国連宇宙部(UNOOSA: United Nations Office for Outer Space Affairs)は、50年以上に亘り、宇宙活動に関する法規範(宇宙法)の調整や宇宙活動がもたらす新しい科学技術の普及と国際協力の推進などにおいて、重要な役割を果たしてきました。
JAXAと国連宇宙部は、開発途上国の教育・研究機関に「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星の放出機会を提供する共同プログラム「KiboCUBE」を立ち上げて、これらの国による宇宙技術の向上に向けて連携を深めています。
世界各国の宇宙への平等なアクセスと持続可能な開発のための宇宙技術の最大限の活用を進めるパートナーとして、JAXAとの連携に対する期待と宇宙分野における国際協力の重要性について、国連宇宙部のシモネッタ・ディピッポ部長にお話を伺います。

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開発途上国の宇宙利用を後押しする

国連宇宙部について教えていただけますか?

2017年1月30日から始まった科学技術小委員会(提供:UNOOSA)2017年1月30日から始まった科学技術小委員会(提供:UNOOSA)

国連宇宙部は、国連において宇宙政策を担当する部門で、一言でいうと、国連の中に「宇宙へのゲート」です。宇宙空間の平和利用に関する国際協力を推進しており、宇宙活動がもたらす恩恵を世界中に普及するために幅広い活動を行っていますが、その中でも重要なミッションは、国連に加盟する開発途上国を中心に、人工衛星によるリモートセンシングデータや衛星通信、衛星測位技術の活用についてワークショップやトレーニングを実施し、開発途上国が、持続可能な開発のために宇宙技術を利用できるように支援することです。

また、宇宙空間に打ち上げられた物体に関する登録を維持すること、宇宙空間平和利用委員会(COPUOS: Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)とCOPUOSの下に設置されている科学技術小委員会と法律小委員会の事務局を務めるのも私たちの任務です。COPUOSは、宇宙空間の平和利用に関する国際協力やルール作りを進める国連の常設委員会で、現時点の構成国は84カ国です。通常毎年2月に科学技術小委員会、4月に法律小委員会を開催し、両小委員会での議論の結果を踏まえて6月にウィーンで本委員会を開きます。本委員会の報告書は秋の国連総会に提出され、そこで決議の採択が行われます。

宇宙空間の平和利用の推進に貢献する日本

近年では、堀川康技術参与のCOPUOS議長就任、小原隆博宇宙環境グループ長(=現・東北大学教授)の専門家会合共同議長就任、土井隆雄宇宙飛行士(=現・京都大学特任教授)の国連宇宙部勤務など、JAXAの役職員が国連の活動に参画し、宇宙空間の平和利用の拡大に貢献する機会が増えてきました。今年は、向井千秋技術参与が科学技術小委員会の議長に就任します。

科学技術小委員会にて。ディピッポさんと向井千秋技術参与(提供:UNOOSA)科学技術小委員会にて。ディピッポさんと向井千秋技術参与(提供:UNOOSA)

そうですね。向井千秋博士は2017年1月30日付けで科学技術小委員会議長に就任しました。任期は1年間です。彼女の任務はとても重要です。科学技術小委員会では、スペース・デブリ(宇宙ごみ)対策や人工衛星を利用した防災・災害監視に関する議論のほか、「UNISPACE+50」で取り上げる優先主題の詳細を詰めて、開催に向けた準備を仕切らなければならないのです。

「UNISPACE+50」とはどのような会合でしょうか?

宇宙空間の探査と平和利用に関する国連宇宙会議(UNISPACE)の第1回会合から50周年の節目となることを記念して2018年に開催が予定されている会合です。「UNISPACE+50」では、世界の宇宙利用にまつわる情勢の変化とこれまで活動を振り返るとともに、全世界の恩恵のために宇宙科学・技術の開発、振興に向けて、国連加盟国はどう活動していくべきか、宇宙分野における国際協力とはどうあるべきかといった、未来に向けた話し合いを行います。

「UNISPACE+50」で取り上げる7つの優先主題には、「宇宙探査・イノベーションのグローバル・パートナーシップ」、「21世紀の能力開発のあり方」などがあります。前者は、今後の太陽系探査を、より多くの国や研究者の協働により進めていくことを目指すものです。宇宙利用を取り巻く状況は、1957年に旧ソ連がスプートニク1号を打ち上げた当時と比べると大きく変化しています。最も大きな違いは、官需に依存していた宇宙開発が、現在では人工衛星の打ち上げが民間企業に任せられるようになるなど、宇宙産業として発展を遂げたことです。私たちがこれから取り組むべき課題は、宇宙技術を、低公害社会や災害に強いしなやかな社会を構築するために活かすことだと思います。優先主題には、公衆衛生の改善を通じた生活の質の向上に向けて、宇宙技術や宇宙から得られるデータをどう活用するかといった興味深いテーマも含まれています。ここでの議論の結果は、「Space 2030」と呼ばれる長期計画をとりまとめる上でも重要な指針となるでしょう。

「Space 2030」とはどのような計画でしょうか?

