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宇宙実験室 19 - プラズマって何? ジオスペース探査衛星「あらせ」が探していること

2016年12月20日、内之浦宇宙空間観測所からジオスペース探査衛星「あらせ」が打ち上げられました。すでに打ち上げ後のチェックなどを終え、本格的な観測に入っています。「あらせ」は、地球のまわりにあるプラズマの振る舞いを調べる衛星です。でも、プラズマってなんでしょうか? あまり耳馴染みのない言葉ですよね。というわけで、今回博士たちはJAXA宇宙科学研究所(ISAS)で長年にわたり太陽系の磁場の研究をされ、「あらせ」の開発にも関わっておられる松岡彩子先生にプラズマについてお話を伺うことにしました。

Q1.松岡先生、プラズマってなんですか?

物質には、気体や液体、固体といった状態がありますが、プラズマは気体の一種です。酸素や水素などの気体の原子は電気的には中性です。でも、気体の原子にエネルギーが与えられると原子核と電子がばらばらになって電気(電荷)を帯び、磁場の影響を受けるようになるんですね。これがプラズマと呼ばれる状態です。プラズマは私達の身の回りにもいろいろあって、たとえば蛍光灯は水銀がプラズマ化した時に出す紫外線を利用して光らせています。もっと身近なところではろうそくやガスなどの炎なんかもプラズマです。

宇宙空間にはプラズマがいっぱいあります。

「宇宙にはプラズマがあふれている」と言ったりしますが、宇宙空間にはプラズマがいっぱいあります。多くは太陽からやってくる太陽風とよばれるものですが、一部は地球からも出てきます。地球上では周りに物質が沢山あるので、電荷を帯びたプラズマはすぐに他の物質と結びついてしまいますが、宇宙空間は空っぽなので、電荷を帯びた粒子同士がほとんど出会うことなく飛び回ることができるんです。

Q2.ジオスペース探査衛星「あらせ」は何を観測する衛星なんでしょうか?

地球の周りの宇宙空間のことを「ジオスペース」といいますが、この地球の周りのプラズマの振る舞いにはまだ分かっていないことがたくさんあるんです。

実は、プラズマには「熱いプラズマ」と「冷たいプラズマ」があります。一般的に、熱いというのは分子がバラバラに激しく動いている状態ですが、これはプラズマも同じです。プラズマの粒子がばらばらの方向に激しく動き回っている状態を「熱い」、粒子の動きが小さい状態を「冷たい」と呼んでいます。実は、太陽からやってくるプラズマはさほど熱くはないんです。速度は速いのですが、粒子は同じ方向に向かって流れているだけで、それぞれの粒子は動きはあまり激しくありません。また、地球から出てくるプラズマもあまり熱くないんです。それが、なぜか不思議なことに地球のまわりの高度2,000kmから20,000kmあたりにくるとすごく熱くなるんです。聞いたことがあるかもしれませんが、これがヴァン・アレン帯と呼ばれる放射線帯ですね。

なぜ冷たい太陽からのプラズマが、地球の近くにくるとそんなに熱くなるのか?その仕組みはあまり良く分かっていません。おそらく地球の磁場によって圧縮されるためだろうという仮説はありますが、それだけでは説明できないという説もあります。それを確かめようというのが「あらせ」の大きな目的の一つです。

ジオスペース探査衛星「あらせ」が観測しているものって?

Q3.地球の周りのプラズマの振る舞いがわかるとそこから何がわかりますか?

ひとつは、「宇宙天気予報」と呼ばれるものに役立てることができるかもしれません。

もう一つは、地球の周りのプラズマや磁場を詳しく研究することで、地球以外の惑星や天体のことを調べるきっかけになるかもしれません。たとえば、地球の磁場は地球の内部の構造と密接に結びついています。たとえばJAXAがESAと共同で開発している「BepiColombo」では水星の磁気圏を探査しますが、水星の磁場の振る舞いを調べることで水星の内部のことが分かるかもしれません。また、磁場やプラズマというのは望遠鏡などでは見えませんが、宇宙のどこでも同じような振る舞いをしているだろうと考えられます。地球の周りで起きていることを詳しく調べられれば、たとえば水星のような他の惑星や、もっと遠い場所、他の星などで起きていることが分かるかもしれないんです。

Q4.「あらせ」はどんな衛星ですか?

「あらせ」は磁場とプラズマに関する観測機器全部入り!みたいな豪華衛星になっています。特にさきほど説明した熱いプラズマと冷たいプラズマの振る舞いについては非常に精度良く調べられるようになっています。

「あらせ」の特徴ともなっているこの2本伸びているマストの先にはそれぞれ、主に磁場の絶対的な強度を測るセンサと、主に磁場の速い変化を測るセンサがついています。磁場というのはナノテスラという単位で測りますが、磁場の強度を測るセンサは5ナノテスラくらいの精度で測らなければなりません。私たちが普段生活している場所が4万5千ナノテスラくらいありますから、約1万分の一という精度で強度を測るわけです。一方、磁場の速い変化を測るセンサは、100キロヘルツまで、つまり1秒間に10万回変動する磁場を捉えることができます。

