続・金井宇宙飛行士こんにちは!

2016年10月14日(金)

  • プロジェクト
  • 宇宙飛行士と国際宇宙ステーション(ISS)
このエントリーをはてなブックマークに追加
続・金井宇宙飛行士こんにちは!

2017年のISS長期滞在に向けて、訓練に取り組む金井宣茂宇宙飛行士。
今年8月、日本に一時帰国した機会をとらえて機関紙JAXA'sは緊急インタビュー取材を行いました。10月14日発行のJAXA'sは見逃せませんよ!

ファン!ファン!JAXA!では、JAXA's誌面スペースの都合で載せられなかった蔵出しサイドストーリーをご紹介します。

―― 日本におかえりなさい! 久しぶりの日本は暑いでしょう。

金井宇宙飛行士(以下、金井): お久しぶりです。暑いっていうか、蒸しますよねぇ。訓練拠点にしているヒューストンも暑くて蒸し蒸しするんですけど、日本はムシムシの質が違う感じがします。日本のほうがじっとり蒸しますね。

金井さん、いまはどんな訓練をしていますか?

ISSロシアセグメントに関する訓練を行う金井宇宙飛行士ら

―― 今はどちらを拠点にされていますか?

金井: 米国・NASAとロシアで訓練をしています。

―― JAXAデジタルアーカイブスに掲載される写真で、金井さんの訓練の様子を観ることができます。この訓練は特に厳しくて大変! というものはありますか?

金井:特別にこの訓練だけが厳しいというものはないです。どの訓練も、求められるレベルが非常に高い。宇宙飛行士の任務は安全面の基準もありますし、何年もの時間と労力とお金とを掛けた実験プロジェクトを一つの手順ミスで台無しにしてしまう可能性もあるからです。だから訓練では本当にインストラクターも厳しく指導します。合格基準に満たなかったら何度でも再テスト、再履修。非常にプレッシャーが高い中で訓練を行っています。

水上サバイバル訓練に参加する金井、リザンスキー、ブレスニク宇宙飛行士

ISS長期滞在クルーに任命され、クルーメイト(一緒に長期滞在に行く宇宙飛行士)とチームでの訓練をすることが増えました。いよいよこの仲間と宇宙に行くぞっ! と緊張感も高まり、チームメンバー同士でお互いに励まし合ったりしますので、とても充実しています。
一人の訓練が多いですけど、中には宇宙船のシミュレーションや3人で協調作業を学ぶような訓練は楽しいですね。クルー同士でいろいろな助け合いを見たりして、面白くすごしています。
あと、訓練の時間以外もとても大事で。いかに人間的な結び付きを深められるか、といったことが今の準備で特に大切なのかなって考えています。

―― 訓練といえば2015年に参加されたNEEMO訓練 では「ホロレンズ」という新機器の機能確認をされていたと聞きました。こういった新しい機器を使ってみての感触はいかがですか?

金井:未来的な製品の研究開発の一端を垣間見ることができて、面白かったです。ホロレンズはマイクロソフト とNASAで開発した機器で、レンズの前にバーチャルリアリティを重ねて作業するという、とても発展性が高い新しいデバイスでした。

単純にISSでの作業だけではなくて、例えば、火星に行った時により安全・効果的・効率的に作業するためにはどうするか…そういう視点を持った製品で、クルーからの意見を出したり、開発者からのフィードバックをもらったりしました。

NEEMO20訓練に関する記者会見を行う金井宇宙飛行士

あれから2年。変わったこと、変わらないこと

自分は自分で良くて

―― 2014年に、ファン!ファン!JAXA!でインタビューをしています。

その時、金井さんはご自分のことを慎重なタイプだとおっしゃっていました。2年間、とても厳しい訓練をくぐり抜けてきたわけですが、行動パターンが大胆に変わったなんていうことは……?