「Space 2030」とは、2030年までに取り組む宇宙活動にかかわる計画のことで、宇宙利用、宇宙外交、宇宙経済、宇宙社会という4つのテーマからなります。2030年を期限にしているのは、次にあげる3つの主要な国連の活動が2030年を達成目標の年次として掲げているためです。

1つ目は「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」の達成です。SDGsは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が掲げる17項目の開発目標(2015年9月、国連採択)で、貧困の撲滅、気候変動への対策など、持続可能な開発を実現するための重要な指針です。2つ目は2020年以降の温暖化対策を示した国際的な枠組み「パリ協定」に基づく温室効果ガス削減目標の達成です(2015年12月、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約会議)で採択)。3つ目は「仙台防災枠組み2015-2030」に基づく災害リスク及び損失の大幅な削減です(2015年3月、第3回国連防災世界会議で採択)。これらの目標を達成するために、私たちは宇宙空間の平和利用の拡大が重要だと考えているのです。

JAXAとともに宇宙利用の機会をより多くの国々に提供する

国連宇宙部とJAXAが共同で行っているプログラム「KiboCUBE」についてお聞かせください。

2016年9月に開催された国際宇宙会議IACにて、KiboCUBEプログラムの第2回公募開始を発表(提供:UNOOSA)2016年9月に開催された国際宇宙会議IACにて、KiboCUBEプログラムの第2回公募開始を発表(提供:UNOOSA)

「KiboCUBE」は、開発途上国の教育・研究機関に対し、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟から超小型衛星を放出する機会を提供するもので、国連宇宙部とJAXAの連携協力により、2015年9月に立ち上げられました。これは、独自の衛星打上げ能力を有しない開発途上国に宇宙開発への参加を後押しする、前例のない国際協力プログラムです。私たちは、ワークショップやトレーニングを通じて行う宇宙機工学に関する能力開発、設計・組立に関する実証、各国のニーズに基づいた宇宙空間での衛星利用の機会を開発途上国の教育・研究機関に提供します。宇宙ミッション全体を通して、宇宙科学・技術についての理解を育むことを目的としています。

第1回「KiboCUBE」プログラムの公募には、世界各国から13件の応募があり、2016年8月に、ケニア共和国・ナイロビ大学の衛星を選定しました(公募期間:平成27年9月10日~平成28年3月31日)。「きぼう」からの超小型衛星の放出は2017年度を予定しています。ケニアにとっては初めての人工衛星で、学生は専門家のサポートを受けながら、衛星の製造からロケットへの搭載、打ち上げ後の衛星の運用まで、一連の流れを学ぶことができます。選出されたナイロビ大学のチームは、今回の「KiboCUBE」プログラムを通じて将来のより大型の地球観測衛星開発への活用を計画しており、将来に向けて、非常に価値あるミッションになるでしょう。

第2回「KiboCUBE」プログラムの公募も開始しています。この革新的なプログラムに、できるだけ多くの国に参加して欲しいと思います。(公募期間:平成28年9月~平成29年3月31日)

「KiboCUBE」にはどのような意義がありますか?

このプログラムは、2010年に国連が立ち上げた「有人宇宙技術イニシアティブ」に基づいており、国際協力、普及、教育・人材育成という3つの目的があります。「KiboCUBE」にはその目的に沿った成果が期待できると認められたから始まったのです。

「KiboCUBE」は国連と宇宙機関の協力のあり方を示す、実によい例になったと思います。このプログラムの特長の1つは、超小型衛星の打ち上げ費用をJAXAが負担してくれることです。これは、活動資金が十分でない開発途上国にとって大きな意味を持ちます。そして、開発途上国の宇宙開発への参加を支援しよう、という日本の積極的な姿勢を示しています。このプログラムは本当に素晴らしく、日本政府とJAXAが、国連加盟国のために尽くしてくれることに対して、私は感謝の思いでいっぱいです。

「KiboCUBE」にどのようなことを期待しますか?

