広範囲かつ精度の高い海洋観測で赤潮の早期発見へ

入り江や湾に富み、水産環境に恵まれた長崎県は、養殖業が盛んな一方、赤潮の被害が多発する地域でもあります。長崎県総合水産試験場の高見生雄さんに、赤潮対策として「しきさい」の観測データをどのように活用されるのかについてお話を伺いました。(取材内容は2018年2月現在)

——高見さんの仕事について教えてください。

主に沿岸漁業や養殖業などの漁場となる浅海域の海洋環境の調査研究を行っています。特に、現在の取り組みとして最も大きな対応を迫られているのが赤潮対策です。
一般的に赤潮は海水の富栄養化などによって植物プランクトンが大量に増殖することで発生します。大規模な赤潮になると、漁業に甚大な被害をもたらすため、被害が出る前にできるだけ早期に赤潮の発生を発見できるよう、漁場を常に監視することが最も重要な対策の一つとなります。

——どのような方法で赤潮を見つけるのですか?

基本的には観測点の海水を採取して顕微鏡で観察するという方法で、定期的な定点観測を行っています。その際、私たちだけでは採水できる範囲に限界があるので、漁場を利用されている地元の漁業者の方々に自主的な監視をしてもらっています。私たちはどちらかというと、そうした自主監視体制のバックアップと指導に力を入れています。毎日漁場を見ている漁業者の方々の目は素晴らしくて、海水や魚の異変に気づいたら、すぐに連絡をくれます。その連絡を受けて、私たちがさらに詳しく状況を知るために再追加調査を行います。
赤潮というのは海の中に均一にできるのではなく、雲のように塊となって大きくなっていきます。また、種類もたくさんあって、水温や塩分、光などの条件が揃うと急激に増えたりします。その動きを予測するのは非常に難しいのですが、種類によっては発生の初期を捉えるところまではできている状況です。
また、発生後に被害を出さないということも対策として重要です。防除剤として有効な粘土の散布や餌止め、あるいは魚を別の場所に逃がすという方法がありますが、その間も赤潮の消長を観測し続けなければなりません。

——赤潮対策として衛星データをどのように利用されていますか。

調査船「鶴丸」
長崎県総合水産試験場の調査船。海洋観測や資源調査、漁場開発調査などを行う。

一つは定点観測データとの比較分析です。2015年に橘湾で赤潮が発生したときのランドサットの撮影画像と私たちの観測データを比較すると、画像から推定されるクロロフィル濃度分布と実際の観測値からの濃度分布に、かなりの一致が見られました。つまり、衛星画像から被害が出そうな場所を特定するのに役立てられるのではないかということです。そうであれば、数十箇所も定点観測をしなくても、もっと定点数を減らすことができるかもしれない。定点数が減れば、その分だけ広範囲に観測することもできるし、他のことにリソースが割けます。衛星画像から観測が必要な場所をある程度絞り込めるので、むやみやたらに観測する必要がなくなるわけです。
もう一つは、赤潮の発生パターンを予測するのに使えるのではないかということです。海域ごとに赤潮の被害が発生しにくいスポットが見つかれば、そこに魚を逃がすこともできます。ただし、そのためには衛星データの蓄積が必要になると思いますが。

——「しきさい」は従来の衛星と比較して広範囲かつ高精度での観測が可能ですが、どのようなことを期待されていますか?

250mの空間分解能を持つということで、かなり使える画像データが得られると思います。また毎日データが取れるということなので、クロロフィル濃度の平面的な分布を捉えることができれば、時系列でそれを追いかけていくことで赤潮の動態予測も可能になるのではないかと期待しています。

試験場外観
長崎県総合水産試験場の外観。水産業についての知識習得やふれあいの場として活用されることから、「マリンラボ長崎」の愛称を持つ。

高見科長と山砥研究員。山砥氏は、漁業者の方と協力して調査を行っている。

——衛星データを使うメリットはどのようなものでしょうか。

広域な情報が得られるため、海流や潮流の状態を知ることで、リスクに対する準備や心構えができることです。たとえば、有明海で発生した有害な赤潮が、数日後に海流に乗って橘湾に流れ込んでくることがあるのですが、そうしたときに衛星データがあれば、モニタリングの強化や漁業者への注意喚起につなげられます。その際、数値ではなく画像で視覚的に伝えられるので、赤潮の危険性をよりリアルに実感してもらえるのではないでしょうか。
最近はスマートフォンを使って情報をやりとりする若い漁業者も増えています。その日の観測データが分かった時点で情報を共有できるため、スピード感が昔と違います。画像を添付して送ることができれば、さらに説得力が増すと思います。

——今後の展望をお聞かせください。

長崎県が今一番力を入れているのが、マグロの養殖です。かなり多くの海域に養殖場が存在しているので、「しきさい」のデータが使えるようになると、非常に力を発揮してくれるのではないかという期待があります。
マグロの養殖場には自動観測装置を設置し、異常があればすぐ検出できるという体制をとっています。こうした取り組みを補強するものとして、衛星データを活用していきたいと思います。

——JAXAやJAXAの地球観測へのご要望はありますか?

今後、データが蓄積されていけばビッグデータとして活用されていくと思いますが、そのときは天気予報のように誰でも使えるような形で提供していただけるとうれしいですね。そうすると、精度の高い赤潮予測ができるようになってくると思います。
また、私の個人的な考えですが、今は被害防止のためにデータを使っていますが、それを利益につなげていくことができないかと。プランクトンには有害なものばかりでなく、魚や貝の餌になるプランクトンもあります。それがどの場所にあるか分かれば、そこで養殖を行うわけです。将来的には地球観測衛星が海全体の生産力まで測ってくれるようになると、非常に夢があるなと思います。


高見生雄さん

高見 生雄

1984年
長崎大学水産学部卒業
1986年
長崎大学大学院水産学修士課程終了
2009年
北海道大学大学院水産学博士号取得
1987年
長崎県佐世保水産業改良普及所 水産業改良普及員
1991年
長崎県水産試験場増養殖研究所 研究員
1993年
長崎県水産部海洋漁業課取締班 技師
1994年
長崎県水産部栽培漁業課資源管理班 技師
1996年
長崎県対馬水産業改良普及所 技師
1998年
長崎県対馬水産業普及指導センター 係長
2000年
長崎県総合水産試験場病害科 研究員
2002年
長崎県総合水産試験場養殖技術科 研究員
2006年
長崎県総合水産試験場養殖技術科 専門研究員
2011年
長崎県対馬水産業普及指導センター 所長
2014年
長崎県総合水産試験場漁場環境科 科長
2018年4月〜
上五島水産業普及指導センター 所長

2018年3月28日(水)更新