JAXAタウンミーティング

「第66回JAXAタウンミーティング in 指宿」(平成23年10月29日開催)
会場で出された意見について



第二部「『はやぶさ』から月探査へ」で出された意見


<「はやぶさ」が燃え尽きた際の研究について>
参加者: 「はやぶさ」の映画で帰ってくるときに光っていました。つい最近のニュースで光っていたのを分析すると、物質のいろんなことがわかると報道されていましたが、最新の情報をお聞かせください。
橋本: 最新の情報は把握してませんが、NASAの飛行機から撮影していたのは、感動する映像を撮っていたのではなく、赤外線などの波長で分光測定するためで、どういうスペクトルが出ているか測定することで、何が燃えて光っているのか同定することができます。燃料のキセノンが燃えたのか、構造のアルミが燃えたのかなど分析をしたという話は聞いていましたが、結果は聞いておりません。

<ターゲットマーカーの状態について>
参加者: イトカワに落したターゲットマーカーは、現在どのような状態ですか。
橋本: おそらくそのまま表面に止まっていると思います。ターゲットマーカーは、絶対に弾まないようにつくられていますので、弾むにしても1、2回で止まっているはずで、イトカワでは風も吹きませんので、そのまま残っていると思います。

<データの伝送量について>
参加者: 「あかつき」の金星への投入が失敗しました。そのときに低速のデータしか受信できませんでしたが、そのことについてお聞かせください。
橋本: 探査機は色々なアンテナを積んでいます。「はやぶさ」の場合には、「ハイゲインアンテナ」という大きなアンテナ以外にも、小さなアンテナが幾つかあります。アンテナというのはビームの幅を狭めれば狭めるほどたくさんデータが送れますが、ビームを広げてどの方向からでもいいように設計すると、少ないデータしかとれません。最低限の非常に少ない情報でよければ、なるべくビームが広いアンテナを使い、たくさんデータを送りたいときにはハイゲインアンテナを地球に精密に向けなければなりません。トラブルがあったときは大抵アンテナを正確に向けられないことが多く、トラブルがあった直後は最小限のデータで回復させます。「はやぶさ」のときもそうで、タッチダウンした直後トラブルがおき、何かよくわかりませんでしたが、ハイゲインアンテナを向けて記録されたデータを送ってみると、詳細な状況がわかりました。

<ミネルヴァについて>
参加者: ミネルヴァは着陸に失敗しましたが、着地はしましたか。
橋本: 着地していないと思います。「はやぶさ」は自分で考えて着陸するというのが設計の方針だったので、今、分離すればミネルヴァは小惑星の表面に落ちるとわかっているときに、自動的に分離するよう設計していました。ところが、自分で判断する機能が信用できなくなり、急遽「はやぶさ」の着陸の方法を人間が地上からコントロールするようにしてしまったので、ミネルヴァの分離のタイミングと40分後の状態の推測まではできませんでした。「はやぶさ」は上下しながら下りていくわけですが、上向きに速度を持っている瞬間に分離してしまい、そのまま上に進んでしまったので、イトカワには到着しませんでした。多分イトカワの近くだと思いますが、ずっと宇宙空間を飛んでおり、イトカワと大体同じ軌道で太陽の周りを回っていると思います。

<ロケットの打ち上げ時刻について>
参加者: ロケットを打ち上げる際の時刻の決定要因は何ですか。
橋本: 衛星によって違いますが、例えば「はやぶさ」の場合には小惑星イトカワに行く軌道に乗らなければいけません。燃料を幾らでも使ってよければ、どんな軌道でも強引に行くこともできますが、ある程度最適でないと「はやぶさ」に積んでいる燃料で到着できないので、「はやぶさ」の場合は打ち上げる余裕は1週間ぐらいしかありませんでした。地球が自転しているので、どちら方向に向いているときに打ち上げると一番効率が良いか、毎日何時何分何秒と決まっています。許容範囲は、毎日多分1~2秒という精度だったと思います。日にちとしては1週間で、それを超えると打ち上げられません。しかし、衛星によって違って、地球の周りを回っている観測衛星ですと比較的緩く、大体30分とか1時間の間に毎日打ち上げ時間があって、期間も1、2か月幅がある場合があります。
山浦: 例えば「こうのとり」の場合は、時間ぴったりに上げました。これはなぜかというと、時速2万8,000kmでぐるぐる回っている宇宙ステーションに、下から打ち上げた「こうのとり」がうまく近づいていって、最後はつかんでもらわなければなりません。ロケットに余力が十分にあれば、時間が少しずれても経路を回復できるように軌道をロケット側で調節できますが、HTVの場合は荷物を最大量運ぶようにしていますので、1秒ずれてもだめです。スペースシャトルの場合には燃料をたくさん積んでいて余力があるので、多少時間がずれてもきちんと追いかけていくことができます。ただし、それでも5~10分ずれてしまったら、今日は打ち上げないということになります。

