JAXAタウンミーティング

「第19回JAXAタウンミーティング」 in いわき(平成19年11月10日開催)
会場で出された意見について



第一部「日本の宇宙開発」で出された意見



<将来のロケットの積載重量とコストについて>
参加者:JAXAの将来のロケットの積載重量はどれくらいになる可能性があるのでしょうか。また、それにともなってどのぐらいのお金がかかるのでしょうか。将来の目標、計画、もしくは見通しといった観点から伺えればと思います。
立川:ロケットというのは本来、ツールです。地上でいえばトラックみたいなもので、荷物によって大きさは変わるわけです。そういう意味では、大きければ大きいほどいいということではなく、例えばいま環境問題の衛星とかを考える限りでは、日本のH-IIAではちょっと大きすぎるぐらいです。2トンぐらいの衛星を打ち上げるロケットが適当なのかなと、いまは言われています。JAXAは今年からH-IIAロケットの打ち上げを民間移管して手が空きましたので、研究開発に力を入れることにしました。その成果をぜひ期待していただきたいと思いますが、出来れば我々としてはもっと効率のいいロケットにしたいわけです。最近打ち上げたH-IIAロケットは自重が約300トン、荷物は3トンです。だから100分の1ですね。こういう乗り物は地上にはないんですね。いかに効率が悪いかということがお分かりいただけると思います。これを、いまは1%だけど、2%にしたら倍になるわけです。そういうところの努力をしたいと考えているわけです。
予算については、H-IIAロケットでいま打ち上げに100億円かかります。これは総合コストであって、プライスではないです。コストにどのようにお金をつけるかは各国の戦略の問題です。相場として大ざっぱに100億円ぐらいで3トンくらいの静止衛星が上がると思っていただいていいですね。したがって、そのコストを将来的にはもっと下げていきたいというのが各国の動きでありまして、そのための一番いい方法は、たくさん製造すれば安くなる。大量生産によるコストダウンの可能性があります。もう1つは、新しい技術を導入することによって安くしようということですね。そういう方法があります。

<防災と宇宙開発について>
参加者:今年新潟で地震がありましたが、防災の観点からも宇宙開発は、非常に重要視されるんじゃないかと思います。日本が新たな方法として国際貢献できるということなので、世論も含めて盛り上げていくことについては賛成したいです。
立川:ええ、そう思っておりまして、とくに災害問題についてはサミットでも合意されているように、日本が重点項目として取り上げている1つですから、それを伸ばしていきたいと思っております。残念ながら地震についてはアメリカやヨーロッパはあまり関心がないんです。だからやはりアジア地域が問題だと思います。その中で日本はけっこう災害の多い国ですから、ぜひリーダーシップを発揮して世界的に役に立つような災害監視衛星システムをつくり上げたらどうかなと思います。そのときに、宇宙だけでやるわけではなくて、地上系とうまく連携してトータルとして役に立つようにしたいというのがわれわれの願いです。

<固体ロケット技術のアジアへの技術供与について>
参加者:日本には糸川博士以来、築いてきた固体ロケットの技術があります。その固体ロケットの技術が、残念ながら予算等の都合があり、終息しつつある状況かと思います。せっかくここまで築いてきた固体ロケットの技術は、結構扱いやすいと思うので、こういった技術をアジア各国に技術供与することは可能でしょうか。いろいろと軍事的な問題とかもあると思うのですが、よろしくお願いします。
立川:固体ロケットをやめたわけではありません。M-Vはやめましたが、現在、次期固体ロケットを開発中であります。2011年ぐらいには打ち上げたいと思っております。次期固体ロケットの目的は固体ロケット技術を継続することです。また、M-Vに比べて価格を2分の1から3分の1にしたいということが目標でして、ぜひ実現したいと思っております。この技術はそう勝手に各国にあげるわけにはいきません。軍用に使われる恐れがあるからです。従って、今のところは他の国々に譲る気はありません。

<アメリカの宇宙開発予算について>
参加者:さきほどの話で、予算の国際比較がありました。NASAの予算には、軍関係の予算は入っているんでしょうか。
立川:入っていません。だからこのほかにアメリカはNASAと同等以上の軍事予算が隠れていると考えています。したがって、アメリカは日本の20倍以上の予算ということです。

