JAXAタウンミーティング

「第10回JAXAタウンミーティング」 in 四日市(平成18年11月12日開催)
会場で出された意見について


<日本の有人宇宙飛行について>
参加者:マーキュリー計画やジェミニ計画の頃のロケットに比べて、今の日本のH-IIAは、能力は上だと思っていますが、なかなか有人飛行の話が出ないのは、ロケットの能力以外に何か課題があるのでしょうか。

樋口:今は宇宙に行くことだけが目的ではなく、宇宙で何かをやるという時代に変わってきており、宇宙に人を送る政策的な必要性が少なくなってきているということがあります。それから日本について言えば、予算の問題もありますし、日本のその安全性に対する世論、そういう見方が日本のロケットで宇宙に行くのを遅らせていると言っていい状態です。

<JAXA事業への応援方法について>
参加者:はやぶさにしてもSELENEにしても、ミッションを継続していくには、予算が足りないのだと思うのですが、一般の人から応援できる方法はないのでしょうか。

川口:米国惑星協会では、ホワイトハウスにFAXを送ったり、募金をしたりという活動をしているようですが、日本ではそう簡単にうまくはいかないと思います。学会や協会等がメッセージを発信していくことが一つの方法かもしれません。また、皆さんの個人のウェブページ等で応援をしていただくことが何よりも我々の励みになっていると思います。

<日本のロケットのコストについて>
参加者:日本のH-IIAとかH-IIBは、世界の主要ロケットに比べると打ち上げ能力は全然引けをとらないようですが、価格の層がかなり高くなるのは残念です。これはどこに原因があるのでしょうか。

樋口:これは実は大変難しい問題でして、コストとプライスに差があるんです。例えば、打ち上げの際、上空や海上での安全確保がいりますが、アメリカでは軍がやるのでタダです。射場や設備についてもアメリカでは、国の費用としてのプライスに乗せていません。本当に一機あたりのコストがどれくらいかと言われれば、そんなに負けてはいないのです。それにしてもそんなに日本の方がずっと安いというわけではないので、安く売るための工夫は要ると思っています。一つの工夫は民の力の利用であり、例えば、来年からはH-IIAの打ち上げについては、民間にサービスを行ってもらうことになっています。「民」の力でもう少し安くする方法はないか、そういうようなことを考えています。

<太陽風の推進力としての利用について>
参加者:太陽風は動力の代わりにならないのでしょうか。

川口:宇宙空間で、ソーラーセイルが受ける力は光とプラズマの二つの流れがあります。太陽風と呼ばれるのは、プラズマの流れのことです。ただし、光の圧力の方が、プラズマの力よりも3桁くらい強いので、光の圧力の方を利用しています。

<M-V後について>
参加者:M-Vロケットが最後の打ち上げをしたという話が出ましたがその後の開発の話があまり聞こえてこないですね。科学衛星をH-IIAで打ち上げると、小回りがきかない状態だと思いますが、その辺りの状況はどうなっているのでしょうか。

樋口:現在、H-IIAの技術を上手に使い、また、ミューロケットの色々な技術も組み合わせて、500kgくらいの科学衛星を気楽に打てるような小型のロケットを開発したいと、政府に要求しています。その開発が進めば、大きなものはH-IIAで、小さなものはM-Vの後継機でと、臨機応変にやれるような品揃えにしたいと思っています。

<宇宙開発と環境問題について>
参加者:今の地球でも、未だに環境の問題が全然解決されずに残っている、それを置いたまま、宇宙に手を伸ばすと、地球の二の舞になると、心配しています。たとえば、人工衛星にしても、いらなくなったものは、どう処理しているのでしょうか。上げっぱなしなのでしょうか。

樋口:スペースデブリというのは宇宙のゴミですね、これについては、関係機関が国際的に、出さない、減らすということを前提にして打ち上げています。我々も人工衛星を作る際は、デブリを出さない前提で設計を行っています。また、用済みになったものは、邪魔しない軌道に上げたり、大気圏に突入させて燃やしています。ただ、各国が衛星を上げているので、デブリが増えていることは事実で、これを掃除するようなことも含めて、宇宙機関としてやっていく必要が出てきていることは事実です。

川口:宇宙開発がとりわけ大事だというつもりはないのですが、例えば、燃料電池や太陽電池は宇宙開発から始まった技術です。直接、我々の生活にすぐ役立つわけではないのですが、そんな形で我々の環境問題にもつながるような活動が生まれてくるのではないか、と、思っています。

樋口:宇宙開発の目的の中には、宇宙から地球を見て、地球をよく理解するというものもあります。かつて四日市には公害がありましたが、今は「公害」という言葉より「環境」という言葉がよく使われ、局所的な汚れではなく、地球全体でどうなっているのかという問題になってきています。それを知るためには、宇宙から地球を見るというのはとても大事なことで、地球の環境問題に宇宙から解決策を出そう、地球をきちんと理解しよう、ということも我々の大きな柱になっています。

