻度を上げるためには、一つひとつの打ち上げが安くても、予算が必要なわけですよね。冒頭、矢代広報部長からお話がありました通り、日本の宇宙予算というのは非常に少ないです。少ないながらもこんな事をやっているというのは、驚異的なんですが、何か考えないといけないんです。その一つがやっぱり商業利用なんですね。国の予算だけでは足らなくて商業、一般市場のニーズに合ったものもどんどん打ち上げていく。そうすれば一般市場からもお金がくる。そういうことを考えないと、おそらくこれからの宇宙開発というのはうまくいかないと思うんです。そういう意味では我々は世界の小型衛星を科学衛星に限らず上げたいというふうに考えています。
<宇宙の果てについて>
参加者:前から不思議でしようがないのは、ビッグバンという話を聞いたのですが。これ、私どもの宇宙というのは広大無辺で限りないと聞き、限りがあったらその向こうは宇宙じゃないのかなと聞きたいんですけれども。
森田:宇宙の限りですよね。私が聞いた範囲というか、学んだ範囲では、昔、宇宙は1点になっていてそれが爆発して今膨張し続けています。それが今の宇宙の姿なんですね。この範囲を宇宙と呼ぶ限りにおいては、まだまだ膨張の過程にありますから、つまり爆発した炎がまだ広がっている段階にありますから、限りはないんです。正確に言うと、ある瞬間に限りがあったとしても、そこはまだ膨張の過程にあるので、すぐ次の瞬間、限りではなくなってしまう、そういう意味で、宇宙に限りがないというふうに言われているんですね。ですからその先、本当にどうなっているのかというのは、まだ解明されていなくて、それをいかにして知るかというのが宇宙科学の目的の一つになるんですね。現時点では、まだ永遠のテーマの一つとして解明されていないというふうに思っています。それを解明する為の一つの決め手が、星の誕生の様子とか、星の一生の終わりの様子を知るということなんです。宇宙の果ての近くの所はなかなかまだ調べられない。だけどもうちょっと我々に近い銀河の所で、まだ膨張過程で星が生まれている、星雲が生まれている。そういう所があるんですね。そういう所というのは、まだ宇宙ができ始めた所で、ここのところは赤外線の望遠鏡で見るとよく見えるんです。星の赤ちゃん、赤外線で見るとよく見えます。赤外線衛星を上げる理由はそこなんです。どうやって星ができているかというそこのところを研究しているというころが一つにあります。そのあと、星の赤ちゃんが成長して星になって、最後、星のおじいちゃん、おばあちゃんになって、最後、星の一生の終わりとして、そこで超新星といって星が爆発したりするんですね。その時に、星がX線を出したりするんです。それをX線の望遠鏡で見ることによって、星の一生と最後がどうなっているかというのがわかる。それが出発点なんです。星がどうやって生まれて、星がどうやって死ぬのか。それを知ることによって、今度は銀河がどうやって生まれて、銀河がどうやって死ぬかというのがわかる。そのさらに次に、この宇宙というものが一体どうやって生まれて、どうやって死のうとしているのか。わかるのではないかと思っています。宇宙の定義というのがあると思うんですが、今、我々が考えている宇宙というのは、冒頭お話ししましたようにビッグバンで始まった宇宙、それが宇宙なんですね。そういう意味においては限りはある。瞬時、瞬時にはあるんですけれども、まだ膨張しているから、ある瞬間の限りは次の瞬間の限りではないという意味において、限りはない。それはただし、今我々がこうやって住んでいるビッグバンで始まったという宇宙の話に過ぎないですね。だからビッグバンは例えば一つなのか、二つなのか。ビッグバンは膨張しきったら、今度また収縮してビッグバンの種に戻るのか戻らないのか、そういうことは全然わからないんです。だから多分、ビッグバンから始まった宇宙の質量がどうなっているかというのは、全くわかりません。それを知るということが、宇宙科学の一つの目的だと思うんですね。我々が人工衛星を上げる理由の一つが、人工衛星から宇宙を見るというのもありますが、地球を見るという目標もあります。宇宙から地球を見ることによって、我々が初めて地球本来の姿を知ることができ、地球とは何なのかというのを、外から見ることによって知ることができるわけですね。それが私たちには可能なんです。一方、宇宙のほうは、我々は残念ながら、ご質問のように、今我々がいるこの宇宙の外から宇宙を見れないもので、あくまでも中にいながら中のことを知るわけです。これはやっぱり難しい問題です。いつか、技術的に光速より速い宇宙船というのがもしできたら、可能だと思うんですが。アインシュタイン博士の相対性理論というのがありますが、あれは相対論ではなく、実は光速絶対論なんですよね。光速より速いものはないと言われてしまったのがこの現在の宇宙で、その限りにおいては光の速さで宇宙の果てに行こうとしても、絶対たどり着けない。何故かというと、もう既に先に光の速さが行っちゃっている宇宙が我々の縁のほうにある、だから永遠に端には行けないわけですね。だから行かずにどうやってその端っこを調べるかというのが、一つの天文学のテーマであると思います。