JAXAタウンミーティング

「第12回JAXAタウンミーティング」 in 武豊(平成19年3月4日開催)
会場で出された意見について



参加者:ロケットの打ち上げは、天候の影響を大変受けるということでしたが、どういうことで天候の影響を受けるのでしょうか。

<ロケット打ち上げに対する天候の影響について>
河内山:天候の影響を受けるということで特に問題なのは、風と雷、雲です。まず風ですが、ロケットが上がる時は、ゆっくり上がるので風が吹いたら機体が揺れます。そうするとロケットを支える台などに当たってしまうので、風速の制限は結構きついです。2つ目が雲ですが、雲にある程度の厚さがあると、中で電界が発生して、雷が鳴るおそれがあります。そういう条件に対して満足しなければいけないというのは、思った以上に難しいです。天気がよいとだいたい風が強い、風が来ないと今度は雲が出るという悪循環の中で、その間を縫って打上げないといけない。その関係上、皆さんにご心配をおかけしましたが、今回(12号機)は9日間の延期ということになりました。

<ロケットの定義について>
参加者:ロケットの定義がちょっとよくわかりません。こういうものを指してロケットという、といった説明をお願いします。

河内山:ロケットは、ロケットエンジンを積んでいる輸送系です。液体ロケットエンジンと固体ロケットエンジンと両方ありますが、要するに酸素や水素を自分で持っていって、自分で飛んでいるものをロケットエンジンと呼びます。したがって航空機なんかは酸素を外から取り入れているので、ここでは別にしたいと思います。

<JAXAの技術の民間への移転について>
参加者:JAXAと民間で共同でやっている、その辺の技術みたいなことは、民間の方々へ自由に、移転しているのでしょうか。

河内山:JAXAの技術の内容については、取得した技術をすべて民間に移管して民間の人がちゃんと使えるようにJAXAとしてやっていきたいと、考えています。

<信頼性の向上について>
参加者:先ほどのお話の最後のほうでいろんなことに取り組みますというお話がありましたが、いちばん先進国の中で人が少ないのに、あれだけ手広くやってしまっていて、選択と集中ではないが、中でいちばんやりたいと言っていた信頼性の向上というところにあまり向かってないんじゃないかと思いました。信頼性の向上という目線に立ってどのように考えていますか。

河内山:信頼性の向上というのは何かと言うと、いちばん重要なのは真実を追求することです。信頼度というのは数字じゃなくて真実の追求、真実をどこまで追求できるかによって高まってきます。唯一の真実をきちんと追求すること、この姿勢でずっと永遠に追求すればかならず信頼性は向上すると考えており、そういう努力をしたいと考えています。そういう作業を続けていき、われわれとしては落ちないロケットだけじゃなく、有人の人が乗れるような乗り物、につなげていけると考えています。

<日本の有人飛行について>
参加者:今の答えと関連しますが、日本の有人飛行はいつ頃になるのか教えてほしいです。

河内山:日本での有人飛行は、10年後に計画を定めるようにしていて、それに拠ると2015年以降から具体的な作業を始めるので、やはり5年とか10年かかるため、2020年前後になるのではないかというのが現状です。

星出:輸送システムとしての信頼性の話だけでなく、それに加えて人間が宇宙に暮らすというのはあらゆることが起きる可能性があります。そのためには、まず酸素とか水とか、それから排泄物とか、そういう生命環境維持というレベルのシステム開発が必要になってきます。これはロケットを作っていく本部とは別のところで、いま研究を進めているので、その両方が統合されて初めて実際に人間を宇宙に連れて行くということになると思います。われわれは全員、種子島からぜひ宇宙に行きたいと思っているので、JAXAの輸送系の人たちにはぜひ頑張ってほしいと思っています。