<公金を扱う立場としてのJAXAについて>
参加者:JAXAも含め、「官」はもう少し予算削減したらどうかと思うのですが。

矢代広報部長:予算をいただいている事業の中身について、当然ですが、無駄のない、また、皆様にとって、将来の科学や生活に大いに役立つような宇宙開発を積極的に提言して進めていくことが、我々のスタンスだと思っています。

樋口:3機関統合の際、5年で100人の人員削減を目的にしましたが、3年で120人ほど削減いたしました。そういう意味で政府機関の一部として、そういうことも始めています。経営努力も進められています。

<宇宙開発に関する意識のアメリカと日本の国民性について>
参加者:アメリカと比べ、日本はかなり予算が少ない気がします。科学に対する国民性があるのかな、と思いますが、アメリカ人気質と日本人気質の違いはどこにあるとお考えでしょうか。

樋口:アメリカでは宇宙開発のような、フロンティアの開発はアメリカの国是であるという意識があります。日本では、科学技術の進歩のため、次の飯のために宇宙開発をやらねばならないという位置づけがあるように思えます。そういう位置づけで、実は今、国会でも議論になって、宇宙開発をもっと国の大きな柱にもっていきたいというのがありますが、国民性、チャレンジするとか、冒険するとかに対しては、世論としては、もう少しチャレンジしろよ、と言っていただきたいところはあります。

<宇宙利用についての日本と欧米との比較について>
参加者:GPSとか携帯電話とか、あまり意識せずに宇宙と関係するものを使っていることがよくあると思いますが、そういう分野で日本よりも欧米が進んでいるといったことや、または民間のほうで宇宙の利用というものはあるのでしょうか。

樋口:皆さんの日常生活では、日本は欧米に負けないくらい人工衛星を使っていると思います。ただ、例えば、人工衛星データを使って政府が、たとえば皆さんの固定資産の管理、あるいは土地利用をやるとか、それからGPS測位衛星で国の国土地理院が地図とか地点を決めるとか、そういう社会の見えないところでの国のインフラとしての使い方、利用は向こうの方が進んでいると思います。日本では、国や地方自治体の宇宙利用が少し遅れています。国民生活については世界に負けないくらい宇宙を上手に利用していると思っています。

<恒星間飛行について>
参加者:少し突飛な質問ですが、今の技術で人間の一生のうちに恒星間旅行はできるかなと、そんな夢みたいな話があったら教えてください。

川口:恒星間旅行は、人間の生きるスケールからは長すぎます。そこで、今、たとえば若い人にもしぼくが言いたいとすると、やるべきテーマというのは宇宙医学なんです。宇宙医学の発達で、例えば、人間の存在そのものが情報化できるようになれば、そういう旅行も可能になってくると思います。というのが1つと、もう1つは、いろんな推進航法はいっぱいあります。俗に言うスターウォーズの世界のワープとか、それから反物質による推進航法もあります。ですから推進機関の改善というのももちろん起きるでしょうし、光子ロケットみたいなのもできるかもしれません。それから人間の寿命が長くなってくるという世界が一緒になってくるとそういう世界ができてくるでしょう。でもそれまで数十年という話でできる話ではないので、われわれの世代ではないと思いますが、そういう時代が来るのではないでしょうか。

<宇宙開発の産業利用について>
参加者:どうも日本では、最先端の宇宙開発の技術を産業に生かしきれてない気がします。それが予算削減の原因になっているのではないでしょうか。先端技術を産業に利用し、日本が先行することで、日本の科学産業を世界でも強く出来るのではないかと思います。

樋口:そのとおりだと思います。長期ビジョンでは、宇宙航空産業を日本の次の基幹産業にするという目標を掲げているんです。

川口:今は、宇宙開発が何の役に立つの?、では予算を減らしたらどうか?、じゃあこれもやめたら?、と、負のスパイラルになっています。本当は順番はそうではなく、まず最初にどのような科学技術や産業、ビジネスを発達させるから、それをゴールに政策を作っていく、というポリシーメーキング的な考え方があるのではないかと思っています。

<宇宙開発に関する官と民の区分けについて>
参加者:今、物凄い勢いで「官」の民営化が推し進められている気がするのですが、何もかも民営化するというのは弊害があると思うのですが。

樋口:どこまで国がして、どこまで民間に任せたらいいかは、正直私達も悩んでいます。大事な技術なのに「民」に渡して、「官」が関わらなくていいのか。H-IIAロケットは、来年から民間に移すのですが、ではどこまで国が、どう技術を国がコントロールするのかというのは、まさに手探りでやってます。他の省庁のそういう経験も、僕らも勉強して活かしていきたいと思います。