衛星を使った海氷観測が北極海の安全な航海を支える

多波長光学放射計(SGLI)を搭載し、雲、エアロゾル、海色、植生、雪氷などを観測する気候変動観測衛星「しきさい(GCOM-C)」。初期機能の確認を行った後、2018年末に観測データが一般に配布されます。種々の衛星データを使い北極海の海氷を観測解析している株式会社ウェザーニューズ グローバルアイスセンターの佐川玄輝さんに「しきさい」への期待をお聞きしました。

——佐川さんの仕事内容について教えてください。

私が所属するグローバルアイスセンターは全世界の海氷を常時監視・予測する専門部門です。世界の衛星画像を解析し、独自の海氷予測システム「I-SEE Engine」を用いて、海氷の様子をモニタリングしています。弊社では、その情報を、北極海航路を航行する船舶に提供しています。私は海氷の解析と情報のベースとなるサービスコンテンツを担当しています。

——御社では2017年7月に独自の超小型衛星「WNISAT-1R」を打ち上げられましたが、独自の観測ツールを持つことでどのような変化がありましたか。

「WNISAT-1R」は北極海の海氷観測を目的に2013年に打ち上げられた「WNISAT-1」に続く、弊社2機目の衛星です。
「WNISAT-1R」は、4つの観測波長(パンクロ・緑・赤・近赤外)カメラで海氷を観測します。また、GNSS受信システムを搭載し、日本で初めてGNSS-Rのデータ取得に成功しました。GNSS-Rは、地球表面で反射したGPS衛星の電波を受信・解析することで地球表面の状態を観測する方法で、この手法が確立すれば曇りの日や夜間でも海氷の分布を把握できるようになります。現在はまだ試験段階ですが、自社で独自の観測インフラを持ち運用することは、それだけでサービスの独自性につながり、ビジネス展開する上で非常に大きなメリットになると考えています。

——2018年末に、しきさいのデータが一般に配布される予定です。従来の衛星と比較して、大気、気象、海洋、雪氷など、これまで得られなかった範囲やより高い精度での観測を予定しています。今後、しきさいおよびJAXAの地球観測に期待されることはありますか?

今まで可視・近赤外を観測している衛星は、米国で打上げられたTerra衛星やAqua衛星のMODISなど、海外の衛星しかありませんでした。今回、日本でもMODISと同等あるいはそれ以上の解像度、観測幅があるデータを得られるということで、我々、民間企業としても非常に歓迎しています。
また、すでに公開されているGCOM-WのAMSR2のような高性能マイクロ波の観測は世界でも数少ないので、ぜひ長期的に続けて欲しいと思います。だいち2号(ALOS-2)に搭載されている合成開口レーダー(PALSAR-2)にも期待しています。PALSAR-2は光学センサーと違い、昼夜・天候の影響を受けずに解像度の高い観測データが得られるのが特徴です。ただ、合成開口レーダーは高解像度である反面、観測範囲が狭いといった欠点もあります。また、マイクロ波は広範囲で観測でき、雲域・夜間でも観測可能な反面、他の衛星に比べて解像度が低く、軽微な海氷が検出されないという欠点があります。可視衛星も、解像度はある程度あるものの雲域・夜間の観測ができないという欠点があります。
衛星にはそれぞれ特徴があります。航行に必要な海氷情報を得るためには、それぞれの衛星の利点、欠点を理解し、組み合わせて利用することが重要です。そのために我々も独自の衛星開発を続けたいと考えていますが、JAXAにも、種々の衛星を長期的に開発・継続して欲しいと思います。

——今後の展望について教えてください。

2008年にグローバルアイスセンターが発足した当初は、北極海の航行はほとんどありませんでした。現在も他の航路に比べると非常に少ないのですが、2016年に北極海で石油などのプラント建設が始まり、資源輸送のための船舶が急激に増えました。弊社が情報提供している船舶では数十隻〜百隻程度増加しました。2017年は建設ラッシュがひと段落し、船舶数も落ち着きましたが、今後もプラント稼動に伴い増えていくだろうと考えられます。
北極海航路は、これまでは北極海に寄港しないトランジット航海が主流でした。トランジット航海は期間が夏のみのため海氷リスクも少なかったのですが、資源輸送のための目的地航海は年間を通じて航行する必要があり、海氷リスクも増大します。安全な航行のために今後、ますます海氷情報のニーズが増大します。
また、北極海の海氷面積は年々減少していますので、今後は、海氷分布を指標とした温暖化モニタリングの手法も確立させていく必要があります。
グローバルアイスセンターによる海氷観測が北極海航路の安全な航行、そして地球の環境保全にも寄与できるよう、今後も努めていきたいと考えています。


佐川玄輝さん

佐川 玄輝

株式会社ウェザーニューズ グローバルアイスセンター リーダー、博士(工学)。
東京大学大学院で海氷予測シミュレーション研究により博士号を取得後、2008年、株式会社ウェザーニューズに入社。同年に立ち上がったグローバルアイスセンターに所属し、全球の海氷解析・予測システムを開発・構築。2012年夏には、北極海航路を利用する商船に乗船し、実際の航海を体験。現場で得た経験をもとに、北極海航路航行支援サービスを支える技術の開発・研究を進めている。


グローバルアイスセンター
世界の衛星画像の解析や、独自の海氷予測システム「I-SEE Engine」を用いて、温暖化の影響で海氷が減少している北極海の海氷の様子をモニタリングし、「北極海航路」を通行する船舶の安全運航支援に必要な情報を提供するほか、全世界の海氷を常時監視・予測を行っています。

2018年4月3日(火)更新