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未来の大人たちに 宇宙を身近に感じてほしい JAXA宇宙飛行士 大西卓哉

JAXAも協力する「宇宙博2014」が幕張メッセで開催され、宇宙への注目が高まると予想されます。その宇宙を仕事場とする宇宙飛行士が、何を思い、何をめざしているのか。2016年の初飛行に向けて訓練に励む、大西卓哉宇宙飛行士にお話を聞きました。


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パイロットとしての経験が生きる

インタビュー現在はどのような訓練をしていますか?

ソユーズ宇宙船のシミュレータ訓練を行う大西宇宙飛行士(提供:JAXA/GCTC)
ソユーズ宇宙船のシミュレータ訓練を行う大西宇宙飛行士(提供:JAXA/GCTC)

 今年から、ロシアで行われるソユーズ宇宙船の訓練が始まりました。これは、ソユーズのシステムに関するもので、教科書で運用手順を学んだり、シミュレータを使った実技を行います。実技は主に、不具合が発生した場合を想定した対処訓練です。また、国際宇宙ステーション(ISS)のロシアのモジュールの訓練もあります。一方、アメリカでは、アメリカ側のモジュール(日本やヨーロッパも含む)のシステムに関する訓練を受けています。一通りシステムを学んだ後は、ロシアと同じように、不具合を想定した緊急事態対処訓練が中心となる予定です。

インタビューソユーズでは、コマンダーの左側、レフトシーターに座ることが決まっているそうですね。

  はい。僕はフライトエンジニアという立場でソユーズに搭乗します。コマンダーが何らかの身体的な問題があって業務を遂行できなくなった場合、フライトエンジニアの操作で地上に安全に帰還できるよう訓練を重ねます。ですから、技量的にはコマンダーとほぼ同等のレベルが求められます。

インタビューソユーズに搭乗するにあたって恐怖心はないですか?

 いまのところ恐怖感はないですね。たぶん、打ち上げ当日に、ソユーズのシートに座って打ち上げを待つときに初めて、「これでほんとに宇宙へ行くの?!」という気持ちになるんじゃないでしょうか(笑)。今はむしろ、ワクワクしながら訓練に参加しています。でも、勉強はハンパないですよ。ソユーズの訓練は初めてで、しかもロシア語で受けますので、毎晩、夜中の1時や2時まで予習・復習をして、1週間が終わるとヘトヘトになりますから(笑)。でも、大変さよりも、新しいことを学ぶ楽しさのほうが勝っています。

インタビュー大西宇宙飛行士の前職は旅客機のパイロットですが、宇宙船と飛行機の操縦は似ていると思いますか?

T-38フライト訓練でもパイロットとしての経験が生かされるT-38フライト訓練でもパイロットとしての経験が生かされる

 似ています。まず、座学でシステムについて学び、それに実技が加わって、手順書に従ってシステムを操作することを学ぶところが同じです。そして、宇宙船のコマンダーとフライトエンジニアが相互確認しながら操作するのは、飛行機の世界でいうキャプテンと副操縦士の関係に似ています。そういう意味で、自分のパイロットとしての経験がとても生かされていると感じています。

インタビュー初飛行までに特に強化したいと思っていることは何ですか?

 やはり、ロボットアームと船外活動(EVA)の訓練です。その2つは、どちらかというと宇宙飛行士の仕事のなかでも花形の部分なので、バシッと決めたいですね(笑)。自分のミッションの時に、急にロボットアームやEVAの仕事がきてもしっかり対応できるよう、自分のスキルを高めておきたいと思います。

苦労して得たものは大きな糧となる

インタビュー今年の5月には、若田光一宇宙飛行士が半年間の宇宙長期滞在を終えて帰還しましたが、どのような気持ちで先輩の仕事ぶりを見ていましたか?