「KiboCUBE」は、「開発途上国に宇宙開発への参加の機会を拓く」という国連宇宙部の重要なミッションの第一歩です。このプログラムを成功させることにより、より多くの開発途上国が宇宙開発に取り組むようになることを期待しています。私たちにとってナイロビ大学の超小型衛星放出は歴史的な瞬間となるので、ぜひこの目で見届けたいと思っています。また、第1回の公募を通じて、開発途上国が宇宙開発への参加に際してどのようなことを望んでいるのか、また、どのような能力を備えているのかが理解できましたので、その経験を次の公募に活かしていきたいと思います。

国連による宇宙開発ミッションは端緒についたばかりです。2016年3月、国連宇宙部と中国国家航天局は、中国の宇宙ステーション「天宮」(2022年完成予定)の利用機会を開発途上国にも開放するという協定を交わしました。また、米国の宇宙ベンチャー企業、シエラ・ネバダ・コーポレーションとは、彼らが開発中の宇宙船「ドリーム・チェイサー」に開発途上国の実験・観測装置を搭載するというミッションを開始しました。

「KiboCUBE」の実現をきっかけに、途上国の宇宙開発を支援するという試みを、さらに発展させていければと思っています。グローバルな社会課題を解決し、地上の暮らしをより良くするために、宇宙空間の平和利用を通じてどのように貢献できるのか、私たちの探求はこれからも続きます。

世界中の女性たちに宇宙分野で活躍するようになってほしい

向井千秋技術参与は日本人初の女性宇宙飛行士として、長い間、日本の宇宙活動を牽引してきました。COPUOS科学技術小委員会の議長に日本人や女性宇宙飛行士が就任するのは初めてです。女性の宇宙分野での活躍についてご意見をお聞かせ下さい。

(提供:UNOOSA)

私はいつも女性の宇宙分野での活躍の必要性を考えています。私は今2016年11月にソユーズ宇宙船でISSへ旅立った、アメリカのペギー・ウィットソン宇宙飛行士のことを思い浮かべていました。彼女のISS長期滞在は通算3回目ですが、2回目の長期滞在だった2007年には女性初のISSコマンダーを務めました。この期間中、スペースシャトル・ディスカバリー号によるISSの組立フライト(STS-120)のコマンダーをパメラ・メルロイ宇宙飛行士が務めており、女性のコマンダー2人が同時に宇宙に滞在するという史上初の機会となったのです。しかし、それ以来、このようなことは起こっていません。

私自身を例にとると、2008年に欧州宇宙機関(ESA)の有人宇宙飛行局長に任命されたましたが、1975年のESA設立以来、女性が局長職に就いたのはわずか2人目で、それ以来女性の局長は増えていません。社会の要職において男女比のバランスが取れていないのと同じように、宇宙分野でもバランスは取れていないのです。

私たちは世界中の女性たちに宇宙分野で活躍してほしいと思っています。そこで現在、国連宇宙部では「女性の宇宙(Space for Women)」というプロジェクトを計画しています。これは開発途上国の女性を中心に教育(科学、技術、工学、数学)を支援するもので、「UNISPACE+50」で加盟各国に承認していただく予定です。そのような流れの中で、向井博士の活躍は女性たちの素晴らしお手本となるでしょう。彼女は医学博士であり、初めて有人宇宙飛行を成し遂げた日本人女性でもあります。これからは、宇宙分野で、かつそのマネジメント層においても、もっと女性の活躍が必要です。「女性の宇宙」プロジェクトや、向井博士をはじめとした様々な方の支援や活躍を通じて、性別による不均衡が解消されることを願っています。

将来のJAXAとの連携への期待など、最後にメッセージをお願いします。

日本の宇宙機関と公式に連携協力を結んでプログラムを実施するのは今回が初めてですが、現時点では素晴らしい成果を挙げていると思います。JAXAとの関係は非常良好で、これから取るべき次のステップを共に考えていくことができると思います。次のステップの一例としては、将来の宇宙探査を検討する政府間会合国際宇宙探査フォーラム(ISEF)があります(2018年、日本で開催)。「UNISPACE+50」ではその結果を受けて、優先主題のひとつである「宇宙探査・イノベーションのグローバル・パートナーシップ」を議論することになります。

そういった観点から、今後さらに日本政府やJAXAとの交流が増えてくるのは間違いありません。宇宙探査における国際協働が進めば、このパートナーシップはより長期的なものとなるでしょう。先に申し上げたとおり、私たちの目的は、宇宙空間の平和利用に関する国際協力を推進することであり、その目的を達成するために必要なのが、JAXAをはじめとした世界各国の宇宙機関との協力なのです。

シモネッタ・ディピッポ(Simonetta Di Pippo)

シモネッタ・ディピッポ
国際連合宇宙部長

1984年、ローマ・ラ・サピエンツァ大学の天体物理学及び宇宙物理学修士課程修了。1986年からイタリア宇宙機関(ASI)において、地球観測、ロボティクス、先端技術研究、国際宇宙ステーションプログラムを担当。2002年にASI宇宙観測部長、2008年から2011年まで欧州宇宙機関(ESA)有人宇宙飛行局長、その後、ASIに復帰し、ASIブリュッセル事務所にて欧州宇宙政策を統括。2014年3月から現職。また、2009年には欧州における航空宇宙産業界の女性ネットワーク、「Women in Aerospace Europe (WIA-E)」を創設し、会長を務める。

[2017年2月公開]