JAXAタウンミーティング

「第72回JAXAタウンミーティング in 八尾」(平成24年1月15日開催)
会場で出された意見について



第二部「宇宙の謎を探る 小惑星探査機『はやぶさ』の挑戦」で出された意見


<カプセルの日本への持ち込みについて>
参加者:「はやぶさ」のカプセルを持ち帰った際に、輸入扱いになるということを聞きましたが、そのことについて教えてください。
久保田:通常は税関を通していろいろやりとりをします。はやぶさのカプセルは日本から持っていったのではなく、宇宙に行ったものがオーストラリアのウーメラに戻ってきたものなので、今度はどう日本に持って帰ってくるかいろいろ取り決めが難しかったです。最終的にはオートスラリアにあるものを日本に持ってくるということで輸入手続をしましたが、その解釈に関してはいろいろ意見が分かれて、税金をかけるのかとかいろいろ意見がありました。最終的には科学で解決で、これは人類の財産ですから税金云々なんて言わずに、宇宙からの贈り物であるという解釈で、輸入手続で無事に戻ってきました。オーストラリア政府にはかなり協力していただきました。

<ミネルバの役割について>
参加者:ミネルバがすごくかわいいなと思っていて、すごい興味がありましたが、はやぶさでは失敗ということでうまく着陸ができませんでした。もしミネルバがイトカワに着陸をしていれば、「はやぶさ」のタッチダウンはもう少しすんなりいけたのかということと、ミネルバはホッピングして動くというのを見たのですが、どんな動きをするのですか。
久保田:実は私はミネルバの開発者の1人でして、今日は時間の関係でお見せできませんでしたが、ミネルバには深い思い出があります。もしミネルバが着地できていたら、表面に下りていますから、表面の温度が直接測れます。また、カメラを3つ持っていまして、表面をすぐ近くで観測できるわけですから、「はやぶさ」が撮った写真よりも更に高い解像度で、いろんな場所で写真を撮ることができたと思います。タッチダウンがもっとうまくいったかどうかというのは、特にはミネルバの着陸は関係していません。また、ミネルバがなぜ失敗したかというと、「はやぶさ」が降りていくときに落すのですが、「はやぶさ」にいろいろトラブルがあって、タッチダウンのやり方を変えて、人間が判断して落すことになりました。降りていくときのちょうどいいころを見計らって信号を出したのですが、16分前の情報を見て判断して、16分後を想像して信号を出しました。ところが表面には重力があって、「はやぶさ」が近づいていったときに速度が上がってしまい、余りにも速度が速くなったので「はやぶさ」自身がジェットを噴いてしまいました。ジェットを噴いたあとに指令が届いて、その速度分が加わって大体推定秒速15cmでミネルバを放出してしまいました。本当はその3分の1の秒速5cmで落す予定が3倍になってしまって、小惑星の脱出速度が大体同じぐらいなので、小惑星には到達できませんでした。ちなみに、落とすコマンドを送ったのは私で、しょげましたが、ミネルバとは通信ができて、宇宙空間を飛んでいる探査機全体を撮った写真は今までないので、分離するときに撮ろうとしましたが、残念ながら太陽電池の一部しか撮れませんでした。しかし、これでミネルバ自身の機能は確認できたわけで、放出した後ちゃんと生きていて、今も生きている可能性はあります。飛ぶ原理は中にモーターが入っていて、モーターを回します。これは人工衛星と同じ原理で、中のものを回すと反対側に回転していくので、それが小惑星表面に置いてあると表面の摩擦を使って、回転するだけではなく、飛んでいくことができます。万が一、氷の上だと真上しか飛びませんが、でこぼこした摩擦のあるところだと回転しながら横に飛んで、イトカワだと大体10mぐらい飛ぶと私は推定していました。失敗しましたので「はやぶさ2」ではリベンジを図るつもりで今、開発しているところです。