金井:行動パターンは人間が生まれ持ったものなので、あまり変わりません。私は慎重なタイプです。宇宙飛行士って積極的な方が多く、珍しい機械を見たらまず動かしてみる人が多いんです。

―― 私も、まず見よう! 行こう! って飛び出しちゃいます。

金井:素晴らしい。宇宙飛行士向きですね。そういう人が多い中で私のような「ちょっと待って、まずは手順を見よう」ってストップ役も重要なのかな。昔は、自分は向いていないって悩んだけど、今は、自分は自分で良くって、だからこそチームに貢献できるんじゃないかなって考えています。

自分の強み

冬期サバイバル訓練を行う金井宇宙飛行士ら

―― 2年前のインタビューでは模索中だと言われていた「自分の強み」、みつかりました? 慎重さが、そうでしょうか。

金井:はい。それに日本人らしい、まめで丁寧な仕事の仕方ってISSプログラムの中でとてもユニークなんです。日本人ならではの価値を、役割分担としてチームに付加できているんじゃないかな。そう感じています。たとえば事前に手順書を勉強して、タスクに臨むことって非常に重要です。予習ができていないと、どこかでミスを起こしたり時間内に終わらなかったりすることがあります。
もちろん外国人宇宙飛行士の方も予習しますが、日本人は特に、丁寧に真面目にしています。わたしも先輩日本人宇宙飛行士の背中を見て、その姿勢を学び取っています。

―― 金井さんのように慎重で丁寧な人が、より活きてきますね。

辛い。できない。そんな時は

―― 以前のインタビューでは、辛い訓練に「やってられるか~」って思う日もあるってうかがいました。今もそういう日はありますか?

金井:はい。うまくいかなくてダメな時は、本当にダメ。それに私は悪い意味で完璧主義で、後からダメな部分を思い返してクヨクヨしちゃうこともよくあります。

そういう時は無の心になって。これは仕事だからやるしかない…できなくてもできるようになるしかない…! って思って取り組んでいます。でもね、インストラクターも世界最高峰の人たちですから、できるように訓練してくれますよ。

水上サバイバル訓練に参加する金井ら

―― やっぱり宇宙飛行士は大変な重圧ですね。金井さん流のストレス対処法ってありますか?

金井:体を動かすことが良いリフレッシュになると思っています。毎日取り組んでいるんですが、無心に筋力トレーニングをしたりルームランナーで走ったりしているうちに、もやもやした気持ちがスッキリします。
以前は、とても多忙な先輩宇宙飛行士が毎日ジムに通っている姿を見て、どうしてかなあと思っていました。けど今は、仕事上の難問に取り組むプレッシャーを運動で解消できるんだって思います。体を動かすのはいいですね。編集部のみなさんも、ホシモくんも、体を動かしてくださいね!

宇宙をより身近に

―― ところでいま、たくさんの宇宙飛行士がSNSなどで情報発信していますね。金井さんはどんな計画がありますか?

金井:具体的なことはちょうど相談中ですが、人柄やミッションを知っていただくのは大事なことだと思っています。宇宙をより身近なものに感じていただけるよう、できればリアルタイムで、考えていることや実験していることを皆さんにお伝えできればいいなと思っています。
特に、油井さんや大西さんがパイロットなのに対して、私は医者です。宇宙で何が起っているのか皆さんに分かりやすくお伝えする、サイエンス・コミュニケーションは3人の中で自分の大きな仕事として、頑張りたいです。

“今”と“将来”の差をうめるのが私の仕事

金井:長期滞在ミッションはゴールではなく、宇宙飛行士のスタートに立つための最終関門。長期滞在を自分で経験することで、ようやく宇宙飛行士として仕事ができるだけの知見や新たなアイデアを得られるでしょう。それをもとにJAXAあるいは日本の宇宙開発に貢献する仕事ができたらと思います。

今の子どもたちが大人になる頃には、みんなが宇宙旅行できる社会が実現していてほしい。その社会を実現するために……例えば私は医学が専門ですので、乗客の医療面での安全確保技術を開発するとか。今と将来のギャップを埋めるために重要な働きがしたいと思いながら、今、仕事しております。

―― お忙しいところインタビューありがとうございます!


2017年の長期滞在だけでなく、みんなが宇宙旅行できる時代まで、ファン!ファン!JAXA!はずっと金井宇宙飛行士を応援しています。