プロジェクトメンバーが語る「ここがすごいよ」イプシロン2号機 #3 伊海田皓史

2016年12月1日(木)

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伊海田 皓史(いかいだ ひろし)
イプシロンロケットプロジェクトチーム 構造機構系担当


イプシロン2号機の強化ポイント

イプシロンロケットの構造機構系を担当しています。「構造機構系」という言葉は少し耳慣れない単語かもしれませんが、身近な物の例として鉄道に置き換えて、鉄道の車体が「構造」、連結部を「機構」と考えて頂くと少しイメージがわくでしょうか。
ロケットは地球の重力と反対方向に加速していく必要があるため、「構造」としては単に頑丈なだけではなく1グラムでも軽量であることが設計の重要なポイントとなります。また衛星分離や各段分離に使われる「機構」については、ロケットのフライト中に機体に加わる非常に大きな力に耐える一方で、必要なタイミングで確実に作動することも必要です。これらの矛盾する条件を両立させ、技術的に成立する設計解を見つけることがロケットの構造機構系エンジニアにとって一番の腕の見せ所となります。

イプシロンロケット 試験機打上げ

イプシロンロケットは大小様々な構造物から成り立っていますが、その中で私が特に担当しているのは衛星フェアリングになります。衛星フェアリングはロケット先端に位置し、衛星を保護するカバーの役割を果たす構造物で、ロケットのリフトオフ直後には非常に厳しい空力加熱と荷重に晒されることになります。一方でロケットが宇宙空間まで到達すると地球の大気がなくなり衛星を保護する必要がなくなるため、分離機構を作動させて確実にロケット本体から切り離す技術が必要となります。そういった意味で、衛星フェアリングは、正に「構造機構系」を代表する構造物であると考えています。

イプシロンロケット フェアリング(PM)音響試験

イプシロンロケット用のフェアリング開発ではH-II、H-IIA、H-IIBでフライト実績積み重ねてきた技術、特に信頼性が要求される分離機構などは踏襲しつつ、構造全体の一体成型化や大規模な専用ブースを不要化できる貼付型の断熱材といった、数多くの新しい技術の獲得に挑戦してきました。それらの技術の有効性はイプシロンロケット試験機の打上げによって実証されたと考えていますが、画竜点睛を欠くという故事のごとく、試験機打上げの直前に新規技術の断熱材の不具合が見つかり、土壇場での補修が必要となる事態を経験しました。それを大きな反省事項と捉え、2号機に向けてはメーカを含めた関係者一同、設計・製造・検査の全工程を一から見直し、信頼性の高い製品を作り上げることを目指し地道な努力を積み重ねてきました。いま内之浦のM整備塔の中には、計画通りに全段が組み上がったイプシロン2号機が打上げの時を待っています。これまで積み重ねてきた検討や作業に、抜けや漏れがないかを改めて確認しつつ、打上げまでの残りの作業を一歩一歩進め、2号機の打上げ成功につなげたいと気持ちを新たにしています。

これからの夢

背景はUSCに保管されている衛星フェアリング
プロトタイプモデル(開発試験に使ったもの)

まずは何よりも2号機の打上げ成功です。また3号機に向けて、新しい衛星分離機構の開発を実施していますので(気が早いですが、これは3号機のコラムで紹介できたら嬉しいです)、3号機を成功させることも直近の夢の一つです。
一方で、世界のロケット開発の状況に視野を広げると、SpaceXやBlue Originが再使用可能なロケットを実現しつつあり、ロケット開発全体が再使用化に向けて歴史的な転換点を迎えていると感じています。元々スペースシャトルのような再使用型の往還機の開発を夢見てJAXAに入社したこともあり、現在の世界の風潮は非常に嬉しい反面、日本がこの流れに出遅れていることを歯痒くも感じています。日本独自の技術で、誰もが飛行機に乗るのと同じ感覚で宇宙に行ける往還機を開発することが最終的な夢であり目標です。



プロフィール:
東京都出身。小学生の時、朝のニュース番組で偶然見かけたH-IIロケット試験機の打上げ中継を見て宇宙開発に興味を持ちました。構造機構系の研究開発を担当する部署にてH-IIBロケットの開発、イプシロンロケット試験機開発、H3ロケットの概念検討等を担当し、昨年度からイプシロンロケットプロジェクトチームの一員として日々の業務に取り組んでいます。