<JAXAの広報について>
参加者:JAXAの技術を利用した生活用品もかなり出回っていて、大震災でもかなり貴重な資料を出したということですが、そういうことは新聞やテレビでも一切放映されていないし、JAXAの宣伝不足ではないかと思います。美人の西浦みどりさんが広報にいらっしゃいますので、JAXAのファンクラブか何かを設けてもらって、宣伝にもう少し力を入れていただき、予算をたくさんとっていただいて、国民の利益になるようなことを真剣に考えていただきたいと思います。こんな感心するだけでこの会が終わるのはもったいないので、特に要望いたしました。
久保田:惑星探査の話をしますと先ほどの質問にもありますが、身近な生活にどれだけ関わっているかという話をすると、惑星探査は難しいです。太陽系の歴史なり宇宙の果てがわかったということが、どれだけ自分たちの生活に関わるかというのは難しいところだと思うのですが、ある意味「はやぶさ」を通してわかったことは、夢と希望を与えることができるミッションかなと思います。それにどれぐらいの予算をかけるのだというと、なかなか難しい判断です。ちなみに「はやぶさ」にどれだけお金がかかったかと言いますと、探査機の開発に120億円、ロケットの開発費を入れると200億円です。ですから探査機120億円と言うと国民1人当たりにすると、勿論赤ちゃんも入れますが、大体100円ぐらいでできたミッションです。「はやぶさ2」はもう少しお金がかかりますが、是非私自身実施したいなと思っています。震災があったり日本中大変な時期なので、科学ミッションというのはなかなか難しいと思いますが、それでも皆さんの応援がありまして、「はやぶさ2」は、全額ではなかったですが、予算がつきました。国も応援しているのだなとポジティブに受け止めまして、とにかくチャンスがあればすぐ打ち上げられるような準備だけは我々はしようと考えています。八尾市は非常に温かい人たちが多くて嬉しい限りですが、我々も是非頑張っていきたいと思いますし、宣伝をしていかなければいけないというのは、そのとおりだと思います。
西浦:講演で全国行脚いたしますと、ファンの方たちがサポートしにいらしていて、たいへん有難く、うれしいことです。御礼もうします。確かに、私どもは広報不足、宣伝不足というご指摘をいただくこともあって、いつもそうしたご意見を戒めにして、更なる努力を重ねていこうと、気を引き締めているところです。具体的には、東京での私のJAXA活動のほんの一部になりますけれど、ご参考までに紹介させていただきますと、各放送局、新聞社、出版社などのマスコミ各社を頻繁に廻り、宇宙、JAXAを応援したくなるようなお話しを説得力をもってしています。有難いことに、今まで築いてきた人脈も大きな助けになっていますので、大抵の場合、先方様から招んでいただいております。現に各局で、数多くの宇宙番組を制作、放送していただいておりまして、特にNHKさんでは、宇宙関連の番組は、科学番組ご担当の制作部長さんが把握しているだけでも、昨年で131本もあったそうです。その上、ニュースでも冒頭に宇宙関連のニュースを流すと視聴率がアップするそうで、折りに触れて報道していただき、トピックとしても取り上げてくださっています。強力な全面サポート態勢になりましたので、喜んでいます。我が国が誇る優秀な技術系人材を活かせる研究開発、人々に役立つ有意義なミッション、なにより、安全で豊かな社会を実現させて国民の皆さまの期待に応える宇宙開発を推進してきたいという思いが、幅広く、メディア露出を通じて伝わってほしいと願っています。どうか皆様、引き続き、ご理解と熱い応援をお願い申し上げます。新聞、テレビなど各メディアに投書することなども非常に大きな後押しになると思いますので、是非よろしくお願いします。

<八尾市の探査機への関わりについて>
参加者:八尾市からも次の探査機をつくるのに関わることを、是が非とも実現させたいと思っています。
寺田:そのような形で宇宙に貢献していただくというのは非常にありがたいことだと思いますので、是非、八尾市の技術をいろいろな形で我々としても使わせていただきたいと思います。

<JAXAへの寄附について>
参加者:私たち含め国民はすごく応援していると思いますが、私たちが何か金銭面とかで協力できるようなことは何かないでしょうか。
寺田:最近今のようなご意見をたくさんいただくようになりました。JAXAとしても現在、寄附金をきちんともらえるような制度について準備を進めています。できればもう数か月以内に寄附金をいただいて、各プロジェクトに個別に、あるいは全体にも応援してもらえるような制度を準備をしていますので、是非そのときは、一口乗っていただいて、衛星の開発に役立てたいと思いますので、よろしくお願いします。
参加者:一緒に頑張りましょう。
西浦:本当に嬉しいです。早く制度等を整備したいと思いますので、今から貯金しておいてくださいというのは冗談ですが、是非、その際には、ご無理のない範囲でご支援いただければ幸いです。