<中国との協力体制について>
参加者:宇宙開発のライバルであり、一番近い国は中国ですが、アジアにおける日本と中国の協力体制というのはできるものなのでしょうか。国家的、政治的な部分と科学者レベルの部分ではたぶん差があると思いますが、そのへんをちょっと教えていただきたいなと思います。
立川:国際的な環境をどうするかというのはJAXAだけでは決められない問題です。我々は執行機関ですから、政治家にまず国の方針を決めていただかないといけない。宇宙政策を決めるのは、やはり国の政治家だと思います。政策が決まってくると、執行機関がどのように海外と協調するかということになってくるわけです。今回のセレーネの打ち上げには、初めて中国の国家航天局が来たいというので招待したんです。そのかわりに、嫦娥1号の打ち上げのときはJAXAも招待してくれと言ったら招待してくれたわけです。平和利用に関する部分について少しは門戸を開いてきたかなというのが最近の印象ですね。この調子でいけば平和利用の部分については協力関係ができるのではないかと思っています。この間インドで会議があったときに、聴衆から意見が出ました。日本とインドと中国は、いま月を狙っています。日本は行きました。中国も行きました。来年早々にインドです。聴衆から出た意見は、何でアジアの中でいつも競争してるんだと。協調できないのかねというもので、みんな回答に苦労したんです。まあ、最初は競争でやりますが、そのうち協調しますからということになるわけですが。どういうふうに協調していくかというのはこれから考えなければいけないなと思っています。

<ISSの維持管理について>
参加者:従来あったスカイラブとか、ロシアのミール、そういったものはだんだん高度が下がってきて、最後は寿命を迎えました。ISSについては寿命というか、維持管理を今後どういうふうにやっていくのかということと、維持管理について日本がどういう役割をしていくのかということを教えてほしいと思います。
立川:ISSは15カ国が参加してやっているんですが、メジャーなのは5カ国です。ヨーロッパを1つとして勘定して、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダ、日本。この5つでいま運用をしているところです。毎年機関長会議をやって方針を決めているわけですが、いま決まっているのは2015年ごろまで運用しようということになっていて、そのあとについてはこれから協議しようということで、まだ決まっていません。従って、2010年に完成して2015年までは実験は続ける。当然その間は高度は維持するように常にコントロールしているわけです。それ以降、もし危ないとなったらどうするかといえば、ほっとけばどんどん落っこちてきて、最後は大気の中で燃えてなくなる。そういう算段です。それがいつ頃になるかは、これから決めていくということです。

<宇宙開発にともなう宇宙環境の破壊について>
参加者:最近では、環境を大切にしようということがいろいろといわれていますが、地球環境ばかりでなく宇宙環境も問題視されています。まず、スペースコロニー、宇宙空間に居住地を作るという考えについてですが、私が前から思っていたのは、夜空の景観を損なわないかということです。夜空を見て人工衛星とか飛行機のライトとか人工的なものが動いているのが見えたりすると、いつも興ざめしてしまうんですね。スペースコロニーのようなものを作ったら、夜空の景観を損なうのではないでしょうか。第2に、宇宙のゴミなどの問題です。例えば宇宙に送り出す探査機などの太陽電池が開かなかったり、活動できなくなってそのままになってしまったりすると、宇宙のゴミとなってしまうのではないでしょうか。中国が衛星を破壊したような方法でなく、何かゴミを減らすいい考えはないのでしょうか。
立川:みなさんデブリ問題に関心を持っていただいて、大変結構なことだと思います。ただ、宇宙はみなさんが想像するより広いんですよね。デブリについては、今後はできるだけゴミを出さないようにする、寿命が来たものについては地球に帰すといいますか、地球に帰る前に途中で燃えますので、そこで焼却しようということを考えているわけです。今後上がる衛星などはきっちりそういうふうにしていくと、デブリはかなり減ってくると思います。ゴミがいまどれぐらいあるかというと、地球を回っている10センチ以上のゴミが約1万個あって、これはみんな軌道が分かっているんです。ゴミというのはフラフラしているわけではなくて、常に回っていて軌道が分かっています。従って、ぶつかる危険性はありますが、その軌道に合わせて飛んで来たら、例えば宇宙ステーションは人間が乗っているので大変危険ですから、動かしてよけているんです。デブリの数は、それが可能なくらいであります。いまの状況は100キロ平方ぐらいの間に10センチ以上の大きさのゴミが1個あるかないかぐらいの確率だと思ってください。だから、そんなにみなさんがびっくりされるほどのことはないと思います。また宇宙には高さの分がいっぱいありますから、そういう意味では、地球で感じるようなゴミの量の問題とはちょっと違うなあということだと思います。ただぶつかると影響は大きいですから、われわれも慎重に、今後はゴミを出さないようにしていこうということで話し合いをしているところです。
コロニーを作るのは100年ぐらい先の話ですよね。地球がだめになるかどうかで、コロニーに住むかどうかが決まる問題だと思います。私はまず地球を維持すべきだ、地球から脱出しなくてもいいように、地球の環境をよくするのが最初かなと思います。我々が月に基地を作ったりしたいといってるのは、目的は住むために、ではありません。毎日晴れなので、あそこで天体観測をやったほうが大変いいことと、もう1つ、月自身をよく知りたいということがあってやっているわけで、月に住もうと思ってやっているわけではありません。そういう意味で、月を破壊するということは考えられないんじゃないかなと思っていますので、少し安心して見ていてください。
参加者:わかりました。新聞の記事に「かぐや」の後継の無人探査機で月面を探査する方針が載っていたというので、世界中が争いになるんじゃないかというような不安なところもあったのですが、そういう純粋に科学を観測しようとする人たちだけでやっていけるのなら、平和にやっていけるんじゃないかと安心しました。ありがとうございました。
矢代広報部長:最後の質問の中で、宇宙のゴミをなくす方策の一助みたいな形で、中国のやった衛星破壊をちょっとポジティブにイメージされてるようですが、それは逆でございます。宇宙に小さなゴミを数千、ばらまいたなというのが実態です。
1つの人工衛星が使い物にならなくなるという状況になりましたら、それを意図的に、海洋に投棄できるように、最終的には落とせば、宇宙のゴミはその分はゼロになります。ですから小さくすればいいわけではなくて、意識的な形で人に被害が及ばない大きな海洋に投棄する、というのがゴミを少なくする方法になりますので、ご理解いただきたいと思います。

