JAXAタウンミーティング

「第15回JAXAタウンミーティング」in 滑川(平成19年7月8日開催)
会場で出された意見について



第二部「日本の有人宇宙活動について」で出された意見



<宇宙医学について>
参加者:重力が無い状態での人体への影響として、骨粗鬆症などが上げられるということで、興味深かったです。重力が無い状態で骨粗鬆症だけでなく筋肉の低下であるとか、心肺能力の低下、後、下肢に重力がある状態、地球上であると下肢に血液が引き戻されることによって日常生活、体に影響するということですが、それに対するJAXAさんの予防医学というような形での、何か具体的な研究はあるのでしょうか。

白木:要するにカルシウムが抜けて骨がもろくなるわけですが、筋肉も当然、弱くなります。筋肉については、ステーションの中でもトレッドミルを宇宙飛行士が毎日やって、何とか筋肉の劣化を防ぐというようなことをやっています。JAXAの方でも、民間企業の方とも協力をしながら、筋力を維持するような装置も今、研究しております。そういったものをある程度、宇宙ステーションに持っていける状況が近々くれば、実際にそういったものの検証をして、宇宙での筋肉の維持ができるということが、トレッドミルなら足と腰だけですが、腕も含めてできるのかなと思っています。それから骨粗鬆症といいますか、カルシウムが抜けるものに対しても、薬を飲むことで、何とかカルシウムの抜け出るのを防ぐというようなこともやっています。そういったいくつかの宇宙での対症療法、対応策を実際に軌道上でやることで、それがもっと改良されていくと地球上での役にも立つのかなと思っています。重力が無いところは、血液が上のほうに上ってしまうので、下のほうに引き戻すといった装置もありますが、できるだけ地球上に近いような状況を維持しながら、宇宙飛行士ができるだけ長い時間居れるようなことは考えてはいますが、対応策はすべて完全ではないのが事実です。今までのスペースシャトルだと1週間か10日、あるいは2週間ですが、6ヶ月という非常に長い期間になってきますと、そういったものが非常に重要になってきます。行く行くは月だ火星だと言いますと、もっとそういうものが大切になってきます。重力以外には放射線の問題がありますので、放射線に対して人間がどこまで耐えれるのか、一生のうちの放射能の被爆量を出して、それを超えないような管理を今やっているのが現状です。

<一般人が宇宙へ行く可能性について>
参加者:宇宙ステーションの開発が進められていますが、僕が生きている間に宇宙へ行くことはできますか。

白木:生きているうちに宇宙に行けるかという話ですが、宇宙旅行を幾つか民間企業含めて出しています。100km程度の、地球一周を回らない程度の軌道でしたら割と近く実現できるのではないかと思っています。お金を払えば行ける宇宙旅行なら、ソユーズが交代する間10日間前後ですが、お金を払えば乗れます。それが今の値段で言いますと25億円ぐらいです。お金さえあれば行ける世の中です。いずれにしても宇宙飛行、宇宙のシステム、ロケットを見まして、結構まだお金がかかるシステムになっていますので、民間がそういった新たな宇宙システムを考えたり、あるいはより多くの人が行けるようなシステムが開発されれば、宇宙旅行のコストはどんどん下がっていく、そのように期待しています。

<宇宙での筋力の低下について>
参加者:宇宙空間で重力が無い状態で、筋肉が落ちるスピードは1%以上と聞いたことがあります。10日間滞在できるとしたら10%落ちるわけですね。大変なことですね。

白木:宇宙飛行士がシャトルから降りた時に、よたよたしている人が結構いる通り、筋肉が結構落ちますが、それが今言われた速度で早く落ちるかと言われるとそうでもないです。向井さんから聞いた話だと、むしろカルシウムが抜けるほうが厳しいといいます。

<宇宙環境の利用について>
参加者:睡眠物質、寄生虫感染症関連蛋白質とか、製薬への宇宙環境の利用、それと新しい材料の研究で何か話をしていただけたらなと思います。

白木:宇宙は重力が無いので、地球上と違って対流が起きない。対流が起きないと、液体の中での結晶が非常に均一で上質のものができるということから、宇宙でタンパク質の上質の結晶ができます。それを地球に持ち帰って、構造解析をしてそこからそれに合った薬を作るという研究があります。材料については、ステーションが始まった1985年当時は、半導体が盛んだった頃で、宇宙で良質な半導体単結晶を作ろうということが当面の目標でありましたが、宇宙ステーションがいつまでたっても上らない間に、半導体の世界はどんどん進んじゃったということで、今、現在私どもで目指しているのはナノ物質だとか、コロイド状の物質だとか、そういったものが、宇宙の対流の無い環境下で出来るんじゃないかということで研究をしています。宇宙は、無重力効果でのそういった結晶が良いものができる、あるいは結晶格子がうまくきれいに並ぶ、そういった効果を使って地球上では得られないような優れた材料を作ろうかということがポイントだと思います。

<衛星等の信頼性について>
参加者:宇宙へ飛び出す衛星とか有人衛星。こういうものの中に積んでいる機器の信頼性ですが、例えばお金をかければかける程100%大丈夫なものが飛ぶんでしょうが、「はやぶさ」のように、還ってくるかどうかちょっと怪しいぞというようなものも含めて、有人になればもちろん信頼性の高いシステムだとか機器を積んでいるのだと思いますが、それの信頼性というのはどういうところでバランスを取るんのでしょうか。