<イオンエンジンの技術の応用について>
参加者:イオンエンジンは、イオンをずっと出し続ければ高出力を得られるということでしたが、地球上で何か応用できますか。
本間:イオンエンジンは、力が弱いので地球の重力下では、どうしても摩擦が発生しますので、物を動かす動力源としては、非力かなと思います。ただ、この極限までイオンを加速させる技術が、近いうちに波及効果としていろんな電子機器に波及するのではないかと期待しています。宇宙空間は放射線などがあって、いろいろと環境は厳しいですが、物を動かすということからいうと、あんな楽なところはなくて、ニュートンの法則がほとんどそのまま伝わります。どんなに弱い力でも長い時間をかければスピードが出まるので、これが「はやぶさ」の原理です。余談ですが、人工衛星の飛んでいる高さは、大体350~400km以上でなければ空気抵抗があって落ちてきます。だから人工衛星の教科書では余り低いところを飛ぶなと書いてあります。しかし、イオンエンジンを使うとちょうど空気抵抗をキャンセルすることができます。私の計算だと大体180kmぐらいまでの高度まで下げてもイオンエンジンで噴いていれば落ちてきません。近々そういう実験衛星もやろうかなと思っています。物を細かく見るのは、なるべくそばに寄った方が良いので、そういうことも考えています。宇宙技術全般にいえることは、基本的には地上で使われている技術をベースにして、宇宙の特殊な要求に対して非常に尖った技術をやります。技術の特性として私は思いますが、非常に尖ったことをやると、今度は尖った先頭からなだらかな富士山みたいな山のようなイメージだと思うんですが、そうすると広い範囲で広がるのではないかと思っていますので、宇宙をやるときはなるべく尖った、鋭いところを技術としてはやっていきたいと思っています。
久保田:イオンエンジンのイオンを出している速度は、秒速30km(時速108,000km)です。これは新幹線の300倍ぐらい出していますから、これを地球上で応用できることを考えるべきかもしれません。例えばイオンをぶつけて洗浄するとか、何かをつくるとか、そういう技術を是非この八尾市から起こしていただくと、「はやぶさ」でやったかいもあったかなと思います。ぜひみなさんと一緒に地上の技術に応用できることを考えていければなと思っています。

<イオンエンジンのクロス運転について>
参加者:「はやぶさ」は2つのエンジンを掛け合わせて、1つのエンジンを動かせたと聞きましたが、これは想定外でたまたまできたのか、想定していて準備できていてやったのかよくわかりません。真相をお聞かせください。
久保田:イオンエンジンは4つありますが、1つはバックアップで、電力が2kWしかありませんので4つは同時に動かすことができません。まず1つの想定外は2年かけて2年で戻ってくる、計4年で戻ってくる予定が7年かかってしまった。これは想定外です。イオンエンジンはグリッドといって、電極を使って、イオンを加速したりしますので、どうしても寿命が来てしまいます。4年経った後はいつ寿命が来るか非常に心配していました。まず、3つのうちの1つが壊れ、2つが壊れ、残りの3つ目も半分の推力しか出なくなりました。戻ってくる半年前で、もうだめかと考えている時期でした。半分の推力でもスイングバイをして、2年後に戻ってくる軌道があったのですが、2年後に最後の頼みの1個が壊れない確率は非常に小さいということで、お手上げ状態でした。イオンエンジンは、「イオン源」と「中和器」の2つの仕組みがあります。「イオン源」は、イオンをつくって、プラスイオンを出している部分です。プラスイオンを出し続けるとはやぶさ自身がマイナスに帯電していって、せっかく出したプラスイオンが戻ってきたり、イオンの飛び出す速度が遅くなったりするので、プラスイオンが外に出た瞬間に「中和器」から、マイナスイオンを出して、プラスマイナスゼロにしています。各イオンエンジンは、イオン源、中和器とも両方壊れているわけではなく、どちらかが壊れているという可能性が高かったのですが、宇宙に飛んだものはソフトウェアは書き直しできても、ハードウェアはいじれませんので、お手上げだなと思っていました。ところが、イオンエンジンの担当者が会議で「クロス運転」をやってみようと、映画と全く同じです。2つのエンジンを動かせるようにダイオードを1個イオンエンジン担当者が入れていました。川口先生始め、我々も忘れていました。機械というのは、寿命も来るしトラブルもあって完全にずっと動く機械というのはつくれません。4つ壊れたときに自分がつくったエンジンで地球に戻れないのは嫌だということで、機能が2つあるからそれぞれ組み合わせられないかということで、イオンエンジングループで議論して、回路を変えようかという話もあったらしいですが、時間的に間に合わなかったのでダイオードを1個入れたそうです。実はダイオードを入れたおかげで失敗の可能性もあったのですが、その場その場においてどれが一番確実かというのを、ずっと計画から開発して運用してきたメンバーが判断して決めたということなので、それが一番正しかったんだろうと思います。

