「第14回JAXAタウンミーティング」 in 釧路(平成19年6月23日開催)
会場で出された意見について
第一部「私たちの地球のために宇宙からできること」で出された意見
<打上げの信頼性について>
参加者:宇宙技術の開発というのはやはり膨大な予算がかかると思います。先日、情報収集衛星の打ち上げに成功しましたが、その前に一度失敗して衛星を爆破、指令爆破して、そういう形で予算が無駄になりました。衛星のコントロールのほうで難しいのか、それともロケットの打ち上げ技術のほうで日本の技術には問題があるのか。そのへんはフィフティーフィフティーなのでしょうか。
堀川:確かにこれまでロケットの失敗、人工衛星の失敗というのを経験してきました。でも、人工衛星、ロケットを我々の分かっている範囲でつくって打ち上げるということは、そんなに難しいことではないです。ただ、それを大型の非常に複雑な衛星にするとか、あるいは衛星をなるべく軽く小さくコンパクトなものにして、いろいろな機能をそこに押し込めなければいけないとか、新しい技術を何か入れようとすると、そのときに十分な設計上の配慮だとか試験だとか、そういうことをきちっとやり切れないために、うっかりした人為的なミスが入ると失敗につながるところがあります。いまお話があったように、ロケット1本100億円ぐらいします。人工衛星をその上に載せるのは、複雑な衛星によっては200~300億円ぐらいします。そういった何百億円もするような衛星は、地上にあるときはしっかりつくってから打ち上げるということを肝に銘じ、失敗の経験を踏まえ、そういう失敗を繰り返さないようにしようという努力をやって、今のところここ3年ぐらい、幸い、うまく機能しています。もちろん大型のものを小型化する、あるいは消費電力を少なくする…、そういうところを高度なものにしようとすればするほど難しくなってきますが、我々はそういう能力も持たなければいけません。技術はアメリカやヨーロッパと同じか、ちょっと下ぐらいのところまで我々は来ていると思います。確実に信頼性の高い、いい衛星を打ち上げられるように努力をしているところです。
阪本:信頼性の高いものをつくるということと、一方で、本当に新しいものを切り開いていかなければならない、既存技術ではできなかったことをどんどん日本としても進めていかなければいけないという、相反するような要素もあると思います。技術試験衛星というものがあり、どうしても地上で試験ができないような、例えばイオンエンジンの試験だとか、あるいは大型のアンテナを宇宙で開くかどうかとか、リスクを踏まえながら、最先端のところに入り込んでいきたいという野心的な部分もあり、そこの兼ね合いが非常に難しいなと考えています。実用衛星というのは上がってナンボというのがあります。ただ、そこに至る前段階のところに技術者とかあるいは研究者が求めているもの、最先端を切り開いていく。とくに日本の得意技術をどんどん伸ばしていかなければならないという、一種相反するようなところがあります。そのあたりをちょっとご理解いただければと思います。
<日本の宇宙開発に必要なのは予算か頭脳か>
参加者:日本独自の技術力をもって、という思想を持って衛星開発とかロケット開発をしているのは分かりますが、やはり信頼性というものが必要だと思います。よく、台風シーズンになると、今は「ひまわり」が順調に作動しているが、以前に何かの拍子に制御ができなくなって画像が送れなくなって、一度止めていた前の「ひまわり」を使っているという報道がありました。そういうことを含めると、やはり日本の技術力ってまだその程度なのかなあと思いました。日本で今本当に一番欲しいのは予算なのでしょうか、ヘッドなのでしょうか。予算さえあれば、頭脳流出も少なくなってもっといいものがつくれるんじゃないかと思っているかもしれませんが、そのへんはどうでしょうか。
