「はやぶさ2」とともに太陽系誕生の謎に迫る ダンテ・ローレッタ(Dante S. Lauretta) 小惑星探査機「オサイリス・レックス」主任研究員

2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」は、宇宙空間を順調に航行しています。「はやぶさ2」が小惑星1999 JU3に到着するのは2018年。その同じ年に、NASAのOSIRIS-REx(オサイリス・レックス)も小惑星Bennu(ベンヌ)に到着する予定です。同じ時期に、日米の探査機がそれぞれ太陽系誕生の謎に迫るミッションに挑むのです。1年後の打ち上げに向けて準備を進める「オサイリス・レックス」の主任研究員にお話を伺いました。


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有機物を含む小惑星サンプルを持ち帰る

インタビュー「オサイリス・レックス」の概要を教えてください。

カプセルのみを地球に落下する「オサイリス・レックス」(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)カプセルのみを地球に落下する「オサイリス・レックス」(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)

 「オサイリス・レックス」は、小惑星からのサンプルリターンが目的のミッションです。無人探査機を地球近傍小惑星ベンヌへ送り、表面の鉱物や地質などを1年かけて詳細に観測し、サンプル採取する場所を決めます。そして、サンプルを採取し地球に持ち帰ります。2016年9月に探査機を打ち上げ、1年後に地球をスイングバイして、2018年8月に小惑星ベンヌに到着する予定です。今のところサンプル採取は、到着から14ヵ月後の2019年10月を考えています。そして2021年3月にベンヌを出発し、地球に戻るのは2023年9月の予定なので、かなりの長旅となります。「はやぶさ2」と同じく、サンプルが入ったカプセルだけを地球に落下させ、探査機を太陽周回軌道に残しますので、さらに別の天体へ行ってミッションを続ける可能性もあります。

インタビュー小惑星のサンプルはどのように採取するのでしょうか?

TAGSAMによるサンプル採集(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)TAGSAMによるサンプル採集(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)

開発中のTAGSAM(提供:Lockheed Martin)開発中のTAGSAM(提供:Lockheed Martin)

 ロボットアームのような形状をしたTAGSAM (タグサム:Touch-and-Go Sample Acquisition Mechanism)を使います。アームの先端に取り付けた直径30cmの採取装置を小惑星の表面に一瞬接触させ、窒素ガスを噴射し、舞い上がった砂をフィルターに吸い込んで採取します。掃除機のようなイメージです。理想は、1回で十分なサンプルを採取することですが、アームの先端に取り付けたカメラで採取状況を確認し、必要に応じて3回まで行います。最低でも60gのサンプルを確保する予定です。

インタビューなぜ小惑星ベンヌが選ばれたのでしょうか?

 ベンヌを目的地として選んだ理由は、その軌道が地球に近く、行きやすいからです。ほかの小惑星と比べて、到着までに必要なエネルギーとサンプルを地球へ持ち帰るのに必要なエネルギーが少なくてすみます。また、小惑星の有機物には46億年前の太陽系初期の痕跡が残されていると考えられていますので、ベンヌ表面に炭素が多く含まれていることも選んだ理由です。太陽系誕生の謎を解明することはミッションの重要な目的の1つなのです。

タッチダウンだけでも大きな挑戦

インタビューこのミッションの難しい点はどういったところだと思われますか?

小惑星ベンヌ。レーダー観測画像(左)と形状モデル(提供:NASA/JPL-Caltech (左), NASA/NSF/Cornell/Nolan)小惑星ベンヌ。レーダー観測画像(左)と形状モデル(提供:NASA/JPL-Caltech (左), NASA/NSF/Cornell/Nolan)

 小惑星ベンヌの直径は500mしかないため、一般的な望遠鏡では、ほんの一点の光にしか見えません。また、地上の電波望遠鏡を使ったレーダー観測でも、ベンヌまでの距離や、どんな形をしているかが分かっても、表面の土壌の様子まで詳しくは分かりません。レーダー画像は写真とは異なり、小惑星の表面が流砂なのか、とても固いのか、滑りやすいのかといった、探査機をタッチダウンさせるのに必要なことは教えてくれないのです。探査機がベンヌに近づくまでどのような地表なのか分からないのが、このミッションの難しさですね。それが分かる2018年8月までは、自分たちの計画は正しかったのだろうか?という心配は続くと思います。