<宇宙開発に使われるフロンガスについて>
参加者:スペースデブリの話がありましたけれども、1つ気になることが前からあります。宇宙にある人工衛星とかは使い終わったら落としてくればいいといわれますが、そこで使われているフロンについてはどのようになるのかなあと。けっこう安定した物質なんで、宇宙でばらまいたらそれがそのままオゾン層破壊といわれるものになるんじゃないかなという心配があります。
立川:はい、そういう心配もあって、初期の段階はフロンも使っていましたが、もう最近は使っていないのでその点はご安心いただいていいかなと思います。では過去に打ち上げた人工衛星はどうかということですが、これは、宇宙の広大さに比べると、量としては微々たるものなんですね。だから、よほど地上におけるフロンの量のほうが悪影響を与える度合いは大きいというふうに考えてください。地球を宇宙に広げていった空間というのはべらぼうに大きいわけですね。地球上のオゾン層がうんぬんされているのは、せいぜい数キロの問題です。我々がやっている衛星は、最低200キロ、さらに3万6000キロまでの上の空間を飛ばしているわけでありまして、それに使われていた微々たる量のフロンガスが、オゾン層にまでどれぐらい影響するかということになれば、きわめて少ないと予想されるわけですが、安全のために最近は使っていません。

<民生品から宇宙開発への技術の転用について>
参加者:宇宙開発の技術を民間に転用するという説明がありましたが、逆に民生から宇宙開発にどのぐらい転用というか、使用されているのでしょうか。というのは、コストダウンの意味でそういうことをたぶんやられていると思うのですが、どのぐらいの割合なんでしょうか。
立川:宇宙の技術を民間に使うのをスピンオフといってまして、民間の技術を取り入れるのをスピンインといってるわけですが、従来はきわめてスピンオフを強調してきたわけですが、これからはスピンインを大いにやりたいです。というのは、宇宙のマーケットは小さいわけですね。だから宇宙用に専門に部品を作っているということはなかなかないので、民間で新しい部品が出てくると、ぜひそれを活用したいということになるわけであります。そういう意味ではスピンインはすべての部品についてそういうことが言えるわけです。ただ宇宙で使うであろう部品について、ぜひスピンインをしてもらおうということになると、何が問題になるかというと、放射線の問題とそれから温度耐性、温度が極端に変わりますので、その温度変化に耐えられるかどうか、大きく分けるとこの2つですね。そういう点をどういうふうに対応していくかということで決まってくるわけで、本当はスピンインはいくらでも可能性はあるんですが、そんな面倒なことまでお金をかけたくないという民間企業があります。だからなかなかスピンインは実現しておりません。むしろ、ぜひこの部品が欲しいというときに、それを作っているメーカーに働きかけて、放射線耐性だとか温度耐性に対して配慮していただけるかどうかで決まってくると考えています。