<イオンエンジンについて>
参加者: イオンエンジンの原理を教えてください。
橋本: イオンエンジンに限らず、エンジンというのはなるべく早く物を後ろに噴いた方が、その反動で自分は加速することができます。どうやって物を高速で噴き出すかがポイントになります。普通の燃料、化学エンジンの場合には物を燃やして噴射しますが、イオンエンジンの場合には「キセノン」という分子をプラスのイオンとマイナスの電子に分けます。これは電離と言いますが、「はやぶさ」で使用した方式は簡単に言うと電子レンジと同じ原理でプラスとマイナスに分けています。プラスのイオンはグリッドという部分に吸い寄せられていき、グリッドには無数の穴が開いているので、そこから外に飛び出していきます。ただ、このままプラスのイオンだけが飛んでいってしまうと探査機自体がマイナスになってしまい、一度出ていったものがマイナスに引かれて戻ってきてしまうので、一緒にマイナスの電子も出してやるとプラスとマイナスが一緒になって、中性になって加速していくと、このような原理です。

<宇宙での生活について>
参加者: 私たちは月で生活できるようになりますか。
橋本: いつごろ行くのかということと、「私たち」がどういう人かにもよると思います。宇宙飛行士になるとか、宇宙飛行士でなくても今でもお金をたくさん払うと、軌道上を回って帰ってくるということはできます。お金はかかりますが、そのような旅行をするという時代がくるのは、そんなに長くかからないのではないかと思います。30年後ぐらいには可能と思います。しかし、今の海外旅行ほど気楽に行けるような時代は、なかなか難しいかもしれません。行くには色々な装備が必要ですので、どうしても費用はそんなに安くならないかなと思います。
山浦: 30年前日本が世界と一緒に宇宙ステーション計画を行うだとか、宇宙飛行士を日本が排出するとか、気象衛星「ひまわり」が生活に無くてはならないものになるとは誰も思っていませんでした。気象衛星「ひまわり」は軌道上で2t位の重さがありますが、当時日本がアメリカの企業の技術を使ってアメリカのロケットで打ち上げていたのが250kg位で、10分の1位の重さです。この30年での進歩を考えると、決して不可能ではないと思います。科学だけでなく、月から地球を見るために行くのか、あるいは月には地球にないまたは少ない資源があるからそれを持って帰りたいとか、いろいろな人がいますが、そのような目的意識を持つだけでもっと早く月に行くことができると思います。今でも、ほんの数分無重力が体験できるとか、数十億円払えば宇宙ステーションに1週間滞在することもできます。個人の目的と社会として何をするか、それによってすごく速度が変わると思います。

<はやぶさについて>
参加者: 「はやぶさ」のとった軌道を見ると、太陽の周りをぐるぐる回って飛んでいますが、イトカワが来るのを待っていれば、ぐるぐる回らないで済むのではないかなと思うのですが、その軌道の意味を教えてください。また、弾丸が発射しなかった理由を教えてください。
橋本: 小惑星イトカワも太陽の周りを回っていて、はやぶさが速度を合わせながら、イトカワと同じ速度になってイトカワに着陸できます。止まって待っているというのは不可能に近くて、速度を加速しながらだんだん追いつくか、減速しながら追いつくかなどいろいろな方法があります。今回とった軌道はその中でも燃料が最小で行けるように、燃料だけではなくて時間が余りにもかかり過ぎても問題があるので、今回の軌道が最適なものとなっています。弾丸につきましては、当初計画したとおりのやり方であれば、地上で何度も試験していますので問題ありませんでした。しかし、いろんなところが壊れたり、着陸のやり方の変更を行った際に、この部分の設定が正しくありませんでした。弾丸を発射する指令は正しく出したんですが、別に安全装置が働くような指令を出てしまうところがあって、そこを発見できなかったというところが原因だと考えています。

<はやぶさ2について>
参加者: 第2の「はやぶさ」は炭素のある惑星をねらうというお話がありましたが、もう候補はできていますか。
橋本: 行ける小惑星は非常に限られています。「はやぶさ」のときは最初だったので小惑星なら何でもいいということで選びましたが、今回はCタイプと決めているので、1個しかありません。「1999JU3」という小惑星に決定しています。それ以外は今のところ見つかっていません。参加者:次の段階の有機物質のある惑星の候補はありますか。
橋本: それも幾つか候補はありますが、その場合には今のままのつくりではとても行けません。2倍以上の大きなエンジンを積んで行くことを考えなければならない計画です。行ける小惑星の範囲は広がりますが、候補は多くなく、3つか4つかぐらいしかなかったと思います。

<キセノンについて>
参加者: イオンエンジンの燃料の「キセノン」は、どういったところに使われていますか。
橋本: 地上では余り使っていないかもしれませんが、キセノンとかアルゴンとか不活性ガスと言われています。イオンには分かれやすいですが、余り化学的に反応しないものです。余り化学反応してしまうと扱いが厄介になります。参加者:自然にありますか。輸入しているのですか。
橋本: 自然にあり、輸入しています。イオンエンジンをすごく大きなものを使って、宇宙ステーションに接近するという計算をしたことがありますが、それを行うと全世界の年間のキセノン産出量を全部使ってしまうぐらいの燃料が必要となりました。「はやぶさ」程度の使用量では問題にはなりませんでしたが、希少な燃料です。