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"任務達成" ロゼッタ、ミッション終了

2016年10月19日(水)

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2016年9月30日、ヨーロッパ宇宙機関の彗星探査機「ロゼッタ」が、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸しミッションを終えました。ロゼッタは2004年に地球を出発し、2014年8月にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に到達、そこから約2年間に渡って彗星の様子を観測してきました。そうそう、2014年11月に彗星表面に降り立った着陸機「フィラエ」の活躍も忘れちゃいけません。 ファン!ファン!JAXA!では、彗星到着から定期的にロゼッタのことを紹介してきましたが、それもこれで一区切り、ちょっと寂しくなりますね。

さて、前回の記事で、着陸から1年の成果をまとめました。せっかくなので、最後のミッションを紹介する前に、この1年の成果をいくつかご紹介しましょう。

彗星の周囲で酸素の分子を発見

酸素はこの宇宙では、とてもありふれた物質です。だとしたら、彗星表面で見つかっても不思議はないような気もしますが、そうはいきません。酸素は他の物質と反応しやすく、酸素が気体の形で検出されることは珍しいのです。

ロゼッタが彗星の周囲で回収した3000ものサンプルを調べた所、検出された水の量に対して数%の酸素が存在することが分かりました。これは当初の予測の十倍以上の量です。水との比率が一定だったことは、この酸素が水の中に含まれていたことを示唆します。また、彗星が太陽に近づいても水と酸素の比率は変わりませんでした。もし、この酸素が、水が酸素と水素に分解されて新たに生じたものなら、太陽に近づくにつれて反応が大きくなって比率が変わるはずです。そうなっていなかったということは、この酸素は彗星が形成された時に水の中に閉じ込められたものである可能性があるということを意味します。

なぜこれほどたくさんの酸素が気体の形で彗星の周囲に存在するのかは、まだはっきりしたことは分かりません。おそらくそれはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星がいつ、どうやって形成されたのか、つまりこの太陽系がいかにして形成されたのかに関係しているだろうとのこと。

彗星の内部構造の謎

彗星は主にチリと氷からなり、「汚れた雪玉」のようだともいわれていますが、密度はさほど高くはありません。しかし、実際に内部がどのような構造になっているのか、洞窟のような大きな空隙がたくさんあるのか、あるいは細かい隙間がたくさんあるのかは分かっていませんでした。

今回、彗星の周囲をめぐるロゼッタの動きを精密に計測することで、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の内部には、大きな空隙はほどんどないらしいということが分かりました。これは、ロゼッタと地球との通信に使われる電波のごくわずかな変化から、ロゼッタの動きの変化を計測することによって得られたものです。ロゼッタは彗星の重力の影響を受けています。彗星の内部の構造はこの重力の分布にわずかな変化を与えます。もし、探査機の動きに大きな変化があれば、彗星内部にも大きな空隙があることが示唆されます。

研究のチームは、太陽やガスの噴出の影響など、考えられる重力以外の影響を全て取り除いた上で探査機の動きを観測しましたが、そのような急激な動きは観測されませんでした。どうやら、彗星の内部には大きな空隙はなく、かなり均質だということになります。言い方を変えるなら、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星はぎゅうぎゅう押し固めた雪玉ではなく、氷とチリをふんわり寄せ集めたような構造を持っているようです。

細かい空隙がたくさんある構造というと、はやぶさが探査を行った小惑星イトカワのラブルパイル構造を思い出しますが、これが彗星に普遍的な性質なのか、あるいはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に特有なのかは分かりませんが、こちらも彗星の形成の謎に迫る大きな発見の一つといえるでしょう。

アミノ酸とリンを発見

ロゼッタがチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の近傍から取得したデータから、アミノ酸の一種であるグリシンとリンが検出されました。グリシンはNASAの彗星探査機「スターダスト」がウォルド彗星から持ち帰ったサンプルにも含まれていましたが、地上で混入した可能性があり、確証は得られていませんでした。今回は地球外でグリシンを検知したはじめての例ということになります。

