雲、エアロゾルの高精度な観測で地球温度化メカニズムの解明を

大気中の雲やエアロゾル、海洋にある植物性プランクトンの分布、陸面における植生の分布、雪氷の分布や汚れ具合など、地球上のさまざまな物質の量や値を長期間にわたって観測し、地球規模での気候変動のメカニズムを解明する。
打ち上げが目前に迫った2017年12月中旬、「しきさい」プロジェクトの大気リーダーを務める東海大学の中島孝さんに、「しきさい」の特徴や意義、期待をお聞きしました。

——中島さんの研究内容と、その魅力を教えてください。

雲がエアロゾル(大気中の微粒子)を核に発生し、成長し、消滅するまでのプロセスを研究しています。雲はとても身近なものであるにもかかわらず、その成長消滅過程はまだよくわかっていません。雲やエアロゾルを研究するということは、「気象学や気候学において最もわかっていないことのひとつ」ともいわれる謎の解明に挑戦するということで、そこに大きな魅力を感じています。

——雲の成長プロセスがわかると、どのようなことに役立つのですか?

「しきさい」(GCOM-C)で観測する分野

将来における気温上昇の予測値には大きな幅がありますが、それは雲やエアロゾルについて、よくわかっていないからです。地球の将来予測をする上で、雲とエアロゾルの動きは最大の不確定要素なのです。
雲は地球のエネルギー循環に大きな影響を与えているにもかかわらず、そのプロセスを方程式として正確に記述できていません。そのため現在、世界中で開発が進められている大気状態をシミュレーションする「大気大循環モデル」に多くの個性が出てしまい、それを使った予測がばらつくわけです。
つまり、雲の生成プロセスを把握することは、地球温暖化の予測精度を高めていく上でとても重要だということです。また、だからこそ、まずは観測、観察をする必要があるのです。
もう一つ、近年は再生可能エネルギーの活用が進んでいますが、太陽光発電装置は雲がかかれば十分に発電できないので、雲の状態の正確な把握は発電量予測などの高精度化にも貢献できます。

——人工衛星で地球環境の観測を行うメリットは。

地球温暖化は地球全体の問題なので、全球規模での観測を長期にわたって続けていく必要があります。また、たとえば近年よくニュースになる集中豪雨なども、地球全体の水蒸気の分布や大気の状態と関係しているので、地上からの局所的な観測だけではなく、人工衛星を使った地球全体の観測が必要です。衛星を使った大気や雲、エアロゾルの様子の観測には、気候変動や異常気象のメカニズムを解明していく上で大きな意義があります。

——中島さんは現在「しきさい」の多波長光学放射計(SGLI)の大気リーダーを務めていますが、「しきさい」プロジェクトにはいつから関わっているのですか。

中島孝さん

このプロジェクトは先代の地球観測技術衛星「みどりII」が運用停止となった2002年からしばらくしてスタートしましたが、当初から私は観測センサの仕様決めなどに携わってきました。当時、私はJAXAの職員で、「みどりII」の運用停止にがっかりしながらも、地球の未来のために必ず必要になる次の衛星をしっかり企画しようと、思いを新たにしていました。
センサの仕様を決めるには、まず、何を、どのぐらいの精度で、かつどのぐらいの頻度で観測するかを研究者が決める必要があります。そこから、それらの観測を実現するためのセンサの仕様や衛星の軌道などについて、開発側の人たちと議論しながら決めていきます。
仕様がある程度決まったらコンピュータで何度もシミュレーションして、実際にどの程度の観測ができるかを検証します。そういった検証と議論を繰り返し、最終的な衛星とセンサの姿を具体化していくわけです。
観測精度を決めると一言でいっても、そう簡単ではありません。研究者は実現可能なベストな精度を求めますが、高精度にするほど開発費も高額になります。限られた予算のなかで最高のものを作り上げるべく、研究者側と開発側の両方が納得できる落としどころを見つけるのが、実はとても苦労するところです。