 「はやぶさ」のときがそうだったように、宇宙探査では予期せぬことが起こるものです。「はやぶさ」が小惑星イトカワにタッチダウンしたときに問題が発生しましたが、なぜそのようなことが起きたのか非常に気がかりです。私たちは、「はやぶさ」のことを参考にしながら、起こり得るあらゆる問題を検討し、どんな状況であってもミッションを確実に遂行できるような探査機を作ったつもりです。しかし、十分よく分かっていない小惑星に探査機を送ってタッチダウンさせることは非常に難しいことです。サンプルリターンが目的ではありますが、タッチダウンだけでも大きな挑戦だと思います。また、このような技術的な困難はもちろんですが、実はもっと難しいことがあります。

インタビューもっと難しいこととは?

 チームのモチベーションを常に高く維持することです。NASAは大学教授である私にミッションを任せてくれました。サイエンスの分野だけでなく、予算もスケジュールも私の管理下にあります。私のチームでは450人のスタッフが働いています。ストレスの多い仕事なので、みんな健康で気持ち良く仕事しているか、彼らの仕事に必要なリソースはきちんと確保されているか、自分の価値を十分理解しながら仕事しているか、といったことに気を配りながらチームをまとめていくのは容易ではありません。「オサイリス・レックス」は研究教育機関であるアリゾナ大学、政府機関のNASA、そして民間企業のロッキード・マーティン社と、非常に文化の異なる組織による共同計画です。全く異なるスキルと性格を持つ者たちが集まった、とても大きな集団をマネージメントすること、そしてミッションの成功に向けて皆を集中させ続けること。技術的な困難もありますが、本当に難しいのは大きなチームをまとめることであり、それが私の一番のチャレンジでもあります。私はこのミッションの計画がスタートした2004年から携わっていますが、サンプルの分析が終わるのは2025年です。人生の21年を費やして、このミッションを必ず成功させたいと思っています。

インタビュー「オサイリス・レックス」にどのようなことを期待しますか?

「オサイリス・レックス」(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)「オサイリス・レックス」(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)

 期待することはたくさんありますが、第一にミッションの成功です。アトラスVロケットが探査機を無事に宇宙へ届けてくれること、探査機が小惑星ベンヌに予定通り到着することが何よりも大事です。そして、ベンヌに太陽系誕生の謎を解く鍵がたくさんあること、何世代にも渡って多くの人々に研究されるような、科学的大発見となるサンプルを採取できることも期待しています。ベンヌが、私たちが思い描いていた通りの小惑星であってほしいとは思いますが、その一方で、私たちの予想を裏切るほどの興味深い小惑星であったらいいなあとも思いますね。あまり面白すぎると、ミッションの遂行が難しくなる可能性があるので困りますが……。

インタビュー「オサイリス・レックス」の開発状況はいかがでしょうか?

 打ち上げまで約1年となり、探査機はほぼ完成しています。探査機への観測機器の搭載も進み、順調に仕上がっていると思います。2016年5月には、ロッキード・マーティン社の工場からフロリダ州ケープカナベラルのロケット打ち上げ場に探査機を移動し、9月の打ち上げに向けた最終調整に入る予定です。

「はやぶさ」の成果を大いに活かして

インタビュー「はやぶさ」は「オサイリス・レックス」の計画にどのような影響を与えましたか?