 軌道上の若田宇宙飛行士がどのように仕事をしているか、注意して見るようにしていました。特に地上の管制チームとどういったやり取りをしているかは、自分の将来のミッションにも直結してきます。見ていてすごいなと思ったのは、若田宇宙飛行士は忙しいにもかかわらず、地上からのメールにこまめに返事をしていたことです。一言でもいいから何かしら返事があると、一方通行ではなくなりますよね。一人一人としっかりコミュケーションをとる姿は、自分も見習いたいと思いました。

インタビュー2009年に宇宙飛行士候補生となって、昨年、ミッションに任命されるまで、4年半ありました。任命を待っている間は長く感じましたか?

CAPCOMコンソールに座るフィンク宇宙飛行士と大西宇宙飛行士(提供:JAXA/NASA)CAPCOMコンソールに座るフィンク宇宙飛行士と大西宇宙飛行士(提供:JAXA/NASA)

 いいえ。アッという間でした。特に最初の2年間は、宇宙飛行士候補者訓練がいろいろありましたし、その後の2年間も、訓練を継続しつつ、キャプコム(CAPCOM、Capsule Communicator)の資格をとりましたので、中身の詰まった充実した毎日を送れたと思います。キャプコムは、NASAの飛行管制官の一員として、軌道上にいる宇宙飛行士との交信を担当します。2013年9月に宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機がISSに到着した時には、キャプコムとして運用の現場で働く機会をいただけたので、将来のミッションにも役立つ貴重な経験ができたと思います。

インタビュー実際にISS の管制室でキャプコムを任された時はいかがでしたか?

ISSに近づく「こうのとり」4号機(提供:JAXA/NASA)ISSに近づく「こうのとり」4号機(提供:JAXA/NASA)

 軌道上にいる宇宙飛行士に与えられる情報というのは、実はごく一部です。それよりはるかに多い作業が地上で進められていますので、その流れを、管制チームの一員として現場で見られたのがいちばん大きいですね。例えば、将来ISSに行った時に「こうのとり(HTV)」をキャプチャする機会があれば、地上でやっていること・地上が知りたいことがわかるので、より良い仕事ができると思います。今地上はこの作業で忙しいだろうから、レポートをするのを少し待とうとか。あるいは、この現象は軌道上にいる宇宙飛行士しか見えていないだろうから、地上にレポートしたほうが良いとか。そういった判断ができるようになったので、とても良い勉強になりました。

 またこの経験で、NASAがどれくらい日本を信用しているかを肌で感じられました。特に、「こうのとり」に対する評価はとても高いです。僕自身、「こうのとり」のすごさに改めてビックリしたんです。地上では、動き回る「こうのとり」をロボットアームでつかむ訓練をしますが、実際の「こうのとり」は、ゆっくりと正確にISSに近づいていって、ISSの前でピタッと静止します。それはもう本当に見事でした。

インタビューキャプコムの資格をとるのは大変だったようですね。

 言葉のハンディで苦労して、キャプコムの資格をとるのに10ヵ月もかかってしまいました。ほかの訓練と並行してやっていたとはいえ、通常アメリカの飛行士は要領が良ければ2ヵ月くらいで資格をとってしまいますから……。特に、不具合が発生したことを想定するシミュレーション訓練は苦労しました。僕は、英語を母国語とするアメリカ人同士の会話をヘッドホン越しに聞いて、自分に必要な情報だけをピックアップして宇宙飛行士に伝える役でした。でも最初は、何を言っているか聞き取れないし、自分の言いたいことが伝わりません。ですから、訓練中の自分の声を録音して聴いて、どんなふうに言うと伝わりやすいかを英語の先生と研究したりしました。キャプコムの資格をとったことは、本当にチャレンジングだったと思いますが、苦労しただけあって、将来の自分の大きな糧になりました。この資格をとろうかどうしようか迷っている時に、「それは絶対やったほうがいいよ」と背中を押してくれた若田宇宙飛行士には本当に感謝しています。

子どもたちに科学に興味を持ってほしい

インタビュー幼少の時はどんなお子さんでしたか? 宇宙には興味がありましたか?

