「第14回JAXAタウンミーティング」 in 釧路(平成19年6月23日開催)
会場で出された意見について
第二部「宇宙の謎に挑む-日本の宇宙科学の いま と これから-」で出された意見
<はやぶさのカプセル回収について>
参加者:「イトカワ」に衛星が降りて、確か下にものをぶつけてはね返ってきた土を採取したということでしたが、本当に採取できているのかというのは分かるのでしょうか。
阪本:予定通りいったわけではありません。着陸するときに彼は気を失っていました。だけれども、とにかく口を開けた状態で突っ込んでいったんです。本当はそのときに弾丸を当てて、はね返ってきたやつが中に入り込んできて、そこでカプセルにふたをするというのが正しいシークエンスだったのですが、それはできていません。ただ、口を開けた状態で当たったので、そのときの衝撃で何がしかの砂が巻き上がって、入っているんじゃないかなというふうに思っています。これはあながち大ボラでもなく、あの天体というのはものすごく小さいんです。一番長いところでも五百数十メートルしかありません。重力が地球とか月とまったく比べ物にならないぐらい小さい。そこに積もっているものというのは少しひっぱたくとふわあっと浮かび上がります。それが入ってくる可能性はあるかな、というのがプロジェクト側からの報告です。じゃあ入っているからもう安心かというとそうではなくて、今はとにかく大変な状態になっていて、足がもともと4本生えていたが、今1本でやっています。それからバランスを取るための、三半規管みたいなものがあるのですが、それがまた壊れているので、3つあったうちの1つになっています。普通にいうとエンジンをどっちに噴いたらいいか分からなくなるのでもうお手上げになっちゃうわけですが、いまそれを何とか、太陽からの光の粒を受けながらかろうじて生きています。
<JAXAの地球温暖化対策について>
参加者:地球温暖化についてのことでお聞きしたいのですが、JAXAは宇宙から衛星で地球の環境などを見守っているような形で得た情報を各機関に送ったりして、というような役立ち方だと思いますが、アメリカだったと思いますが、自分たちは「京都議定書」には参加しないが、ソーラーシステムで温室効果ガスなどを破壊して温度の上昇を抑えるようにするみたいなすごいことを言っています。日本の場合はそういう宇宙からのアプローチから地球温暖化に対する対策を考えているようなことはあるのでしょうか。
堀川:太陽発電衛星を使って地球上にエネルギーを送ろうという実験はしていて、将来はそれこそ何キロメートルぐらいの大きさの太陽発電できるようなものを宇宙へ飛ばして、そこから電波で地上にそのエネルギーを送って、地上でそのエネルギーを使おうというような計画はあります。それもクリーンでいいかというと、電波を地上に送るときにすごいエネルギーを送るので、空気の間で化学変化が起きたりしてそれがマイナスになるんじゃないかとか。別の面もあるので、そういうことも含めて考えながらやっていかなければならないと思っています。
<はやぶさのサンプルの落下地点について>
参加者:さっきの「はやぶさ」の映像を見て思いましたが、サンプルがどこに落ちるか分かっているのでしょうか。
阪本:狙いは定めていて、オーストラリアにウーメラという砂漠があり、そこに落とそうとしています。あれ自体に発信器みたいなものを積んでいて、それでトラッキングできると思っています。
堀川:人工衛星というのは必ず電波でつながっていて、どこにいるかというのは、距離を測って人工衛星の軌道を予測しています。地球に帰るときに一瞬分からなくなるときがありますが、軌道を計算するとそれがどこに落ちるかはだいたい予測できます。
<惑星探査の国際協力について(1)観測ミッションについて>
参加者:水星とか金星の探査機の話がありましたが、日本だけでやるのでしょうか。それともほかのアイデアも入るいわゆる合作というものなのでしょうか。
阪本:水星探査機の「ベピコロンボ」というものは2つの探査機の相乗りです。我々が打ち上げるのはMMOという磁場を測る装置ですが、そのほかにヨーロッパのほうがそれこそ「だいち」の小型版みたいなものを打ち上げて形状を測ります。表面の形を測ります。だから、日欧の相乗りプロジェクトということになっています。それから「プラネットC」も共同研究をしているはずです。