<打ち上げ期間の制約について>
参加者:「かぐや」の成功、おめでとうございます。日本の宇宙開発の民間移行で今後、ロケットの打ち上げ回数もどんどん、私らとしては増やしてもらいたいです。ただ聞いた限りでは日本のロケットを打ち上げるタイミング、時期が、冬場と夏場ということで期間が限定されているということです。今後数を増やしていくには1年中都合のいいときにいつでも打ち上げたいと思うんですが、そのへんの状況をちょっと教えていただいきたいと思います。
立川:残念ながらこういう制約を持っているのは日本だけです。漁業組合との関係上、漁業に忙しいときはロケットを打ち上げては困るという話になっていて、現在打ち上げられるのは冬と夏ということになっています。最大限、特別の期間を入れるとトータルで190日。1年のうちの半分くらいになります。
的川:当初は90日だったんですね。それが1、2月なので、日本のロケットは正月上げるという有名な話があるんですが、それでは全然打ち上げられないということで、交渉し、回数が増えてきました。例えば日本のロケットで外国の衛星を打ち上げるということになると、打ち上げてほしいという国が望むときに打ち上げないと意味がないという場合がけっこうあるんですね。そうなると、1年中打ち上げられるという条件をどうしても確保したいと思っていますが、いまの状況からいうと、種子島から打っても、内之浦から打っても、だいたいそのへんの海域でたくさんの船を出しているのが鹿児島、宮崎、大分、愛媛、高知の5県あるんですが、その5つの県の漁業組合の状況を見る限り、190日より増やすというのはかなり難しい状況なんですね。だから、いろいろな予算その他のことを全部無視していえば、何カ所か打ち上げ基地があると、漁業の種類が違えば都合の悪い時期が違ってくるので、こっちがだめなときはこっちで打つという方法があるかもしれないですね。それから、例えば船の上から打つという方法もあります。また、日本以外の場所で打つ、小さいものだと移動式発射台で都合のいい場所を探してそこから打つといったことを考えたり、そんな努力も陰ではしているんですけれども、現状は漁業者との話し合いでは190日ということになっています。

<準天頂衛星について>
参加者:アメリカのGPSはすでに実用化されています。また、欧州のガリレオや、ロシア、中国でも同様の計画がいま進みつつあると聞いています。その中で日本にも独自の準天頂衛星計画がありますが、必ずしも順調に進んでいるというわけでもないと聞いています。その課題と今後の展開みたいなものをお話ししていただけないでしょうか。
立川:測位衛星はアメリカが運用で始めたのは81年。それに続いてロシアが始めました。現在はあと中国が持っています。ヨーロッパはまだ持っていません。いま作りつつあるわけです。日本はどういう戦略でいこうかといったらですね、アメリカのGPSがもうみなさんカーナビに入っちゃってますよね。だからそれを捨てることはない。ただ困るのは、日本は北のほうにいるものですから、測位衛星が見えないところが少しずつあるんですね。特に山の中などがそうです。従って、もう少し上に衛星が来て測位できれば、もっとカバー範囲が広くなり、かつ精密さが上がるだろうということで考え出したのが準天頂衛星でありまして、あれはちょうど日本の上空に滞在するだろうというわけですね。とくに3機用意すれば常にいる、こういうことになるので、日本でもカーナビゲーションの精度が上がるということでありまして、そのために、日本独自の準天頂衛星を上げようということを計画したわけです。これは民間の方が提案をされたわけですけれども、これとテレビ・ラジオの放送と組み合わせれば、あるいは通信と組み合わせればいいじゃないかということで提案があったわけです。ただ、民間側もいまさらもう衛星でテレビや通信はどうもペイしないじゃないか、ということになりまして、じゃあ測位衛星の部分だけやろうということになりました。これを誰がやるか、ということになりますと、皆さん、カーナビゲーションを使うときに料金払わないですよね。タダですよね。タダならお金が入ってこないわけですから、衛星がペイするわけない。それで、やるなら国だろう、ということになりました。測位衛星は、何も車のカーナビだけでなくて、船の位置の測定にも使えますし、将来的には人間の位置を識別するのにも使えるわけですね。それをマンナビゲーションというんですけど、そういうことを誰がやるかというと、やっぱり国だろうということに答えはなったんですが、誰が主管するか、どの省が主管するかが決まらないんです。それでとりあえずはまず実験をやらないといけないというので、文部科学省が、これは研究開発機関でもありますから、責任を持って実証してみましょうというのが今の段階です。今、衛星を作っていますから、あと3~4年で実証して、その結果を見て、日本国としてどうやろうかということを決めていただく、ということになりますので、もうしばらくお待ちください。