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「あけぼの」のバトンを受け継ぐ探査機「ERG」

2015年6月17日(水)

  • プロジェクト
  • 人工衛星
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さる4月23日、オーロラ現象の観測などで科学成果を上げてきた磁気圏観測衛星「あけぼの」に停波信号が送られ、26年2カ月にわたる運用が終了しました。
「あけぼの」が積み上げてきた貴重なデータや知見を受け継ぐのが、来年度の打ち上げを目指すジオスペース探査衛星「ERG」(エルグ)です。
「ERG」の概要を5W1H形式でご紹介します。

Who?

計画の提案者は宇宙空間の電磁気・プラズマ現象を研究に関わってきた東北大学の小野高幸教授です。2012年8月にプロジェクト化されましたが、残念ながら小野教授は翌2013年の12月に逝去されました。
実施体制としてはJAXA宇宙科学研究所と名古屋大学太陽地球環境研究所が中核となり、全国30大学・約100名の研究者が参加しています。プロジェクトマネージャーはJAXA宇宙科学研究所の篠原育准教授、プロジェクトサイエンティストを名古屋大学太陽地球環境研究所の三好由純准教授が務めます。

Where?

国際宇宙ステーションでは高度400km前後、「だいち」などの観測衛星は400~600km。GPS衛星は2万km、静止衛星は3万6000kmと、衛星はそれぞれのミッションに応じて決まった軌道をとりますが、「ERG」の軌道は近地点高度300km、遠地点高度3万kmという細長い楕円軌道となります。低軌道から静止衛星に近い軌道まで、人間が利用する地球近傍の宇宙空間を連続的に観測したいからです。
軌道傾斜角は31度と比較的赤道面に近い軌道面をとります。観測対象となる放射線帯(ヴァン・アレン帯とも呼ばれます)は地球をとりまくドーナツ状の領域ですが、その「内部磁気圏」にとくにフォーカスして観測を行います。
また、ERGミッションのデータを扱うサイエンスセンターは、名古屋大学太陽地球環境研究所(名古屋市千種区不老町)に置かれます。データを地上観測と関連づけて研究者が参照したり、数値計算データとの関連づけを行なうなど、宇宙科学研究所だけで行うよりも、さらに大きな科学成果が期待できる研究基盤となることを目指しています。

What?

地球磁場に捕捉された高エネルギー粒子(イオンや電子。プラズマとも呼ばれます)を観測します。非常に高いエネルギーの粒子は、どのようなメカニズムで生成しているのか。どこからエネルギーを受け取っているのか(エネルギーはどう移動/輸送されているのか)を、9つの観測機器を使って立体的に調べます。
衛星のバス部分は「ひさき」(SPRINT-A)と同じく、小型科学衛星の共通プラットフォームとしてスタートし、当初はSPRINT-Bとの呼称もありましたが、カスタマイズされる部分が増えたため、その名称はなくなっています。

How?

搭載観測機器は、熱的にも放射線も非常にシビアな環境の中で高精度のデータ取得ができるよう工夫が凝らされています。
電子やイオンのエネルギーを調べる「プラズマ粒子計測器」は、4つの機器からなり6桁のダイナミックレンジを持つ電子観測器(いわばミリメートルでもキロメートルでも正確に測れるモノサシ)と、同様に幅広いエネルギー帯域で連続的な測定が可能なイオン計測器からなります。
「磁場観測器」は水星磁気圏探査機「MMO」と同じ設計のものを搭載。5mの伸展ブームの先にセンサが取り付けられます。

2対のワイヤーアンテナを使った「電場・プラズマ波動観測機」は、電場と磁場の変動すなわちプラズマの波動を広帯域で観測します。
また、「ERG」の目玉となるのが新たに開発された「ソフトウェア型波動-粒子相互作用解析装置」です。得られたデータを機上のCPUで計算し、エネルギー変換がどのように行われているかを粒子レベルで明らかにしようという試みです。

Why?

放射線帯を飛び交う高速のプラズマ粒子は、太陽風(太陽から飛来する高速粒子)によって引き起こされる宇宙嵐と連動して激しく変動し、オーロラ活動にも影響を与えます。さらに地上で大規模な停電や通信障害を引き起こしたり、人工衛星の故障や不具合を招くなど、人間活動に大きな影響を与えます。
「あけぼの」は、その激しい放射線環境のまっただ中で長期間の観測を続けてきました。どのような太陽風が来たときに、放射線帯はどう変わるか、ある程度の精度で予測ができるようになりました。また、その知見から新たな謎も生まれ、詳細な観測が必要になっています。ベテラン衛星「あけぼの」の残した貴重なデータは「ERG」誕生のカギであり、引き継がれるバトンでもあるわけです。

「あけぼの」が紫外線で撮影したオーロラ

When?

