「第16回JAXAタウンミーティング」in 座間(平成19年7月28日開催)
会場で出された意見について
第一部「航空機開発について」で出された意見
<日本はジャンボ級の大型機を作らないのか>
参加者:日本の航空技術は非常に優秀だと聞きました。それでもジャンボ級の航空機は作れません。これは予算的に無理なのでしょうか、あるいはマーケティングを考えてなのでしょうか。これから開発していく中では、最後の課題としてスピードとコストがやはり一番のターゲットということなんでしょうか。
坂田:まずマーケットの動きを簡単にご説明します。超音速は別にしますと、現在はボーイング787に代表される200人乗りから300人乗りというところに大きなマーケットがあるんです。これにはいくつかの理由があって、ボーイング747やエアバス380といった大型の航空機。これらがもうアッパーリミットに来ました。また、そういうことを要求するエアルートが少ないのです。2001年9月11日の同時多発テロ以来、非常に厳しいセキュリティチェックが課せられるようになりました。ということは、たくさんの飛行機にいっぺんに人が集まるとセキュリティチェックだけで詰まってしまう。したがって、「あんなのにはもう乗らないぞ」となるので、中くらいの飛行機でポイントからポイントへ行きたいところに行ける飛行機、そういうルートを求めているんです。大きな飛行機は、ハブ&スポークという輸送の考え方なんです。自転車の車輪の中心にあるのがハブ、スポークは線ですね。大きな空港に大型機を持っていったあと、非常に小さな飛行機でローカル空港に人を配る。こういうやり方が現在のやり方です。これをやめて、ポイント・トゥ・ポイント。2点間の輸送を拡大しようとなってきました。したがって、200人乗りぐらいの飛行機がいま非常に需要があるんです。ということから、まず市場の動向からいってジャンボジェットを日本がいまやる必要は全然ないということです。もう1つは、大きな飛行機はメジャーな飛行機会社、ボーイングとエアバスしか作れていません。これ以外の飛行機会社がチャレンジしようとしても、いまの枠組みだとすごく難しいんです。飛行機というのは、すべてのシステムの中に存在しています。どのようなシステムかというと、エアポート、飛行機を運航するエアライン、すなわち整備とパイロット、あるいは添乗員ですね。そういう方々のシステムです。これらはすべて、ボーイング系統ならボーイング系統のシステム、エアバス系統ならエアバス系統のシステム、と、飛行機の系統に依存するんです。日本は今、ボーイング系統に両方のエアラインが偏っています。どうしてかというと、エアバスを導入するとそのシステム、少なくともエアラインはパイロット養成とか、客室乗務員の養成とか、それから機体の整備、すべてについてそのシステムを変えないといけない。それを二重に持たなければいけないんです。日本のように経済性を非常に厳しくいうところは二重に持たないんですね。もちろんヨーロッパのエアライン等、二重に持っているところはたくさんあります。それを上手に使っているところがあります。中小型ですと、それが1つひとつに対応できるんです。だから今、日本は、90人乗りから始めようとしています。150人から200人ぐらいまでは大きくなると思いますが、そこから上に行くかどうかはまだまだ全然分かりません。次に、飛行機を作るスペースの問題です。シアトルもそうですし、エアバスをつくっているトゥールーズというフランスの都市に行ってもそうですが、1つの飛行場そっくりが工場です。羽田全部がボーイング、羽田全部がエアバスだと思っていただいたらいいと思います。最低でもあのぐらいのスペースが必要なんです。たとえていうと、ボーイングの飛行場の工場の1つのドアは、サッカー場1面に相当します。横100メートル、縦60メートルぐらいのドアがあるんですね。それを作る日本のスペースは今考えますと、まったくゼロではないですが、多分ない。したがって、最終アセンブリーといいますが、そのスペースを確保するという考えからみると難しいかなあと思っているところです。
<日本で超音速旅客機を作る意義について>
参加者:フランスとイギリスで共同開発した超音速のコンコルドがありますが、経済性と性能性の面で失敗に帰したような形です。そのような経緯を踏まえて、さらに今さら日本で超音速旅客機を研究開発していく意味はあるのかなあと思っています。それから、超音速の旅客機が発着陸する滑走路の対応はどのように考えられているのでしょうか。