<失敗のエピソードの教育への活用について>
参加者:町民会館で子どもを対象に物理教室の授業をボランティアをやっています。先ほど、成功率の話があったと思います。90%ぐらいの成功率といいますが、じつは10%のほうが非常に貴重だと感じています。というのは、そこに失敗があったということで、たくさんの方が成功に向けて、精魂かたむけてやっていると思うので、成功した時の喜びはひとしおだと思うのですが、失敗した時の、まずは落胆して、その後、何くそと思って、品質改善して、それで成功に至る、そこは人間的なストーリーというかプロセスがあると思うのです。そういったものを成功の事例にも加えて、ぜひ子どもたちに伝えようと思います。広報も含めて伝えていただけるといいなあと感じています。たとえば子どもたちがロケットの打ち上げをやる時も、パラシュートでやるのですが、そのパラシュートが開かないままで失敗する。そうすると子どもたちはものすごく落胆します。火薬は2回しか打ち上げる量がないので、1回目でものすごく落胆し、その後、われに戻って、なぜ開かなかったのかを考える機会をもちます。それがいちばん貴重だと思っています。10%の失敗、その失敗の裏にある人間のドラマをぜひとも、広報していただければと思います。

河内山:まず失敗の話ですが、いちばんの失敗はH-II8号機、その時に1度「プロジェクトX」でやっていて、えらく感動的に表現されました。私は実際、H-IIA6号機の失敗の時もそれから1年3か月、非常に苦労しましたが、皆で頑張ってチームワークよくやっていたので個人プレーがあまりありません。そういう何か、エピソードというのはあまり残ってないというのが事実です。ただ全体として、もう1度見直して、さらに上をめざそうということで頑張ってきました。この中でいちばん重要なのは、信頼性がいかに重要かというのを教えてくれたことです。もう1つは、ずっとよくしていくことについて終わりがないということに、6号機の失敗を通じてみんなで気がついたということです。仲間という形で1年3か月一所懸命やってきたところで、その結果最終的には7号機の打ち上げになるのですが、私はいちばん感動しました。感動するということを仲間と一緒にできた。そのものを紹介したらいいと思いますが、なかなか絵になりにくいというのがちょっと問題です。ただ、やっている側としては、仲間意識をもって、信頼性の向上とはいったい何かを考えたことも含め、非常によい機会でした。子どもたちに説明する場合どうしたらいいかは、ちょっと考えてみなければいけないと思っています。

<宇宙の果てについて>
参加者:宇宙の終わりというのは、その末端というのは、この部屋の壁みたいなもので、何かある状態なのでしょうか。全く何もない状態が何となく広がっているのでしょうか。

平林:宇宙には今の段階では壁がないと考えています。どこまでも、どこまでも広がっている。だけど、いま観測しようと思うと、その光電波がやってくる時間というものがあり、限られた先までしか見えない。そういう意味での「観測上の壁」はあります。けれどその先まで行ったときには、宇宙は無限だと考えています。

<地球と同じような天体について>
参加者:宇宙の中に地球と同じような天体はあるのでしょうか。

平林:いま、太陽系のような惑星が、他の太陽系の外の星にあるかというと、約200個ぐらい太陽系の外に見つかっています。それは前世紀の1990年代の中ごろから見つかっています。だがそれは、重さがだいたい木星ぐらい。そういう重い惑星以外見つからないという観測上の制限があります。ただ特別な場合に、地球と同じか地球よりも軽い惑星が太陽系の外に見つかっています。それはパルサー、中性子星です。パルサーになった場合、きれいな周期の電波が出てくるので、その周期をしっかり観測していると、その星のパルサーをまわっている惑星たちの動きがとっても正確にわかります。すでに地球よりも軽い惑星が見つかっています。日本でもアメリカでもヨーロッパでも研究者たちは直接地球型の惑星を見えるような装置を作りたいと、そういった計画を一所懸命、練っています。ただしそれが実現するのは、まだ10年では実現しないだろうと思います。これから15年、20年たって新しい技術ができあがって観測が始まると、惑星が見つかるかもしれないし、そこには海があるか季節があるかというのがわかってくる時代が、かならず若い皆さんの時代に来ると思っています。

<地球外知的生命体について>
参加者:夜、星をいつもながめていて、地球にいるような人がどこかにいるのかといつも星を見上げていますが、そういう人類が住んでいるような天体がこれから見つかるでしょうか。

