はやぶさ電力、いよいよ家庭のコンセントに進出!?

2016年2月10日(水)

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1月26日、《はやぶさ発信の電力制御技術》を活用した「デマンドコントローラー」のデモンストレーションが、東京・江東区の橋本総業株式会社「みらいエコリフォームセンター」で実施されました。ふだんは住宅設備機器の研修プログラムや研究開発が行われているこの会場でのデモは、2015年8月に続き2度目のこと。多くの電気工事・住設関連事業者とメディア関係者が訪れました。

デマンドコントローラーとは?

略してデマコンと呼ばれるデマンドコントローラー、直訳すれば「需要」の「制御器」となりますが、これだけでは何のことやらさっぱりわかりません。デマコンとは電力業界で使われる業界用語で、ざっくり言うと「消費電力のピークを抑制する機器」です。わざわざ名前がつけられ、略語で呼ばれたりするのは、これが単なる省エネ以上の意味を持つシステムだからです。

基本+従量の料金体系

電気料金は電話やガスと同様、あらかじめ決められた「基本料金」と使った量に応じて支払う「従量料金」の和で料金が決まります。
契約したユーザーにサービスを提供する事業者、たとえばスポーツクラブなどでも、基本+従量の料金体系をとる事業者は多く存在します。サービス提供にかかる固定費(電力であれば発電所や送電線)とランニングコスト(同じく燃料費など)をイメージさせるため、納得されやすいのかもしれません。
そして事業所や工場など大口契約では、過去1年間の使用電力のピーク値によって基本料金が決定する仕組みになっています(電力会社がそう決めています)。そしてそのピーク値のことを業界ではデマンド値(*1)と呼ぶならわしです。

(*1)もっと詳しく言うと、毎時0分~30分、または毎時30分~翌0分までの30分間の平均使用量×2で示される、1時間の想定使用量(kWh)です。

デマンド値を抑えてコストカット

過去1年間のデマンド値で基本料金が決まるということは、ピーク値が高くなると、割高な基本料金がその先1年間適用されるてしまうことになります。逆に冷房などで需要が多くなる時期に、ピーク値をうまく抑えることができれば、その先1年を通じて低廉な基本料金が適用されることになり、大きなコストカットにつながります。
これがデマコン導入のインセンティブ(動機づけ)となっており、最近では家庭向けにもこの種の料金体系を導入する会社も出てきました(例:東京電力のスマートライフ料金プランなど)。2016年4月から始まる電力小売の全面自由化で、デマンド値の制御が家庭でも必要とされる時代が到来しつつあるのです。

「サーバ不要の自律的なシステム」

《はやぶさ発信の電力制御技術》をおさらいしてみましょう。その核心のひとつが「限られた電力をかしこく配分する、サーバ不要の自律的なシステム」でした。システム全体の電力使用量を目標値に収めるための制御で、やるべきことは次の3項目に集約されます。

1)総電力量を測り、目標値との差(逸脱電力量)を各機器に同報する。
2)その情報を受け取った各機器が、自分で使用電力を調整する。
3)最初に戻って繰り返す。

今回のデモンストレーションでは、これらの役割を担う3つの機器(試作機)でシステムが構成されていました。

デマコンを、メディコンとスマブレで。

1つ目が総電力量を測る「センシングモジュール」、要は電流計です。電気の取り込み口にあたる分電盤に取り付け、計測値を無線通信で逐次伝えます。
2つ目が、センシングモジュールから知らされる総電力量と、設定された電力の上限値とを比較し、その差(逸脱電力量)を無線通信で同報する「メディアコンバーター」、略してメディコンです(*2)。この2つの機器が上記の3項目でいう「1)」の機能を担います。
そして3つ目の機器が「スマートブレーカー」、略してスマブレで、上記の「2)」の機能を担う機器です。
ブレーカーとは、正式にはアンペアブレーカーと呼ばれる保安のための機器です。電流が、設定された上限値を越えたとき、回路をOFFにする(落ちる)装置です。そしてこのスマブレのどこがスマートなのかというと、あらかじめ决められた設定値ではなく、メディコンからの情報をもとに「落ちる」かどうかを自身で判断する点です。そしてその判断の基準に《はやぶさ発信の電力制御技術》のアルゴリズムが組み込まれています。

(*2)デモンストレーションでは、無線通信部分にZigBeeと呼ばれる柔軟性の高い無線規格が使われています。センサからの情報を集約する場合などに使われるものですが、必ずしもこのシステムがZigBeeが必須なわけではありません。PLC(電力線通信)やWi-FiでもWi-SUN(920MHz帯)でも、もちろん可能です。

スマブレは、部長ブレーカー!?