実は「あらせ」の本体も磁場を出しているので、本体からなるべく離すために、センサは長いマストの先端につけられています。また、本体にも磁場を抑えたり、磁石などで打ち消したりする仕組みが施されています。 四方に伸びている細いワイヤは、電圧の差を測ることで電場を測るアンテナで、15mあります。また、プラズマを測るセンサは本体についています。熱いプラズマと冷たいプラズマでは計測する方法が違うので、それぞれ別のセンサになっています。実は、地球の周りでは熱いプラズマと冷たいプラズマが混在しているんです。これがお湯と水なら混ざり合って均等な温度になりますが、先程もいったように宇宙はスカスカなので、熱いプラズマと冷たいプラズマが一緒の場所にいられます。プラズマの振る舞いを知るためにはこの両方を測る必要があるんですね。

もう一つの特徴は、放射線に強いということです。「あらせ」が飛んでいるヴァン・アレン帯の強い放射線は電子機器を壊してしまいます。そのため電子機器の塊の人工衛星が飛ぶには適しません。「あけぼの」もヴァン・アレン帯に入ったり出たりする衛星でしたが、それでも壊れないようにするのが大変でした。「GEOTAIL」はヴァン・アレン帯の外を飛んでいます。「あらせ」は放射線に耐える様々な工夫がしてあって、ヴァン・アレン帯の中にとどまって観測することができます。

実はこの技術は水星を探査する「BepiColombo」の開発で得たものです。水星は地球よりずっと太陽に近いので、ずっと放射線が強いのですが、ここで耐えられる機器を開発したことで、もう少し頑張ればヴァン・アレン帯の中も飛べるよね、ということで「あらせ」を作れるようになったんです。

Q5.松岡先生のご自身の研究についても教えてください

子供の頃から宇宙に興味はあったのですが、大学4年生の時に丁度「あけぼの」衛星の打ち上げの準備が行われていました。プロジェクトを率いられた鶴田先生(元ISAS所長)に声を掛けられて、ISASで宇宙のプラズマや磁場の研究をすることになりました。「あけぼの」は1989年に打ち上がり、2015年に運用停止しました。開発には携わっていませんが、プロマネの業務を途中から引き継ぎ、運用停止まで見てきました。磁場に関わるようになったのは、火星探査機「のぞみ」の磁場計測器の開発からです。最近では「BepiColombo」の開発にも磁場の観測器の担当として関わりました。

松岡先生

学生の頃は衛星で「その場」を測ることに興味をもっていましたが、研究をすすめる中で、もっと普遍的にプラズマってどういうものなんだろうと思うようになりました。プラズマは地球の周りや水星の周り以外も、宇宙全体、太陽や別の星など色々なところにあります。たとえば、太陽は遠い上に熱くてとても近くにはいけませんが、プラズマを通じて様々なことがわかります。遠いところにあるものが近いもので見られるのはとても面白いですね。また冷たいプラズマだったり、熱いプラズマだったり、冷たいものが熱くなったりと、すごくダイナミックなところも面白いところです。

私が学生だった頃は、衛星に計測器を載せて地球の周辺の磁場やプラズマを測る研究が最先端で、衛星があがるたびに新しい発見がありましたが、精度が上がり観測の機会も増えたことで、磁場やプラズマを通じて、他の惑星やもっと遠い宇宙のことも知ることができるようになってきました。地球の近くはより本質に迫る研究が、遠いところはフロンティアとして未知の世界を探求する研究が進んでいます。さきほどの「BepiColombo」もそうですが、日本だけでなく国際共同で磁場やプラズマの研究をする動きも盛んです。これからどんどんおもしろくなっていくと思います。ぜひ期待してください。

宇宙実験室ノート

我々が普段目にする宇宙の写真や映像には磁場やプラズマは写りませんが、地球の周りでとてもダイナミックな活動が起きているんですね。熱いプラズマと冷たいプラズマの謎。水星の磁場を調べる「BepiColombo」があったから「あらせ」ができたというのも面白いお話でした。松岡先生、ありがとうございました。

プラズマって実はけっこう面白いかも!?どうやら博士たち、プラズマの魅力に気づいたようです。またなにか企んでいるようですが…

「あらせ」とJAXAが行っている地球磁気圏の研究については以下のページも参考になります。

関連リンク
ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG) | JAXA
ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG) | 宇宙科学研究所(ISAS)
The ERG satellite|ヴァン・アレン帯の謎に迫る!ジオスペース探査衛星(ERG) | YouTube
躍動する磁気圏 磁場から宇宙の謎にせまる| YouTube

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コメント
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『水星の磁場を調べる「BepiColombo」』

自分の理解がある程度正しければ、と前置きしてコメントさせてきただきますが、上記の様な説明はESAに連れて行ってもらう立場の方がするものとしては如何なものでしょうか。ESAが開発しているMPOのミッションは『水星の磁場を調べる』では全く説明できていない/説明しきれていない内容だと思うのですが。どうしても『水星の磁場を調べる』で説明したいのであれば、ESA受け持ちのミッションを含まない言い方、つまり自前の部分(MMO)だけにするべきではないかと私は思うのですが。

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