「はやぶさ」が撮ったイトカワ「はやぶさ」が撮ったイトカワ

 「はやぶさ」は偉業を成し遂げた、素晴らしいミッションでした。探査機にあれだけの損傷があったのに、無事にサンプルを持ち帰ったことは本当に奇跡だと思います。その「はやぶさ」の観測データや成果は、小惑星の理解を深めるのに大変役立っていますが、「オサイリス・レックス」のサンプル採取計画にも貢献しています。私たちの探査機がNASAに正式に認められたのは2011年でしたが、計画は2004年からスタートしました。その翌年の2005年9月に「はやぶさ」は小惑星イトカワに到着し、私たちは、奇妙な形をしたイトカワの姿を目にすることになります。イトカワには大きな岩塊が多数あり、2つの大きな塊がくっついたような変わった形をしていました。また、「ミューゼスの海」と呼ばれる領域は、直径1cmほどの砂利で覆われていたのです。この姿は、私たちが想像していたものとは全く異なっていたため大変驚きました。小惑星の表面は、月面のような細かい粉末状の砂で覆われていると考えられていたのです。そのため、「オサイリス・レックス」のサンプル採集装置は、細かい粉末状のサンプルを採取することを想定していました。しかし、イトカワの写真を見た後に、1~2cmの砂も採取できる機能も必要だと判断したのです。

 地上からの観測によると、ベンヌはイトカワよりも少し大きく、形はもっと球型です。表面はイトカワよりも滑らかで、サンプルの粒子は平均1cm弱だろうと考えられています。イトカワよりもベンヌの環境の方が穏やかだと思いますので、イトカワのサンプルを採取できるような装置を作ればベンヌにも通用するはずです。そこで、私のチームには、イトカワに行くつもりで探査機を作るよう伝えました。また、「はやぶさ」は、小惑星のサンプル採取を試みた際に何らかの損傷を受け、予定通りにはいきませんでした。「はやぶさ」に問題が起きたことを知ったとき、ベンヌへのタッチダウンが用意ではないことを悟ったのです。そこで、「はやぶさ」と同じような状況に陥ったときにどう克服するかを徹底的に研究しました。このように、「はやぶさ」やイトカワを参考にしながら、「オサイリス・レックス」の探査計画を立てることができ、とても良かったと思います。

インタビュー「はやぶさ2」ミッションについてはどのような印象をお持ちですか?

「はやぶさ2」「はやぶさ2」

 3回のサンプル採取を目指している「はやぶさ2」は、とても大胆なミッションだと思います。私たちの探査機が行う1回のサンプル採取だけでもとても心配なのに、「はやぶさ2」は3回も行うのですから本当にすごいです。しかも、「はやぶさ2」は衝突装置を小惑星表面で爆発させてクレーターを作り、その場所のサンプルを採取します。これは大変高度な試みです。また、偶然にも、「はやぶさ2」と「オサイリス・レックス」が小惑星を探査する時期が同じです。打ち上げは「はやぶさ2」が2014年、「オサイリス・レックス」は2016年ですが、それぞれが目的地に到達するのは2018年なのです。地球に帰還するのは、「はやぶさ2」が2020年、私たちは2023年というように、航海日程は異なりますが、小惑星での滞在期間は、面白い具合に偶然重なりました。2機の探査機が2つの小惑星を同時期に探査するという、絶好の機会に恵まれたのですから、それを最大限に活かしたいと思っています。

相乗効果を発揮する「はやぶさ2」との協力

インタビュー「はやぶさ2」との協力関係はどのように進めたいとお考えですか?

ベンヌ近くの「オサイリス・レックス」(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)ベンヌ近くの「オサイリス・レックス」(提供:NASA/Goddard/University of Arizona)

 NASAが「はやぶさ2」のサンプルの一部を、JAXAが「オサイリス・レックス」のサンプルの一部をもらうという協定が結ばれていますが、私たち研究者が具体的にどのような助け合いができるのか、現在話し合いを進めているところです。例えば、日本人の研究者がアリゾナ大学で、また私たちの研究者が日本でといった具合に、人材交流が考えられます。また、ミッション運用中の情報交換も重要です。

 中でも、2018年に予定されている「はやぶさ2」の第一回目のサンプル採取のときの情報は、その1年後に行われる私たちのサンプル採取にとって貴重なものになるでしょう。「オサイリス・レックス」にとって小惑星とのタッチダウンは未知の領域であり、難関ですから、「はやぶさ2」が小惑星に接触した時に何が起きるかとても関心があります。小惑星の表面が柔らかすぎたら探査機は沈んでしまいますし、固すぎたら跳ね返ってしまいますので、惑星表面の土壌に関する情報はとても重要です。自分たちのサンプル採取のリスクを軽減するためにもぜひ参考にさせていただきたいと思っています。

