JAXAタウンミーティング

「第91回JAXAタウンミーティングin科学・技術フェスタ」(2013年3月16日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙は再生可能エネルギーの宝庫~宇宙太陽光発電システム~」で出された意見



<宇宙太陽光発電の危険性について>
参加者: 宇宙や太陽光発電についてですが、宇宙から電波で電力を輸送するときに、電波の影響で電子レンジみたいに人間に当たると爆発するとか、生態系に影響を与えたりする可能性があると聞いたのですが、実際どうなのでしょう。
大橋: そういう質問をよくいただきます。地上のマイクロ波を受ける設備の直径が2~3キロ必要で、その外側の人が歩くエリアは当然安全につくらないといけないので、1平方メートル当たり10ワットという国の基準値を超えないような設計することにしています。もしエリアの中に入ってしまうとどうなるかという話ですが、そこでも太陽光の強度が1m2当たり1kWぐらいで、その10倍ぐらいまでいかないぐらいに抑えようということで地上のエリアの大きさを設計しています。仮に立入規制をかけているエリアの中に鳥が飛んで入ってきたとしても、いきなり焼き鳥になって落ちてくるということはなくて、少しあったかいなぐらいになるような構想になります。
参加者: 太陽光も1つの限りのある資源で、1日に当たる量が実は決まっていて、太陽光発電でそれが使われたら、失われた分、地球に何か影響があるということはないのでしょうか。
大橋: 発電衛星は静止軌道上に置かれますので、地球に当たらない部分の光のエネルギーを静止軌道上で集めてきて、それを地球に送るものですので、太陽発電衛星がそこに置かれたから地球のどこかが陰になって真っ暗になってしまうということはありません。

<波長の違う光での発電について>
参加者: 波長の違ういろんな光でも発電はできるのでしょうか。
大橋: 太陽の光というのはプリズムで分けると7色が混ざっているということがわかるように、いろんな波長の光が混ざって飛んできます。そのうちの太陽電池で電気に変えることのできる波長というのは一部で、残りの波長というのは電気に変わりません。しかし、それが太陽電池に当たってしまうと熱に変わって、太陽電池が熱くなってしまいます。あまりそういうことはしたくないので、そのために反射鏡のところに仕掛けをしておいて、太陽電池で電気に変わらない無駄な波長のエネルギーは反射しないようにしてしまうなどの仕掛けを考えています。また、プリズムと違って反射鏡のミラーは波長が違っても反射する角度は余り変わらないので、ミラーで反射した後、光が波長によって違う方向に飛んでいってしまうという心配はしなくても大丈夫です。

<宇宙太陽光発電の耐久期間について>
参加者: 宇宙太陽光発電はどれぐらいの期間持つのでしょうか。
大橋: 地上のメガソーラーの寿命がどれくらいかということを正確に把握していませんが、20年ぐらいかと思います。宇宙での発電施設の場合は、寿命が20年ではコスト的にペイしないので、40年寿命という前提で設計をすることが求められています。宇宙で本当に40年持つ衛星ができるかですが、何とかメンテナンスをしながら、年間3%の割合で新しいものに変えていくという想定で、30年で新しいものに入れかわるという形でコスト計算をしています。このシステムが実現するときにはそういう寿命のものをつくらないといけないという、逆にそういう要求になってきます。
参加者: 宇宙太陽光発電をするのに大きな鏡をつくるという話ですが、隕石や宇宙ごみなどが当たって穴だらけになってしまうことはないのですか。
大橋: それもよくある質問です。最近、衛星に隕石や宇宙ごみが当たって壊れてしまうということがかなり心配されていますが、この太陽発電衛星は静止軌道で、サイズが2~3kmというかなり大きなもので、計算上どれぐらいの割合で宇宙ごみなどがぶつかるかというと、10cmぐらいの大きさのものが1年に1回ぐらい、1cmぐらいのものだと、毎月1回ぐらい近づいてくる想定です。10cmクラスのものになると、さすがにこれが当たるとダメージが大きいので、避ける予定ですが、1cmクラスだと、避けずに当たって壊れてもほかの部分に影響を受けず、機能するような形で何とか作れないかと思っております。例えば当たっただけで反射鏡だけがすぽっと穴があいてしまって、ほかの周りはちゃんと反射鏡として機能するとか、そこはこれから技術開発していかなければなりません。

<宇宙ごみの危険性について>
参加者: 宇宙ごみは、やがて地球に落ちてくるものもあると聞いたのですが、太陽から出た放射線などが宇宙ごみについていることはないのですか。
大橋: 宇宙ごみが太陽の放射線とかで放射性物質になるというか、放射能を帯びて落ちてくることは心配しなくていいと思います。今まで落ちてきた隕石などで、放射線があって大変だとか大騒ぎになった例は聞いたことがありません。

<宇宙太陽光発電システムへのJAXAの関与について>
参加者: JAXAさんが宇宙太陽光発電システムにかかわるのは発射して開くまでなのか、それとも太陽光パネルまで開発して受信するシステムも全て開発していくのかお教えください。
大橋: 今のところ我々はトータルシステムとしてシステムの研究をやっていますので、輸送手段のロケットとか再使用型の輸送機のほうは、別に輸送系の本部がありますので、そちらでやっていただくとして、宇宙に上がる太陽発電衛星とか、そこからマイクロ波やレーザーで地上にエネルギーを送る装置、地上でそれを電気に戻す装置というのは、一通り研究対象としています。

