「第20回JAXAタウンミーティング」 in 那覇(平成19年11月18日開催)
会場で出された意見について
第一部「『利用する宇宙』から『行く宇宙』へ」で出された意見
<海外の人工衛星の打ち上げについて>
参加者:JAXAでは外国の衛星を打ち上げていかないんでしょうか。
五味:外国の衛星を打ち上げる予定はございません。ただし国際協力によってアメリカなどと一緒にやる衛星は打ち上げています。例えば、NASAの降雨観測衛星は、JAXAと米国の共同プロジェクトでしたので、日本のロケットで打ち上げました。そういう枠組みの場合はあります。
<日本人宇宙飛行士の費用について>
参加者:日本の宇宙飛行士は、一人育成するのにどの位の予算を実際は使っているんですか。
矢代広報部長:今ヒューストンに、宇宙飛行士が6人おります。年間でNASAに支払われるお金は、訓練費、その他諸々で、一人頭3千万円ぐらいです。その他に、星出宇宙飛行士それから山崎宇宙飛行士、古川宇宙飛行士の3人の一番新しい宇宙飛行士は、彼らがJAXAに採用されて、日本で基礎訓練をやったり、そういう国内費用もかかっています。一人が採用されてから飛ぶまで何年かかるか決まっているわけではないので、長く待ったり、割と早く5、6年で飛ぶ人もいるので何とも言えませんけれども、今のお金で言いますと、数億はかかっていると言えるかと思います。
<人工衛星の太陽電池パドルの寿命について>
参加者:太陽電池の寿命が限られていると思うんですけれども、電力事情はどういう形になるか教えていただきたい。
五味:かぐやの寿命は1年です。ちょっと短めの衛星です。普通の地球観測衛星ですと3年とか4年です。静止衛星ですと7年がございます。商用の通信衛星ですと、今は15年とかになっております。ご承知のように放射線が常に当たりますので、その寿命の末期の電力量を計算をしまして、その衛星が十分機能するようにということを予め見込んで設計をしています。ですので、運用の初期にはかなり高めの電力が発生しているということになります。
<地球観測衛星により海面上昇の影響について>
参加者:観測衛星のほうで、地球の将来像というのは、予測はできているんですか。観測を続けることによって、海面上昇がどれぐらいいくのか。沖縄のほうも埋め立て地ができて、住宅地とか出来ているんですが、将来、自宅購入とか考えて、埋め立て地に家を建てて住めるのかです。30年後、住宅のローンを払い終わる頃には、海面上昇によって家が若干沈んだりとか、また水の恐怖に怯えながら生活しなければいけないのか。沖縄が海面上昇によってどの位まで上昇の影響を受けるのかを教えていただきたいと思います。
五味:直接の回答にはならないんですが、参考にという意味で回答させていただきたいと思います。観測というのは、衛星のみならず海面の世界的なネットワークがあり、そういうもので観測をしています。科学者の方で、その地球全体の炭酸ガスの濃度とか、そういったことを全部含めたシミュレーションが今できないかということで、スーパーコンピューターを使って計算をしようとはしているんですが。いかんせん科学データが非常に多いものですから、正直なところはっきりしたことは今言えないと思います。けれども沖縄である限りは、それほど私は心配はなさらなくてもいいんじゃないのかなというふうには思います。
参加者:6メートルぐらいは上昇するんですね、場所により、30年、50年後ぐらいには。低い土地に家を建てた場合、そういった海水、水に浸るような状況が予想されるのかどうか。それを聞きたいんですね。
五味:おそらく6メートルというのは、北極、南極の氷が全部融けて、かつ、高い山の氷河とかも全部融けた状態での数値じゃないかと思うんですが。そこまではなかなかいかないんじゃないかと思います。
参加者:じゃあ埋立地に自宅を建てても大丈夫だということですか。
五味:保障はできませんけれども、皆さんが生きている限りぐらいは十分大丈夫だと思います。
<国際宇宙ステーションの寿命について>
参加者:国際宇宙ステーションは一番最初のモジュールが打ち上げられたのが98年なのでもう9年。どんどんモジュールが追加されていくわけですけれども、最初に打ち上げられたモジュールはどんどん老朽化していきますよね。そういう面で考えると最終的に同時に処分されることになってしまうと思うんですけれども、後、何年持つんですか。
五味:国際宇宙ステーションは、2010年に完成をいたします。シャトルの飛行35回をもって一応完成をいたします。今、現在で23回フライトをしています。NASAは完成後2010年から、6年間は確実に運用はしますよと言っています。ただし、ロシアとかヨーロッパなんかはせっかく打ち上げたんだからもっと運用したいということで、今、国際調整をやり始めているところです。構想時には、ステーションは30年寿命ということで検討が開始され、その後、最初のモジュールが打ち上がった時には10年ということになりました。JAXAとしてもなるべく長い間使っていきたいと思っています。廃棄をする時には、軌道のコントロールをしまして、地球の海の所、大気圏に再突入して燃えることになります。ただしかなり物が大きいですので、多少の物はですね、燃えきらずに海に落ちることになるかと思います。