<はやぶさ2の打ち上げについて>
参加者:「はやぶさ2」は、2014年に打ち上げ予定ということですが、予算を減らされた状態で予定どおり打ち上げられるのですか。また、もし打ち上げられなかった場合、最短でいつごろになるのでしょうか。
久保田:今は2014年打ち上げで予定が進んでいますが、バックアップウィンドウというものがありまして、2015年というものもあります。予算の問題はありますが、我々としてはとにかく探査機をつくっていくしかないかなと思っています。これは予算が全部出ないと厳しいんですが、何とか2014年あるいは2015年というウィンドウをねらっていくしかありません。ちなみに「はやぶさ2」と「はやぶさ」が違うのは、タイプの違う天体に行きます。「はやぶさ」の場合の「イトカワ」はSタイプの天体で、「はやぶさ2」が目指す天体はCタイプで、有機物の要素のC(炭素)でできている天体です。生命がいるというわけではありませんが、生命の源の元素の天体に行くというのは非常にわくわくどきどきする天体ではないかと思っていて、何とか2014年、厳しくても2015年に向けて頑張りたいと思っています。日本みんなが応援してくれるのではないかと思っていますので、とにかく技術レベルをしっかりつくり上げる、探査機をつくり上げるということに我々は専念しているところです。

<ミネルバ2について>
参加者:ミネルヴァ2は「はやぶさ2」に入れるのですか。
久保田:きちんと搭載場所も確保されてまして、ミネルバ2の開発を進めています。更に大学がいろいろ提案しまして、大学コンソーシアムでもう一機持っていこうかなと思っていて、うまくすると2機持っていけますが、重量の問題で1機になる可能性はあります。今度はリベンジで、私がコマンドを打つのではなく、「はやぶさ」自身に分離してもらいます。

<太陽活動の影響について>
参加者:通信手段は電波なので、「はやぶさ」の7年間の間に太陽活動が活発で、その影響などを受けたことはありますか。
久保田:通信機器は主に電波を使って、そのうちに光通信もやろうかなと考えています。「はやぶさ」運行中に一番問題だったのは、地球から見て「はやぶさ」の後ろに太陽があるという時期に来ると、電波の通信状況が非常に悪くなりました。太陽の後ろに行くと更に悪くなるとかそういう状況のときには、何もしない状態で通信しなくてもよいような対策をとっていました。太陽の影響はかなり通信では受けています。
本間:太陽活動というのはいろんな国が協力して、インターネットでリアルタイムで例えばソーラーフレアが出るという予報があります。人工衛星を打ち上げるときには、太陽活動がある決められたレベルよりも静かであるかどうかというのを判断基準の1つにしています。太陽活動が激しいときに打ち上げると、ロケットでも衛星でもコンピュータが誤動作する可能性があります。既に打ち上げられている衛星も非常に強い太陽フレアが来るということがわかると年に1、2回、念のために衛星の運用を安全モードに切り替えるということもやっています。やはり太陽というのは非常に巨大で深刻な問題です。

<宇宙の鉱物資源について>
参加者:日本は資源に乏しい国なので、宇宙には有効な鉱物がたくさんあるのではないかと思いますが、どのようなところまで分かっているのでしょうか。
久保田:惑星探査の目的の1つに新しい資源、鉱物の発見というものがあります。例えば月に行くと「ヘリウム3」というものが大量にあって、それが燃料に使えるという話もありますが、なかなかそれの使い道というのは難しいような話も聞いています。イトカワのようなSタイプの天体は、ある意味石でできたような天体ですので、太陽系ができたときの元素記号でいきますと、割と数の少ない、元素記号の小さいものが多くて、そんなに目新しいものは見つかっていません。ただ、C型とか別の天体に行きますとまた違うものが出てくるのかなと思います。例えば、炭素が集まって非常にかたいもの、特に女性が喜ぶものがありますが、更にかたい鉱物がある可能性もあるわけです。それがいろんな変形をしたときに地球上ではできないような鉱物組成ができてくると、新しい資源があるのではないかと思います。ですからレアメタルのような新しい資源があるのではないかと言われていますが、実際に行って手に入れない限りわかりません。可能性はいくつかいろんな科学者が見つけてはいるようで、鉱物資源は是非見つけたいと思ってはいますが、ここに行けば、これが採れるという確証までは、まだ実際には至っていないかなと思っています。