堀川:国民のみなさんの生活に役に立つような衛星というのはもう生活に密着しているので、失敗をしないような衛星を確実につくっていくということを私たちも使命としています。科学衛星のような、あるいは試験衛星のようなチャレンジングなものはチャレンジングのものとして努力をして、それを信頼性のあるものに移していくということを考えていかなければいけません。そうするためには、お金が確かにかかります。実際に衛星の機能を我々が享受しようとするときに、1つの衛星がたまたまあってこういうのが撮れましたよというのではなく、「ひまわり」でも継続的に地球の画像が見られなきゃいけません。ただ100%の信頼度は必ずしもないわけで、どうしても部品のどこかに欠陥があって活動ができなくなったということを100%なくすことは難しいので、そのためには予備的なものをちゃんと用意しておくことも必要になります。そうなるとお金がまた余分にかかってしまうので、やはり1つはお金だと思います。頭脳は、今先生がおっしゃったように新しいものをチャレンジしていく、よりいいものをつくろうという頭は必要なんです。でも、生活に密着したほうの衛星はどちらかというと、人は大丈夫です。企業の人たちもいっぱいいて、そういう人たちと一緒に連携してやっています。そういう意味からすると、お金のほうが必要だと思います。
矢代広報部長:1つ付け加えさせていただくと、先進国では自分の国で開発したロケット技術は、他人の国に渡さない、移らさせないという国際的な協定があります。ミサイル・テクノロジー・コントロール・レジームと英語でいいますが、ミサイル技術を出さない。これにアジアでは日本と韓国が参加しています。中国とか北朝鮮は参加していません。アメリカとか、ヨーロッパ諸国はこれに参加しています。昔は日本はアメリカからロケット技術を、政府間協定があり導入したのですが、そのあとこの「MTCR」という仕組みができました。日本は非常にラッキーでした。30年以上前に技術を導入しました。日本もH-IIA、いまはH-IIBという新しいロケットを開発していますが、日本には独自の技術があります。隣の韓国が仲良しであっても、韓国にはロケット技術を出さない約束になっていて、韓国は非常に苦労してロケットを自己開発しています。先端技術であり、かつまた使い方によっては非常に問題のある方向にいってしまうということなので、こういう技術の管理、運用の仕方ということは非常に、日本の政府も慎重になっていると思います。
<グーグル・アースの日本版について>
参加者:先ほど、衛星で撮った写真、釧路市も出ていましたが、グーグルアースを私も使っていますが、あれは釧路が高解像度で出ていませんね。いつぐらいになったら日本版のものが見られるのでしょうか。
堀川:グーグルアースは、アメリカの衛星で撮ったデータが中心。「イコノス」という1メートル分解度で撮った衛星から、航空機で撮ったデータ、それから古いデータも含めて世界中の地図にぺたぺたと貼り付けていきます。衛星で撮った画像をああいう形に目に見えるように処理するのに、けっこうお金がかかったり人手もかかったりするところがあるので、地方の部分とか人の住んでいないところは非常に粗いデータしかありません。それで、私たちは「ALOS」でデータをまず日本全国集めて、グーグルアースと同じような仕組みで貼り付けていこうという努力をしています。先ほどお話ししたように、日本全国1年半かかって約半分ぐらいしか雲のない画像というのを撮れていません。たぶん、2年から2年ちょっとぐらいすれば日本全国が撮れるようになります。幸い、もう釧路は先ほどお見せしたように晴れた画像が撮れているし、北海道はかなりの部分撮れているところがあります。そういうものを、これからは誰でもが見られるような仕組みにしようとしていて、そのためのデータ集め、日本全国分を集めている状況です。
<衛星画像の活用について>
参加者:能登半島沖地震の衛星画像が具体的なのが出ていましたが、そういった画像で実際に何か役立ったことがあるのであれば、教えていただきたいです。
堀川:能登の地震が起きたあと、確か3日か4日後でないと電波で撮る写真というのは撮れませんでした。光のカメラで撮るほうは、天気があまりよくなくて直後には撮れなかったです。でも撮ったあと、どれだけのひずみがそこに起きて、どれだけのエネルギーが地震で消費されたかとか、あるいはあそこでがけ崩れが起きて道路が破壊しているといった写真を地方自治体にお届けして、それを復興に役立てていただいています。計画をいろいろ立てるときにここをどうしたらいいかとか、この地区に道をどういうふうにルーティングしたらいいかということには役立てていただいたとお聞きしています。