——今回の観測衛星の特徴は、どのようなものでしょうか。

「しきさい」では近紫外から熱赤外域までの19波長のマルチバンドで、雲、エアロゾルのほか、海色、植生、雪氷などを観測する予定です。2002年に打ち上げられた「みどりⅡ」が36波長だったのに対して、今回は数を絞り込んで機能を最適化していること、また、今だからできる機能も備えていることが特徴です。
最大の特徴は偏光観測の機能をもつことです。エアロゾルは主に陸上で発生するにもかかわらず、これまでは陸上のエアロゾルの観測は容易ではありませんでした。今回の偏光観測機能によって、陸上エアロゾルの観測精度の画期的な向上が期待できます。
また、今回の仕様は、エアロゾルの量、雲粒の状態や量などに関して、気候変動のシグナルを十分に抽出でき、これからの地球科学に役立てられる精度を備えたものとなっています。

——多波長光学放射計(SGLI)の大気リーダーとして、どのような役割を担ってこられましたか。

地球観測衛星というのは企画段階から打ち上げまで最短でも10年はかかるスパンの長いプロジェクトです。現在の大気チームには12名の研究者が集っていますが、いつ打ち上がるかも、観測データがいつ使えるようになるかもわからず、場合によっては中止される可能性さえある中で、長期間モチベーションを保ち続けるのはかなり難しいことです。
そのような状況でリーダーに求められることは、リーダー自身が諦めることなく、皆がモチベーションを保ち続けられるよう、常に発信を続けてチームを鼓舞していくこと。おそらく、それが最も大きなリーダーの役割だと思います。

——「しきさい」という愛称には、どのような印象をもたれましたか?

的を射た、納得できる愛称ですね。観測に多波長を用いるということは、まさに、さまざまな色を用いて、大気、海洋、陸面、雪氷等の多彩な対象を観測するということだからです。こういった特徴に「しきさい」という名はふさわしく、皆さんがよくわかってくださっていると、とても嬉しく思いました。

——打ち上げが目前に迫った現在のお気持ちは。

15年の準備期間を経てようやく打ち上げられる衛星ということで、とても感慨深いです。この衛星シリーズで10年、15年と観測を続けていくことが、人類にとって大きな貢献となると思いますので、まずは設計寿命以上に長く観測を続けられることを期待しています。

地球観測衛星による観測範囲

——今後の展望をお聞かせください。

今回の衛星は、高度なサイエンスを使って最適化された、地球環境に関する多彩な観測を行うことができるスーパーセンサを搭載しています。このセンサを長期的に利用することにより、50年後、100年後の地球の姿が見えてきます。つまり、私たちが暮らしている地球を今後も快適なまま保てるのか、あるいは変化していくのかということがわかってくるのです。
50年後、100年後というのは遠い先のことに感じられるかもしれませんが、水やエネルギーの循環がうまくいかなくなれば、動植物も人間も地球で快適に生活していくことはできなくなります。人々が平和に快適に暮らしていくために必要な環境を維持するためには、観測によって現在のこの環境がなぜ成り立っているのかを理解し、モデルを使って将来の環境を予測していくことが必要なのです。それは、私たちの世代が次の世代にどのような社会を残していくのかを考えることでもあります。
その意味で、私は今回の「しきさい」は非常に重要な衛星であると考えています。この衛星を使って多くの新しい事実を発見し、より良い地球環境を保つために必要な知識や技術を人類にもたらすことに貢献していきたいと思っています。


中島孝さん

中島 孝

1968年
東京都に生まれる
1992年
東京理科大学理学部第1部物理学科卒業
1994年
東京大学大学院理学系研究科修了
同年〜2005年
宇宙航空研究開発機構(JAXA)(前 宇宙開発事業団)技術系職員
2005年
東海大学 情報デザイン工学部情報システム学科 准教授(専任)
2013年〜現在
東海大学 情報理工学部情報科学科 教授
GCOM-CプロジェクトSGLI大気リーダーを務める。

2017年12月22日更新