平林:一般の皆さんがこういうお話をする時、宇宙のどこかにそういう星があると思ったりしていると、ちょっと怪しげだと思われるかもしれません。けれども研究者仲間でそういう話をすると「それはどこかにあるだろう」というのが、私たち研究者仲間のふつうのリアクションです。ただ問題はそういう文明体、文明体のお互いの距離がどのくらいだろうというのは皆、わかっていません。めぐり会えないのか、それともいずれめぐり会えるのか、また、信号だけでやりとりができるかどうか。いまや科学的な取り扱いのできる世界に、だんだんなってきつつあると思います。知的な信号があるかないかと調べているのは1960年から始まって、それは途絶えることなくますますこれから進んでいくでしょう。ある時、そういうものが見つかるか見つからないか、私たちには何も言えません。それはいつになるかもわかりません。

<宇宙科学で日本の優れている点について>
参加者:特にX線の分野で日本は優れているというお話がありましたが、宇宙の起源解明に関ったところで、他の国とちがう点等あったら教えてほしいです。

平林:X線は今、もう亡くなられたが小田先生という方が率いたグループが今も生きていて、そしてこれが宇宙関係のみならず、日本のいろんな大学に散らばって、あるいは世界に散らばって、かなりの研究者陣を作っています。いま、「すざく」が打ち上がり、非常によい結果を出しています。ただし、「すざく」で私たちがもっとも期待していた装置の1つであるX線でスペクトルを見ていこうという装置、これはとってもすばらしいものでしたが、軌道上で性能が、出たというところで壊れてしまったようです。これについてこのグループは新しい装置を考えています。私はこの装置が、なるべく早く打ち上がり、日本がさらにプレゼンスを打ち立ててくれるといいと思っています。このグループはとっても優秀なところがたくさんあるので、その一面だけじゃなく日本の大事なプレゼンスを示してくれるのではないかと思っています。

<月面ロボットと宇宙エレベーターについて>
参加者:月面ロボットの進み具合というか、計画を教えてほしいです。それと宇宙エレベーターというのがアメリカで計画、開発されているらしいが教えてほしいです。

矢代広報部長:月面ロボットについては、今、先ほどの「セレーネ」の次の世代で、月に降りて無人探査をする構想があります。この4月から、この探査関係の組織が1つになり、そういう計画をさらに1つに集結して、「セレーネ2」と言っていますが、計画を具体的に進めるというステージに入る予定になっています。相模原、筑波、調布の研究者等がそれぞれのイメージでそういう絵を描いていますが、そういうものをJAXAとして最終的に月の第2世代の探査機として、1つのものに仕上げていくというのが、今の状況です。

平林:高度のちがうもの同士をひもで引っ張って吊り上げたりして、ものを上げていく考え方が軌道エレベーターです。これは、紐の重さ、いかに軽いものを作っていくかといったところにかかるのではないでしょうか。たとえばカーボンナノチューブのようなもので作るのかどうか知らないが、何らかのそういう技術はかならず使えるのではないかと思います。

<人が宇宙に行く必要性は>
参加者:人が宇宙に行って確かめなければいけないことは大事だと思いますが、いろんな技術ができても、センサーを活用したほうが人よりも確かな撮影ができる、観測ができるという点が多くあります。どうしても人が行かなければいけないということになるといった場面はどんなときなのでしょうか。

星出:永遠のテーマの1つをいま、先に言われてしまいましたが、われわれのような宇宙開発あるいはいろんな分野でもそうだと思いますが、有人と無人、人が必要な部分と、自動ロボットとかあるいはセンサーだけ打ち上げる、そういった世界の中でのバランスはわれわれの永遠の課題と思います。人間が優れている部分、あるいはロボットが優れている部分、それの組み合わせをいかに最適化するかだと思います。人間を宇宙に送り込むには安全性を確保しなければいけません。酸素あるいは排泄物の処理をどうするかということを考えなければいけません。そういったインフラが必要になってくるので、無人よりやっぱり手間がかかります。ところが一方で、ロボットの場合だと、想定外の事態が起こった時にどこまで対応できるかということがあります。実際に、宇宙でたとえば冷却系から水が漏れた時に、宇宙飛行士が直して、そのシステムを作ったという例はけっこうあります。実験で細かな観察する時に、人間のレベルで新しい発見があったということもかなりあります。そういった人間を送り込むことによるメリット、それから、いまおっしゃったようにセンサーという意味では人間よりも優秀な部分があるので、そこをうまく組み合わせるのが今後大事になってくるのではないかと思います。