<HTVとプログレスの違いについて>
参加者:もう1件、国際宇宙ステーションに日本が補給船としてHTVを導入するということなんですけれども、これはロシアの補給船のプログレスとはどういう違いを出していくつもりなんですか。
矢代広報部長:プログレスもそうですし、ヨーロッパ(ESA)はATVを開発して、もうそろそろ上がる。一番大きな違いは人間や荷物が通るトンネルがあるんですけれども、この大きさがヨーロッパのものはロシアのモジュールに合わせてあります。内径が80cmです。ですからそれが通る物しか運べません。日本のHTVは、スペースシャトルと同じです。スペースシャトルは、着いた後いろいろ大きな棚とかそういうものを運びますけれども、全くそれと同じ大きさ、同じデザインです。これが一番大きな違いです。ですから大きな物の輸送とそれからステーションへのトランスファーができるのはHTVなんです。日本の実験モジュール「きぼう」の中に国際標準ラックという2m弱の大きさのラックがあるんですけれども、そこに実験装置を組み立てて、中に組みつけてやるんですが、それを取り外しできます。これを移動して、シャトルで持って行って移動して中に入れられるのはHTVか今のスペースシャトルなんです。ロシアンモジュール、あるいはATVというものでは、そのラックごとには運べなくて、ラックに積み込む実験装置を個別に輸送しなければいけないという違いがございます。
<人工衛星の廃棄、回収について>
参加者:先ほど、宇宙ステーションの廃棄という話があったところと関連しているんですけれども、静止衛星が回る軌道上にいろんな国が打ち上げた人工衛星がそのまま使われずに残っていて、この間を縫ってロケットまたは静止衛星を持っていくというのは非常に難しいという話を聞いたことがあります。そうすると使わずに残っている人工衛星がやがて先ほどのように大気圏に落ちてくると、海へ落ちる。または場合によって陸地に落ちてくるということもあると思います。そうではなくて、残っている、使われなくなった人工衛星を積極的に回収するということを考えてみてもいいかなと思います。回収した人工衛星を見られるようにしていただけると、子供たちがまた宇宙に関心を持つんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか。
五味:静止衛星は地球には落ちてきません。ずっと回り続けます。静止衛星は寿命末期にはコントロールができなくなりますので、確かインド洋の静止軌道の上空ですか、あの辺りに集まってきます。今の国際的な取り決めというか、拘束力はないんですが、運用が終わった後、少し燃料を残しておいて、その静止軌道の外に出そうということに今のところなっていまして、日本の静止衛星もそのように運用しています。ですけれども、昔の静止衛星は静止軌道上にございますので、それらはやはりデブリというかゴミになってしまうということになります。大雑把に高度1000km以上になるとなかなか落ちにくくなってきます。通常の地球周回軌道では800kmぐらいの所まではよく使われており、その軌道の衛星はやはり落ちてまいります。ご指摘の回収ということなんですけれども、米国のスペースシャトルは、ハッブル望遠鏡みたいな大きな衛星の修理をして帰ってくるとか、衛星の回収が出来ます。ただし、お金がかかるということがございます。回収しなくても、例えば燃料を注入に行くとか、太陽電池パドルを新しいものに取り換えて、また新しい衛星として運用を続けるとか、そういったことは無人のロボットなんかを使っても可能だろうということで、そういう構想はございます。なるべく延命させようということです。一方、回収するのは、回収して意味があるもの、回収してどの程度の損傷があったかとか、あるいは実験の材料がどうなったとか、そういったものは現在でもスペースシャトル等を使って回収をしております。
<宇宙での素材の開発について>
参加者:宇宙で作ったほうが都合が良い材料とかも考えているんですか。
五味:まさにそれは宇宙ステーションの実験の一部を占めています。宇宙空間は無重力ですので、ただし物があるとどうしても微小重力を発生しまして多少の重力があるんですが、地上に比べるとはるかに無重力でございまして、混ざり具合いとが均一になるということです。例えば新しい材料を開発したりとか新しい薬を作ったりとか多くの実験が考えられています。日本が特にやりたいというのは、タンパク質の結晶成長というのがございまして、高純度のタンパク質の結晶を宇宙ステーションの中の実験室で作るということを考えていまして、実験後には、新しい材料とか新しい薬ができることを大いに期待をしております。
