「みちびき」7つのカン違いに答えます。(前編)

2017年9月29日(金)

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6月1日の2号機、8月19日の3号機に続き、みちびき4号機の打ち上げが10月10日に予定されています。短い期間のうちに同名の衛星シリーズが次々と打ち上げられるのは、日本の宇宙開発史の中でも稀なこと。多くの人がSNSやブログで「準天頂衛星みちびき」を話題にしてくれています。カーナビやスマホでGPSが身近になっただけに、「日本版GPS」と紹介されるみちびきも身近なものと感じてもらえているのでしょう。
ただそうした記事や記述のなかには、多少のカン違いも見受けられます。日本がはじめて手がける、世界にも例のない衛星測位システムなので無理もないわけですし、それも関心の表れと考えればありがたいことです。ただせっかくなら、誤解やカン違いをきっかけに、正しく理解をしてもらいたい――。「みちびき」の仕組みを深く詳しく説明する解説記事、前後編でお届けします。

みちびき4号機の機体公開(みんなのみちびき)

カン違いその1 ――みちびきは「天頂衛星」である。

耳慣れない言葉だけに、このような表記の誤りをときどき見かけます。

天頂 ⇒ 変換ミスです。潤でも純でもなく「準」天頂です。
天頂 ⇒ 天頂付近を「巡り」はするので、惜しいミスです。
 ⇒ JAXA東京事務所の近所にある大学の名前です。
店長 ⇒ それは副店長ではないですか?
点灯 ⇒ いえ、基本的に点灯(信号送信)し続けます。
十点堂 ⇒ 百貨店の前身となった、雑貨屋さんにでもありそうな店名です。

準天頂とは、軌道の特性から名付けられており「だいたい真上」という意味です。読みの区切りは「じゅん・てんちょう」となるのですが、なぜか「準天」と略呼される場合もあります。

カン違いその2 ――みちびきはGPSである。

GPSは米国固有のシステムなので、日本のみちびきはGPSではありません。GPSが一般に知られた最初の測位システムであり、「全地球測位システム」と訳されたりするため、一般名詞のように思われているだけです。かつて書類をコピーすることを「ゼロックスする」と言った時代もありましたが、それと似たような事情です。

GPSそのものではありませんが、日本の準天頂衛星システムは米国のGPSと一体運用され、GPSを補う役割を果たすことから「日本版GPS衛星」とも説明されています。この表現ならまったく問題はありません。しかしこれを「日本のGPS衛星」としてしまうと、「松下製のウォークマン」という表現と同じタイプの誤りとなってしまいます。

なお現在ではロシアのGLONASS(グロナス)、中国のBeiDou(ベイドゥ=北斗)、欧州のGalileo(ガリレオ)、インドのNavIC(ナビック、IRNSSとも)など各国・各極が独自の衛星測位システムを運用しており、これらを総称するGNSS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)という用語が主に使われるようになっています。この原稿でも以降、衛星測位システムの一般的呼称としてGNSSと表記しますので、みなさんもGNSSという言葉を覚えて下さい。

カン違いその3 ――みちびきは場所を教えてくれる。

衛星がユーザー1人ひとりに場所を教えているわけではありません。ただそのような誤解が生まれる背景も十分に理解できます。GPSを使ったカーナビが登場した頃には「道は星に訊く」といったキャッチフレーズで広告訴求が行われたりもしていたからです。

念のため繰り返しますが、GNSSの衛星が行うのは、あくまで「測位信号を放送する」こと。ユーザーは受信した情報を手がかりに、自分で計算して自分の位置を求めています。別の言い方をするなら、GNSSによる測位は、衛星とユーザーの協力のもとに成り立つものである、とも言えるわけです。

またGNSSで分かるのは、緯度・経度・標高などの座標情報だけ。ベースとなる地図は別の事業者などが提供するものです。

スマホの表示と現在位置が異なる場合は、GNSSから得られた座標が違っているか、地図が違っているか、あるいはその両方が違っている場合が考えられます。逆に表示と現在位置が合っている場合は、座標も地図も両方が正しいものと(両者が同じようにズレた可能性もなくはないですが)考えられます。

たとえば米国政府のGPSポータルサイトは、その冒頭で「GPS only gives you the blue dot. (GPSが知らせるのは青い点だけです)」と説明、「地図の誤りや修正依頼は民間の地図事業者へ」として、グーグルやアップル、トムトム、ヒアなど大手マッププロバイダーのリンク先を掲載しています。たいへん現実的な情報提供の方法ではないでしょうか。

GPS.GOVウェブサイトより