坂田:超音速への挑戦ですが、これは大きくいうと3つの意義があります。飛行機の大型のものはほとんどが国際共同開発です。ボーイングというブランドだったりエアバスというブランドだけれども、中身は国際共同開発です。さっきいいましたが、亜音速の世界にこれから入り込める部分は90人乗り、100人乗りであると思います。これで全ての日本の航空産業を支えるか。今までの国際協力の枠組みと、100人乗り前後の飛行機の開発販売での産業規模でいいのかと。私どもはそれでいいとは思っていないというのが第1点です。そうしますと、次に目指すのは、低速の方向か高速の方向かどちらかです。技術的チャレンジからいいますと、極限はまったくのゼロ速度、すなわちVTORという飛行機か、あるいは超音速のどちらかなんですが、超音速のほうが技術的チャレンジは高いと思っています。では、コンコルドは、経済性と、それから輸送効率なり騒音などがあってだめになりました。これらが解決しなければ次の超音速機はございません。したがって経済性でいえば、コンコルドの2倍以上の良さを持っていなければなりません。騒音とか排ガスでいえば、5分の1以下のものにならなければなりません。それが技術的な課題です。これらの技術課題は、もちろん亜音速機、普通の飛行機にも適用可能です。超音速機を狙う理由が2番目にあります。超音速の世界は、新しいフィールドであるので国際共同開発の地図が出来上がっていません。したがってわが日本がこの地図の一画ををきちっと占めるということになれば、主役の一員になれます。まだ日本は、今は国際共同開発の主役ではないんですね。主役はボーイングという飛行機、エアバスという飛行機ですが、それを、ニュートラルな名前になってほしい。そのためには技術を持ち込まなければなりません。技術を持ち込んで、それができるのは今十分に地図が描かれていない超音速の世界なんです。3番目は、日本の位置関係です。日本は太平洋を控えています。また、ヨーロッパへ行くのが遠いんです。これを半分の時間にできますと、日本の活動が非常に活発になると思います。これから少子化が続いていって、内部だけのエネルギーでやっていけるかどうか分かりません。世界とリンクして活動を展開していかなければいけないと思います。そのルートを獲得しようというわけです。現在の飛行機でやれることはもちろんありますけれども、自ら持ちうる道具でルートをさらに広げて短時間でつなげる。これは日本の1つの戦略であろうという感じを持っています。だから、技術チャレンジがちゃんとできるのであれば、日本の戦略に合ってるというのは超音速だと思っています。おっしゃるように、政治家も含めて日本人全員が合意している考え方ではございませんが、私どもはずうっとそう言い続けています。われわれ研究者がやっているので技術ターゲットの面白さが先に出そうですが、それではだめなので、いま申し上げた戦略的な意味、これがたぶん将来説得力を持つだろうということで、声を強めて言っているつもりであります。離発着については、今の空港をそのまま使えることが技術ターゲットです。ですから、3000メートルの滑走路と、それからさっきジャンボの100メートル級格納庫と言いましたが、その駐機スペースがそのまま入る。これをターゲットにしています。
<ソニックブームの軽減について>
参加者:ソニックブームというんですか、衝撃波がちょっと気になるんですが、このへんも厚木基地がある関係で米軍機がよく飛んでまして、私が小さいころ、けっこう衝撃波に近いようなものがあって、いきなりドドーンというような、たたきつけられたように揺れて、そのあとガラス窓がビリビリビリと震えるようなことがたまにありました。あれが衝撃波だったのかなあと今にして思うんですが。飛行機が音速に近いマッハで仮に飛んだとして、それが陸地の上をそのスピードで飛べるものなのか、それとも海上が主になるのか。海上といっても島があるわけですが。実際、今の技術ではどの程度衝撃波は抑えられるのか。もし地上をそのスピードで飛べないとすると、たとえばヨーロッパへ行くとなると相当制約されてしまうのかなと思うのですが。
