サイエンティスト&プロジェクトメンバーが語るERGへの期待 #2 坂口歌織

2016年11月29日(火)

  • プロジェクト
  • 人工衛星・探査機
このエントリーをはてなブックマークに追加

宇宙天気研究の立場でのERGへの期待

坂口 歌織 (さかぐち かおり)
国立研究開発法人 情報通信研究機構 電磁波研究所 宇宙環境研究室

「宇宙天気予報センターにて」(写真提供:NICT)

「宇宙天気」とは?

「宇宙天気」という言葉は、あまり聞き覚えがない方が多いかもしれません。宇宙天気とは、その名の通り、「宇宙」の「天気」のことです。実は、宇宙にも地上の天気のような、時々刻々と変化する環境があるのです。私たちが毎朝、天気予報を見るように、宇宙飛行士は宇宙天気予報を見ています。宇宙の天気が悪いときは、船外活動を中止することもあります。例えば、宇宙放射線が大量に発生しているときに宇宙ステーションの外に出ると、被曝してしまうおそれがあるためです。しかし、残念ながら、現在の科学では宇宙の天気予報はまだ外れることが多く、観測データも少ないため、現況を把握することすらままならないというのが現状です。

より高精度な宇宙天気予測のために

情報通信研究機構の宇宙天気予報センターでは、宇宙の天気が現在どうなっているのか、また、今後どのように変化するかを予報するための研究を行っています。私は、主にヴァン・アレン放射線帯の監視と予報するための研究を進めています。ヴァン・アレン帯の高エネルギー電子は、別名キラー(殺人)電子とも呼ばれており、宇宙の天気を悪くする原因の一つです。過去にはヴァン・アレン帯の高エネルギー電子が異常増加した際、人工衛星が故障してしまうという事故もありました。しかしながら、高エネルギー電子が「いつ・どのくらい増えるか」、また、「いつ元の状態に戻るのか」を正確に予測することは未だ出来ていません。その予測が難しい原因の一つは、増加また減少するメカニズムが完全には解明されていないためです。現状の予報の多くは、過去の観測データからの予測、つまり経験モデルに基づく予報にとどまっています。しかしながら、3次元空間内の時間発展を知るための数値シミュレーションによる予測は今後必須です。まさに私たちは、宇宙天気予報の現場から、ERG衛星によるヴァン・アレン帯高エネルギー電子数変動メカニズムの解明を切望しています。今ちょうど、この記事を書いている2016年10月、ヴァン・アレン帯の高エネルギー電子の数が、急激に通常の1000倍にまで増え、人工衛星の機体にとって危険なレベルに達しています。ここ数ヶ月立て続けにこのような異常増加が発生しているため、人工衛星へのダメージが蓄積されていると考えられます。なぜ、立て続けに異常増加が発生しているのでしょう?それは、地球に吹き付けている太陽からの高速風が関係しているということは分かっています。しかし、その高速太陽風が高エネルギー電子を生成するメカニズムの詳細が未解明なのです。また、減少プロセスの詳細もわからないため、いつまで増加状態が続くのか長期予報をだすことも難しいです。高エネルギー電子の増加・減少のメカニズムが完全に解明されれば、数値シミュレーションによってヴァン・アレン帯のあらゆる場所の電子の状態を、定量的かつ長期的に予測可能になるはずです。ERG衛星のヴァン・アレン帯探査に期待しています。その科学成果と観測データを利用し、私たちはヴァン・アレン帯高エネルギー電子の宇宙天気予測システムをより高精度なものへ改良したいと考えています。

最後に。
ここ数十年、人類の宇宙への進出は著しく発展しています。もしかすると、私の孫(?)くらいの世代には、海外旅行気分で宇宙旅行へでかけているのかもしれません。

「明日の旅行、宇宙天気が荒れてるから中止になっちゃったよ、残念。ヴァン・アレン帯はいつになったら穏やかになるの?」

こんな質問を子供に聞かれたとき、ちゃんと答えられる宇宙天気予報がだせるようにしなければと思っています。

プロフィール:
子供の頃から月や星、雲や虹を見るのが大好きで、小学生の頃には天文学者になるんだと意気込んでいた記憶があります。母親によると、赤ちゃんの頃はテレビの天気予報にくぎ付けになっていたようです。どうやら生まれながら空に興味があったようです。その興味のまま進路を選び、名古屋大学太陽地球環境研究所にてオーロラの研究で博士号(理学)を取得後、現在は、情報通信研究機構で宇宙天気の研究に従事しています。趣味は、スキューバダイビングです。

ERGプロジェクトチーム

ERGプロジェクトは、衛星観測と地上観測、シミュレーションを密接に連携させて地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)を調べる研究プロジェクトです。
ERGプロジェクトの推進には、研究チームとして国内外の約30の大学・研究機関から100名以上の研究者が参加しています。
また、研究チームに加えて、JAXA宇宙科学研究所と名古屋大学の共同運用によるERGサイエンスセンターが設置され、科学データの公開やソフトウェアの開発を行っています。