発表!空から、宇宙から行う防災活動のアイディア

2015年5月1日(金)

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ファン!ファン!JAXA投稿コーナー3月のお題は「空から、宇宙から行う防災活動 アイディア大募集!」と題して皆さまからユニークな提案を挙げていただきました。その結果とJAXAの取り組みを関連付けてまとめてみましたので、どうぞご覧ください。

地震や津波の予報・警報などを個人に向けて発信

  • 海底を震源とする地震発生直後、衛星から震源地付近の海面の高さを電波の反射で捉えて、リアルタイムで気象庁に津波の現在位置や高さを伝え、各テレビ、ラジオ局や防災無線、インターネットで一般人に伝えるシステムがあったらいいなと思う。(匿名さん)
  • 地震発生前の地殻変動か地磁気変化を人工衛星で検知して警報を事前に発信する。同時に人工衛星内の計算機で津波の大きさを計算して必要な警報・注意報を出す。(東海アトムパワーさん)
  • ひまわり8号や、だいち2ごうのような高性能な人工衛星をたくさん打ち上げて、情報をリアルタイムで個人のスマートフォンなどに配信するサービスはどうでしょう。(たいせいさん)
  • [1] 国際宇宙ステーションや、大地2号が、災害が起こる確率が高い地形を観測し、中継衛星で、データを繋ぎ、宇宙局に送る。
    [2] データを受け取った宇宙局が、その確率が高い所にある市町村にデータを送る。
    [3] データを受け取った市町村が、住民に災害警戒情報を常に発信する。(こもさんさん)

今回一番提案の多かったアイディアですね。広い地域で発生した災害の状況を事前に把握するだけではなく、その兆候を瞬時にとらえて特に津波の警報を発信する仕組みに期待が集まっています。

これを実現するためには地球観測衛星が絶えず日本の上空に留まっているように見える軌道(=静止軌道)を取る必要があります。静止軌道は赤道上空約36,000kmとかなり地球から遠いため、現在の技術では津波に伴う海面の隆起といったかすかな変化をとらえるだけの高い分解能(より精細に海や陸地を観測する能力)を実現することがまだ難しい状況です。

現在運用中の大半の地球観測衛星は高度約600kmとかなり低いところを周回しています。しかし、地球全体をくまなく撮影するために「太陽同期準回帰軌道」という一定の周期で日本の上空を通過する軌道を取っているため、絶えず日本の上空に留まっていられないのが難点です。

(人工衛星ガイドブック8-9Pより)
※クリックすると拡大します

ただし、地盤沈下や地殻変動といった動きを定点観測し、長期的な変化から地震予知研究や橋やダムといったインフラの保全に活用する取り組みは「だいち2号」の観測データを活用して進んでいます。

被災地に通信インフラを確保する

  • 大量の飛行船を使い、災害地上空に空中電波中継基地局をつくる。動力は電気として、今実験中のマイクロ波送電で、24時間確保。出来るだけ風に流されないようにプログラムされたソフトによりコントロール。自動運転で長期間空中に滞在できるようにする。(なおくんさん)

なおくんさんとほぼ同じアイディアを「成層圏プラットフォームの研究開発」と銘打って、国を挙げて研究している時期がありました。
これは「高度20km付近の成層圏に大型の無人飛行船や飛行機等を打ち上げ、定点滞空し、必要に応じて所定の空間に移動させて通信・放送および地球観測監視の無線基地・光学基地として使用する」という計画でしたが、残念ながら2004年度の定点滞空飛行試験をもって、研究開発を終了しています。
現在は悪天候の影響を受けない高高度に長期間滞空し、時々刻々と変化する被災状況を、詳細かつ連続的に監視する滞空型無人機技術の研究に取り組んでいます。

宇宙から行方不明者の救助を支援

  • 宇宙から生きている人間を見つける事が出来れば、災害救助に役立つと思います。
  • 個人で持っている携帯電話やスマートフォンの発信電波を衛星で受信して位置を特定し、災害救助の迅速化の実験を行う。(匿名さん)

このアイディアも実現すれば、とても素晴らしいですね。宇宙からではありませんが、JAXAでは東日本大震災の復興支援の一環として、航空機に搭載した合成開口レーダから遺留品や行方不明者の捜索を行っています。

また、個人で持っている通信デバイスではありませんが、JAXAでは被災地や避難所に配置した専用の超小型通信端末等から災害対策本部へのデータ伝送、映像伝送を行う実証実験を技術試験衛星「きく8号」で行っています。

復興の進捗を定点観測

  • 被災地を宇宙からの写真で定点観測し、「復興月めくりカレンダー」を作成。「あの頃はあんなに壊れていた町が日を追う毎に復興する様子が目に見えて分かる」と町の人も、町の人以外も元気になれるのではないでしょうか。逆に「こんなに日が経っているのに復興はこれだけしか進んでいない!」というチェックにも使えます。(ヤマサンPさん)

今回一番心温まるご提案でしたね…。「だいち」が元気だったら実現できたであろう企画だと思います。2011年の「だいち」の運用終了以降、光学観測は途切れているため、JAXAでは分解能1m以内で日本全域を高頻度に観測できる「先進光学衛星」の検討を進めています。
「だいち」がその能力の限界を超えて撮り続けた東日本大震災の被災地の観測画像は、下記リンク先でご覧いただけます。

船舶の安全な航行を支援する

  • 船の位置情報を集めて衝突事故防止(匿名さん)

全球での船舶の航行状況把握や海洋環境保全に活用するため、宇宙から船舶の動きを観測する「衛星搭載船舶自動識別システム(AIS)実験」を、小型実証衛星4型「SDS-4」や「だいち2号」といった人工衛星で行っています。これらの成果が将来的に衝突事故を防ぐような仕組みに発展するといいですね。

航空機と宇宙機の連動

  • 飛行機と衛星を連動させて、なにかできないかしら。(あさねぼうさん)

※クリックすると拡大します

目の付け所が鋭いですね!JAXAではヘリコプターなどの航空機、無人航空機、人工衛星の統合的な運用による災害情報の収集・共有化及び災害救援航空機による効率的かつ安全な救援活動を支援する「災害救援航空機統合運用システム(D-NET2)」の実現に向けて必要な技術の研究開発に取り組んでいます。

この春からJAXAは国立研究開発法人に改組し、研究開発の機能をさらに強化しています。
みなさんのアイディアのような、社会のニーズをとらえた暮らしの安全・安心に貢献する成果の創出を目指して頑張っていきますので、これからもご声援のほど、よろしくお願いいたします。