アミノ酸はタンパク質の元となる物質であり、リンはDNAを構成する物質の一つで、どちらも生命に必須の物質です。地球には有機物が存在し、生命が誕生する礎となりました。しかし有機物の起源についてはまたよく分かっていません。もともと地球上に存在したのか、あるいは原始の地球上で合成されたのか、あるいは彗星や小惑星によって宇宙からもたらされたのか。今回の発見は、必ずしも有機物が宇宙からやってきたことを証明するものではありませんが、その議論に一石を投じるものであることは間違いなさそうです。

彗星表面の「フィラエ」を発見

彗星着陸を約1ヶ月後に控えた9月5日、ロゼッタが彗星表面のフィラエの姿をカメラでとらえたというニュースが飛び込んできました。
これがその画像。どこにフィラエがいるか分かりますか?

画面右端、中央より少し上辺りです。拡大するとこんな感じです。

おおお!確かにフィラエが写っています。これは凄い!フィラエが送ってきた写真から予測された姿勢とほぼ同じ姿です。大きな岩の陰で、角度によっては太陽電池に光が当たりにくくなるのも分かります。研究者チームは、フィラエが送ってきたデータを元にどこに着陸したかを予測していましたが、そこからさほど遠くない場所で見つかりました。とはいえ、写真の中ではこの小ささです、よく見つけましたね。

これは、科学的にもとても重要な意味を持っています。これで、フィラエが送ってきたデータが彗星のどのあたりのものかが分かります。ロゼッタの観測で彗星の地形や組成は場所によってわずかに異なることが分かってきました。ロゼッタが上空から取得した彗星全体のデータと合わせれば、フィラエが送ってきたデータの価値が更に高まるでしょう。

最後のミッション-彗星への着陸

もともとロゼッタのミッションは2016年9月で終了する予定でした。彗星が太陽から離れてしまうために、太陽電池で十分な電力が得られず観測が続けられなくなってしまうためです。どうせミッションを終えるのなら、彗星にぎりぎりまで近づいてロゼッタに搭載された観測機器で表面の様子を詳しく観測したら、もっといろいろなことが分かるかもしれない。ということで、この最後の着陸ミッションが計画されました。

本来ロゼッタは彗星に着陸するようには作られていません。ロゼッタが彗星に着地した時の速度は時速約3kmほど、人がゆっくり歩くくらいの速度ですね。かなりゆっくりに思えるかもしれませんが、大きな探査機にとってはかなり大きな衝撃です。また、たとえ機体が無事でも、彗星表面では姿勢を変えられないので、太陽電池に太陽の光を当てることができませんし、アンテナを地球に向けることもできないでしょう。つまり、ロゼッタにとっては、正真正銘、これが最後のミッションになります。

ここからは時間を追って当日のイベントと写真を紹介しましょう。時間は全て日本時間、ロゼッタと地球の間には約40分の時差がありますが、これらはその信号が地球に届いた時間です。

午前5時50分 ロゼッタの最後のマニューバが行われ、彗星表面に向かう軌道に乗りました。いよいよ最後のミッションの開始です。

午後2時25分 彗星表面から11.7kmの映像、画像の端から端まで約450m。

午後3時53分 彗星表面から8.9kmの映像、画像の端から端まで約350m。

午後5時00分 ロゼッタに最後のコマンドが送られました。皆さんいい表情ですね。ここから先はロゼッタが送ってくるデータを見守ります。

午後5時21分 彗星表面から5.7kmの映像、画像の端から端まで約225m。

午後7時14分 彗星表面から1.2km。画像の端から端まで約33m。

午後8時19分 着陸の瞬間、ロゼッタからの通信が途絶えます。左の写真で中央に立っているピークがロゼッタからの信号。左の写真では消失しています。

Credit: ESA

そして、これがロゼッタが最後に送ってきた画像。彗星表面からわずか20mで撮影された画像です。画像の端から端まで約96cmです。

彗星への着陸が確認された後、ロゼッタのTwitterrでは、各国の言葉でイラストともにミッションの終了が宣言されました。その中には日本語もありました。メッセージは「任務達成」、添えられたイラストは各国の彗星探査機がロゼッタを見守っている絵です。