 その一方で、私たちは、小惑星の3次元形状モデルを作成するソフトウェアの提供などで、「はやぶさ2」に貢献できないだろうかと提案しています。このソフトウェアの開発には多くの費用と時間を費やしましたので、小惑星1999 JU3の3D地図を作るのにきっと役立つと思います。具体的な内容はまだ決まっておりませんが、2つのミッションを成功させるためにお互い助け合い、これまでの経験や知識、アイデアを分かち合うことで、より優れたミッションにしたいです。

インタビュー協力し合うことで相乗効果が期待できそうですね。

人工クレーターのサンプルを採取する「はやぶさ2」(提供:池下章裕)人工クレーターのサンプルを採取する「はやぶさ2」(提供:池下章裕)

 私たちは、2つの異なるサンプルを研究するために、1つのサイエンスプランを立てるチャンスを与えられたのだと思っています。例えば、「はやぶさ2」はサンプル採取を3回、「オサイリス・レックス」は1回を予定していますが、私たちは、小惑星における4回のサンプル採取を行うと捉えています。したがって、「はやぶさ2」が小惑星1999 JU3でサンプル採取した場所がベンヌのある場所と似ていた場合、私たちはそこを避け、違うタイプの場所を選ぶことになります。そうすることで、研究のためにさまざまなサンプルを持ち帰ることができるからです。計4カ所のサンプル採取場所を協力しながら選ぶことで、より価値のあるサンプルを集めることができるのです。

 「はやぶさ2」の関係者と私たちは、共に小惑星を目指す同志であり、小惑星研究のパイオニアだと思っています。幸いにも私たちは親しい間柄にあります。協力して2つの小惑星を調べることで、個々に研究するよりもはるかに多くの科学的成果が得られるでしょう。2つの小惑星のサンプルがあるということだけでなく、サンプルを比較し、何故それらが違うのか、またはどのように同じなのか調べることができるからです。種類の異なるサンプルがあることで、ミッションのサイエンスがより意義深いものになると思います。

 例えばこのようなことが考えられます。小惑星は、表面が太陽の光をどう反射するかによって分類されますが、ベンヌは表面が暗く、B型と呼ばれるタイプに属します。一方、「はやぶさ2」が目指すC型タイプの1999 JU3も暗く、同じように炭素を多く含んでいると言われています。炭素から成るグラファイトや炭などの鉱物がとても黒い物質なため、暗い外観をしている小惑星は炭素の含有量が高いのではないかと考えられるのです。2つのタイプの違いはスペクトルの色の差で、B型は青みを帯び、C型は赤みを帯びています。なぜ色が違うのかはまだ分かっていませんので、「はやぶさ2」と「オサイリス・レックス」によってそれが解明できたらと思っています。

探検には最高の場所だから

インタビューローレッタさんのもともとのご専門は何でしょうか? また、その分野に興味を持つようになった背景をお聞かせください。

ダンテ・ローレッタ

 私は長いあいだ隕石の研究をしていました。隕石に興味を持つようになったのは、大学生の時に、地球外知的生命体探査のための研究助成金をもらったことがきっかけです。私は、知的生命体が存在する地球外の惑星を見つけるため、電波を使って調査しました。結局、何も見つかりませんでしたが、そのことが、宇宙には私たち以外に誰がいるのだろうと考えるきっかけになったのです。まだ見つかっていない惑星はあるのか? そこに生命はいるだろうか? その生命は高度な知性や技術を持っているだろうか? といったことを考えるのが楽しくて、そのうちに、生命はどのように誕生したのか、そして、それは宇宙においてどれくらい普遍性があることなのか知りたくなったのです。そこで私は、まず太陽系の起源を理解する必要があると考えました。どのように地球は形成されたのか。どうして地球には海があるのか。地球に生命があるのはなぜか。こうした疑問が、太陽系初期の記憶を残していると考えられる隕石の研究へと導いたのです。

インタビュー子どもの頃から宇宙に興味をお持ちでしたか?