打ち上げ能力をアップさせ、より大きな衛星に対応したイプシロン2号機で内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)から打ち上げられる予定です。現在、プロジェクトの目標では2016年度打ち上げ予定。楽しみにお待ちください。

当初の記事中に誤りがありましたので、修正しました。すでに本文で修正は反映されています。関わりのあった方、申し訳ありませんでした。修正箇所は以下のとおりです。

【小野高幸先生の没年】
2012年ではなく、2013年でした。小野先生に直接はお目にかかったことはありませんでしたが、月周回衛星「かぐや」の制御落下(2009.6.11)に際し、搭載されていた15の観測機器それぞれのリーダーからコメントをいただくという記事(JAXA's 027)の企画で、メールと電話でやりとりし、コメントをいただいていました。せっかくなのでご紹介します。

 

かぐや制御落下に寄せて
LRS(月レーダサウンダー) 小野高幸(東北大学教授)

「よくもあんな遠いところまで行き、五体満足で、長きにわたって観測を続けてくれました。
電波で月の地下構造を調べようとの着想から12年。最初はできると誰も信じてはいなかったが、検討をすすめるうち、試験と評価をぬかりなくやれば、きっと成功するに違いないと信じられるようになりました。ただ、ごくごく微弱な電波を観測するため、自分自身の電磁ノイズ低減を徹底しなければならないうえに、他の観測機器の方々にもそれをお願いしなければならなかった。みなさんの温かい協力があればこその成功だったと思います。ほんとうに感謝しています。
1年半の観測期間を終え、望んでいた以上の成果が得られました。かぐや、ほんとうにありがとう。おつかれさまでした。」
※JAXA's 027 特集 『「かぐや」月に還る――制御落下の成功と、PI(観測機器の主研究者)15名からのメッセージ』

 

今回の記事の調べで亡くなっておられたことを知り、びっくりしたまま誤記してしまいました。誤記についてお詫びし、謹んでご冥福をお祈りいたします。

【篠原先生の所属研究系】
情報解析系ではなく「学際科学研究系」でした。記事本文では煩雑さを避けるため、「JAXA宇宙科学研究所」としています。郵便物等は間違いなくこれだけで届きますのでご心配なく。

【近地点高度・遠地点度高度】
「近地点」「遠地点」としていましたが、「地心からの距離」との誤解を避けるため、「近地点高度」「遠地点高度」と表記しています。

修正箇所は以上です。

担当者:mkita
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コメント
お名前

まさのん 様
ご推察のとおりで、「伝送に適さない処理量がある」が正解でした。プロマネの篠原先生から回答がありましたのでご紹介しますと、

「10マイクロ秒以内の精度でプラズマ波動による電磁場変動とプラズマ粒子の相関処理をする必要があるために、発生データ量は1日あたり約150GBにもおよびます。これだけのデータ量を地上に伝送することは小型衛星のリソースでは難しく、機上処理をする必要があります。」

何と150GB/日! PCでバックアップコピーなどされることもあるかと思いますが、それでも結構な時間がかかります。伝送が現実的ではないのも、分かっていただけると思います。
さらに篠原先生は、
「機上でのデータ処理技術が高度化することで、将来的により伝送回線の細い惑星探査で、高性能の観測機器によるデータを機上処理しデータ量を減らして、地上へ送ることができるようになります。非常に有効な技術になると考えています。」
とコメントを寄せてくれました。

ソフトウェア型波動-粒子相互作用解析装置は機上のcpuで計算するのですね。
放射線等、cpuには劣悪な環境でわざわざ処理する理由を想像すると、随時処理が必要か伝送に適さない処理量があるか、はたまた他の理由か。
今後発展するであろう、自立制御等のハード面での実績の積重ねにもなり、劣悪な環境におけるより高度な処理と信頼性確立についても、世界を牽引できる技術開発をしてほしいです。
頑張ってください。

近日点300kmの軌道というと、長い目で見ると上層大気の抵抗で遠日点がどんどん下がってくる高度です。いずれは地球の大気圏に突入する事になるのですね。
「ERG」は「あけぼの」の後継機に当たるわけですが、切れ目の無い観測態勢を維持する為に、十年後二十年後にはその次の後継機が準備されることを望みます。

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