JAXAタウンミーティング

「第67回JAXAタウンミーティング in 小松」(平成23年11月5日開催)
会場で出された意見について



第二部「はやぶさが見たもの、持ち帰ったもの」で出された意見



<イトカワ選定理由について>
参加者: たくさん小惑星がある中、なぜ小さな「イトカワ」に行くことになったのですか。
安部: 小さいものほど一般的というか、一番ありふれた天体だということで選んでいます。例えば1kmの天体で言うと小惑星帯には100万個ぐらいあると言われていて、たとえ1kmの小さな天体でも、これが一般的な情報だと思っています。「イトカワ」を選んだ理由としては火星と木星の間にある小惑星を理解することが一つと、探査機が行きやすい天体だったということで選びました。小惑星が地球に近づいてくる軌道を通る「近地球型小惑星」というものがあり、いずれそれは地球や金星にぶつかってなくなってしまうような天体ですが、火星と木星のところからやってきたことは事実なので、そういう天体は、地球をつくる代表格になったと思われる天体ということで、一番一般的な小惑星ということで、まず調べました。
参加者: ハレー彗星と同じような動きをしているのですか。
安部: ハレー彗星はもっと細長い軌道を通っていて、木星よりも外側まで行っていますが、この「イトカワ」という小惑星はそこまでは通っていなくて、火星より少し遠いところから地球より少し内側に入る軌道です。

<はやぶさへのデブリの衝突について>
参加者: 人工衛星のごみ(デブリ)が「はやぶさ」が出発するときや帰ってくるときにぶつかる可能性はなかったのですか。
安部: 宇宙ごみ(デブリ)の位置は予め分かっているので、出発のときは計算して、それに対してぶつからないように計画を立てています。帰ってくるときも同様です。データベースに入っていない塵に関してはぶつかる可能性はあったかもしれませんが、大きな影響はないだろうという判断の下で行っています。

<はやぶさの速度について>
参加者: 「はやぶさ」が「イトカワ」に行くのに、新幹線の速度だと150年かかるのに、たった7年間で帰ってくるということは、ニュートリノのような光より早いスピードだったのですか。
安部: 早さとしては秒速何kmという、時速で言うと何万kmとかそのぐらいですが、光速に比べると遅いです。イオンエンジンというのは徐々に加速しますし、我々は余り気がついていないですが、地球自身も太陽の周りを非常に速いスピードで回っているので、そのスピードを利用して飛び出していますから、そのスピードが「イトカワ」に近づいてくのに加わったと思っていただければと思います。なので、もともと結構なスピードです。

<イトカワの軌道について>
参加者: ハッブル宇宙望遠鏡などで「イトカワ」を観測してから、「はやぶさ」のルートを考えたのですか。
安部: ハッブル宇宙望遠鏡は使用しませんでしたが、打ち上げ前にすばる天文台などの地上の望遠鏡を使用して、小惑星の軌道を正確に決めて、物質的な情報も事前に調べて予測していました。

<イトカワへのタッチダウンについて>
参加者: 「はやぶさ」は「イトカワ」にタッチダウンということになっていますが、実際に下りて上昇したのですか。
安部: はい、2度行っています。1回目はタッチダウンしていないと思っていたんですが、結果的にタッチダウンしていました。2回目は予定どおり下りて、いわゆるタッチ・アンド・ゴーを行いました。

<サンプル回収について>
参加者: 実際にサンプルを収集したが、弾丸を打ち出すのは失敗したと聞いています。なぜサンプルが中に入っていたのか詳しく教えてください。
安部: サンプルを採るために「サンプラーホーン」という筒が出ています。これが「イトカワ」に触ったときに表面をかき乱して、小惑星は重力が小さく、人間で言うと何gぐらいの体重になってしまうような非常に小さな重力なので、ちょっとでも舞い上げるとそのまま浮き上がっていきます。その浮き上がったものがある割合探査機の中に取り込んだんだろうと考えています。

<準惑星「ケレス」について>
参加者: 火星と木星の間にある小惑星体、ほとんどが直径1kmないということですが、最大の小惑星「ケレス」についてお聞かせください。
安部: 「ケレス」は直径1000kmぐらいで、月よりは少し小さいです。だから小惑星の中で一番大きくて、最近では小惑星というよりは惑星になり損ねたぎりぎりの天体「準惑星」として、冥王星と同じ分類にされていると思います。「ケレス」に関しては我々はまだ地上の観測データしかありません。大きな天体の探査に実は期待していて、日本では余り進んでいませんが、NASAが「ドーン」という探査機をつくっていて、「ベスタ」という小惑星を探査しようとしています。その後に「ケレス」に行く計画になっていますので、そこで初めて詳しい表面の情報が出てくると思います。先ほど小惑星はどろどろに溶けていなかったと説明しましたが、もしかすると表面が溶けている可能性があって、それはまさに月であるとか地球の最初のころの情報です。地球と「ケレス」の違いをみていくということで、我々もいろんなタイプの天体の進化の違いを見ていく、比較学的な研究に役立っていくのではないかと期待しています。ただ、日本としてはまだ「ケレス」の探査に踏み込むことは計画されていません。
参加者: 地球のような球体であるとか、形状はまだ分からないのですか。
安部: 形状はわかっていて、かなり丸っこい形です。そういう意味では重力が大きいので丸い形をおびているだろうという考えです。