<地球温暖化の宇宙開発に及ぼす影響について>
参加者:地球温暖化問題が騒がれていますが、それによって各国がいろいろ対策を立ててくると思いますが、それは宇宙開発になんらかの影響を及ぼすのでしょうか。
堀川:宇宙の開発をすることによって地球の温暖化に悪い影響を与えているんじゃないかというご質問なら、それはあまりないと思います。ロケットを打ち上げたりするときの燃料は、まずH-IIAという我々のロケットは水素と酸素を使っています。化石燃料の部分は固体ロケットの部分として少し使っていますが、それはもう非常に少ない量の話で、水素も電気のエネルギーを使ってつくりますが、その量というのは非常に少ないです。我々が家庭で1日使う電気量とそんなに変わりません。世界中の国がエネルギーを使うレベルからすると非常に微々たるものになります。
<地球の大きさの測り方について>
参加者:くだらない質問かもしれませんが、僕には今調べたいことがあって、地球の大きさを自分で測りたいと思っています。いい方法はないでしょうか。
堀川:だいたい地球1周4万キロを測りたいということであれば、例えば東京からワシントンまで飛行機に乗ったとすると、何時間かかって、それから飛行機の平均速度が何キロメートルで飛んでるというのは機内のアナウンスで分かりますから、それで掛け算すれば東京とワシトンの距離が分かります。それからワシントンからパリまで行って、パリから日本までと。そうすれば地球のだいたいの大きさというのは4万キロの大きさがあるなということが分かります。それをもっと精度よく測ろうとすると、人工衛星を使う方法があります。人工衛星の軌道を使って、その衛星から地上のある地点地点の場所を定めて、それが地球の緯度経度のどこにあるかということを出して、地球は完全に丸ではなくて少し扁平になっているからその扁平度がどれだけあるかとか、そういうことを測って計算していくと分かるようになります。
阪本:緯度と距離の関係が出せれば、それが求まります。だから例えば北極星の角度を測って、日本から真南にどんどん泳いでどこかに泳ぎ着くことができたら、そこで自分がどのぐらいの距離を泳いだのかとやればできないことではないです。あるいはもっと大きなユーラシア大陸に自転車を担いで行って、北のほうから南のほうまで縦断していく。星を測りながら。
<天気予報の頻度について>
参加者:現在のテレビの天気予報などではだいたい3時間単位でその地方の天気が示されていますが、未来の10年後ぐらいだったらだいたい30分ぐらいの単位でそういった正確な天気を知ることはできるのでしょうか。
堀川:今地球の天気の雲の画像を撮るのは、気象衛星「ひまわり」、静止衛星といって3万6000キロの赤道上空に日本をいつも見る形で写真を撮っています。昔は1枚の地球の画像を撮るのに、上から順番にスキャンをして、テレビの画像みたいに上から下までスキャンして撮っていたので1枚撮るのに30分かかっていました。3時間ごとに撮っていましたが、今は1時間に1枚撮れるようになっています。また1枚撮るのにだんだん早くなってきていて、10分とか15分ぐらいで撮れるようになっています。それを繰り返し撮れば10分ごとに撮ることはできます。ただ、その間にそんなに大きな変化がないから、1時間おきとか3時間おきに撮っているだけで、撮る能力はあります。それと、静止衛星から撮るだけではなく、地球を縦に回る衛星もあって、それは1日16周で地球を回ります。その衛星は高度がだいたい600キロから800キロぐらいから地球を見るような形になっているので、より詳細に地球の雲の画像とか地球の姿が見られるようになっています。同じ場所を撮ろうとすると2日に1回とか3日に1回、同じ場所を通るようになります。そういう撮り方で気象衛星の画像を撮っています。それと静止衛星の画像と合わせて気象予報を気象庁さんがやっています。