<惑星探査の国際協力について(2)打上げについて>
参加者:結局、どこかのロケットに相乗りして乗せてもらうのでしょうか、日本のロケットで打ち上げてヨーロッパも入るのでしょうか。
堀川:「プラネットC」は日本のロケットで打ち上げて、衛星も日本がつくる予定になっています。ただそこに搭載する実験装置は世界中のものが載ります。「ベピコロンボ」はヨーロッパのほうのロケットで打ち上げるということになっているはずです。
<惑星探査の国際協力について(3)運用資金の割合について>
参加者:運用資金の割合は?結局どっちかがボランティアで載せてやるよというものなのでしょうか。
堀川:自分の衛星は自分で運用することになるので、「ベピコロンボ」の日本のつくったほうの衛星は日本が運用します。もちろん、水星とかディープスペースといって非常に遠いところの星なので、日本の地球局だけじゃなくて、ヨーロッパの局だとかアメリカの局だとかを使って追いかけてデータを取るということになると思います。それぞれの国の自分たちの持っている設備で運用するのは自分たちのお金でということになります。データとしてはお互いに共通に使いましょうと。お金のやり取りは基本的にしないということです。
<「はやぶさ」の帰還方法について>
参加者:現在「はやぶさ」が地球に向かって来ていると思いますが、手動で来ているのでしょうか、それからまた衛星本体そのもので帰還しているのでしょうか。
阪本:今は、逐一教えてあげないといけない状態になっています。電源の半分ぐらいが死んでいて、今は非常に賢いコンピューターは切っています。ただ、もはやその賢いコンピューターはいりません。賢いコンピューターが何のために必要だったかというと、地球から向こうに電波を送って、そして戻ってくるまで30分もかかるようなところにいたので、いちいち指令を出していたらぶつかっちゃうよというので、最後の最後はあなたが自分でやりなさいということでした。今はもうただ帰ってくるところなので、こっちのほうから逐一これをやりなさい、やれましたか、はい、じゃあ次はこうしなさい、ということになっています。
<探査機の愛称について>
参加者:水星探査機とか金星探査機とか、アルファベットを使って名前をつけています。日本でつくった「はやぶさ」とか「ひまわり」というのはやっぱり日本のものだから日本独自のひらがなを使って名前をつけているのでしょうか。
阪本:「プラネットC」というのはいわゆる開発コード名です。例えば「はやぶさ」は「ミューゼスC」という、打ち上げ前はそういう開発コード名で呼ばれていました。これは工学試験衛星のシリーズに「ミューゼス」という名前がついているからです。だから「プラネットC」も、たぶんひらがなで書ける名前がつきます。「ベピコロンボ」の場合は日欧共同で2つの相乗り衛星が合体したプロジェクトの名前なので、今日本の衛星にはMMOというのがついていますが、また成功したらたぶん名前がつくと思います。
矢代広報部長:日本の科学衛星には全部和名がついています。ひらがなの名前がついていて、いろいろなつけ方がありますが、JAXAになってからは一般に公募するケースもありますし、それから科学者も入れてあるプロジェクトに参加した人たちの中から名前を募集して、またその中で議論をしてミッションに一番合ったものを選んだりとか。なかなか苦労しています。ただこういう国際共同の場合には、日本とヨーロッパの衛星が別々にあるのだから、日本の子衛星については日本の名前がつくのではないかと思います。
堀川:衛星の名前の和名、「はやぶさ」とか「ひまわり」というのはニックネームです。開発の途中でつけているのは非常に難しい英語名をつけていますが、上がったら、あるいは上がる直前にニックネームとしてみなさんから親しまれる名前をつけましょうということです。だから、国際共同であっても宇宙ステーションの日本のモジュールというのは「JEM(ジャパニーズ・エクスペリメント・モジュール)」と言っていますが、日本名で「きぼう」という名前がつけてあるわけです。
<スペースデブリについて>
参加者:今現在地球のまわりに宇宙ゴミ、いわゆるスペースデブリがけっこうな数が回っているという話を聞いたことありますが、これが宇宙開発に影響を与えたりはしていないでしょうか。
