「ターボポンプ」、近未来の設計手法 ~ ロケットエンジンの“心臓部”~

2014年7月29日(火)

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JAXAエンジン研究開発グループ ダイナミック設計チーム(角田宇宙センター)は、2014年5月、回転機械の研究者や専門技術者で構成されている一般社団法人ターボ機械協会から、研究成果が認められ、ターボ機械協会賞(技術賞)を受賞しました。【図1】

図1 技術賞受賞メダル

この研究成果とは、ロケットエンジンで使ってきた今までの設計のやり方を大きく見直して、トラブルの発生を未然に防ぐような最適な設計方法を確立したということです。
もう少し具体的にいえば、ロケットエンジンの中でも設計が最も難しい要素の一つと言われている「ターボポンプ」が、静かに安定して超高速回転できるような新しい設計のやり方を作り上げたのです。

「ターボポンプ」って何?

ところで、みなさんはロケットエンジンに搭載されている「ターボポンプ」を知っていますか?

H-IIAロケットは、燃料となる水素とそれを燃やすための酸素とともに宇宙に向かいます。「ターボポンプ」は、この水素と酸素を燃料タンクからロケットの燃焼器へ送る役目を果たしていて、人間で例えると“心臓”のような役割をしています。このロケットエンジンには、水素用と酸素用の2つのターボポンプが備えられています。【図2左】

図2 LE-7Aエンジン(左)と 水素用ターボポンプ(右)

水素用のターボポンプの内部にはタービンがあり、水素と酸素との燃焼ガスで回転させています。この回転する力で、タービン本体とシャフトでつながったポンプを駆動させています。
また、軸受という、シャフトを支えて滑らかに回転させる役割をもつ部品や、ポンプとタービンの間を分けるための軸シールという部品もあり、ターボポンプはとても精密な機械なのです。【図2右】

ターボポンプは、振動に神経質!

図3 過去の設計手法イメージ

ターボポンプは、高速で回転する精密機械なので、振動が大の苦手です。振動が大きすぎると、部品を傷めて大きな事故につながります。みなさんも、ガタガタと大きく振動する車に乗ると、気分が悪くなりますよね。

過去の開発では、より良い性能だけを狙って設計されたポンプとタービンを組合せた試験を行ったことがありますが、振動が発生することがありました【図3】。その度に、個々の部品の構造を見直して試験を実施していましたが、振動を回避することができませんでした。

この研究をすることで、ターボポンプはどのようによくなるの?

図4 新しい設計手法イメージ

そこで私たちが考えた設計方法は、それぞれのポンプやタービン、軸受、シールの性能を一番に考えるのではなく、振動を生み出す力について調べ、振動が小さくなるようなポンプやタービン、軸受、軸シールを組み合わせられる位置についても、設計に反映できる方法です。

この設計方法で開発されるターボポンプは振動が起こりにくくなっているので、故障には至らないようにすることができます【図4】。さらに、開発途中で振動によるトラブルのための設計の見直しがなくなることで、開発期間を短縮することができるため、開発費も抑えることができます。

この設計技術は、これからどのような分野で期待されるの?

活躍の場は、開発が始まったばかりの新型ロケットエンジンのメインエンジン用、または上段エンジン用ターボポンプの設計です。今、本格的な設計に向けて日々の試験や解析プログラムの開発を大学・民間企業と協力しながら、この設計技術をさらに磨いているところです。

また、この設計方法はロケットの世界だけにとどまらず、みなさんの生活に密接に関わる電気をつくるための水力発電所や火力発電所にあるポンプや水車、ガスタービンなど機械の設計に利用することもできます。

この設計技術をはじめとしたJAXAの活動が、みなさんの生活に役立てられるよう、日々努力しています。



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