ロゼッタとフィラエの今後

ロゼッタのミッションはこれで終わりますが、ロゼッタとフィラエの取得した様々なデータの解析はこれからが本番です。これからも数多くの発見がなされるでしょう。「はやぶさ」のような他の始原天体での観測結果と比べることで新たな発見があるかもしれませんし、これから小惑星に向かう「はやぶさ2」などでの観測に対して新たな知見をもたらすかもしれません。

ロゼッタとフィラエ本体はどうなるのでしょうか?チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星は約6年半の周期で太陽の周りを回っています。太陽に近づくたびにすこしずつガスを吹き出しで尾を作りますが、太陽から十分に離れているため、すぐに消えてしまうことはありません。おそらく何億年という単位で太陽系を回り続けるはずです。そして、その上にいるロゼッタとフィラエもずっとそこにいます。

もしかしたら、いつか私たちが再びロゼッタに会うこともあるかもしれません。そんなことをして何の意味があるのかって?たとえば、宇宙空間に長い時間さらされると、物質がどのような影響を受けるか分かるかもしれません。人間の作ったものであれば、変化する前の状態がよく分かっていますから、その変化の様子がとても詳しく調べられます。何百年後か、再び人類がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星を訪れた時、今度はロゼッタ自身が太陽系の謎を解き明かすためのロゼッタストーンになってくれるかもしれませんね。

それまで、バイバイ、ロゼッタ。またいつかね。



【参考文献】(英文):

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おお、ちゃんとフィラエが写ってる!

はやぶさのときも、ミネルバの勇姿をちゃんと撮影してあげたかったなあ・・・。
はやぶさ2とミネルバ2のときは絶対に

「ロゼッタが彗星に着地した時の速度は時速約10kmほど」は初めて聞く情報ですね。情報源は何でしょうか。ESAが知らせていたロゼッタの降下時の速度(対67P)は毎秒90cmだったと思います。

ESAの報告から自分が知る事ができた範囲で個人的に印象深いのは (1)観測機器もエンジニアリング用機器も最後まで壊れなかったこと。厳密にはロゼッタのリアクションホイールに不具合があったように聞いていますが致命的な故障には至らなかったようですし、フィレーの通信機器の故障は彗星上での最初の冬眠中またはそれ以降に起きたことなので「”補償期間”内だった」とは言いきれないでしょう。(2)予定外であれ、フィレーによる幾つかの観測機器ON状態での67P表面横断フライト。しかも複数のタッチダウン地点の表面の質がそれなりに異なっていたということもあって、運が良かっただけですが、思わぬボーナスに。(オポチュニティが今いるエンデバークレーターに着いた時それまで見てきた地質とのちがいに「Second landing site(第2の着陸地点)」と呼んだのを思い出します。)

ご指摘ありがとうございます。確認しましたところ、数値の誤りでした。
下記の通り訂正しお詫び申し上げます。
「ロゼッタが彗星に着地した時の速度は時速約3kmほど、人がゆっくり歩くくらいの速度ですね。」

生命誕生のなぞに一歩迫る偉大な探検家ロゼッタ、フィラエ。ミッションおつかれさまでした。管制のみなさまもおつかれさまでした。

まさに万感の思い。
ジブリの『かぐや姫の物語』の製作を担当したプロデューサの方が、製作開始の頃に結婚してもうけた子どもが、製作完了間近で行なわれた記者説明で、「今は小学校に通っています」と笑っていたのを記憶しています。
Rosettaは、プロジェクトの構想時期まで遡ると30年にも及んだプロジェクトとのことで、同じ見方をすれば、当時生まれた人たちは社会人になり、所属組織内では中堅的立場にいるはずなので、決して短くない営みですね(打上げ時を起算時期としても、2004年打上げなので中学校に上がっていることになる)。
印象的だったのは、RosettaチームがPhileaを彗星に降ろす際の中継を『はやぶさ』のイトカワ降下時に実施された手法を参考にした、と伝わってきたことです。
それだけ、『はやぶさ』のプロジェクトが海外にも大きな影響を与えていたことも同時に理解できた出来事でした。
関係者の努力に敬意を表したいと思います。

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