<宇宙太陽光発電のメンテナンスと他のエネルギーとの関係について>
参加者: このような形でエネルギーを地球に送ってこられたらいいなと思うのですけれども、メンテナンスの面など何かがあったときに出かけていけない距離なので、お話を聞いているうちに大変かなと思ってきました。そういうメンテナンスについての評価を現在、どのようにされているのかお教えください。また、費用面で他の再生可能エネルギーも含めてお話が出ましたが、今後のエネルギーをつくっていく可能性の1つとして、同じ土俵になかなか上がらない理由は何だと思われているかお教えください。原子力発電所の話が出ましたけれども、夢のエネルギーとして出たころには放射性廃棄物の処理とか、そういう話を全く一般には聞かされずに進んできました。そのようなことがないように、新しい技術を進めるときには後々の世代に何を残していくのかということまで話をしていただいた上で進めてほしいなと要望いたします。
大橋: メンテナンスについては、例えばこのシステムだと枠の中にはまっているパネルだけを入れかえられるような仕掛けにしてあげて、ロボットでそこだけぽっと入れかえてあげるということができるように研究しているところです。それが年3%の率で新しいものに変えていくというところで、実際にSSPSという太陽発電衛星を建築することになると、1日に1回ぐらい低軌道に宇宙輸送機を打ち上げるという時代を想定していますので、メンテナンスにも結構頻繁に行けるようになるのではないかと思っています。それから、他の再生可能エネルギーと同じ土俵に何で上げてもらえないのかというのは、これは一重に輸送手段がまだないからだと思います。値段50分の1という輸送系を今つくる構想が日本だけではなくて世界のどこにもないよねという話になってしまうので、そこは需要と供給で、こういう宇宙発電衛星が本気で必要になるぐらい、例えば化石燃料が本当になくなってきたとか、そういうことになってくると真面目に宇宙発電衛星がほしいとなると、それを打ち上げる輸送系もつくらなければということで、その相互作用で再使用型輸送系が使われる時代になってきて、宇宙発電衛星だけではなくて、ほかの宇宙活動も非常に安くできるようになって、素晴らしい時代が来るのではないかと勝手に想像しています。最後の将来の世代に変なものを残さないようにしないといけないという話はおっしゃるとおりで、宇宙発電衛星もいつかは寿命が尽きるわけです。そうなると巨大な宇宙ゴミになってしまうではないか。それはどうするのという話も当然あります。これを例えば地上におろして、突入させて燃やしましょうとかそういうことを考えると、これまた膨大なエネルギーが必要になるので、これは私の1つの構想なのですけれども、寿命が終わった宇宙発電衛星はそのまま静止軌道か、もう少し高い軌道に、墓場用の軌道ではないですけれども、そういう寿命の終わった太陽発電衛星を集める場所をどこかにつくっておいて、そこに置いておく。それを将来リサイクルして軌道上で新しい資源として使えば、地上からエネルギーを使って軌道上まで新しい資源を持ち上げる必要はなくなるので、これは大変よいことではないかと思います。今、小惑星を捕まえてきて、それを資源として使ってしまおうではないかなんていうことを考えている人がいるぐらいですから、小惑星ではなくて本当に資源のかたまりみたいな寿命の終わった太陽発電衛星が軌道上にあれば、それを活用しない手はないと思っていて、今、地上で現に使い終わった携帯とかを都市鉱山とか言ってそこからレアメタルが取り出せるとか、金が取り出せるのと同じようなことが、宇宙の静止軌道でも起きるのではないかと思っています。

<宇宙太陽光発電の他国の状況について>
参加者: 宇宙太陽光発電を他の国も技術を開発していて、先に進んでいたりすることはないのでしょうか。他国との比較を説明いただけませんでしょうか。
大橋: この太陽発電衛星の構想を最初に思いついたのはアメリカのピーター・グレイサーという博士で、特許を取ったりして、その特許は今、切れているのですが、一時期NASAが一生懸命研究をしていた時期もあるのですが、技術的には可能かもしれないが、今のところコスト的に見合わないのでこれ以上はやめておきましょうということで止まってしまったという経緯があります。時々ぶり返したようにアメリカも研究したりしているのですが、なかなか本格的にやろうという動きは少なくとも外からは見えないです。彼らは最近シェールガスといって、岩の間に挟まっているガスをばんばん取り出せる技術を開発してしまったので、宇宙で太陽発電衛星をつくるという、そもそもニーズが薄まってしまっているところもあるのではないかと思います。しかし、日本はなかなかエネルギー小国ですので、アメリカとかと違って何とかして自前のエネルギーを確保したいということで、こういう構想を進めているところです。
西浦: 太陽光発電の話ではありませんが、宇宙全般のテーマとして皆様にご案内があります。「財界」という雑誌があるのですが、そこで2月より1年間、「宇宙の窓から」という連載が月一で掲載されていますので、ご興味のある方はご覧ください。よろしくお願いします。