堀川:宇宙のゴミというのは死んだ人工衛星だとかが爆発して細かく粉々になったものとかそういうものが非常にたくさんあります。アメリカが中心になっていますが、宇宙をレーダーで測って宇宙に飛んでいるゴミの大きいものを全部追跡しています。10センチ以上の大きさの宇宙のゴミは約9000個飛んでいます。それを全部記録してどういう軌道を飛んでいるかというのを追いかけています。10センチより小さいのはレーダーでも分からないし、光学的に望遠鏡で見ても追いかけられませんが、その数はもっとたくさんあります。そういうゴミが、生活に必要な人工衛星や科学衛星など飛んでいるものにぶつかる可能性というのはまったくないわけじゃありません。小さいものはかなりぶつかっています。ミリ単位とか、1ミリ以下のゴミは、人工衛星を回収したりシャトルが戻ってきたりするとぶつかっているのが分かります。でも、1センチ以上のものはほとんどめったにぶつかりません。それぐらい希薄ではあります。このあいだ中国が自分の人工衛星にぶつけてばらばらにしました。あのゴミがどのように分布しているかというのはだいたい予測がついているわけですが、ああいうことが増えると宇宙がだんだん使えなくなってしまうので宇宙にゴミを残さないように人工衛星を打ち上げましょうという国際的な約束の話し合いで進めています。だから今後、中国もああいうことは絶対しないと思います。宇宙にゴミを増やすということは非常に危険だし、これから宇宙ステーションに日本の宇宙飛行士が何人も行くわけですが、そういう人たちが宇宙で安全に仕事ができるようにするためにも宇宙にはゴミを増やさないということが非常に大事なことだと思います。人工衛星のアイデアを募集すると、宇宙のゴミを回収するゴミ取り衛星というアイデアがいっぱい出てきますが、今なかなかそういうのはできません。ランデブードッキングして、大きなゴミをつかまえてその衛星を地上に戻すというようなことはいずれできるようになると思っています。
<次期固体ロケットとGXロケットについて>
参加者:確か固体ロケットがもう使用されなくなりましたが、今後の開発予定ということが書いてありました。具体的にどういうふうになっているのかということと、もう1つ、GXロケットというロケットを開発しているとホームページで見ましたが、それに関しても具体的にどういうふうになっているかを教えていただきたい。
堀川:固体ロケットのほうは去年の「ひので」の打ち上げを最後にミュー・ロケットというのは終了しました。これは製作費が非常に高いロケットだということで、もっと効率のよいロケットで人工衛星を上げたほうがいいだろうということで終わりにしました。固体ロケットというのはいつでも安く打ち上げられる能力を持っているものなので、そういったロケットをぜひ開発すべきだということで今準備をしているところです。1つはお金の問題もあるので、お金をいただいて確実にそれの開発をしていきたいというふうに準備をしているところで、まだちゃんと開発しますという、国の財政も含めた約束にはなっていませんが、準備は進めています。GXのほうは計画を進めていて、民間の企業とJAXAと共同で開発を進めていますが、技術的な問題がいろいろあってなかなか進捗が難しいが、着実に開発できるように努力を今しているところです。
<惑星探査機の信頼性について>
参加者:「はやぶさ」が今ひどい状況になったというような話を聞いてですが、近未来の惑星探査機は大丈夫なのでしょうか。
阪本:大丈夫にしたいと思っています。まず第1に今回の「はやぶさ」が抱えたトラブル、最も大きなものが「はずみ車」の故障だと思っています。我々はそのまま同じものを使うことは考えていません。少なくとも「はやぶさ」でトラブルが生じたということで次のミッションの「はずみ車」の部分は、違うものを使います。それから試験をより入念に行うというか、壊れるものなのだということでそこのところをより重点をおいて試験するようにします。