<サンプル研究計画について>
参加者: 「はやぶさ」はトラブル続きで帰還が遅れましたが、もしすべて計画どおりに進んでいたとしたら、このプロジェクトは今ごろどういう経過をたどっていましたか。
安部: もし計画通りに進んでいれば、今はもう帰ってきて3年以上経過していますので、初期分析が終わって全世界の研究者にサンプルを配っている段階かと思います。また、「イトカワ」ができた前の状態の温度であるとか、大きさであるとか年代はまだ分かっていないので、そういう情報もたぶん分かっていたのではないかと思います。もし3年前からたくさんの分析がされていれば、「イトカワ」にない情報、それは別の太陽系にあるものをたまたま持っているかもしれないし、もしかすると「イトカワ」ができるもっと前の、太陽系ができる前のものがたまたま残っていて、それを見つけることができていたかもしれません。そういう「イトカワ」の探査1つで2度も3度もおいしいようなデータが出てきていたかもしれません。これから3年後ぐらいにそういう状態になっているのを期待しています。研究者というのは欲張りで、もう次のサンプルが欲しいということになっています。「はやぶさ」で得られなかったサンプルをとるために、実際にJAXAでも「はやぶさ2」というミッションが立ち上がっていますが、そういうものがより加速することを期待しています。

<はやぶさへの指示について>
参加者: 3億kmのところへ普通の電波で送信すると往復で40分かかるということで、人工頭脳をつけたというのは具体的にどのように行ったのか。また、例えばエネルギーを補充するために地上から電波を衛星に送るような技術は今のところないのですか。
安部: 人工知能と言っても自立的に判断するための知能ということで、あらかじめルールは人間が教え込んでいます。温度であったり、探査機の姿勢であったり、カメラで得た情報であったりと、探査機がどういう状態になったら、探査機自身でどうしたらいいかというのを、人間があらかじめこういうことが起きるだろうということを想像してプログラムという形で探査機に覚えさせています。人工知能というよりは、自立判断ということです。電波でエネルギーを送るということですが、技術的にあると思いますが、「はやぶさ」ではそういうことはしていません。「はやぶさ」は惑星探査機としては大きな太陽電池パネルを持っていって、それを太陽の光に当てて発電した力でまかなっていたので、電波をエネルギーにすることはありませんでした。

<イトカワのサンプルについて>
参加者: カプセルに落ちた場所の土とか付いているのではないかと思いますが、カプセルで得られた試料がイトカワ由来であると言えるのですか。
安部: 万が一オーストラリアの土が混じっているかもしれないので、細かく成分分析して、オーストラリアの土が混じっていないか確認しています。また、打ち上げ場所が鹿児島県の内之浦という場所なので、桜島の火山灰などもあったりして、火山灰の成分もチェックして、少なくとも地球のものは混じっていないと判断しています。原子の中に同位体というものがあって、同位体の組成の比を調べると、地球は決まった関係になるということがわかっているんですが、それの関係に乗らないということがわかっていて、そこでも地球外物質だということがわかりました。更に隕石も同じように調べていて、隕石の関係と合うことが今回わかったので、そういう意味では「イトカワ」から持ち帰った「はやぶさ」のサンプルが隕石と関係があって、地球と関係がないという幾つかの情報で、鉱物組成だけでなくて同位体であるとかほかの違う地球のものとの比較など、合わせ技で確認しています。

