「第17回JAXAタウンミーティング」 in 木津川市(平成19年10月20日開催)
会場で出された意見について
第一部「『見上げる宇宙』から『使う宇宙へ』について」で出された意見
<スペースデブリについて>
参加者:たぶん広いので無いと思うんですが、人工衛星がたくさん上がってぶつかるとか、あるいは将来、途中で燃え尽きたらいいですけれども燃え尽きずに落ちないとか、打ち上げることによってゴミがたくさんできるんじゃないかという感じがしますが、どうなのでしょうか。
樋口:まず、人工衛星のゴミの問題ですが、今日現在は、まあそう難しくはないんです。ただこのまま放っておくとかなり危険な状態になります。宇宙ゴミだらけの絵がよく出ます。縮尺するとああいうふうになりますが、例えば密度で言うと、木津川から東京ぐらいまでを半径にして、球を書いた時に、10センチ以上のゴミが2、3個ぐらいの感じです。だから安心だという意味じゃありませんが。これを多いと見るか少ないと見るかです。我々の感覚でいうと多いんですが、皆さんから見ると、宇宙空間広いのでそんなに少ないのかと思われるかもしれません。10センチ以上というのは、実際、国際宇宙ステーションの与圧モジュールなどに当たったらその与圧モジュールが一瞬のうちに壊れてしまう可能性があるというぐらい大きなものです。宇宙ステーションが避けているゴミの大きさはそのぐらいです、そのぐらいの規模です。もっと小さいのになるとどんどんどんどん数が増えます。人工衛星は技術的にまだ十分じゃないので、時々故障しますが、故障よりも当たって壊れる確率の方が高くなる部分もそろそろ出始めています。そういう意味では大変ゴミの問題は大事でして、今年の2月と4月と6月に国連が世界中で合意してゴミを無くするようなガイドラインというのをつくっています。国連は難しいところで、どこの国が破ったから罰則があるかということじゃありませんが、こういうガイドラインで今後人工衛星を作ってできるだけゴミを出さないようにしよう。あるいは使い終わったらちゃんと燃えて消えるようにしようとか、みんなが飛んでいる軌道には人工衛星が行かないように、使い終わったら避けられるようにしておいてくださいといった、ガイドラインを作っています。そのガイドラインを作るにあたっては、ちょっと自慢になりますが、JAXAが相当提案をし、貢献しました。
<宇宙開発における国際協力について>
参加者:開発にかかるお金の面をお話しされましたが、地球全体のことを考えるのであれば、国連的というか、そういう共同で開発して地球全体の利益の為にやっていくということがたぶん目指されると思うんですけれども。そのへんについてはいかがでしょうか。
樋口:国際的というのは、各国いろんな思惑で、政策的に宇宙開発やっていますので、なかなか一緒にはできません。どの国も自分で人工衛星持ちたいし、どの国もロケットを持ちたいし、人より先に新しいことを見つけたいし、いろんなことがあるので、一緒にやることにはなかなか努力がいります。ただ今は、宇宙の科学の世界はもう完全に国際協力です。それから地球観測。環境問題とか災害の分野ですが、JAXAは実は、アジア太平洋地域に働きかけて、Sentinel Asia(センチネルアジア)、センチネルというのは監視人という意味なんですが、人工衛星でアジア太平洋地域の災害を監視して、お互いに人工衛星の情報をやり取りして、例えば、タイでこういう水害があったが「だいち」で撮った画像はありませんでしょうか、それを即インターネットで届けるような仕組みをつくって協力をして、人工衛星で災害情報をやり取りするようなプロジェクトが1年半前ぐらいにスタートして、これも日本がリードして進めています。環境問題については、小泉首相がフランスのサミットの時に提言して、10年間、人工衛星とか地上の観測も使って、地球全体をしっかり把握してきちんと観測しようという、国際協力を進めています。いろんな問題がありますが、基本的には宇宙開発は国際協力でやる時代がきていると思います。国際宇宙ステーションは完全に国際協力ですし、月・惑星探査も14カ国が集まって一緒にやろうという話し合いをずっと続けています。
<宇宙開発で地上に落下してくるゴミについて>
参加者:ゴミ問題の話としまして、宇宙ゴミの話題をよく最近聞きますが、地球のほうのゴミのことです。スペースシャトル以外のロケットというのはすべて使い捨てであり、第1段目のロケットなんかは、ロシアの場合は、全部地上に落しています。また日本の場合も、第1段とかは、海に落しているのではないかなというような気がします。その点についての環境問題的にはどのような対策があるのかなと思いました。
