衛星を使ったリモートセンシングで土地被覆・土地利用の変化を調べる

宇宙から人工衛星を使って地球上の陸域の植生分布や炭素収支などさまざまな現象を調べるリモートセンシング。「しきさい」データの校正・検証作業にも携わる筑波大学の奈佐原顕郎先生に、衛星による地球観測のメリットや「しきさい」の活用方法について話を伺いました。

——奈佐原先生の研究内容について教えてください。

人工衛星を使ったリモートセンシングによる陸域の観測を行っています。特に陸上生態系の植生や土地被覆・土地利用の変化とその影響、たとえば森林がどれだけ炭素を吸収したり、土壌の中に溜め込んだりしているかなどにつながる研究をしています。
炭素は人類にとって文明を支えるエネルギー源であるとともに、近年は地球温暖化問題との関わりから、その収支解析が大きな研究課題となっています。炭素の放出を抑えるには、伐採や火災などによる森林減少を防ぐことが重要で、そのために必要なのが土地の管理です。
そこでさまざまな人工衛星のデータを解析し、日本や世界各地の土地被覆・土地利用の状況を調査することも重要な研究テーマとなっています。

——衛星リモートセンシングに興味を持たれたきっかけは何ですか?

学部時代は数学と物理を勉強していたのですが、山登りが好きだったのでフィールドサイエンスをやりたいと思い、大学院では地球物理と森林科学で学位を取りました。最終的に研究者として何をやろうかと考えたとき、人工衛星を使った地球観測であれば、自分がそれまで勉強したことを全部活かせるだろうという理由から、リモートセンシングを始めました。

——奈佐原先生はJAXA地球観測研究センターの研究員として、衛星データの解析にも携わられていますが、衛星データを使ってどのようなことを調査されているのでしょうか?

2016年夏、北海道大学雨龍研究林での「しきさい」検証実験の様子

土地被覆・土地利用の状況です。その際、現在だけでなく過去に遡って、森林の分布や土地利用の変化を調査することが重要です。たとえばモデルを使って森林の炭素収支を解析しようとするとき、その森林がいつから生育を始め、現在までにどれだけの炭素を蓄積したかがわからないと計算できないからです。
そうした過去の土地被覆の情報を得るには、過去の衛星データを掘り起こす必要があります。そこで、JAXAの地球観測衛星のデータに加えて、オープンになっている海外の衛星データなどから役に立つ情報をできる限り引き出し、最新の技術による再解析を行うなどして、土地被覆・土地利用の変化を調べています。

——衛星による地球観測を行うメリットとは何でしょうか?

周期的かつ長期間にわたって定点データが記録できることと、そのデータが蓄積されるということが衛星観測の非常に大きな魅力だと思います。
たとえば、私がデータ解析を行っている衛星の一つに、1997年にNASAとJAXAの共同開発で打ち上げた「TRMM(トリム)」という地球観測衛星があります。これは雨をレーダで観測するという、非常に画期的な衛星で、2015年の運用終了まで約18年にわたってデータを取り続けていました。実はこの「TRMM」が降雨のない場所でもレーダ観測を続けていて、地表に何があるのかということが反映されたデータを記録していたのです。そのデータを解析し直して、土地被覆・土地利用の研究に活用しています。

——「しきさい」によって、どのような地球観測ができると期待していますか?

「しきさい」の250mという分解能は、最近の地球観測衛星の中ではそれほど高いものではないのですが、観測幅が広いため、約2日に1回という頻度で地球全体を観測できることが優れた点です。そうした特長を活かすことで、今まで行われてきた地球観測にプラスアルファの観測や研究ができると期待しています。
たとえば、マイクロ波を使ったレーダの場合、対象物の位置や分布、ある程度の構造までわかりますが、色はわかりません。逆に「しきさい」は、色はわかるけれど、構造はわかりません。したがって、レーダではそこが森林か草原かの判別はできるのですが、「しきさい」では両方とも緑にしか見えないのです。しかし、同じ緑でも春の芽吹きの緑と夏の濃い緑の違いなど、植物の生育状態を色で見分けたりするのは、「しきさい」が得意なところです。つまり、それぞれの特長を組み合わせて使うことが非常に重要となります。

——「しきさい」データの校正・検証は、具体的にはどのように進めていくのですか?

校正・検証では、JAXAが精度保証をしなければいけない標準プロダクトがいくつか決められています。陸域の植生では、炭素の蓄積量(バイオマス)、葉面積、光の吸収率の3つです。これらのデータを取るため、観測サイトに適した平坦で均一な森林や草原を日本各地で5ヶ所選び、予備実験的な観測を行ってきました。「しきさい」の解像度を十分にカバーする広さ、大体500m四方をくまなく歩き回って計測します。そこで重要なのは、どのような観測方法が一番合理的でコストがかからない上に、正確で高品質なデータが取れるかという計測手法の検証です。

——今後の展望についてお聞かせください。

個人的な興味から「しきさい」でやってみたいことが一つあります。それは「しきさい」の売りのひとつである高空間分解能の熱赤外域の波長帯を使って、冬の夜間の地表面の温度を測ることです。たとえば筑波山の中腹には低地よりも気温が高い斜面温暖帯があって、ミカンが栽培されています。そうした斜面温暖帯が他にもないか、「しきさい」を使って探せないかと。これまでわからなかった地域の気象環境が人工衛星によってわかって、新たな耕作地やリゾートなど新しい土地利用, そして産業につながると、とても楽しいなと思います。

——JAXAおよびJAXAの地球観測に期待されることは何でしょうか?

JAXAの地球観測衛星はどれもみんなユニークで、なおかつ実際に多くの場面で役に立っています。たとえば、2015年の箱根山噴火で安全宣言が出されたのは、陸域観測衛星の「だいち2号」のモニタリングによって大涌谷の地形変動が治まったことを確認したからでした。そうした、地味だけれども国民の安全に直接寄与するような仕事を、高度なテクノロジーを使ってやっているわけです。そのことに自信を持って、これからも良い仕事を続けていってほしい。そして、たくさんの人工衛星を組み合わせて使うことによって、JAXAにしかできないような地球観測研究、地球温暖化や地球環境問題への貢献を続けてくださることを期待します。


奈佐原顕郎さん

奈佐原 顕郎

1988年岡山県立岡山一宮高校卒業。東京大学工学部計数工学科、北海道大学大学院地球物理学専攻、京都大学大学院森林科学専攻、モンタナ大学陸域数値シミュレーショングループ(NTSG)を経て、現在筑波大学生命環境系准教授。


2018年4月5日(木)更新