堀川:我々が利用している人工衛星が回っている地球の周辺の環境というのはすごく安定しているというか、我々十分に理解ができています。ところが、ディープスペースという遠くのほうの宇宙へ行くというと、環境条件が地球のまわりを回るよりもものすごく厳しいです。そういう厳しい条件の中でいろいろな試験をしてもしきれないほどの環境条件があるので、いろいろ工夫しなければいけないという難しさがあります。深宇宙の科学衛星にはそういう難しさがあります。そういう意味では非常にチャレンジングなことを考えながら科学衛星はやらなきゃいけません。
<過去の惑星探査機の成功要因について>
参加者:ひと昔前に木星などを観測して外に出て行った人工衛星は、どのようにそのような問題を回避していったのかということと、そして今どこにいるのでしょうか。
堀川:最初は「マリナー」という衛星があって、それから「パイオニア」、「ボイジャー」とかいろいろな衛星が木星、土星、それから冥王星を越えていったような衛星もあります。そういう衛星は、すべてが機能しているかどうかというのは必ずしも分からなくて、あるところの距離までは電波が届く範囲で「ああ、電波が来てますね」という確認をしています。あとは光学的な観測はある距離まではするということをやっています。衛星がいろいろな極限の環境条件、温度がものすごく低くてマイナス100度、マイナス200度近い温度になっても機能するように、遠くのディープスペースに行った衛星というのは昔は原子力を使いました。原子力で発電して情報を伝えてきます。電子機器というのはだいたい5年、10年は十分に持ちます。昔はそれほどの信頼性はなかったと思うが、たまたま地上でスクリーニングという選別をきちっとやっていい部品だけを使ってやったから生きてそういうところまで行けたんだと思います。試験をやって確実に長生きできるような部品だけを選んでやるとか大変な苦労をして衛星の寿命を長くしようということは、わたしたちの今の衛星でもやっています。
<地震・津波の予知について>
参加者:釧路にも非常に関係のあることですが、先ほど災害監視というお話がありました。釧路は非常に地震も津波も多い町ですが、例えば地殻を監視する、海底のプレートのひずみを監視して1週間、あるいは1カ月以内に何らかの大規模な地震が起きる可能性があるというような予測をすることが技術的に可能なのでしょうか、もう1つが、津波が発生して比較的釧路から遠いところで起きた地震について津波警報が出ても来るのか来ないのかなかなか分からない状況で警報が解除されないということが去年から今年にかけて2回ありました。例えばいま現在の波がこちらのほうに、今どの位置にあるというのをリアルタイムで観測して予報を出していくということが技術的に可能になっていくのかでしょうか。
堀川:私は地震の専門家ではないので必ずしもよく分からないところもありますが、地震の予知というのは非常に難しくてなかなかできません。今のところ地震予知はできないというのが基本です。ただ、地震が起きるときに早く来る縦波と、ゆっくり来る横波があって、縦波が来たときの情報をとらえて、あとで横波が来る地震の間に例えばエレベーターを止めるとか、電車を止めるとかということをやるということで今努力はされていると思います。とくに宇宙から海底のプレートの変化だとかを観測しようというのは今のところ実現できるような技術はまだできていません。一部に、地震が起きるときに地殻にひずみができたために電磁波が出て、その電磁波が地球のまわりにある電離層に影響を与えて、それを事前に知ることによって地震が分かるんじゃないかというような話もありますが、まだ現実的にそれがどの場所で、いつごろ起きるのかというところにつなげられるような予知にはなっていないというのが実態です。それと津波についても、地震がどこか遠くのほうで起きて津波が来るというのは、震源地が分ったらその震源地の場所をベースにどこに津波が来る可能性がある、その大きさは地震の大きさによってどれだけの可能性があるという予報が出ると思いますが、あれもかなり誤差があるわけで、その誤差が最悪のケースを考えた予報というのが出されることが多いと思います。宇宙からはそういう被害がどこまで及んで、その被害を敬遠することはできないんだけれども、被害にあう人たちを最小限にとどめることと、被害をどこまでの範囲だから早く逃げなさいとか、そういうことができるような対策に宇宙の人工衛星を使えたらと我々は思っています。
<火山予知について>