樋口:今のH-IIAロケットでは、2段は宇宙空間まで行ってしまいます。そして大気に突入してほとんど燃えています。1段は残念ながら、海に落ちてきます。後、人工衛星をカバーしているフェアリングというのがありますが、実はかなり軽いものでできているので、浮いています。それで大体見つかるので、それは回収しています。後の物は、今のところ残念ですが、海に沈んでいますので、今後頻度が出てきた時に回収することを、研究としてはしていますが、技術的な能力の問題で、今のところそれを全部回収するということは、ちょっとできていません。できれば再使用型ロケットを早くやりたいところなんですが、これがなかなか難しいです。さっき宇宙は地上から100キロで近いと言いましたけれども、重力と大気の摩擦の壁が大変すごくて大変です。人工衛星、ロケットは大体200トンから300トンあります。その上に載っている人工衛星は10トンです。300トンの乗り物に荷物が10トンしか載らない。あとの270トンは全部燃料なんです。皆さん乗っている自動車を考えていただければ、1トンか2トンの車体に50リットルから60リットルのガソリン積んでいるわけですから、そして人間が乗って、おそらく1トンの自動車に300キロから500キロぐらい荷物が載るんですね。逆に言うと、地上を走るのはそれぐらい楽なんです。そのへんを全部クリアできるような技術ができれば、再使用ロケットにそのうちなると思いますが、ちょっと今はその物理的な難しさ、あるいはそういう材料とか技術ができてない為に、再使用ロケットとして完成しなくて、スペースシャトルなども一度中断という形になっています。これは技術と経済の問題だと思いますが、そのへんはなかなか大変な問題だと思います。
<国策としての宇宙開発について>
参加者:今のところ、有人宇宙開発で宇宙に行けたのはロシアとアメリカと中国ですが、それらを見てみますと、やはり国としての宇宙政策としてやっているんですが、JAXAとしてはやはりその国を主体とした国家プロジェクトとしての宇宙開発というものはなかなかできないものなのでしょうか。
樋口:国策として日本の宇宙開発ができないのかということですが、国策として我々は宇宙開発をやっています。日本には総合科学技術会議というのがあって、日本中の科学技術の政策を決めています。その方針に従って、文部科学省の中に宇宙開発委員会というのがあって、宇宙開発の国の方針を決めます。その方針に基づいて我々は計画を立て、予算をいただいて仕事をしていますので、大きく言えば国の計画、政策としてやっています。ただ、文部科学省は研究開発を所掌しているので、宇宙を、たとえば交通管制に使うとか、環境問題に使うといった場合、文部科学省の宇宙政策だけでは不十分です。そういう意味では総合科学技術会議が全体をまとめて、国としてたとえば災害監視衛星とか地球観測衛星を環境行政に使おうという、そういう政策ができる仕組みに変えないといけないと思っています。そういうことが今、国会で議論されています。それを宇宙基本法といいますが、国がたとえば一省庁だけじゃなくて、国全体の宇宙開発を考える宇宙基本計画を立てようということで、そういう法律が国会に上程されています。
参加者:有人宇宙開発を国家プロジェクトとして、日本が取り組むべきか、ということについてはいかがでしょうか。
樋口:逆に皆さんに聞きたいんですが、我々は本当に意味のある有人システムをやりたいですし、本当に人類に世界に役立つロケット有人宇宙技術はやるべきだと思っていますが、しゃにむに、冷戦時代のように、ソ連とアメリカとどっちが上だというような形の宇宙開発は、もう違うんじゃないかなあと一個人としては思っています。
<有人宇宙開発着手の判断基準について>
参加者:僕は、個人的にはやっぱり国威発揚というわけではないですが、やっぱり有人宇宙飛行というのは是非やっていただきたいなと思っています。JAXAの長期ビジョンを1回拝見させていただいたんですが、有人宇宙の開発に着手するかしないかを、10年後ぐらいを目安にして、判断するという記述があったと思うんですが、有人宇宙開発に着手する基準というか、国が判断する理由のようなものはあるのでしょうか。