 子どもの頃はずっと探検家になりたいと思っていました。まだ誰も行ったことがない場所へ行ってみたかったのです。けれども、地球上では未発見の場所はもうあまり多くありません。そこで、まだ探検できる場所がたくさんある宇宙に興味を持つようになりました。私が実際に宇宙に行くことはできませんが、代わりにロボットを作って送ることはできます。カメラでどんな場所か見ることができますし、観測機器を使って何かに触れたり、サンプルを持ち帰ることもできます。それはまるで自分の一部が宇宙へ行くようなものです。宇宙は、探検家にとって最高の場所だと思います。

日本の継続的な宇宙探査ミッションに期待

インタビュー宇宙探査の魅力は何だと思われますか?

「ロゼッタ」が撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(提供:ESA/Rosetta/Navcam)「ロゼッタ」が撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(提供:ESA/Rosetta/Navcam)

 未踏の地への探検だと思います。新しい世界、誰も行ったことのない美しい世界を目にする最初の人間になれることです。欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ロゼッタ」が撮影した彗星の写真を見ましたが、その素晴らしさに驚きました。この彗星も私たちが想像していたものとは随分違っていました。 新しい世界へ行くたびに、私たちは太陽系の美しさと多様性に驚かされ、畏敬の念を抱かずにはいられません。宇宙にはまだまだ探査できる場所がたくさんあります。太陽系の広大さに比べて地球はちっぽけな天体です。そんな太陽系も銀河系と比べたらちっぽけです。まして人は、それらに比べたらものすごく小さい存在です。それでも人間は、さまざまな疑問を抱き、その答えを導くために努力し、探査機を作ることができる……とても特別な存在です。人間だからこそ、本能的に未知の世界へと好奇心を持つのだと思います。

インタビュー日本の惑星探査ミッションに期待することは何でしょうか?

ダンテ・ローレッタ

 日本には、隕石科学と惑星科学の分野における仲間がたくさんいますが、彼らは世界的にも優秀な研究者です。まだ正式には認められていないものの、彼らは将来の宇宙ミッションをいろいろ考えています。日本の方々はその素晴らしいビジョンを大いに誇るべきだと思いますね。私が聞いたところによると、「はやぶさ2」の次には、火星の衛星フォボスまたはダイモスを目指したいという考えがあるようです。小惑星のサンプルリターンを実現させた技術を持っているのですから、火星の衛星からサンプルを持ち帰るという探査は理想的ですね。私たちもぜひ、何らかの形でそのミッションに貢献したいです。また、技術実証のための月着陸実験機の計画もあると聞きました。

 このように、新しいミッションに取り組もうとする姿勢はとても大事です。日本の技術開発、そして、その技術を活用して意義深い科学に挑む姿勢には本当に感心させられます。その姿勢をこれからもずっと持ち続けてほしいと思います。1つのミッションの成功で終わらせるのではなく、それを次に継承していくことにより、ミッションの成功率は断然高くなります。また、ミッションの間隔があいてしまうと、いざ次に挑戦する時に、前にやったことをもう一度学び直さなくてはならなくなります。そういう意味では、絶え間なく宇宙ミッションに取り組むこと。また、その直前のミッションで培われたスタッフと技術を活用できるようにすることが、成功への鍵だと思います。日本がこれからも新しい宇宙探査に挑戦し続けることを大いに期待しています。

ダンテ・ローレッタ(Dante S. Lauretta)
NASA小惑星探査機「オサイリス・レックス」主任研究員
アリゾナ大学月惑星研究所 惑星科学教授
ワシントン大学(セントルイス)にて地球惑星科学専攻の博士号を取得後、アリゾナ大学で数学、物理学、東洋学を専攻し1993年に卒業。2001年、アリゾナ大学月惑星研究所に加わる。2008年、米国科学アカデミーのカブリ・フェローに選ばれる。2010年には、2002-2003 Antarctic Search for Meteoritesのメンバーとしての功績が認められ、Antarctica Service Medal of the United States of America を受賞。専門は月試料、隕石や彗星の粒子などの宇宙物質の分析。

[2015年9月公開]