参加者:釧路の場合、雌阿寒岳が近くにありますが、この場合も例えばどれぐらいの期間、実際に噴火する、どれぐらい前の時点でこれはかなり危ないぞということが見えてくるのでしょうか。
堀川:地震は基本的に地殻の変動で起きます。それは地表面から何十キロという下の動きなので、それはなかなか分かりにくいです。もちろん地表面の動きにまで影響が出てきていれば毎回毎回人工衛星で観測して比較をしていけばいいのです。そういう意味で、火山は非常に分かりやすいです。火山が噴火するときには隆起が山の表面のところに出てくるので。火山の爆発に関する観測というのは非常に真剣に考えていて、噴火の可能性のある山は去年打ち上げた「だいち」で継続的に観測をして、爆発に備えるような準備を進めているところです。「だいち」の観測は、同じ場所をレーダーで観測するのに4日に1回しか観測できていません。人工衛星と地球の回り方の加減でです。同じ場所を毎日、あるいは何時間おきに継続的に観測できるようにするには人工衛星の数をもっともっとたくさん増やさないといけません。だから、爆発する直前に突然変化があるようなものはなかなか宇宙から事前に観測したとしても予知するというのは非常に難しいと思いますが、徐々に、何カ月、何十日のオーダーで変化しているものであればだいたい分かって、ここはこうなっていますよというデータを火山学者の方々に渡すと、いつごろ危ないかもしれないというのは出していただけるんじゃないかと思います。
<2025年に宇宙旅行で実現できそうなこと>
参加者:きょうの副題で「2025年宇宙へ行く」と書いてあります。私はぜひ宇宙へ行きたいのですが、25年じゃちょっと間に合わないかなって思います。25年で実現できそうなことと、あと宇宙がどれぐらい私たちに近くなるのか、そのあたりを教えていただきたい。
堀川:一般の人が宇宙へ行くというのに対して、現在地球のまわりをぐるぐる回る人工衛星、あるいは宇宙ステーションのようなところに普通の人が行くというのはけっこう時間がかかるかなというのがありますが、飛行機のようなもので弾道飛行をやって宇宙に瞬間、例えば何十秒とか滞在したというぐらいの経験は、たぶん2020年ぐらいには十分にできているんじゃないかなと思います。そういう弾道飛行で宇宙に行ったというのは去年はもう実現してますし、それを一般の人までできるようにするにはもう少し信頼性とかを高めて繰り返しやれば行けるようになるんだと思います。今の宇宙ステーションというのは2015年ぐらいまでは少なくとも運用を続けると言っているので、それまでに宇宙飛行士になって、それで選抜されて、人間を輸送する新しく開発された輸送機で宇宙ステーションに行くとか、あるいはロシアのソユーズというロケットに乗って行くというのは可能性はまったくないわけではありませんが、非常に限られた人になるのかなと思います。
阪本:宇宙という言葉を使ったときに、どこを宇宙と感じるかだと思います。理事が今お話していたのは宇宙の定義というのは100キロ上空より上ですよと、いうのが定義なので、そういう意味では弾道飛行で届いちゃいます。我々も、人工衛星としては上げられないような小型のロケットでも宇宙までは行けちゃうわけです。だけどもっと、例えば地球と月が並んでいるようなのを客観的に見たいなということになると、これはもうかなり大げさな話になってきて、それはほんとに今の宇宙ステーションでも全然だめな世界です。宇宙ステーションだって非常に低いところ、400キロぐらいのところを回っているだけですから、ほとんど地球の表面の空気の非常に薄いところにへばりついているような感じです。それでいいのであればそこそこOKだと思いますが、そこから先、例えば火星にとかいうと、まず行くのにものすごく時間がかかり、それからあと、これから解決しなければならない問題として、いわゆる無重力状態というのをずうっと経験することになります。そうすると、とくに女性の方は大変なんだと思いますが骨がぼろぼろになってきます。普段、我々は歩くだけで筋トレしてますから骨も筋肉もある程度鍛えられますが、それを長期間にわたって耐えられるか。帰ってきたときにハッピーかどうかという問題も考えなければいけないと思います。たぶん、ものすごく遠いところへ行きたいと思う人はそんなに多くはいないか、あるいはよっぽど無鉄砲な人しか行かないんじゃないかなと思います。だから、飛び出す前に、宇宙旅行を計画的に考えられたほうがいいと思います、いつ帰ってこられますかというのを。