樋口:先ほど申し上げた、総合科学会議というので、日本全体の科学技術の方向を決めています。そこの中には2、30年先を見据えて、日本も有人宇宙技術をしっかりやるべきだと書いてあります。当面は、宇宙ステーションと国際協力をしながら有人技術を手に入れて、基礎的な我が国の独自でできるような技術をしっかり蓄えなさい、あるいは勉強しておきなさい、研究しておきなさいというそういう政策です。それを受けて長期ビジョンでも、我々としては10年を目途に、日本の国力といいますか、宇宙に使える予算、あるいは国全体、国際的な関係から、これならやらせていただけませんかというような提案を10年ぐらいかけて作っていきたいと。そういう我々の意思を書いた資料です。我々自身は正直言ってやりたいと思っています。でも今、日本の政府は非常に貧乏ですよね、大変な借金を持っています。そうした大変家が貧乏な時に、夢のある少年が、これやらせてとお父さんに言う時に、お父さんから、うんそうか、じゃあ頑張ってみろ。相当家計苦しいけれども、これぐらいなら出せると言ってもらえるものが作りたいです。国民とか、政府に受けてもらえるようなものを作りたいというのが基準といえば、基準です。ビジョン策定時の頃、あと10年といいますと、今からあと7、8年ですか、そのぐらいの間に我々の技術もレベルが上がり、良いアイデアが浮かび、それで予算的にも受けられるような案が、僕らが作れるかどうかが基準だと思っています。
阪本:長期ビジョンをお読みになったということで、よく勉強されていると思いましたが、そこには、しかるべき時間の後に国に判断いただくというふうに書いてあるんです。それはどういうことかと言いますと、JAXAとしてやるやらないということを決められるレベルではないということなんですね。一独立行政法人として決められるためには、その決められた予算の中で走るということが必要ですが、有人宇宙開発をやるということは、そのレベルをはるかに超えています。もし有人宇宙をやるんだというふうに決めるのであれば、それはやはり我々、他のを全部投げうって有人にいくという話は、やはりちょっと難しいと思うので、それはやはり国のレベルで決めていただいて、その分、上に乗っけていただかないと無理だということなんですね。今、若い方からこういう提言というか、特に有人を是非やったらどうかというような意見をいただくというのはすごく嬉しいです。家計は苦しいんですが、その家計を将来を支える人たちが言ってくれているというのはすごく嬉しいです。将来的に予算がどう使われていくかというのは、やっぱり決めていくのは若い人たちですし、今、国が大きな借金を抱えていますが、それは皆さん若い人たちが選挙権を握る前に、その前の世代、我々を含む前の世代が作ってしまった借金でして、それで若い世代の将来夢になるようなことを潰しちゃいけない、ということを痛感しています。ですから将来のことはやっぱり若い人に特によく考えていただいて、大いに意見発信していただきたいというふうに思います。
<有人探査はこれからも他国に頼り続けるのか>
参加者:しばらくの間は日本は有人飛行は、やはりアメリカやロシアの宇宙船を借りる、乗せてもらうという形になるということなんでしょうか。アメリカは2010年にスペースシャトルは退役させる。それで2020年に月へ向かうとしていますが、やはり日本もこの月へ行くということに乗っかるということになるんでしょうか。果たしてアメリカが次の宇宙ステーションに、日本人、外国人を乗せてくれるのかというのはちょっと疑問があるんですが、そのあたりはどうなんでしょうか。アメリカはそういう次の政策に向けて、どう考えているんでしょうか。
樋口:よくアメリカに振り回されたという人がいます。アメリカ人もシャトルがこんなに時々事故を起こすと思っていなかったようです。それで早くもっと安定的な有人システムに変えたい、あるいはお金かかり過ぎているので変えようとしているんです。月・惑星探査については、皆でやりたいという提案をアメリカはしています。我々も皆でやろうとしていますし、それは先ほど、国連みたいなものを作って宇宙開発をやったらどうかという話がありましたが、それに一歩近づくような月・惑星探査の国際協力がやれるかと思います。この探査を行う14カ国には、中国、インドなども入っています。皆で持ち寄ってそれぞれ得意なものをやろうということで考えています。その中で当然、アメリカは輸送システムは自分で全部やるという提案をしています。それに対してロシア、ヨーロッパからは、月・惑星探査に行く時は、大事なシステムは人類で二つは持とうと提案されています。今回アメリカは、月に行くための人間を運ぶシステムを作ると手を挙げていますが、ロシアやヨーロッパはもう1個持つ。場合によっては中国がやれば、人類全体で3個持てる。そしたらどこか一つおかしくなっても、人類全体でうまく月探査ができる、安定的にできるんじゃないかというそういう話し合いをしています。いろんな形で月・惑星探査をアメリカに顕著に頼るという形じゃない国際協力が今回はできるんじゃないかと思いますし、そういう格好に持っていきたいと思っています。ついでに申し上げますと、アメリカは既に、月に行く時は日本、ヨーロッパ、ロシア、皆一緒に行こうよと、アメリカの輸送機を提供するから、と言っています。