《はやぶさ発信の電力制御技術》のアルゴリズムを解説に使われてきた「宴会の割り勘精算のアナロジー」を思い出してみてください。

スマブレもブレーカーですから、当然ながら自分の配下にある回路の電流値を知ることができます。この情報から、自分が全体へのインパクトの大きい「部長ブレーカー」なのか、あまり大勢に影響を与えない「ヒラ社員ブレーカー」なのか、あるいは課長や係長なのかを、おおまかながらも把握することができます。
加えて、システムに参加しているスマブレたちは、システム全体での逸脱電力量を、メディコンを通じて知らされます。逸脱電力量が大きければ「部長ブレーカー」から順に落ち、逸脱電力量がゼロを下回ったところでスマブレたちの動作は止まります。このとき、電力のピークは所定の値に抑えられます。サーバ不要・同報通信のみによるデマコンが成立するわけです。
機器自身が自分の役回りを知り、全体の状況を見ながら適切と思われる行動をとる点が、スマブレのスマブレたるゆえんなのです。
“《はやぶさ発信の電力制御技術》のアルゴリズム”は、国内外に特許出願されています。

高機能型スマブレもいずれ登場

この日のデモでは、コンセントに後付けするタイプとコンセントに埋め込むタイプの2種類のスマブレの試作機が公開されました(*3)。

(*3)壁面埋込み式コンセント型のスマブレ、正式名称「スマート アウトレット ブレーカー」。トラッキング火災防止用の機器を改造したもの。後付式のスマブレ「スマート アダプタ ブレーカー」もあるそうです。いずれも復旧(通電)は、法令により人間が手動で行うことになっています。

川口淳一郎教授(JAXAシニアフェロー)は、より高機能型として「後からシステムに参加したものから先に落ちるスマートブレーカーも用意している」としました。
この高機能型スマブレを、こんな例で説明してみましょう。



大勢の乗客が乗り込んだエレベータで、従量オーバーのブザーが鳴ってしまった(ピークを超えた)とします。このブザーを止める(ピークを抑制する)にはどうすればよいでしょうか?
全体最適を考えれば、体重の重い人から降りてもらうのが、最も早くて確実です。このとき「自分の体重が重いことを知っている人」が、自主的にエレベータから降りるアルゴリズムとなっています。スマブレの中の部長ブレーカーがこれにあたります。何人かが降りればブザーは鳴り止んで(ピークが抑制され)、エレベータは出発できます。 でも現実問題、エレベータでは、後から乗ってきた人が降りるほうが、何かと丸く収まるのではないでしょうか。高機能型スマブレは、電流値に加え時系列での履歴も加味した判断も行います。電気機器の使用の実情を考えても「規制を超える原因となった機器から落ちる」という動作は、納得されやすいのではないでしょうか。



はやぶさ」の設計検討で生まれたアイデアは、さまざまな業界に賛同者を増やして形となり、私たちの生活のすぐそばにあるコンセントにまで進出しようとしています。うまくこれを役立てたいものですね、宇宙でも地球でも電気は大切ですからね。




(左の写真)エアコンへの後付け機器「レシーバ モジュール」で、事業所のデマンド値を抑えるデモンストレーションも行われた。ブレーカーの動作による制御は、エアコンの機器(冷媒のコンプレッサー)に大きなストレスを与えることになるため、エアコンの温度計の値にオフセットを与える(現実は30度でも、28度と思わせる)ことで、マイルドに出力を低下させる仕組みです。