大西宇宙飛行士

 至って普通の子どもだったと思います。勉強よりも、友達と遊んでいるほうが好きでしたね。宇宙というよりも、科学系全般が好きな子どもでした。僕はもともと、将来は科学者になりたいと思っていましたから。でも具体的に何をやりたいというのは全くなかったんです(笑)。フラスコを持っているのが科学者というイメージがあって、大きくなったら自分はそんなふうになるんだと思っていました。

インタビュー宇宙飛行士を意識したのはいつでしたか?

 子どもの時に「STAR WARS」という映画を見て宇宙がすごく好きになり、宇宙の本を父親に買ってもらって読んだりしていました。でも、その時点では、まだ宇宙飛行士になりたいと思っていませんでしたね。大学1年生の時に「アポロ13」という映画を見たときに、初めて宇宙飛行士という仕事を意識しました。

インタビューご自身が考える宇宙の魅力は何だと思いますか?

 あくまでも個人的な意見ですが、人間が文明を築いてきた原動力は、遠くへ行きたいという気持ちや、見たことがない何かを見たいというような、常により高いところをめざしてきた結果だと思うんです。何かを発見すると、新しい疑問がわいてきて、さらに新しい発見へとつながる。というのを繰り返し、それによって得た技術が人々の生活を豊かにし、文明を発展させてきた。だから人間は、探究する姿勢を持ち続けなければならないと思うんです。けれど、人間の知識レベルが上がるにつれて、未知の領域がだんだん少なくなってきています。その中で、宇宙には未開の領域がまだまだたくさんあるのです。それが宇宙の面白さだと僕は思います。新しいことを追求し続けられるところ。それは、宇宙開発の魅力でもあると思います。

インタビュー今年の夏は、JAXAも協力する「宇宙博2014」が幕張メッセで開催されています。会場にいらっしゃる子どもたちにも、そのような宇宙の魅力を感じてもらえるといいですよね。

「宇宙博2014」の会場のようす「宇宙博2014」の会場のようす

 宇宙博に行った子どもたちがJAXAの展示を見たときに、「日本の技術はすごい!」と感じてくれたらいいですね。日本が宇宙開発を行ってきた意義は、そういうところにもあると思いますので……。とにかく、子どもたちには、宇宙に限らず、科学全般に興味を持ってほしいです。科学に興味を持ってくれた子どもたちが、将来、大人になったときに、宇宙でなくても、何らかの分野で、日本の科学技術を底上げしてくれるような活躍をしてくれればいいなと期待します。

 僕はアメリカで生活していますが、時々、アメリカの巨大さというか、資源の豊かさに圧倒されることがあります。一方、日本は、国土が狭くて資源もありません。その中で、日本が世界で勝負していくために何があるのかを考えると、やはり技術しかないと思うんです。日本は、技術で世界に後れをとるべきではないと思いますし、そこは、これからの未来を背負う子どもたちに頑張ってほしいと思います。

宇宙開発の大切さをわかってもらうために

インタビューどんな宇宙飛行士になりたいですか?

 みなさんに身近に感じてもらえるような宇宙飛行士になりたいです。僕は、宇宙飛行士になる前、宇宙飛行士はすごく特別な人で、自分とは全く違う世界の人だと思っていました。でも今、宇宙飛行士の人たちに会うと、みなさん普通の方なんですよね。仕事場が“宇宙”という特別な場所なだけであって、普段の生活は一般の方々と何ら変わりない。普通の人間です。僕たち宇宙飛行士のことはもちろん、宇宙は身近な存在なんだということを伝えていければと思っています。

インタビュー今年の春まで同僚の宇宙飛行士と一緒にブログを公開していましたよね。ブログは身近に感じてもらう良い方法だったのでは?