堀川:宇宙ステーションのあとに月に行きましょうという、有人の月探査、その先は火星に人が行こうという計画をアメリカが提唱して、日本、ヨーロッパに呼びかけて、もしやるんであればみんなで一緒にやりませんかという話は出ていて、それは2020年から25年ぐらいに実現させるシナリオをみんなで作って、どれぐらいお金がかかるとか、お互いにどういう役割をしようかということを話し合いはじめています。そのときに、幸いにして宇宙飛行士に選ばれてそこに行くということはないわけではないです。
阪本:月周回衛星の「かぐや」にいろいろメッセージを乗せるというので公募しましたが、その中にもいろいろなメッセージがあったし、私自身も応募して出したが、そのときに私が書いて出したのは、「外に出てはじめて分かる中がある」。ようするに月に出ることによってはじめて地球というものが理解できる。たぶん、そういうことを思われていると思います。そういう意味ではご本人が行かれるのもいいかもしれないし、あるいはそれを代弁するような人が行ってそのメッセージを伝え続けてほしいです。JAXA としては月の利用というのも考えているわけですが、ただその月の利用というのは、地球がだめになっちゃうから代わりに月に住みましょうという、そういう話ではありません。とにかく人間が住む環境としてやっぱり地球というのはすごく優しいし、月というのは非常に厳しい。それは向こうに行くことによってなおさら実感できます。月が身近になることによって、2025年のころには月の有人基地のようなものが見えてきているとしたら、そういうことを具体的に考えることによって月に住むこと自体の問題というか、あるいは我々が地球に住んでいることのありがたみみたいなものが、より実感できるような世の中になっています。ただ我々は、そのフェーズになる前に月を壊しに行っちゃいけないので、こういう地球環境のことを強く訴えたりということをしています。それから私は天文学者なので、たくさんの星の中での地球の位置づけのようなことをひとよりはよく理解しているつもりなので、そういう意味では宇宙に旅立たなくてもある程度の想像はできます。だけども実際に行ってみて、あるいは住もうとして具体的なプランを立ててみることによって、この地球に住むことというのがいかに我々にとってやさしいことなのか。それからこの地球を住める状態に保ち続けることというのは、そのほかの営みに比べていかにたやすくできることなのかというのを、たぶん実感できます。それは、2025年まで待ってはいけなくて、もっと早い時点でより多くの人たちが自覚をもって行動できるように。そういうことを進めていかなくてはいけないんだと思っています。
<宇宙開発広報の必要性について>
参加者:地球温暖化とかいろいろ考えますが、日本にいると世界全体を地球単位で見るのはかなり難しいと思います。言葉では知ってますが、地球単位のことを考えるのは難しくって、やはり外に出て見るのが一番、ああこういう星に住んでるのねと実感することが、そういうことに協力する一番の近道なのかなと思います。あと全然話が違いますが、きょう参加して衛星っていろいろな仕事をしているのがよく分かりましたが、逆に私たちが知っているのは打ち上げに失敗しちゃいましたとか、そういうニュースを大きく取り上げられるので、もっとこういうタウンミーティングなどの活動もあるが、もっとこうJAXAさんのほうから国民に向けてコマーシャル的なものというか、いろいろなイベントを打ってもいいと思います。
堀川:ありがとうございます。本当におっしゃる通りで、私たちのアピールの仕方というかPRの仕方がまだまだ足りないというふうに思っています。本当に人工衛星というのは使えば使うほどいろいろな使い方ができると思っています。ただ一方でお金がすごくかかるので我々にとって、引け目を感じているところがあります。いかに安くもっともっとたくさん人工衛星を上げて、役に立たせていきたいと思っているのですが、こんなふうに役に立っているんですよ、こういうふうに使えるんですよ、こういう使い方もできるんですよと、我々はもっと努力してアピールしていきたいと思っています。