<子どもにお勧めの謎について>
参加者:子どもに教えていたとき、1人の女の子から、なぜそんな決して遠い、行けないようなところの話をそんなに知りたいの?という質問がありました。人間というのは真実の探求が大事だとか言おうと思ったが、ちょっと説得力がなかったです。今日の先生の最後のスライドの部分の、宇宙はますます謎を深めて面白い、という言葉はすごい興味をもったが、謎がこんなに面白いということを、子どもたちにうまく伝えるための秘訣とか、あともう1つ、先生のお勧めの謎、というのがあれば教えてほしいです。

平林:いまいちばん難しいと思われている謎について1つご紹介すると、天体の重さに対して見えないものが宇宙にはあるらしいという、観測結果があります。見えないのにどうしてわかるかというと、重力をいろいろ調べてみると、そこにあるにちがいないと思うわけです。それが見えているもののだいたい10倍ぐらい大きくて重い。これを「ダークマター」という言葉で表現しています。それが1つの謎です。宇宙は、他の力が働いていないのに、どんどん加速して広がっていますが、それは変に思いますよね。そうすると宇宙を何かわからない力でムリやりさらに広げていく力があるらしい。これが重さの単位で計ると先ほどのダークマターよりももっと重い力のものになってしまいます。これは天文学ではなくて、宇宙論、それから物理学なども皆が思っているのですが、いままったく見当もつきません。これにも名前をつけないといけないので、「ダークエネルギー」と呼んでいます。これがたぶん宇宙で、科学や物理の分野においていちばん大きな謎ではないでしょうか。

<宇宙旅行の実現にはいつまでかかるか>
参加者:宇宙旅行が実現するのは、時間的にはどれぐらいかかるのでしょうか。

星出:皆さんが「気軽に」、もう少し軽い感覚で宇宙に行けるようになるのは、じつはもうすでにアメリカではけっこう民間のベンチャー企業が、商品開発を始めています。そういった形ではもう本当にすぐにでも、数年後にでも宇宙に行くことはできるんじゃないかと。ただし、お金がないと宇宙に行けません。いわゆる皆さんが簡単に行けるようになるためには、やはりコストとか、安全性とか、そういったところがもうちょっとよくならなければいけません。そのためには時間がかかってくるんじゃないかと思います。

河内山:たとえば航空会社のマークが付いたロケットで、そういう海外旅行を楽しめるようなレベルの技術を作らなければいけません。この技術を作るのはけっこう難しいです。いま言われた実際にハイレベルのものができるのは、20年後、30年後だが、海外旅行に行けるような感覚で宇宙旅行ができる、出来るだけそれを早く実現するように努力したいと考えています。

<JAXAのビジョンについて>
参加者:JAXAにおいても、やっぱり先ほど伺ったようなロケットを頑張ってやりたいとか、そういうわかりやすいビジョンを、ぼくらに示してもらった方が、と思います。そういうことを何かあったら教えていただきたい。

矢代部長:じつはもうあります。長期ビジョンというものを出しました。それはホームページに載っています。長期ビジョンを出したのは、その時は2005年だから20年後、2025年後の姿、輸送システムの将来像から人工衛星だと科学衛星含めて、いろいろな内部で検討した結果を出しました。それをさらにわかりやすく提言していかなければいけないと思っています。今日は残念ながら時間の都合で、それをご紹介しているDVDなどを紹介できなかったが、ぜひホームページにアクセスしていただいて、そういう姿を提案しているものをぜひお読みいただければと思います。それで日本の宇宙開発について、そこにメールでご質問を寄せていただければと思います。