宇宙の「たんぽぽ」が帰還

2016年8月29日(月)

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「たんぽぽ」計画 デカール

「たんぽぽ」計画 デカール ©JAXA

宇宙の「あじさい」に続き、宇宙の「たんぽぽ」? 人工衛星の話でしょうか。
いえいえ、今度は日本初のアストロバイオロジー宇宙実験のニュースです。

アストロバイオロジー~宇宙でも通用する生物学の確立

地球を出る塵、地球に来る塵

地球を出る塵、地球に来る塵

20年ほど前から世界中の学術と宇宙機関を巻き込んで誕生した、新しい宇宙の見方「アストロバイオロジー」。これまで地球の生命を対象にしてきた生物学(バイオロジー)を、宇宙でも通用する普遍的な知識体系へ飛躍させることを目指す、最先端の学問です。

日本でも昨年、初めてアストロバイオロジーの宇宙実験が開始されました。それが「たんぽぽ」実験です。科学目標は、生命の材料である宇宙塵の地球への到達と、地球起源の微生物が宇宙環境で生き残れるかを探ること。

方法をざっくり説明すると、地球から宇宙への塵と宇宙から地球へ降ってくる塵を、国際宇宙ステーションの「きぼう」船外に取り付けた装置で捕獲して調べるというもの。

綿毛のように宇宙を漂う塵のなかに生命の種はあるのか? 興味深いこの実験、ファン!ファン!JAXA!では2015年春にも取り上げました。

塵を捉えるスカスカの素材、エアロゲル

塵を捉える素材、エアロゲル

「たんぽぽ」宇宙での1年

2015年4月、3年分の「たんぽぽ」実験サンプルが、ドラゴン補給船で国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟へ届けられました。同年5月には「きぼう」船外の簡易曝露実験装置(ExHAM)1号機、11月には同2号機に、地上運用室と軌道上の宇宙飛行士が協力してサンプルを取り付け、実験が始まりました。2号機の取り付けには、油井宇宙飛行士も参加しています。

写真右:簡易曝露実験装置(ExHAM)の上面に取り付けられたエアロゲル搭載の「たんぽぽ」実験サンプル ©JAXA/NASA

「たんぽぽ」実験サンプル
塵を捉えるスカスカの素材、エアロゲル
写真左・中央 たんぽぽ」実験サンプルを取り付ける油井宇宙飛行士。
油井宇宙飛行士が取り付けたサンプルは来年地球に帰還する予定。©JAXA/NASA
写真右 ExHAM取り付けの様子

「きぼう」日本実験棟の強みである、船外実験環境を使って、「たんぽぽ」サンプルは宇宙空間に1年あまりさらされました。そして2016年8月27日、ExHAM1号機の初年度サンプルがついに国際宇宙ステーションからドラゴン補給船で地球に帰還したのです。

「たんぽぽ」の綿毛を徹底分析せよ

たんぽぽクリーンルーム

捕獲微粒子位置同定・観察・摘出システム(CLOXS)
を設置した、ISAS LABAMたんぽぽクリーンルーム。

地球に帰還した「たんぽぽ」サンプルは、まずJAXA宇宙科学研究所の専用クリーンルームで分析された後、切り分けて研究に参加する日本全国26箇所の研究機関に配布されます。並行して国際宇宙ステーションでは定期的にサンプルの交換を続け、2019年まで毎年、宇宙から回収されたたんぽぽサンプルが全国の大学や研究所へもたらされる予定です。

「たんぽぽ」サンプルのエアロゲル内部に閉じ込められた1/100ミリ程度の微粒子を、汚したりなくしたりせずに、速やかに詳細な分析に回すため、JAXA宇宙科学研究所では地上クリーンルーム内で初期分析とデータ記録、汚染管理を行う装置が開発されています。



綿毛のように細かい「たんぽぽ」サンプルの中に、生命の「種子」はみつかるのか?
吉報が楽しみですね。