<プロジェクタイル発射失敗原因について>
参加者: 「はやぶさ」では、弾丸を発射するという仕組みでサンプルをとることになっていましたが、弾丸が発射されなかった原因は何だったのですか。また、「はやぶさ2」が計画されていますが、それを教訓としどのようなことを考えているか、お聞かせください。
安部: 1回目はもともと探査機自身が自立の判断で下りてはいけないと判断したということで弾が出なかったんですが、2回目は予定どおりタッチダウンして、うまくいったと思っていましたが、実は弾が出ていませんでした。一部データがなくなっているので確認できないところもありますが、現在の解釈として、1つはプログラムミスと考えています。本来は事前に検証すべきで、何が起きたからどういうふうにするということを事前にちゃんとプログラムで検証して、検証したものしか実際の宇宙では行わないというのが宇宙ミッションでの暗黙の了解で、「はやぶさ」でもそうしていました。1つできていなかったのが、弾を打てという信号が出るところまではプログラムの検証をしていましたが、そのコマンドが発生したときにそれをもとに戻すというコマンドも出てくることに気がついていませんでした。何で気がつかなかったかというのは、検証するシステムとして弾を実際に打ったかどうかの信号が出るということを見るところまで検証していなかった。実際に弾が出るというところまで地上の研究室でつくっていなかったというところが反省点で、「はやぶさ2」では検証を十分にじっくり時間をかけてやるということと、地上で制御システムそのものを最初から最後まで通した形でつくるということだと思います。「はやぶさ」のときはミッション期間が非常に短かったので、結構慌ただしく行いましたが、「はやぶさ2」はミッション期間は1年以上と非常に長い時間小惑星に滞在するような計画を立てていますので、その中で失敗してもう一回チャレンジする際にパラメータを変更しますが、そのときには検証する時間を十分とるなどして、「はやぶさ」の経験を生かそうと思っています。

<X線のサンプルへの影響について>
参加者: CTスキャンやX線を当てていますが、それがサンプルに影響を与えないのでしょうか。また、サンプルを開ける際に窒素を封入していたということですが、分析はずっと窒素ガスの中で行ったのですか。もう1点、かき出す際に使ったヘラですが、なぜ「テフロン」という素材を使ったのでしょうか。
安部: X線などの分析で粒子にダメージを与えませんかという質問ですが、細かいことをいうとダメージを与えています。余り高いエネルギーで詳しく見ようとすると、少し表面が荒れてしまうので、主体としてはできるだけ粗い分析をしています。ただ、基本的には多少サンプルにダメージを与えてしまうことを覚悟して、その後の研究のことも意識してやってもらっています。順番としては、だんだんダメージを多くしていくやり方で、最初はできるだけダメージが少ない形で分析することで、その問題は解決しようとしています。大気にさらさないということで、少なくともJAXAの中で分析するときには全部窒素あるいは超高真空の中で作業をします。初期分析に関しては一部どうしても大気中で分析しないといけないものがありましたので、これに関しては短時間でやってもらっています。ただ、大気に触れさせたくない分析がいっぱいあるので、そういうところは最後まで超高真空または窒素の中で粒子をスライスしたり、分析装置に入れる前段階のときは全部そのようなブースでやっています。分析でどこまでそれを許したくないかということで、サンプルを一度でも悪い環境にさらしてしまうと次の分析はそれを条件としてできなくなってしまうので、順番を考えて行っています。ヘラは「テフロン」という素材を使っています。これは非常に不純物を取り除くことができ、科学的な分析でも影響が出にくいということで「テフロン」を使用しています。超音波洗浄で洗浄もしますし、酸とかアルカリでも洗浄して、いろんな洗浄で取り除けるだけ取り除いたものを使ってかき出しています。「テフロン」以外には、石英というものを使っていますが、合成石英というこれも非常に不純物がなく、酸、アルカリの処理ができて不純物を落せるというもので、基本的にはその2つでしか触らないようにしています。ただ、電子顕微鏡に載せるときにはどうしても導電体のもので包まなければいけませんので、金メッキされたホルダーに載せて行うことがあります。原則は「テフロン」または「セキレイ」を使用しています。

<イオンエンジン、ターゲットマーカーについて>
参加者: 何年も噴き続けるイオンエンジンの推力は具体的にどのぐらいあるのですか。また、イトカワにターゲットマーカーを落したと思いますが、あんなに重力の小さいところにどうやって安全にぽんと置けたのですか。
安部: 一円玉をぽんと押すぐらいの力しかありませんが、宇宙なので徐々に加速していくことができます。 ターゲットマーカーについてですが、いろんな研究者みんなで寄ってたかっていろんなアイデアを出して、最終的に出たアイデアはお手玉です。お手玉というのは中に玉が詰まっていて、落ちたときに互いにぶつかり合うことで上向きのエネルギーを散らして跳ね返りません。ただ、実際のターゲットマーカーは、クシャクシャの袋ではなくて、丸い形になっています。宇宙空間の真空状態だと、クシャクシャのままで落ちて、結局クシャクシャのまま上がってきてしまうことがわかったので、かたい殻の中に丸い玉を幾つか入れて、中で動いてもらう方がうまくいくことが分かりました。更に丸いだけだと転がってしまうので、転がらないようにつのを付けて、どこかに引っかかるようにしました。