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基幹ロケット高度化とH-IIAロケット29号機への適用 H-IIAロケット29号機 特設サイト

基幹ロケット高度化開発の取り組み

H-IIAロケットの打ち上げ成功率は、世界のロケットの中でもトップクラスを誇っています。しかし運用開始から14年以上が経ち、衛星の大型化や設備の老朽化などさまざまな課題も見えてきました。これらの課題を乗り越えるために「基幹ロケット高度化プロジェクト」を実施しています。H-IIAロケットの打ち上げ性能を向上させ、国際競争力を強化し、地上設備を簡素化することにより効率的なロケット運用を実現します。

静止衛星打ち上げ対応能力の向上~H-IIAロケット29号機への適用

気象衛星や通信衛星に用いられる「静止軌道」は赤道上から約36,000㎞先にあります。 人工衛星は静止軌道に入る前に、打ち上げロケットによって「静止トランスファー軌道(GTO)」という途中の楕円軌道に投入されます。GTOに投入後、衛星は自力で(つまり衛星自身の燃料を使い)静止軌道まで飛行していますが、ロケットが宇宙空間を長時間飛行(ロングコースト)しエンジン着火できるように改良することで、衛星を静止軌道により近い軌道に投入することができるようになります。
これにより衛星の燃料が節約でき、その重量分を観測センサの大型化につなげたり、衛星寿命向上のための燃料にあてることが期待されます。

H-IIAロケット29号機はここがスゴイ

ロケットで衛星をより遠くに運べるよう飛行機能およびエンジンを改良


H-IIAロケット(高度化仕様)イメージCG


  1. 液体水素タンク表面を白く塗り、太陽光によるロケット燃料の蒸発を少なくします
    宇宙空間を飛行している間、ロケットは太陽光により熱せられ、燃料タンク内の液体水素(摂氏マイナス約250度)が蒸発していきます。タンク表面に特殊な白色の塗料を塗ることで太陽光を反射させ、ロングコーストにより増加する燃料の蒸発を少なくします。
  2. エンジンの冷却機能を改良し、冷却に必要な液体酸素の量を従来の3分の1以下に減らします
    エンジンを着火するには、液体酸素を消費してターボポンプを予め冷却しておく必要があります。「トリクル予冷」という新たな冷却方法を開発し、ロングコースト中の消費量を大幅に減らし、エンジン作動に使用できる液体酸素の量を増やします。
  3. ロケットを回転させることで電子機器が太陽光により高温になるのを防ぎます
    太陽光がロケットの同じ面ばかりに当たっていると、その部分の温度が上昇してしまい、機器の故障につながります。ロングコースト中、太陽光に対しロケット機体の姿勢を垂直に保ち、機体をゆっくりと回転(バーベキューロール)させることでロケット各部の温度を一定に維持します。
  4. 蒸発する燃料を有効活用し、ロケットの姿勢制御用燃料の消費を抑えます
    ロングコースト中、ロケット燃料の蒸発を極力抑えるため、燃料をタンク底部にとどめておく必要があります。このため、従来は姿勢制御用の燃料(ヒドラジン)を機体後方に噴射し微小な加速を与え続けていましたが、ロングコーストの場合はこれまで捨てていた液体水素タンク内の蒸発した水素ガスを有効活用することで、ヒドラジンの消費をおさえます。
  5. 長時間飛行に耐えられるよう大容量電源と高性能アンテナを搭載します
    ロングコースト中、電子機器の電源を確保するために大型のリチウムイオン電池を開発しました。また、静止軌道付近でエンジンの作動状況など機体のデータを取得するため、36,000km離れた場所でも通信可能な高性能アンテナも搭載します。


第2段エンジンの推力(エンジンパワー)を調整する機能を追加

静止軌道付近(遠地点)ではロケットの速度が遅く、第2段エンジンをフルパワー(100%推力)で着火させた場合、推進力が大きすぎて目標の軌道に精度よく投入できないため、第2段エンジンの推力を60%に絞って作動させる「スロットリング機能」を追加し、高精度の軌道投入を可能にしました。

  1. 近地点で第2段エンジンを着火(2回目)して増速する
  2. 第2段と衛星を分離せずロングコースト(約4時間)を行う
  3. 遠地点で第2段エンジンを着火(3回目)して増速。衛星を分離して高度化による静止トランスファー軌道(高度化GTO)に投入する。
  4. 遠地点で衛星が増速。静止軌道に入る。

H-IIAロケット(高度化仕様)軌道CG




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