坂田:現在見えている技術では、コンコルドと比較しますと衝撃波の強さは3分の1ぐらいにできるということになります。3分の1ですと、おっしゃるように海の上はちゃんと超音速で飛べますが、陸地の上は、それを嫌がるところがあります。だからこれはまだまだ衝撃波のソニック部分の基準ができていませんので、たぶん環境基準をつくらなけれならないですね。飛行機というのはそのような基準で飛ぶということで世界に飛んで行けるわけで、これはICAO(国際民間航空機関)というところが基準をつくるんですが、2013年に基準づくりを行うという宣言が出ています。今JAXAの研究者が代表としてそこに参加していますけれども、それが今いった3分の1ぐらいが最初のターゲットということになっていて、机上の風洞実験のレベルですけれども、日本の技術はそこに到達しています。3分の1をさらに半分ぐらいにすると、これは地上を飛べるレベルにはなりそうだとは思っています。現時点での見通しでは海の上はOK、陸の上であればたぶんだめでしょう。ですから、特別なルートを選定していただいて、たとえば、これはまだ分かりませんが、北極ルートであるとか、シベリアの一部だとか、そういう選定をいただかないと今の技術ではまだまだです。ただし10年後とか、15年後とかはだんだんと良くなってくると思いますので、挑戦を続けられればそのへんもだんだんと解決されていきます。今おっしゃっていたのはたぶん、爆撃機か戦闘機だと思うんですけれども、あれはおなかの部分にたくさんのものを積んでいて、非常にでこぼこしています。それから重量も重くなっています。それが衝撃波の大きな原因の1つですから、非常に高い衝撃波が出ていたと思います。それに比べるとコンコルドは少し柔らかで、するっとしています。これをヘラ形にするような空気形状をつくると、衝撃波が下がって、解決の一助になるんじゃないかなと思っています。
<規格について>
参加者:規格の件でお聞きしたいと思います。国産の超音速飛行機をつくる場合は、JIS規格で作ることになるんですか。
坂田:残念ながら、規格のことまでまだ話が及んでいません。技術の挑戦のところではその段階ですけれど。動向のことを申し上げると、JISの調整もしますが、もう少し国際的な枠組みのスペックを作ることになると思います。とくに超音速が、もし日本の技術がリードすることが続けば、最初から国際的なものに挑戦したほうがいいと思っています。その意味では、ISOのルートでやるか、あるいは連携した共同の委員会のようなものでやるか。ここはまだ何とも申し上げられませんが、私の個人的な発想ではそういう方向もあるんじゃないかと思っているところですが、まだ深く議論をやってはいません。
<環境に優しい航空機について>
参加者:自動車ですと今はハイブリッドとか燃料電池などがあります。飛行機についても、モーターで将来的には飛行させるとか、そのような動きはあるのでしょうか。
坂田:今日はご紹介しませんでしたが、技術動向からいいますと、モーターの重さやシステムなどということでかなり将来にならざるを得ませんが、研究を進めています。流れとしますと、モーター飛行機か、あるいはジェットエンジンを積んでいるが必要な電力は燃料電池で供給するとかです。現在はエンジンが回っているところから発電機の動力を引っ張り出してきているんですね。それをやめて、エンジンはエンジンでそのまま飛行だけに使って、機体の中の照明であるとかテレビだとか、あるいはコントロールするための電力は、中の燃料電池でやるという研究も進めています。ですから燃料電池の研究、あるいは軽量モーターの研究、モーターの場合はプロペラのようなものの飛行機になりますが、そういう方向はあります。ただし、流れは自動車などよりも少し遅いと思います。残念なことに飛行機はブレーキを踏みませんので、そこがハイブリッドにならないことかもしれません。
<中型航空機の市場について>
参加者:中型の飛行機の話に戻るんですけれども、70から90席というと、もうけっこう今でも多いと思うんですが、勝算はどの程度あるんでしょうか。
坂田:それが大きな悩みです。マーケットは先ほどもいいましたように、最低2000機はあると考えています。エンブライエルというブラジルの会社、あるいはボンバルディアというカナダの会社がだいたいもともと60人乗りぐらいを中心につくっていたものが、70、80に上がってきて、デビューさせるのがいくつかあるんですね。そしてコンピュータですが、そのあたりの技術と比べると大いに勝っていることが分かります。問題は信用度だと思うんですね。まだ日本ブランドの飛行機は売っておりませんので。さっき、エアラインでもボーイング派とかエアバス派があるといったのは、ある種の信用度もあって、一度これを確立するとエアラインはもうほかのリスクをあまり冒したくないんですね。ですからボンバルディアを使っているところはずっとボンバルディアを使いたがるんですが、それを凌駕する性能、サポート、あるいは整備性の良さなどがあれば飛びつくわけで、現在それがいいところに来ているんじゃないかと思っています。700、800機売れれば大成功だと。まだ何とも答えはありませんけれども、そのようなターゲットで挑戦しているというところです。