2011年にISS搭乗宇宙飛行士に認定された同期の宇宙飛行士(左から大西、油井、金井)2011年にISS搭乗宇宙飛行士に認定された同期の宇宙飛行士(左から大西、油井、金井)

 宇宙飛行士の世界を一般の方々にもわかりやすく伝えたいという思いで、同僚の2人の宇宙飛行士(油井宇宙飛行士・金井宇宙飛行士)とともにブログを公開していました。でもブログだと、一体どれくらいの方が読んでくださっているのかはっきりしないというのがあって……。もっと工夫していろいろな人に読んでいただかないといけないと思ったため、掲載から2年という節目で一旦ブログを終了しました。今後はSNSの活用を考えています。

 現在、日本の有人宇宙活動に対する理解は人によって大きく異なっています。応援してくださる方もいらっしゃいますが、多くの予算を使っていることに対して否定的な意見もあります。もし将来火星探査をやっていくのであれば、その頃の日本を背負って立つ今の青少年の方々からの支持が欠かせません。子どもたちが大人になったとき、宇宙開発は人類にとって必要なものなんだと思ってもらえるよう、何らかしらの形で情報配信は続けていきたいと思います。

関連リンク:新米宇宙飛行士最前線!

インタビュー今ご自身のミッションに向けて楽しみにしていることはありますか?

キューポラから見える景色(提供:JAXA/NASA)キューポラから見える景色(提供:JAXA/NASA)

 月並みですが、やはり宇宙から地球を見てみたいです。ISSには、「キューポラ」という出窓のような部分があって、その場所に1度入るとしばらく出て来られないとよく聞きます。そこから見える地球の美しさに、思わず吸い込まれそうになるという意味で、ブラックホールと呼ばれているほどです。「キューポラ」からの眺めがいちばん楽しみですね。

 それと、僕は大学で航空宇宙材料を研究し、実験が好きだったので、早く宇宙で実験がしたいです。特に材料関係の実験には興味があります。軌道上での生活の様子をみなさんにお伝えできることも、今から楽しみにしています。

夢は地球以外の天体に降り立つこと

インタビュー日本の宇宙開発に期待することは何でしょうか?

大西宇宙飛行士

 現場で「こうのとり」(HTV)の運用を見たときに、日本の強みは「きめ細かさ」だと感じました。このような日本人独特の強さが、いろんなところにあると思うんです。やはり、日本の強みを最大限に生かすべきですよね。ほかの国が優れていることを参考にしつつ、自国の良いところをもっと伸ばして、そこで存在感を発揮できるような宇宙開発をしていってほしいと思います。

インタビューご自身の目標や夢を聞かせてください。

 まずは、2016年度の自分の初飛行でしっかりミッションを遂行し、そこで得た知識や経験をその先の活動に生かすことが、第一の目標です。そして、その先にある最終的な目標は、やはり、地球以外の天体に降り立つこと。それが、日本の国産宇宙船で実現すれば尚嬉しいです。これは純粋な夢ですが、そこに一歩でも近づけるように、これからも自分のスキルアップに努めたいと思います。

インタビュー最後に、子どもたちへのメッセージをお願いします。

 自分の経験を振り返って、何が今の自分の糧になってきたかを考えると、苦労した経験のほうが役に立っていると感じます。誰でも、好きなことや得意なことに対しては努力が苦にならないので、そちらのほうが楽かもしれません。でも僕は、苦労して、大変な思いをしたほうが、はるかに得るものが大きいと思うんです。子どもたちには、苦手なことや嫌いなことから逃げずに、いろいろなことにチャレンジしてほしいなと思います。

大西卓哉(おおにしたくや)
JAXA 有人宇宙ミッション本部 宇宙飛行士運用技術部 宇宙飛行士
1975年、東京都生まれ。1998年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。同年、全日本空輸株式会社に入社し、旅客機の副操縦士となる。2009年、ISSに搭乗する宇宙飛行士の候補者として選抜され、JAXAに入社。基礎訓練に参加した後、2011年に宇宙飛行士として認定される。2013年11月に、ISS第48次/第49次長期滞在クルーのフライトエンジニアに任命され、現在は、2016年度の初飛行に向けた訓練に励む。

[2014年7月公開] 

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