<有人宇宙開発の重要性と国家の予算について>
参加者:僕も、やっぱり有人は時間かけてもちょっとやってみたらいいんじゃないかと思うんです。日本というのは島国で小さな国なので、小さな国という立場でやったらいいなと思うんです。それともう一つは、地球温暖化とか資源の枯渇とかいろいろ、全体を見るという人間を育てなければいかんと思います。宇宙に行った人は、地球は青かったじゃないけれども全体を見られるといいます。その国、その国じゃなくて、全体を見られる人間をやっぱり作っていく必要があるのじゃないかと思います。予算についても、総合的に、国のレベルですが、考えていただいて、追求してもらうというのはどうですかというふうに思っています。
樋口:実際、我々や国は、予算を判断をされる方々を必死になってまわり、宇宙の大事さはかなり理解していただいています。有人をやろうといったら桁が変るかもしれません。桁が変らないやり方を提案したいと思うけれども、そう簡単じゃないです。プライマリーバランスという言葉をご存じの方いらっしゃると思いますが、今、日本の国が1年に必要なお金を全部税金で賄えてないんですね。まだ毎年二、三十何兆の借金をし続けているんです。プライマリーバランス、つまりその年に使う国のお金と、皆さんからいただく税金がちょうどトントンになって、その先、税金のほうが増えて借金が返せる時代が、あと、数年後にくると言っているわけです。そのへんまではそんなに我々もぜいたくできない。そうやって国の財政が上向いた時に、宇宙にもうちょっとお金をつけてくださいよということができないものかなと思っています。そういう意味で国民の支持も得たいということも含めて、こういうタウンミーティングをやって皆さんの協力をお願いしているところもあります。
<予算の配分について>
参加者:有人等は将来的に絶対必要になるという考えもありますし、その他、たとえば科学衛星につきましても、やはり国としてそういうシステムを持つということが非常に重要になるであろうと思います。例えばGPSシステムにつきましても、アメリカが民間に開放していますけれども、しかしながらその基幹部分の技術はアメリカが握っているわけで、GPSの衛星を何かしら止めてしまうと国内のGPS測位システムがダウンするとかいうようなことで、例えばヨーロッパのほうでは何か別のやつを作ろうとヨーロッパ機関で統合してやっているというような話とかを聞きます。そういう点でもやはり技術開発は必要であろうと思います。しかしながら予算というのは限られているもので、JAXAの長期ビジョン等で、これまでにはこんなことをしたいと、こういう案を作っておきましょうというようなことが、何かいろいろと提言されているように思うんです。それをどう実体化するかというところを考えた際に、その予算をどこに重点的に置くかというようなことがやはり必要になるんじゃないかというふうに考えています。有人にしても、再使用型ロケットにしても、予算がないから案だけ、ということなのかもしれませんが、どういうところで今のJAXAとしては予算を重点的に置いているのかというようなことはちょっと疑問に思っていまして。そういうところを問題がない範囲まで教えていただければと思います。
樋口:今、再使用ロケットには11、2億使っています。ただ永遠に案のままで、と考えているんじゃなくて、何かヨーロッパ、アメリカを出し抜いて、さすが日本だというような再使用ロケットを考えたいという人が、日夜努力はしていますので、ご支援いただきたいと思います。その金額を増やしたいとは思っていますが、今、全体のバランスを考えると、社会に役立つ、宇宙を使っていこうというところにも、もう少し予算を使っていかなければいけないので、宇宙科学だとかフロンティアへのチャレンジとか、そういう部分の予算に制約があることは事実です。