白木:有人無人にかかわらず、無人の場合壊れますと、衛星一個駄目になってしまいますので、無人であってもそのコンポーネント、コンピューターにしろ、センサーにしろ、信頼性は非常に高くしなければいけないということで、計算で出す数字はあります。それにしてはよくロケットはうまくいかないんじゃないか、衛星もよく失敗するんじゃないかと言われますが、物を作られる方はごぞんじかと思いますが、作った最初は、初期故障でよく故障が出てきますので、初期故障が出ないまま上がると、失敗をする。あるいは設計が完全に検証されないまま上げると、設計がまずくて失敗する、そういうことがあります。それが結構今まで起きている失敗です。無人の場合はそういう意味で、単品の信頼性を高くすると共にその初期故障をまず地上にいる間に洗い出す、あるいは設計の過誤をできるだけ洗い出すというようなことで衛星ロケットの信頼性を上げています。有人の場合、何が違うかと言うと、一個壊れたら、それで人が死んだぞというわけにはいかないですから、人の命にかかわるようなところは冗長と言いますか、一個壊れても後二個残っている、それで運用できますと。そういった冗長をたくさん持つことです。HTVという無人の貨物機がありますが、ああいったものはステーションの所に無人で貨物機が行って、ステーションに衝突したのではとても還れないですから、衝突をしないようにする為に、有人並みの安全性が必要だと言われてまして、本来ならコンピューターが2個ですむところを3個だとか、電源が1個でよいところを2個、3個とか、そういった数が増えることで、コスト的には高くなっている。我々の有人のほうはそういったやり方で信頼性、安全性を確保しています。

井上:科学的な挑戦をやりたいという部分については、世界に先んじて成果を得たいと思うわけですが、今までにないことをやるという事は、必ずどこかに考え落しを含み得ることになりますから、挑戦と信頼性というのはいつもある部分、矛盾することがあります。我々は今までも、ミニマム・サクセス、フル・サクセスという言葉を使っていますが、間違ってもここまでは必ず間違いのないところを作ると、しかし成果という意味で挑戦的に勝負する部分は、やっぱり少し挑戦させてもらう部分にする。そういうようなとらえ方でやっています。有限の資源の中でぎりぎりの事を、いつもそういうことは危険は伴うことになってしまいますから、そこの兼ね合いは非常に難しいです。

<衛星の寿命について>
参加者:衛星には具体的な寿命はあるのでしょうか。

井上:特に科学観測の場合には、目的を達成するのにどれぐらい時間がかかりますかということを考えて、それに合う設計をできるだけするわけですが、特に衛星の寿命を決めるのは何といっても、電力がちゃんと供給されるものが長いこと続くことです。電池というのは、よく皆さんもご経験があると思うんですが、何度も使っているとすぐ駄目になりますよね。衛星を設計をする時は、そういうことに非常に神経を使います。それから部品は、宇宙環境は放射線でずいぶんダメージを受けてきますから、放射線のダメージというのもずいぶん考えます。だいたい科学衛星というのは、3年ぐらいちゃんと働いてくれるということをまずは目安としています。結果的にずいぶん長いこと、さっき18年働いてくれているという話をしましたが、大きな、故障がない場合は、比較的長いこと動いています。

<まとめ>
井上:今日は私どもの話を一生懸命聞いてくださいましてありがとうございました。今日いただいたところで強く感じますのは、一つはやはり私どもの宇宙開発と言いますか、非常に重要な役割はさっきご指摘いただきましたように、広い意味で我々の環境を知っていくことだろうと思っています。特に21世紀というのは、「文明の持続的発展」というのが今、テーマだと言われますが、地球の資源の有限性ですとか、そういう地球の環境の問題ですとか、こういうことはまさに喫緊の問題で、私どもは短期的に対応するための地球観測ということもありますし、もっと長期な意味で惑星間空間、さらには我々の宇宙そのものをしっかり理解していくことも大事なことだと思って進めています。その点についてはこれからも批判、いろいろご意見を伺いたいと思います。それからもう一つは、先ほどこれもご指摘いただいた、寄付をしていくようなこと、非常に貴重なことを伺いました。この点は、私どもが欧米と比べてよく感じることなんですが、例えばアメリカの宇宙開発、宇宙開発に限りません、アメリカのいろんな公共的な活動というものに対しては企業なり個人なりの寄付と献金というものが非常に大きな割合を占めています。一方、ヨーロッパのほうも、こういう科学的な宇宙開発、そういう公共的なことに対しては、例えば地方自治体がある割合のお金を出して、国の中に基金みたいなものを作って、それを動かしているというようなところがあります。そういうことで感じるのは、国民と言いますか、市民が国なり公共的なことを自分が支えているんだという意識が非常に高いような気がします。逆に日本では、皆さんそう思っていただいているところを見い出せていないんではないか。我々側がそういうことを受け止める考え方にむしろ足りないところがあるんじゃないかという事を感じます。そういう意味でこの点も我々、今日少し宿題をいただいたような気がします。この夏には我々「セレーネ」と呼んできましたけれども「かぐや」という月の探査機が月にまいります。皆さんからたくさんメッセージをいただいて、持っていくことになります。この「かぐや」、実は子衛星を二つ積んでおりまして、月の周回に入っていく衛星を、子供を置いてくるんですが、その話をした時に、かぐや姫には子供があったんだろうかという話がありました。でもかぐや姫は月に帰って、きっと幸せな家庭を築いて子供も生まれたのではないか。今度「かぐや」が月に行って、子供に是非恵まれますようにと、皆さん応援のほど、よろしくお願いします。