一番小さな宇宙船 - 宇宙服

2014年9月3日(水)

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NASAが新型宇宙服のデザインを発表しました。おお! かっこいい! なんだかSFっぽいデザインですね。

この3種類のデザイン案からネットの公募で選ばれたものは「Option B"Technology"(左側の青いタイプ)」です。あちこちにLEDが埋め込まれていて、光っているのはかっこいいから...ではなく、暗いところでもどの宇宙飛行士がどこにいてどんな姿勢を取っているかを把握しやすくするためだそうです。


宇宙服というのは、その名前のとおり宇宙で着るための服です。宇宙飛行士がそれを着て、宇宙船や宇宙ステーションの外に出て作業するのですから、宇宙の厳しい環境に耐えなければなりませんし、それでいて快適で、動きやすくて、なにより安全でなければなりません。これ、ものすごく大変なんです。

現在国際宇宙ステーションで使用されている宇宙服はアメリカのEMU(イー・エム・ユー)とロシアのOrlan(オーラン)があり、それぞれの簡単な特徴は以下のようになっております。


EMU

アメリカの船外活動ユニット(EMU)
重量 約120kg  運用圧力 0.3気圧(純酸素)
ヘルメット、胴体上下、グローブ等部品が別れており、M, L, XLの3サイズある。手足の長さを調整することができる。

Orlan

ロシアのオーラン宇宙服(Orlan)
重量 約110k  運用圧力 0.4気圧(純酸素)
1ピースで構成され、腕及び足の長さを紐で引っ張ることによりサイズ調整することができる。

まずなにより、宇宙には空気がありません。当然、外にでるためには空気を持っていかなければなりませんし、空気を送り込むためのポンプを動かす電源も必要です。現在国際宇宙ステーションなどで使われている宇宙服は、宇宙飛行士が吐いた息を循環させることで、外部から酸素や電源の供給がなくても、単体で6~8時間ほど作業ができるようになっています。

米国の船外活動(US EVA19)を終了し、国際宇宙ステーション(ISS)船内に戻った星出彰彦(右)、サニータ・ウィリアムズ(左)両宇宙飛行士(ふたりが着用しているのは船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit: EMU)の冷却下着)

もちろん、引っ掛けたり、ぶつけたり、小さな隕石が当たったりして、表面が少し破れたりしたくらいで空気がもれるようなことがあってはいけません。そのため、現在使われている宇宙服は様々な材料が何層にも重ねられて出来ています。


空気がないことで、日なたと日かげでの温度差がとても大きくなります。日なたは摂氏100度を超え、日かげはマイナス100度以下になります。また、宇宙服は密閉されているので、放っておくと宇宙飛行士の体の熱が中にこもってしまいます。つねに宇宙服の中が一定の温度に保たれるような仕組みが必要です。


実際の宇宙服では、素材を温度の影響を受けにくい材質で作るだけでなく、水を循環させるパイプを張り巡らせた下着を着て内部を一定の温度に保つようになっています。

宇宙服の中の気圧は地上の1/3ほどしかありません。代わりに宇宙飛行士たちは100%の酸素を吸っています。なぜわざわざそんなことをするのか?実はこれ、少しでも動きやすくするためなんです。


空気がない所に、空気をたくさん入れた宇宙服で出て行くとどうなるでしょう? そう、風船みたいに膨らんでしまいますよね。膨らんだ風船を押し潰したり曲げたりするのは大変です。中に空気をいっぱい入れると宇宙服はああいう状態になってしまうんです。


あまり空気が入っていない状態になっているといっても、やはり宇宙服は膨らんでしまいます。もちろんなるべく膨らまないように、動きやすくなるように工夫されていますが、それでも腕や足、手の指などを曲げるのにとても力がいるとか。宇宙飛行士の皆さんは無重力でフワフワと簡単そうにやっていますが、あれは結構な重労働なんですね。

この、宇宙服の中の気圧を下げるために100%の酸素を呼吸する、という方法は一つ大きな弊害があります。それは宇宙服を着るための準備をするのにものすごく時間がかかること。私たちが普段吸っている空気は窒素が約80%、酸素が約20%という割合になっています。この空気を吸った状態のまま、急に気圧を下げると、血液中に溶け込んだ窒素が気体になって血管を詰まらせてしまうんです。これは、水中で作業するダイバーが急に浮上した時に起こすのと同じ「減圧症(潜水病)」と呼ばれる症状です。


このため、船外活動をする際は、宇宙飛行士は予め100%酸素の環境に体を慣らし、体内から窒素を追い出さなければなりません。これを「脱窒素作業(脱窒)」といい、数時間もの時間がかかります。これが、現在の宇宙服の最大の欠点。これを解決するために、現在開発中の新型の宇宙服では、内部の気圧を高くしても動きやすいような構造になっています。


米国の船外活動(US EVA18)の準備を行う星出彰彦(左)、サニータ・ウィリアムズ(右)両宇宙飛行士とユーリ・マレンチェンコ宇宙飛行士(中央)※酸素が供給されるマスクをしている。

他にも、通信装置、ライトやカメラ、命綱が外れた時の安全装置、宇宙服の様々な機能や環境をコントロールする装置なども必要です。また長時間に渡る船外作業に備えて飲料水や食料、トイレ(おむつ)なども装備されています。服というより、もう一つの宇宙船という感じですね。


実は、JAXAでも宇宙服の研究が行われています。これがJAXAの宇宙服!

研究中の次世代宇宙服(イメージ図)

上にあげた宇宙服の内部の気圧を上げるのはもちろんのこと、日本の優れた繊維技術や縫製技術を生かし、多くの素材を布で置き換えることで大幅な軽量化をはかり、さらにモーターやアクチュエータなどて、宇宙飛行士の動きを機会的に補助する仕組みなども検討されています。


なお、これらの研究の一環として、宇宙服の内側に着て水を循環させて宇宙飛行士の体を冷やす下着の技術を応用した「冷却ベスト」が開発され、試験販売されています。夏の炎天下での作業や、火事などの災害救助時に活躍することが期待されています。


(画像提供/出典:NASA)