矢代広報部長:せっかく宇宙で重力のない所にいるんですから、何か変わったこととか、宇宙に合ったようなことを考えようという方もいらして、例えば服飾、洋服を研究している方たち。当然、私どもは1G重力の下にいるわけですから、どうも我々は着ているものは肩に肩パッド入れたりしていますけれども、重力に引かれているということを前提に、このズボンとか上着とか、全部出来ています。宇宙に行くと一切重力がないので、宇宙飛行士の状況、ぴちぴちのTシャツとか着ているとわからないですけれども、余裕のあるものを着ていると、それがふわふわいろんな形でして、そういうものでまず宇宙で一番着やすいものは何か、そういうことを宇宙で実験しながら何か変えていきたい。それがまた地球で使うとユニークなものになるかもしれないとか、そういうことを研究のテーマにされようという方たちもいらっしゃいます。非常に面白いことが、聞いていると「ええっ」というのが結構あるんですけれども、そういうことを研究されている方もいます。
<日本の将来の宇宙開発の構想について>
参加者:月に宇宙ステーション、研究施設ができると言われましたけれども、コロニー、これは大体何年後ぐらいを予想しているんですか。私は20年ぐらい宇宙開発関係のことをやっているんですけれども、さほど状況というのは変わりないんですね。国際宇宙ステーションも本来であれば特に完成して浮遊をしていなきゃいけない。それがまだ何十年か前の映画とか見ると、もう今の時代というのは、とっくに人間が宇宙に行って宇宙旅行を楽しんでいる。そういった夢の時代から比べると、実際の宇宙開発の実情はどうなっているのか。私たちが生きている間に月面行きといったことは可能なのかどうか。アメリカとか欧州のほうは、軍事面と一体化していますので予算も取りやすい。宇宙に関する軍事運用という形で世の中に役立つんですが、日本は軍事とほとんど関連がないところで宇宙開発をしています。将来、たとえば月面基地がいつできるのか、予想というのを教えていただきたいと思います。他にも将来構想というのは過去にもありました。実際これが予算が取れて可能なのか。努力はしていると思うんですけれども、夢物語ではなくて、実際どうなのかというのを皆さん方に聞いてみたいなと思うんですけれども、どうでしょう。
五味:10年前も20年前も月構想というのはありました。これはNASAにもありましたし、JAXAにもありました。ただし、今回NASAは短期間で、2025年頃に基地もどきの建設を始めるという計画なんです。私の見方では、かなり本腰を入れてやってくるんじゃないかなと。単なる構想を超えようとしている段階にあるんじゃないかと思います。ただし、まだ本当に実現するかどうかは、はっきり言ってわかりません。それは予算事情と、あるいは各国の国民の関心とか、そういうものにもよります。それと少なくとも10年前の状況とはかなり違っています。宇宙を先導的にやっていこうとしている米国、ヨーロッパあるいはロシアなどの検討状況がかなり違っています。それから宇宙の新興国と呼ばれる、主には中国とインド、あとブラジルとか続いてくると思うんですが、そういった国が新たに宇宙開発を積極的にやろうとしていまして、それらの国もやはり月を目指しているという新しい状況もございます。現在、14カ国の人たちが一致団結、協力して、月を目指そうじゃないかと。もし目指すとするとどんな案が考えられるかといったことを今、いっしょに考えておりますので、実現性はかなり確率的には高いだろうと思ってます。それでは、日本はどうするかということなんですが、50年ぐらい宇宙開発をずっとやってきまして、日本もようやく宇宙の先進国の5国に入るぐらいのところの地位まで来ているんじゃないかとみています。その宇宙先進国の地位を守り、なおかつ発展させていく為には、月の探査に積極的に関与していくということが必要なんじゃないかというふうに思っています。
坂田:別の観点で申し上げたいと思うんですが。こういう活動は非常に国際的であるし、経済情勢とか技術の情勢に極めて大きく支配されると思っています。日本の予算はそう多くはありませんが、先ほど言いましたように、宇宙先進国のような形で頑張っていると思います。ただし、こういうことが、産業のお金ではなくて、皆さんの期待のお金で活動しなければならないので、まさにタウンミーティングのテーマの一つではないかと思っています。皆さんがどんなふうに考えるか、どういう期待を持っているか。そしてそれをどんなにお金をかけても構わないのかというようなことが非常に大きいと思います。皆さまの声が、日本の政策づくりの中に大きく関わっている、ということになると思います。非常に大きな力はやっぱり国民の声だと思います。従って皆さまの声が、こういうことがあって欲しい、こういうことが少なくとも日本の中ではやっておいて欲しいんだと、こういうお話であれば大いにやりたいと思っていますので、是非皆さんの声を聞きたいと思っております。